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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営新潟県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2021年7月21日

1.はじめに

日本銀行の雨宮でございます。本日は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、オンライン形式ではありますが、新潟県の行政および金融・経済界を代表する皆様とお話しする機会を賜り、誠にありがとうございます。皆様には、日頃より、私どもの新潟支店の様々な業務運営にご協力いただいております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

皆様との意見交換を始めるにあたり、まず、私から、先週公表した「展望レポート」の内容もご紹介しながら、金融経済情勢についての日本銀行の見方をご説明するとともに、金融政策運営の考え方についてお話します。また、日本銀行は、先週、気候変動に関する包括的な取り組み方針を公表しました。本日は、その中でも金融政策面での対応に焦点を当ててご説明したいと思います。

2.経済・物価情勢

経済情勢

はじめに、経済情勢です。足もと、東京都と沖縄県で緊急事態宣言が発出されているなど、感染症の影響は続いており、飲食や宿泊などの対面型サービス部門を中心に、経済活動への下押し圧力は継続しています。もっとも、海外経済がはっきりと回復するもとで、輸出や生産は増加が続いており、企業部門では、収益の回復が設備投資の増加に繋がる前向きのメカニズムが働き始めています。このように、わが国の景気は、感染症の影響から引き続き厳しい状態にありますが、基調としては持ち直しています。以下では、こうした点を踏まえて、海外経済についてお話した後、企業部門、家計部門の順にご説明します。

最初に、海外経済です。国・地域ごとにばらつきはありますが、海外経済は総じてみれば回復しています(図表1)。IMFでは、今年の世界経済の成長率見通しを、昨年10月時点の+5.2%から、2回引き上げ、直近4月には+6.0%としています。また、来年も過去の平均である+3.5%を大きく上回る+4.4%の成長が続くと予測しています。このところ海外経済の回復が一段と明確になっている背景には、米国の経済対策や先進国におけるワクチン接種の加速があります。米欧では、ワクチン接種が進むもとで、サービス消費を含めて経済活動が活発化しています。米欧経済の改善は、回復を続ける中国経済とともに、貿易活動を介して世界経済全体を押し上げています。

次に、わが国の企業部門です(図表2)。海外経済の回復に支えられて、輸出や生産は着実に増加しています。こうした中、短観の業況判断は、対面型サービスでは引き続き多くの企業が「悪い」と回答していますが、全体では4四半期連続で改善しています。企業収益も全体では改善しています。企業収益が改善するもとで、設備投資は、一部の業種に弱さがみられるものの、機械投資やデジタル関連投資を中心に持ち直しています。短観の本年度の設備投資計画は+9.4%と、しっかりとした増加が見込まれています。このように、企業部門では、海外経済の回復を背景とする外需の増加を起点に、収益から設備投資への前向きの循環がみられています。

先行き、企業収益については、最近の国際商品市況の上昇によるコスト増加が下押しに作用するとみられますが、内外需要の回復を背景に全体としては改善が続くと考えています。そうしたもとで、設備投資は増加傾向が明確になっていくとみています。

続いて、家計部門です。企業部門に比べると、家計部門の改善の動きは緩やかです。個人消費は、公衆衛生上の措置が続くもとで、足踏み状態となっています(図表3)。耐久財の消費は、巣ごもり需要の拡大もあって堅調です。一方、飲食や宿泊などが含まれるサービス消費は、感染症拡大前を大きく下回る水準での推移が続いています。当面の個人消費については、感染症の影響から、対面型サービスを中心に低めの水準で推移するとみています。もっとも、先行してワクチン接種が進んでいる諸外国の事例を踏まえると、わが国でも、先行き、対面型サービスを含め、個人消費は再び持ち直していくと考えています。

こうした個人消費の背景にある雇用・所得環境については、弱い動きが続いていますが、大幅な悪化は回避されています。失業率は、昨年上昇しましたが、その後は3%程度で推移しています。そうしたもとで、雇用者所得は前年比プラスに転じています。今後、内外需要の回復にラグを伴って、雇用者所得は持ち直しに転じ、緩やかに増加していくとみています。

このように、先行き、感染症の影響が徐々に和らぎ、雇用者所得も増加していくもとで、個人消費の増加基調が明確になっていくと予想しています。企業部門で働き始めている前向きのメカニズムは、家計部門にも拡がり、経済全体での好循環が強まると考えています。

日本銀行は、先週、「展望レポート」で実質成長率見通しを公表しました(図表4)。背景は只今ご説明したとおりです。政策委員見通しの中央値は、2021年度が+3.8%と高めの伸びとなった後、2022年度が+2.7%、2023年度が+1.3%となっています。

そのうえで、只今ご説明した中心的な見通しについては、変異株を含む感染症の帰趨やその影響について不透明感が強く、当面は、下振れリスクが大きいと考えています。一方で、ワクチンの普及が加速し、経済活動が想定以上に活発化する可能性も考えられます。また、感染症の影響による落ち込みから世界経済が回復する中で、このところ国際商品市況が上昇しています。今後の国際商品市況の動向やわが国経済に及ぼす影響については注意が必要です。引き続き、内外経済の動向を丁寧に点検していきたいと考えています。

物価情勢

次に、物価情勢についてご説明します(図表5)。消費者物価をみると、生鮮食品を除いたベースの前年比は、昨年12月に、エネルギー価格の下落やGo Toトラベルの物価指数への影響などにより、マイナス1%まで下落しました。もっとも、様々な一時的要因を除いたベースでは小幅のプラスを維持しており、経済の落ち込みに比べると、物価は底堅く推移してきました。今回の局面では、需要喚起を図る値下げの動きが拡がっていないことが、物価の底堅さに繋がっています。人々は感染症への警戒感からサービス消費を抑制しているため、値下げをしても客足は戻りません。また、様々な感染対策によるコスト増加も、値下げを行いにくくしています。

その後、今年の春以降は、携帯電話通信料が大きく押し下げに効いている中でも、消費者物価の前年比は、0%程度となっています。エネルギー価格の上昇に加え、一時的要因を除いた実力の物価も小幅のプラスで推移しています。世界的に物価は、感染症の影響で下押しされていた状況から、経済活動が再開するもとで上昇率を高めていますが、わが国の物価も、昨年来の下落局面を脱し、上昇に転じつつあります。

消費者物価は、目先、前年比0%程度で推移した後、経済の改善が続くもとで、企業の価格設定スタンスも積極化し、上昇率が徐々に高まるとみています(前掲図表4)。「展望レポート」の政策委員の物価上昇率見通しの中央値は、2021年度が+0.6%、2022年度が+0.9%、2023年度が+1.0%となっています。もっとも、わが国では、物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行の転換に時間がかかってきました。感染症というショックからの回復局面で、企業の価格設定スタンスがどのように変化するか不確実性は大きく、注視する必要があります。

3.日本銀行の金融政策運営

ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話します(図表6)。

日本銀行では、感染症の影響への対応として、昨年3月以降、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の潤沢かつ弾力的な供給、(3)ETF、J-REITの買入れの「3つの柱」による強力な金融緩和措置により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めています。こうした対応は、政府の施策や金融機関の取り組みと相俟って、効果を発揮しています。

もっとも、企業等の資金繰りには、なお厳しさがみられています。感染症の影響の収束には暫く時間を要し、資金繰りにストレスのかかる状況は続くと見込まれます。そこで、先月の決定会合では、「特別プログラム」の期限を来年3月まで半年間延長することとしました。日本銀行では、今後とも、現在の金融緩和措置をしっかりと実施していく考えです。また、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

このように、当面、金融政策面では、感染症の影響への対応が重要ですが、次に、やや長い目でみた政策運営スタンスについてご説明します。先程申し上げたように、先行き、物価上昇率は徐々に高まるとみていますが、2%の「物価安定の目標」の実現には時間がかかると予想されます。足もと米国などでは物価上昇率がはっきりと高まっていますが、わが国では、物価上昇が鈍い状況にあります。この点を踏まえると、日本銀行としては、「物価安定の目標」の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていく必要があると考えています。

4.気候変動問題に関する日本銀行の対応

金融政策に関する話題の最後に、気候変動問題への対応についてご説明します(図表7)。この問題は、将来にわたって社会・経済に広範な影響を及ぼすグローバルな課題です。その解決には各経済主体の取り組みが不可欠であり、企業や金融機関では、この問題に長期に亘り対応する必要性が強く意識されています。そのうえで、わが国を含め主要国は、脱炭素の目標を掲げて政策対応を進めています。気候関連政策は、基本的には国会・政府の役割ですが、この問題は中央銀行の使命である「物価の安定」や「金融システムの安定」にも関係します。すなわち、気候変動問題は、中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼしうるものです。そうした中、各国の中央銀行は、各々の使命のもとで必要な対応を進めています。日本銀行も、中央銀行の立場から気候変動に関する取り組みを進めるため、先週、包括的な取り組み方針を公表しました。その内容は、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融など多岐に亘ります。

そのうち金融政策面での対応としては、民間金融機関の気候変動問題への取り組みを支援するための新たな資金供給制度を導入することとしました(図表8)。その際、特定の産業や個別の企業への資源配分に関して、具体的な介入をできるだけ避けることに配慮しました。気候変動問題の解決に向けた政策対応としては、温室効果ガスの排出規制や新技術開発への補助金などが考えられますが、こうした個別の資源配分への直接的な介入を伴う政策は、国会・政府が行うべきものです。一方で、中央銀行の金融政策は、経済全体に働きかけることが基本であり、個別の資源配分への具体的な関与は極力避けることが適当です。こうした考え方から、新たな資金供給制度では、金融機関自らが判断する気候変動対応投融資に対して、日本銀行がバックファイナンスするというアプローチを採ることにしました。そのうえで、資金供給を希望する金融機関に対し、気候変動対応に資する取り組みについて一定の開示を求めることで、規律が働くことを期待する仕組みとしています。

今回の日本銀行のアプローチには、外部環境が流動的なもとで、柔軟な対応が可能であるというメリットもあります。何が気候変動対応に資するとみなされるかの基準や分類、いわゆるタクソノミーを巡る議論は、現在も内外で続いており、今後、変化する可能性もあります。こうした議論の収束を待っていては、対応が遅れてしまいます。この点、今回のアプローチは、情勢変化に対する十分な柔軟性を備えており、逸早く重要な課題に取り組むことが可能です。

日本銀行では、資金供給に当たっての各種条件も骨子素案として示しました。貸付利率をゼロ%としたうえで、実施期限は2030年度までとし、長期に亘って金融機関の気候変動問題への取り組みを支援します。今後、金融機関等との意見交換を通じてさらに詳細を検討し、年内を目途に資金供給を開始する予定です。気候変動対応は、企業や金融機関にとっても避けることができない経営課題になりつつあります。日本銀行の今回の施策は、先程申し上げたように、個別の資源配分への関与を極力避けつつ、柔軟性を確保した世界初の試みとも言えることをご紹介しつつ、これが、気候変動問題に対する民間部門の取り組みを一段と後押しすることを期待しています。

5.おわりに

最後に、新潟県経済について申し上げます。

新潟県経済は、感染症の影響から引き続き厳しい状態にありますが、持ち直しの動きがみられています。先行きも回復を続けるとみられますが、感染症の動向が依然として不透明な中で、下振れリスクを意識せざるを得ない状態が続きます。もっとも、新潟県経済の発展の軌跡をみると、不確実性に満ちた「ポストコロナ」の時代を乗り切るイノベーティブな力が、十分に備わっているように思います。

例えば、全国にその名を馳せる新潟の米や日本酒は、単なる自然の産物ではなく、当地の気候や水質を最大限に活かすための研究開発が育て上げた付加価値の高い産業です。また、地域に伝わる技術やノウハウが世界に名だたる地場産業へと成長した事例も多く、江戸期の和釘鋳造から発展した燕三条の金属加工や、農閑期の「雪さらし」で有名な魚沼地方の麻織物が挙げられます。経験や設備の蓄積と言えば、古くから石油や天然ガスを産出してきた新潟は、資源開発やリサイクル技術、首都圏に繋がるパイプライン等を備えた、わが国屈指のエネルギー県でもあります。社会全体として気候変動問題に取り組む中、こうした環境を活かしながら、新しいビジネスにも果敢に挑戦し、国内をリードしていって欲しいと思います。

さて、来る2022年は、信濃川の大河津分水路の通水から100年という節目の年です。これは、わが国初の近代的な仕掛けを持つ堰の採用によって越後平野を信濃川の氾濫による壊滅的被害から守り、新潟の発展を支えてきました。先人の偉大なイノベーションに敬意を払いつつ、新潟県経済が「ポストコロナ」の時代に一層の発展を遂げられることを祈念して、私からのご挨拶とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。