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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策宮崎県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 中村 豊明
2021年8月25日

1.はじめに

日本銀行の中村でございます。この度は新型コロナウイルス感染症が急速に拡大している大変厳しい状況の中、宮崎県の行政および金融・経済界を代表する皆様とオンライン形式で懇談させていただく貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。皆様には、日頃から宮崎事務所および鹿児島支店の円滑な業務運営に当たり、多大なご支援を賜り厚く御礼申し上げます。

本日は、内外の金融経済情勢や金融政策等について説明させて頂き、宮崎県経済の現状と期待される取り組みについて触れさせて頂いた後、皆様からの率直なお話を承りたく存じます。宮崎県を訪問することが叶わず大変残念ですが、皆様との懇談を通じて、地域経済の現状や課題に対する理解を深め、頂いたご意見を日本銀行の業務や政策判断に活かしてまいりたいと存じます。

2.内外経済情勢

(1)経済・物価の現状

まず、海外経済は、新型コロナウイルスの変異株などによる感染拡大の影響が拡がりつつありますが、先進国や中国が牽引する形で総じてみれば回復しています(図表1)。

そうしたもとで、日本経済は、引き続き厳しい状態にありますが、基調としては持ち直しています(図表2)。輸出や生産が着実な増加を続けており、企業の業績も全体としては改善しています。もっとも、個人消費は、飲食・宿泊などの対面型サービス消費の低迷から、足踏み状態となっています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格などは上昇しており、足もとでは0%程度となっています(図表3)1。エネルギー価格や携帯電話通信料といった一時的な要因を除いてみれば、消費者物価は小幅のプラスを維持しており、底堅い動きを続けています。足もとで大幅な下落となっている携帯電話通信料については、特定部門における一時的な価格変動ですので、人々の中長期的な予想物価上昇率に影響を与える可能性は大きくないと考えていますが、今後とも注意深くみていきたいと思います。

  1. 消費者物価指数が2015年基準から2020年基準へと切り替えられたのに伴い、コアCPIの2021年4~6月の前年比は、+0.1%(2015年基準)からマイナス0.6%(2020年基準)へと、0.7%ポイント程度下方改定された。これは、携帯電話通信料のコアCPI前年比に対する下押し寄与が、マイナス0.6%ポイント程度からマイナス1.1%ポイント程度へと拡大したことが主因である。

(2)経済・物価の展望

先行きの内外経済を展望しますと、海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつも、ワクチン接種の進展により感染症の影響が和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、成長を続けると見込まれます。

こうしたもとで、世界的なデジタル関連需要の拡大や設備投資の回復にも支えられて、日本からの財輸出は着実な増加を続けると見込まれます。個人消費やサービス輸出であるインバウンド消費についても、当面は感染症の影響を大きく受けるものの、国内外でのワクチン接種や国内での医療体制強化の進展などにより感染症の影響が和らいでいけば、回復していくと考えています。そして、経済の回復に伴って、消費者物価の前年比も緩やかに上昇率を高めていくと見込まれます(図表4)。

(3)経済・物価のリスク要因

もっとも、こうした見通しを巡る不確実性は大きく、特に当面は、国内外で拡がりつつある新型コロナウイルスの変異株などによる感染拡大の影響を中心に、下振れリスクに注意が必要です。そのうえで、その先も見据えた時に、私が特に注目しているポイントを3点お話します。

1点目は、サービス消費のペントアップ需要です。米国では家計の現預金残高(本年3月末時点)がトレンド対比+3.1兆ドル増加し(図表5)、その後、ワクチン接種の進展に伴い、ペントアップ需要が顕在化し、経済活動が活発化しています。日本でも、家計の現預金残高(同)は、過去最高の1,056兆円に達し、トレンド対比+37兆円増加していますので、ワクチン接種や医療体制強化の進展などにより感染症の影響が和らいでいけば、失われた消費機会を取り戻すべく平時よりも消費支出が増加することでペントアップ需要が顕在化し、経済活動が活発化することが期待されます。感染再拡大の影響などから、ペントアップ需要が顕在化する時期はやや後ずれしたとみていますが、その後は、想定以上に経済活動が活発化する可能性があると考えています。

2点目は、企業の価格設定行動です。感染症への警戒感が続くもとで値下げによる集客には限界があるほか、感染症対策や世界経済の回復を受けた輸入原材料価格の上昇によるコスト増などを踏まえると、企業が値下げにより需要喚起を図る行動は引き続き広範化しないだろうと考えています。そのうえで、その先も見据えると、既往の売上減少により対面型サービスを中心に増大した借入債務を返済するためには、米国で一部にみられるような、ペントアップ需要の顕在化にあわせた価格の引き上げによって、コスト増加分の転嫁を含めた採算性の改善を実現することが重要です。こうした需要の改善に対応した価格設定行動などにより、債務の返済や、生産性向上に向けた取り組みが順調に進んでいくか、動向を注視しています。

3点目は、企業の中長期的な成長期待の動向です。6月短観の業況判断DI(全産業全規模)は4四半期連続で改善しています。設備投資計画(全産業全規模、含む金融機関)は、2020年度は前年度比マイナス8.1%で着地したあと、2021年度は同+9.4%の増加と、2019年度と概ね同水準に戻る計画ですので(図表6)、足もと、企業の中長期的な成長期待が低下している様子は窺われません。ただし、2021年度計画には前年度からのずれ込みが含まれていることには、留意が必要です。経済の持続的な成長には、後ほどお話するデジタル化や気候変動対応などの構造改革の加速が、持続的な生産性の向上に繋がることによって、中長期的な成長期待が高まることが必要ですので、企業の投資動向を注視しています。

3.金融政策運営

次は、金融政策運営です。日本銀行は昨年3月以降、感染症への対応として、「3つの柱」による強力な金融緩和措置を実施しています(図表7)。具体的には、第1に、企業等の資金繰り支援のための特別プログラム、第2に、国債買入れやドルオペなどによる潤沢かつ弾力的な資金供給、第3に、ETFおよびJ-REITの買入れです。これらの対応は、3月の点検結果のとおり、政府の施策や金融機関の積極的な取り組みと相俟って効果を発揮しています。

また、国内外で変革意識が強まっている気候変動問題は、中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼしうるものであり、日本銀行の使命である「物価の安定」や「金融システムの安定」に関係するものです。こうした観点から、先月の決定会合において、金融機関による気候変動対応を支援する新たな資金供給制度の骨子素案を決定しました(図表8)。

本制度では、個別の資源配分への具体的な介入を極力避ける観点から、金融機関自らが判断する気候変動対応投融資を日本銀行がバックファイナンスするというアプローチを採用しています。気候変動対応に資するとみられる経済活動を分類する基準(タクソノミー)を巡る議論は、国内外で続いていますが、こうした議論の収束を待っていては、対応が大きく遅れてしまいます。今回のアプローチには、情勢変化にも柔軟に対応しつつ、いち早く民間部門による重要な課題への取り組みを後押しできるというメリットがあると考えています。

今後、本制度の実効性を高めるため金融機関等との意見交換を通じて検討を深め、年内を目途に本制度に基づく資金供給を開始する予定です。私は、金融機関などによる気候変動対応投融資は、持続可能な社会の実現に向けてわが国のCO2削減目標の達成を目指す企業の取り組みを支え、中長期的な成長期待を高めるうえでの重要な活動と考えており、本制度がこうした活動を一段と後押しすることを期待しています。

4.日本経済の構造変化

(1)「失われた20年」とデフレ

次に、より長期的な視点から日本経済の構造変化とその課題について、私自身が1975年から2020年まで勤めていた民間企業での経験も踏まえて私見をお話したいと思います。

1985年のプラザ合意まで、ドル/円レートが概ね200円を上回る円安環境のもとで(図表9)、日本は輸出主導型の経済成長を実現してきました。この間、国内では中小企業を組み込む形で産業クラスターが構築され、企業は製品輸出を通じて海外経済の成長を取り込み、その恩恵を国内労働者の雇用や勤労所得の持続的な増加という形で家計に還元しました。そして、家計は余裕資金を銀行に預けて国内経済の高成長に伴う高い金利収入を得て消費を拡大し、銀行は企業への貸出を通じて利鞘を稼ぎ、企業は借り入れた資金を設備投資や研究開発投資などに活用して輸出や生産を拡大するという好循環が発揮されていました。

プラザ合意後の1980年代後半には1ドル120円台への円高が進行しました。こうしたなか、政府が輸出主導型から内需主導型への経済構造の転換を促したこともあって、製造業の海外生産移転が進み始めました。また、国内では、家計の可処分所得の増加(図表10)を背景とした活発な個人消費にも支えられて、非製造業が急成長し、当時は内需主導型成長が実現したという見方もありました2

しかし、1990年代前半にバブルが崩壊し、企業は雇用・設備・債務の「3つの過剰」3を抱えることになりました。雇用慣行を含む働き方の改革はなかなか進まず、多くの企業は業績悪化に対して人件費・償却費などの固定費削減や人件費の安い新興国への生産拠点シフトなどのコスト構造改革で対応し、付加価値を高める事業ポートフォリオ改革は先送りされました。

こうした状況に更なる円高も加わり、1990年代後半からデフレが進行しました。ここで、かなり単純化した形ではありますが、企業からみたデフレの影響を考えてみたいと思います(図表11)。約15年に及んだデフレのもとで、日本企業は海外経済の成長に伴う輸入原材料の価格上昇や新興国からの低価格品の流入などに直面し、売上や利益が減少し、生産性が低下しました。そこで、固定費削減策が実行されましたが、終身雇用慣行などから雇用維持が優先され、付加価値を高める事業ポートフォリオ改革は先送りされ、生産性の低迷により、賃金は抑制されることが多かったように思います。また、設備投資や研究開発投資なども絞らざるを得ず、魅力や競争力のある新製品・サービスの創出遅延に繋がりました。この結果、食料品のような先送りできない生活必需品以外では需要が低迷し、一段と価格を下げて需要を維持する悪循環が生まれました。さらに、デフレの長期化により、将来の売上や利益の拡大期待が低下し、デジタル活用等のイノベーションへの投資余力も低下しました。

この間、家計をみますと、従業者数の7割を占める中小企業の労働者の多くは、新興国とのコスト競争や、少子高齢化・生産年齢人口減少といった構造問題を抱えて力強さを欠く内需に直面し、賃金が上がり難い状況に陥り、海外経済の成長の恩恵を得難くなりました。そして、家計は終身雇用慣行や年功序列型賃金体系の中で賃金が持続的に上がるという期待が持てず、将来への不安が募り、不確実性に備えるべくリスク性資産への投資を抑えて現預金を保蔵する構造が定着したように思います。

このように、約15年間という長期にわたるデフレのもとで、企業と家計の双方で変革や投資が先送りされ、変革の速さで世界に後れをとり、生産性の低迷に繋がったと思います。

  1. 2経済企画庁「平成元年 年次経済報告」
  2. 3経済企画庁「経済白書 平成11年版」

(2)グローバル化の進展と家計の収入構造

その後、2013年以降の大胆な金融緩和や機動的な財政政策により、こうしたデフレの流れは止まりました。そして、海外経済の成長を取り込むため、サービス輸出であるインバウンド需要の促進策などが講じられ、サービス輸出のプレゼンスが高まりました(図表12)。民間でも、リーマンショック以降、製造業の大手企業が海外需要の取り込みを目的とした海外進出を強化したほか4、2013年頃からは非製造業の大手企業を含めてM&Aの活用が進み、対外直接投資が一層拡大しました(図表13)。こうした動きなどを反映して、第一次所得収支(海外への投資に伴う収支)の黒字幅は拡大し、現在も経常収支黒字の主因となっています(図表14)。

痛みを伴う構造改革を行いながら進めてきたグローバル化が奏功し、大手企業は、連結業績の改善や海外子会社からの配当金・ロイヤリティの増加などを通じて海外経済の成長を取り込めるようになりました。そして、連結業績の成長が株価に反映されるとともに、株主への配当としても還元されています。このような企業の構造改革努力の成果が現れ、日本の上場企業の企業価値を表すTOPIXは、世界の名目GDPのトレンドに沿って動く傾向が強まっています(図表15)。

この間、日本の家計の収入構造をみますと、雇用者報酬は2013年頃から緩やかに増加していますが、それまでの減少分を取り戻す程度となっています(図表10)。利子収入は1991年をピークに2005年まで減少を続け、その後も低迷しています。配当収入は緩やかに増加していますが、利子収入の減少分を補うほどではありません。こうした収入面の変化や社会構造の変化などを反映して、家計の可処分所得は1998年をピークに低迷してきましたが、2010年代前半から漸く改善傾向に転じました。これに対して、米国では雇用者報酬、利子収入、配当収入が全て増加しており、2020年の可処分所得は1990年代前半の3倍以上に達しています。ドイツも、利子収入は緩やかに減少していますが、雇用者報酬や配当収入がそれ以上に増加し、可処分所得は1990年代初の2倍程度に達しています。

こうした中、日本の家計が保有する金融資産は、1990年度末の1,017兆円から、「失われた20年」の間も増加を続け、2020年度末では1,946兆円と約2倍になっています。しかし、内訳の推移をみますと、現預金と比べて株式や投資信託の伸びは鈍く、金融資産構成の日米欧比較でも、日本は現預金が54%と突出して高く、株式や投資信託は合計14%と低いことが分かります(図表16)。この結果、日本の家計所得において雇用者報酬が占める割合は極めて高くなっています。

先ほども申し上げましたように、グローバル化を進めた企業の業績には海外経済の成長が取り込まれていますので、家計がそうした企業の株式やそれらを組み入れた投資信託への投資を徐々に増やしていけば、配当等の増加を通じて、海外経済の成長の恩恵を中長期に亘り家計の可処分所得に取り込むことができます。他の条件を一定とした大雑把な試算ですが、日本の家計が金融資産の2割、約400兆円を現預金から株式や投資信託に追加投資し始めた場合、配当利回りを1.6%とするといずれ毎年5兆円規模の可処分所得が家計に加わり、可処分所得を2%程度押し上げる計算となります。そして、これが個人消費に回れば、国内経済の好循環に繋がることが期待されます。

日本でも、他の先進国と同様に、現預金として保蔵されている一部を振り向ける形で、適切なリスク分散を図りながら投資信託などに投資し、長期保有の視点で配当・分配金を通じて安定収入を得る資産構造への変革意欲がもう少しあっても良いと思います。過去、金融市場の混乱と株価の急激な下落は幾度も生じましたが、多くの上場企業は、これらを乗り越えて、グローバル市場での地歩を固めながら、持続的な成長を追求しており、それが株価にも反映されるようになっていると思います。

現在、過去のバブル崩壊のトラウマが少ない若年層を中心に投資信託などへの関心が高まっているとの声が聞かれており、2020年度末の個人株主数(延べ人数ベース)は前年度比308万人増え、7年連続で増加するなど、これまで根強く残っていた現預金志向に変化の兆しが現れています。また、企業が運用する年金基金のうち従業員自身が運用商品を選ぶ確定拠出型年金(企業型)の加入者数が約750万人5まで増加するなど、労働者が金融商品を自ら選択する場面が広がっています。そして、金融リテラシーの高まりを受けて、長期投資を前提に短期的な運用リスクを受け入れてリターンを高めようとする動きも広がりつつあり、確定拠出型年金の利回りが確定給付型年金の利回りを上回るようになりました。ESGなどへの関心の高まりとも相俟って、現預金として長らく眠っていた家計の金融資産が日本の経済成長や社会変革に貢献する度合いを高めるとともに、企業も持続的な成長と企業価値の向上を実現する経営戦略を強化し、金融業界もこうした流れを一層後押ししていくことを期待しています。

  1. 4内閣府「平成25年度 年次経済財政報告」
  2. 5厚生労働省「確定拠出年金の施行状況」(令和3年3月31日現在)

5.デジタル化と気候変動対応

(1)デジタル化

こうした国内経済が抱える構造問題に加えて、現在、わが国はデジタル化と気候変動対応という大きな変化にも直面しています。コロナ禍により、わが国のデジタル化の遅れが改めて大きな課題として浮き彫りになりました。例えばIMDの世界デジタル競争力ランキングをみると、韓国や中国はデジタル競争力が着実に向上している一方、日本はG7やアジア主要国の中でも低位に止まっており、企業自身の認識も同様です(図表17)。また、OECD各国のソフトウェア投資額をみても、米英独仏では2000年以降急増し、2018年には米仏は2.4倍、英独も2倍程度に達していますが、日本は2000年から2002年にかけては1.2倍程度に増加したものの、その後は伸び悩んだままです(図表18)。6月短観でのソフトウェア投資額6をみると、2020年度は前年度比マイナス7.4%、2021年度は同+16.1%の増加計画ですが、2019年度比では約7%の増加ですので、このペースでは現在の水準から2倍になるまでに10年かかります。

デジタル化はその段階などに応じて、(1)デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタル化や業務・製造プロセスの電子化など)、(2)デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化や製品へのデジタルサービスの付加など)、(3)DX(デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革など)の3つに分類されます7

日本企業のデジタル化が遅れた背景の一つには、終身雇用慣行などがネックとなって、既存業務の効率化のためのデジタイゼーションが遅れたことが挙げられます。この結果、既に欧米で大きな潮流となっている、デジタライゼーションやDXが十分進められてこなかったこともあると思います。さらに、自由にデジタル技術を活用して、スタートアップや中小企業から、企業価値評価額が10億ドルを超えるユニコーンへと成長する企業があまり出てこなかった経済の新陳代謝不足の影響も大きいと思います。

足もと、日本のデジタル競争力向上には、デジタル人材の不足や、事業変革への対応力の弱さが課題となっている様子が窺われます(図表19)。しかし、コロナ禍を受けて、デジタル化を通じた事業変革に対する経営陣の意識はかつてないほど高まっています。企業へのアンケート調査8では、経営上見直しを迫られる問題として、7割の企業がリモートワークなどの「働き方改革」と回答したほか、約半数が「経理、人事管理など決裁や業務プロセスの見直し」と「商品・サービスの提供方法の変革」を挙げています。まだ多くの企業ではデジタイゼーション/デジタライゼーションが課題となっている様子が窺われますが、日本企業がクラウドなどのサービス活用を含めたデジタル化を成長の原動力の一つとするべくデジタイゼーション/デジタライゼーションとあわせてDXも推進し、事業構造改革や生産性向上に向けた取り組みを一段とギアを上げて加速していくことを期待しています。

  1. 6全産業全規模(含む金融機関)の値。
  2. 7経済産業省・デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会「DXレポート2(中間とりまとめ)」
  3. 8一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2021 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2020年度調査)」

(2)気候変動対応

次に気候変動対応です。気候変動問題は、将来にわたって、社会・経済に極めて広範な影響を及ぼしうるグローバルな課題であり、G7やG20などにおいて、国際的な取り組みに関する議論が進められています。そして、この問題への対応を進めるためには、社会・経済を構成している各主体による積極的な取り組みが求められます。

日本銀行はこれまでも、中央銀行の立場から、金融機関との対話や国際的な議論への参画を進めてまいりましたが、政府や企業を始めとして、気候変動に関する取り組みが積極化しているなか、日本銀行としても、物価の安定と金融システムの安定という日本銀行の使命に沿って気候変動に関する取り組みを進めるため、包括的な取り組み方針を決定しました(図表20)。先ほどご紹介した金融機関による気候変動対応投融資をバックファイナンスするための新たな資金供給制度もその施策の一つです。

これは重要な第一歩と考えていますが、2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて経済・産業・社会が変革されていくためには、巨額の民間投資が持続的に実行・回収されるエコシステムの構築が重要であり、海外での変革の進捗を適切に把握することが必要です。この点、EUは、2030年までに官民合わせて1兆ユーロ(130兆円)を超える環境分野への投資を想定し、投資コストが安定的に回収できるエコシステムの整備に向けて、国境炭素調整メカニズムなどの導入を検討しています。そして、タクソノミーの策定に向けた動きも進み、グリーンボンド関連法案が公表されるなど、EU域内外の民間資金が環境分野に向かう制度が整備されつつあります。

また、気候変動対応投資の多くは長期に亘りますので、リスクマネーが大規模かつ安定的に供給される必要があります。そのために、金融機関や機関投資家が実際に気候変動対応投資を行う企業と戦略的な議論を行い、目利き力を発揮して効率的な資金配分を行う市場機能の強化が求められます。

実際、海外でも気候変動対応投資にかかるファイナンスは株式やグリーンボンドなどの直接金融市場を中心に拡大しています。例えば、世界におけるグリーンボンドの発行額は、2016年の804億ドルから2020年の2,858億ドルと、この4年間で3倍以上に増加しています(図表21)。日本での発行額も近年急増していますが、2020年で約1兆円と、わが国の経済規模に比して、なお低い水準ですので、さらなる成長が期待されます。

こうした中、政府はグリーン国際金融センターの創設を発表し、東京証券取引所とともにグリーンボンド市場の整備を進めています。市場の活性化に繋げていくためには、企業が質・量ともに気候変動関連の情報開示を充実させ、グリーンを装う「グリーンウォッシュ」を防ぎ、投資家が投資判断に有益な情報を取得できる環境を整備するなどして、グリーンボンドに対する信認を確保することが重要です。

こうした改革により、投資コストが安定的に回収できるエコシステムが整備され、巨額の投資が持続的に実行されるようになることを期待しています。私も引き続き気候変動に関する変革の進捗を適切に把握し、各種施策について不断に検討を重ね、持続可能な社会の実現に向けた企業の気候変動対応を中央銀行の立場から後押ししていきたいと考えています。

6.おわりに ―― 宮崎県経済について ――

最後に、宮崎事務所および鹿児島支店を通じて承知しております情報も踏まえ、宮崎県経済についてお話したいと思います。

宮崎県は、本格焼酎はもちろん、温暖多照な気候を活用し、質・量ともに全国有数の農畜水産業を誇っており、完熟マンゴーや宮崎牛、キャビアをはじめとする農畜水産物のブランドは高い評価を受けています。また、豊かな自然や神話などの魅力あふれる観光資源に加え、「スポーツランドみやざき」としての取り組みが、多くの観光客やスポーツ・ファンを惹きつけてきました。さらに、宮崎県から大分県に広がる東九州地域には、血液や血管に関する医療機器を製造する企業が集積し、世界的な生産・開発拠点となっており、その拡充が進められています。

こうした中、足もとの宮崎県の景気は、足踏み状態にあるとみています。新型コロナウイルス感染症に伴う大幅な人流の減少を受けて、観光関連産業で厳しい状況が続いているほか、焼酎業界や養殖業界など、外食産業向けの食品加工業や第一次産業の一部では需要の落ち込みが深刻です。財消費は引き続き底堅いほか、生産も半導体関連部材を中心に増加基調にありますが、これらが、感染症に伴う下押し圧力を打ち返すには至っていません。

宮崎県の景気の先行きについては、日本経済と同様に、ワクチン接種の進展などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、回復していくとみていますが、感染症の影響などを巡る不確実性が高いことから、引き続き動向を注視して参ります。

より長い目で宮崎県経済をみますと、人口減少に伴う地域経済の趨勢的な縮小や人手不足が大きな課題となっており、官民一体となって課題解決に取り組んでおられます。この点、宮崎市の「マチナカ3000」プロジェクト9は、目標を上回るペースでの雇用創出を実現しておられます。また、ICTやロボット技術などの活用により省力化や生産性の向上などを目指すスマート農業の実現に向けた取り組みも着実に広がっています。こうしたなか、宮崎県では、ポストコロナを見据えた新規分野におけるデジタル化の支援やデジタル人材の育成を通じた地域産業の振興などにより、人口減少下でも持続可能な経済・社会を実現するための取り組みを推進しておられます。

気候変動対応についても、宮崎県は、恵まれた日照環境を活かした太陽光発電や、畜産業・林業における廃棄物や焼酎粕などを燃料とするバイオマス発電の導入・実用化が急速に進んでいます10。こうしたなか、宮崎県は、今年度から開始した「第四次宮崎県環境基本計画」のもと、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進め、持続可能な社会の構築を目指しておられます。

今後も、産学官が一体となって、デジタルを活用した地域の課題解決や持続可能な社会の実現に向け、取り組んでいかれることを期待しています。

最後に有事の業務継続に向けた取り組みについて申し上げます。当地では南海トラフ地震を想定した防災庁舎や津波避難タワーの整備が進められているほか、激甚化・頻発化する風水害を含む自然災害を想定した防災・減災や有事の業務継続に向けた取り組みが着実に進められています。日本銀行としても、宮崎事務所および鹿児島支店を中心に、災害時の決済機能や現金供給機能の維持に向け、地域に貢献できるよう努めて参ります。

感染症の影響が続くなかでも、こうした様々な取り組みを着実に進められ、魅力あふれる新たな未来を切り拓いていかれるものと期待しております。関係者の皆様のご努力に敬意を表するとともに、当地経済の益々の発展を心より祈念いたします。

ご清聴ありがとうございました。

  1. 9同プロジェクトは、中心市街地にICTや、広告、デザインなどクリエイティブ産業の雇用を創出するもので、2015年からの10年間で3,000人の雇用創出を目標としている。既に2,800人の雇用が創出されている。
  2. 102010年度の発電量との比較では、2017年度時点で太陽光発電は約13倍、バイオマス発電は約4倍となっている。また、県内の焼酎メーカーや大学では、焼酎の製造工程で発生する焼酎粕をバイオマス燃料等として再利用するための設備導入や新たな技術開発が進んでいる。