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市場流動性:研究成果と政策へのインプリケーション

(日本銀行仮訳)

1999年 5月 4日
国際決済銀行

日本銀行から

 報告書(第一部総論)の全文は、(bis9905a.pdf 181KB)から入手できます。

 報告書第二部を構成する個別研究論文(原文)については、BISのウェブサイト(http://www.bis.org(外部サイトへのリンク))より入手できます。

市場流動性の決定要因について
(BISグローバル金融システム委員会スタディ・グループ報告書)

プレス・ステートメント

 BISは本日「市場流動性:研究成果と政策へのインプリケーション」に関する報告書を公表する。本報告書はグローバル金融システム委員会(注)(Committee on the Global Financial System、以下CGFS)が設置したスタディ・グループが取り纏めたものであり、取り纏めの過程で作成された研究論文集と、そうした論文やスタディ・グループにおける議論から得られた洞察について概観した総論から構成されている。本報告書は、委員会の使命である金融市場および金融システムの機能に関する分析を深めることに資するものである。なお、総論も含めて、各論文に示された見解は、著者たち個人のものであり、必ずしも著者たちが属する組織やBISおよびCGFSの公式見解を示すものではない。

 最近のグローバル金融市場における危機の発生や、金融仲介における市場の重要性の高まりを背景として、政策当局や学者は、市場流動性の決定要因とそのダイナミクスについて強い関心を寄せるようになっている。公的・民間セクターの行動主体は、いずれも市場流動性の存在を前提に行動し、またそうした行動が市場流動性に影響を及ぼしている。スタディ・グループは、これらの行動主体に適切な情報を提供するためには、市場流動性の決定メカニズムについて理解を深めることが不可欠であると考えた。国債市場における流動性は、金融政策や金融市場の安定に影響を与え得るため、中央銀行にとって特に関心が強い事項である。このため、スタディ・グループは、理論、実証の両面から、何が市場流動性を決めるのかという点について理解するために特に力を注ぐこととした。なお、研究活動の一環として、G-10諸国の中央銀行または国債発行機関のスタッフが、各国の国債市場の構造調査に参加した。

 スタディ・グループは、金融システムにおいて中央銀行が様々な役割を果たす中で、その活動が必然的に市場流動性に影響を与えていると考えている。このため、中央銀行が市場流動性の決定要因についてさらなる研究を促すことを提案している。CGFSは、本報告書がこれらの極めて重要な課題について理解を深めるためのさらなる取組みにつながることを期待している。

 本報告書はBISのウェブサイト(http://www.bis.org(外部サイトへのリンク))からも入手できる。

  • グローバル金融システム委員会は、G-10諸国の中央銀行総裁により設立された中央銀行の小委員会であり、金融政策および金融システムの安定化といった中央銀行の責務を果たすうえで有益な政策提言を行うため、金融市場および金融システムに関する広範な課題についてモニターおよび検討を行っている。こうした使命を実現するため、委員会では、総裁たちを補佐していくうえで、特に金融市場やグローバル金融システムの安定に対する脅威を認識し、分析し、対応していくことに重点を置いている。

序文

 最近のグローバル金融市場における危機の発生や、金融仲介における市場の重要性の高まりを背景として、政策当局や学者は、市場流動性の決定要因とそのダイナミクスについて強い関心を寄せるようになっている。1997年12月、BISユーロカレンシー・スタンディング委員会(現グローバル金融システム委員会)は、関連する幾つかの課題について検討するためのスタディ・グループを設置した(議長=日本銀行)。本報告書は、当委員会の使命である金融市場およびシステムの機能に関する分析を深めることに資するものである。本報告書は、取り纏めの過程で作成された研究論文集と、そうした論文やスタディ・グループにおける議論から得られた洞察について概観した総論から構成されている。なお、総論も含めて、各論文に示された見解は、著者たち個人のものであり、必ずしも著者たちが属する組織やBISおよび当委員会の公式見解を示すものではない。

 スタディ・グループも指摘しているように、公的・民間セクターの行動主体は、いずれも市場流動性の存在を前提に行動し、またそうした行動が市場流動性に影響を及ぼしている訳であり、そうした行動主体に適切な情報を提供するためには、市場流動性の決定メカニズムについて理解を深めることが不可欠である。国債市場における流動性は、金融政策や金融市場の安定に影響を与え得るため、中央銀行にとって特に関心が強い事項である。このため、スタディ・グループは、理論、実証の両面から、何が市場流動性を決めるのかという点について理解するために特に力を注ぐこととした。なお、研究活動の一環として、G10諸国の中央銀行または国債管理当局のスタッフが、各国の国債市場の構造調査に参加した。こうした比較分析は、各国市場に関する詳細な議論と相俟って、国債市場の流動性向上策を模索している他の国々の当局にとって有益なガイダンスとなると考えられる。

 当委員会は、金融システムにおいて中央銀行が様々な役割を果たす中で、その活動が必然的に市場流動性に影響を与えることについて、スタディ・グループとの間で認識を共有している。当委員会は、これらの極めて重要な課題について理解を深めるためのさらなる取組みにつながることを期待し、本報告書を公表することとした。

山口 泰
グローバル金融システム委員会議長
日本銀行副総裁

要旨

I.目的と研究動機

 カナダ、イタリア、日本、英国、米国の中央銀行およびBISは、市場流動性の決定要因およびそれらの要因に対して中央銀行や他の政策当局がどのように影響を与えるかという点に関し共同研究を行ってきたが、本報告書はその研究成果を取りまとめたものである。1997年12月のBISユーロカレンシー・スタンディング委員会(現グローバル金融システム委員会)の決定に基づき、日本銀行を議長として、上記中央銀行等のリサーチャーおよびマーケット担当者から成るスタディ・グループが組成され、1998年2月から1999年3月にかけて研究が行われた。研究活動の一部として、G10諸国の中央銀行または国債管理当局の参加により、各国国債市場の構造に関するサーベイも行われた。

 中央銀行が市場流動性を研究する最終的な目的は、その決定要因に関し、中央銀行が金融政策の遂行やその他の役割を果たす上で適用可能な知識を蓄えいくことにある。そのための第一歩として、当グループは、市場流動性に関連する幅広い問題について、理論、実証の両面から研究した。そうした事項の中で、とくに国債市場における流動性決定要因とダイナミクスについて、強い関心を向けた。それは、中央銀行の重要な機能——金融政策の遂行、金融システムの安定性維持、(いくつかのケースにおいては)政府債務の管理——の発揮のためには、国債市場が重要だからである。

II.市場流動性のダイナミクスと決定要因

(定義、評価の軸、およびダイナミクス)

 市場流動性はつかみどころのない(elusive)概念である。それは、市場流動性の多面的な性質を反映している。この性質を踏まえた上で、比較的広範な支持を得ている定義は、「流動性の高い市場とは、大口の取引を小さな価格変動で速やかに執行できる市場である」というものである。マーケット・マイクロストラクチャーの研究においては、市場流動性は、通常、三つの軸(dimensions)で捉えられることが多い。すなわち、tightnessdepthresiliencyである。このうち、tightnessは、取引価格が均衡価格からどの程度離れているかを示すもので、一般的には、ビッド・アスク・スプレッドで計測される。depthは、現在の市場価格に影響を与えずに執行することができる取引サイズ、またはある時点におけるマーケット・メーカーの板上の注文量を指す。resiliencyは、取引執行に伴い変動した価格が元に戻るスピード、または注文フローの需給不均衡が調整されるスピードを指す。

 最近発生した、幾つかの市場における流動性の急激な枯渇や流動性危機の他市場——最近のアジアやロシアの危機と関連がなさそうな市場——への急速な伝播により、研究者達は、市場流動性の決定要因やダイナミクスがまだ十分には理解されていないことを改めて認識した。ダイナミクスについては、とくに三つの現象が関心を集めた。すなわち、しばしば関連市場の流動性を奪うかたちで実現される特定市場または商品への市場流動性の集中(concentration)、ある市場からの流動性の枯渇(evaporation)、そして流動性が高い資産に対するプレミアムの上昇を伴った流動性への逃避(flight to liquidity)である。

(市場流動性に影響する要因)

 当グループは、市場流動性に影響する要因を三つに分類した:商品特性(product design)、マーケット・マイクロストラクチャー(market microstructure)および市場参加者の行動特性(behaviour of market participants)である。このうち、商品特性が重要である理由の一つは、それが商品の代替性(substitutability)に影響するからである。代替性が高いと、類似の商品群の中で特定商品への流動性の集中が発生し易い。本報告書でしばしば論じられるが、その典型的な例は、国債のベンチマーク銘柄の流動性の高さである。

 マーケット・マイクロストラクチャーも市場流動性に影響する。取引される商品の特性と取引執行システム(呼値駆動型<quote-driven system>と注文駆動型<order-driven system>を含む)の間には、一定のパターンが広く見出されるものの、そうしたパターンは、情報技術の発展や市場環境の変化によって変わり得るものである。また、取引コストが小さいほど市場流動性が向上することも指摘されたが、その効果の程度は、市場環境によって異なる。当グループにおける理論研究による重要な発見の一つは、取引コストの賦課は、それがない場合に比べ、ストレス局面におけるマーケット・メーカーの市場からの退出を早めるということである。さらに、市場情報についての透明性が市場流動性に及ぼす影響は、一般に想定されているよりもかなり複雑であることも分かった。ディーラー市場において、事前的価格情報(ディーラーの呼値)を幅広い市場参加者に開示することは、ビッド・アスク・スプレッドの縮小をもたらすであろう。反面、イタリアの国債市場改革で実施されたマーケット・メーカーの匿名性増大(透明性の減少)が、市場流動性の改善をもたらしたことが実証された。また、個別研究の一つは、透明性が市場流動性に及ぼす影響は、その市場が持つ情報伝達の構造、特に、異なる種類の市場参加者が異なる種類の情報を観察できる度合い、に依存することを示唆した。

 市場参加者の行動特性の重要な側面として、多くの個別論文が取りあげたのは、市場流動性に関する自己実現的な期待(self-fulfilling expectation)である。すなわち、市場流動性は、単に市場の期待がその方向に傾いたという理由のみで、向上したり、低下したりする場合がある。また、シミュレーション手法を用いた分析では、市場流動性は、トレーダーの短期の価格変動に対する感応度、リスク回避度、自らの価格予測に関するコンフィデンスの強さなどにも影響されることが示された。

III.国債市場の流動性

(流動性指標の各国比較)

 当グループが実施したG10諸国の国債市場に関するサーベイ結果や中央銀行によるその他の研究成果をみると、各国の国債市場が流動性指標に関し多くの共通点を有していることが分かる。まず、ビッド・アスク・スプレッドは、総じて売買回転率が高い市場やベンチマーク銘柄でタイトになっている。また、流動性指標(売買高、価格ボラティリティ、ビッド・アスク・スプレッド)は、(1)取引開始直後と終了直前に大きくなり、日中は比較的低い、(2)週央に高く、月・金曜日に小さい、(3)統計発表の前後に大きくなる、といったパターンを示すことが分かった。さらに、全ての商品や国に共通する訳ではないが、先物価格は総じて現物価格より先行する傾向がみられる。このような価格の先行・遅行関係は、現物・先物市場の市場流動性や代替性の程度に影響されているのかも知れない。

(制度的要因の比較)

 商品特性の分野では、多くの政府が投資家の様々なニーズに応えるために、多様な年限で国債を発行しているが、「鍵となる年限(key maturities)」における発行量を増やすために発行年限の数を減少させる傾向にある。また、幾つかのベンチマーク銘柄に流動性を集中させようとする傾向もみられる。

 マーケット・マイクロストラクチャーの分野では、過半数のサーベイ対象国がプライマリー・ディーラー制度を採用している。この制度は、中央銀行その他の当局が、特定のディーラーに流通市場でのマーケット・メイクを義務付けることと引替えに、発行市場や中央銀行オペに参加する権利を与えるというものである。透明性に関しては、現物対顧市場が最も透明性が低く、先物市場が最も透明性が高く、現物業者間市場がその中間である。また、殆どの国では、レポ市場、フェイル・ルール、相場操縦防止を目的とした当局の国債貸出/リオープンプログラムなど、国債の空売りを容易にする仕組みを有していることが分かった。

IV.流動性の高い市場の実現に向けて

 以下で述べる結論は、当グループの研究成果や、既存の論文、グループ内のディスカッションを通じて導かれたものである。

(市場流動性の向上策)

 第1に、競争的な市場構造を維持することは、店頭ディーラー市場ではビッド・アスク・スプレッドの縮小を通じて流動性を向上させる。取引所市場においては、取引所間や店頭市場との競争激化は、取引コストの低減や効率的な情報配信を促進する。そのような競争的な市場構造の下では、過度の市場分断が市場流動性を損なわない限り、市場参加者は異なった特性を持つ市場の中から、取引の場を自由に選択できるであろう。

 第2に、税は、仮に課される場合でも、市場流動性への悪影響を最小にするように賦課されるべきである。取引税の流動性阻害効果は、その税収と比較衡量される必要がある。また、源泉徴収制度の流動性阻害効果は、市場性のある資産や頻繁に取引する主体に適用されたときに大きくなる。

 第3に、透明性は、一般的には信頼性の高い価格発見(price discovery)と効率的なリスク配分を促進することを通じて、市場機能を向上させるであろう。しかし、ディーラー市場においては、市場価格情報を広く投資家にも配信することは市場流動性を向上させるものの、市場参加者の匿名性を危うくするような個別注文についての情報開示は、時には市場流動性を阻害する。

 第4に、標準化された取引・決済慣行は市場分断を和らげることを通じて、取引コストの低下に資する。この点に関し、ユーロの導入はやがてはユーロ建て国債のクーポン・元本支払い方法の統一をもたらし、ひいては市場流動性を向上させるであろう。また、DVPやT+3決済といった国債市場でみられる決済慣行を広く債券市場全般に拡大することも、市場間の裁定やヘッジ取引を容易にすることを通じて、市場流動性を向上させる。

 第5に、異なった取引ニーズや投資期間を反映した市場参加者の多様な行動は市場流動性を向上させるであろう。この点に関しては、非居住者の国内市場への広範な参加は、市場参加者の多様性を増すことを通じて市場流動性を向上させるであろう。

 最後に、市場流動性が外部性(externality)や自己実現的な性質を持っていることから、そこでの十分な流動性が金融市場全体に好影響を及ぼすような、核となる市場を特定し、その市場の特質に合わせた流動性向上策を実施することが必要である。

 そのような核となる市場の唯一ではないが重要な例が国債市場である。核となる市場としての国債市場の流動性を高めていくためには、前節で議論した点以外では次の点が特に重要である。第1に、「鍵となる発行年限」におけるベンチマーク銘柄への需要に応えることは、イールド・カーブ全体の流動性のレベルを等しく高めるよりも、有効な戦略かも知れない。「鍵となる発行年限」のベンチマーク銘柄の発行サイズを十分に大きくするためには、発行主体が発行頻度を低めたり、数回のリオープンを行うことも検討に値する。第2に、発行スケジュールを事前公表することにより、ディーラーは顧客の需要を予測し在庫リスクを減じることが容易になるため、彼らのマーケット・メイク能力が増す。第3に、レポ市場や先物をはじめとするデリバティブ市場の機能向上は国債現物市場の流動性を増す可能性がある。

(将来の研究課題)

 金融システムにおいて中央銀行が様々な役割を果たす中で、その活動は市場流動性に必然的に影響を与える。第1に、政策当局者としての政策決定やオペのオファーといった情報の公表は、速やかに金融市場の価格に織り込まれている。第2に、大口の市場参加者として、中央銀行はそのポートフォリオ管理を通じて市場流動性に影響を与えている。第3に、中央銀行は、金融システムの安定性に(通常は他の機関とともに)関与していることから、ストレス下で枯渇することが知られている市場流動性の状況を注意深くモニターしている。

 このような事情に鑑みれば、中央銀行リサーチャーや学者による研究を含め、中央銀行が市場流動性についてさらなる研究を促すことが大切である。

以上