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「信用秩序維持のためのいわゆる特融等に関する4原則の適用について」に関する件

1999年6月16日
(議決日 1999年5月14日)
日本銀行政策委員会

本委員会は、平成11年5月14日、日本銀行法第38条に定める資金の貸付けその他の信用秩序維持のために必要と認められる業務(以下「特融等」という)を行う際の、いわゆる4原則およびその具体的な運用に当たっての考え方を、別紙のとおり定め、平成10年度の業務概況書において公表することを決定した。


別紙

信用秩序維持のためのいわゆる特融等に関する4原則の適用について

1.基本的考え方

  1. (1)日本銀行は、金融機関の破綻処理等に関し、日本銀行法第38条に定める資金の貸付けその他の信用秩序の維持のために必要と認められる業務(以下「特融等」という。)を行う場合、従来から、以下の4つの原則(以下「4原則」という。)に基づいて、その可否を判断してきており、その旨幅広く対外的にも説明してきている。
    1. 原則1.システミック・リスクが顕現化する惧れがあること
    2. 原則2.日本銀行の資金供与が必要不可欠であること
    3. 原則3.モラルハザード防止の観点から、関係者の責任の明確化が図られるなど適切な対応が講じられること
    4. 原則4.日本銀行自身の財務の健全性維持に配慮すること
  2. (2)ただ、特融等は、金融危機回避のための対応手段(以下「セーフティネット」という。)のひとつであり、預金保険制度など他のセーフティネットの枠組みに応じて、その具体的なあり方を見直していく必要がある。この点、4原則の運用に当たっては、他のセーフティネットの整備が近年大きく進められてきている点も考慮しなければならない。
  3. (3)以上の点を踏まえつつ、日本銀行としても、4原則について、現状のセーフティネットの下での具体的運用の考え方等を、以下のとおりより明確化することによって、政策決定の透明性向上を図ることとしたい。
  4. (4)もとより、個々の特融等の実施にあたっては、4原則を満たしているか否か、適切な判断を行う必要がある。そのためには、内外金融資本市場の動向や金融システム全体の状況、およびそれらと実体経済との連関等について、常時注意深く監視を行うとともに、個別の金融機関についても日常のモニタリング等を通じ、また、必要に応じ実地考査を機動的、弾力的に行うこと等により、財務・経営状況に関する最新の情報を入手するよう努めていくことが重要である。
  5. (5)なお、2001年3月に、預金保険制度における現在の特例措置が廃止される予定であるが、それ以降の特融等の具体的なあり方については、その後のセーフティネットの枠組みの検討とあわせて、改めて検討していくこととしたい。

2.4原則の趣旨と具体的運用に当たっての考え方

原則1.システミック・リスクが顕現化する惧れがあること

金融機関の果たしている機能は多岐にわたるが、最も基本的な機能としては、第一に、預金という決済手段の提供を通じて決済機能を担っていることがあげられる。第二に、金融機関は預金の受入れと貸出業務をあわせ営むことにより、信用創造機能や信用仲介機能を発揮していることである。金融機関の信用仲介においては、預金という流動性の高い短期負債により調達した資金を中長期貸出などのリスクのある資産で運用する「資産変換(リスクの仲介)」が重要な機能である。

日々巨額に達する経済取引の決済の大半は、金融機関相互間の資金決済ネットワークを通じて行われ、金融機関間で構成する決済システムの健全性が、円滑な取引決済の前提となる。また、経済活動に必要な通貨・信用の供給は、金融機関等を核とする金融システムを経由して行われる。このように金融システムは、資金決済面や信用供給面から一国経済の活動を支える基本的なインフラである。国民経済が健全な発展を遂げるためには、その安定性の維持は欠くことができないものであるが、他方、金融システムには、「システミック・リスク」という特別のリスクが存在する。

システミック・リスクとは、やや詳細に記述すると以下のようなものである。

すなわち、金融機関等は、顧客や他の金融機関等との間で日々多額の資金取引や市場取引等を行っている。また、こうした各種金融取引や企業間の経済取引の資金決済は、現金で決済されるものを除けば、大半が金融機関の預金勘定を通じて行われており、これらは金融機関相互間の決済ネットワーク(決済システム)を経て、最終的には日本銀行の当座預金勘定における金融機関間の資金決済によって完了することになる。このように、金融システムにおいては、個々の金融機関等が、各種の市場取引や決済ネットワークにおける資金決済を通じて相互に網の目のように結ばれているため、一箇所で生じた支払不能等の影響が、決済システムや市場を通じて次々と連鎖・波及しやすいという特性がある。

金融システムにおいて、日々行われている各種金融取引は、近年、情報通信技術の発達や金融取引手法の発展等に伴い、デリバティブ取引等の急増にみられるように、その規模が巨額化するとともに、複雑化し、またグローバル化している。さらに、こうしたデリバティブ取引等の増加により、金融商品間および内外の金融市場間の結びつきの度合が一段と強まっているため、一つの市場における混乱が、以前より迅速に内外の他市場に波及する可能性が高まっている。仮にそうした事態に至れば、一国経済の基本的インフラとしての信用仲介機能や決済システムの機能、および市場の機能自体が麻痺してしまうとともに、場合によっては海外にも瞬時にその影響が連鎖・波及する惧れがある。

また、金融機関の行う預金・貸出業務や決済サービスは、金融機関に対する預金者の「信頼」の上に成り立っている。こうした中で、金融機関は、預金の大半を貸出等による運用に充てているため、何らかの事情により金融機関の健全性に疑義が生じ、預金者が一度に預金の払戻しを求めた場合には、どんなに健全な金融機関であってもその求めに応じることは出来ない。このように金融機関は、自らの存立基盤である「信頼」の低下に対しては、極めて脆弱である。特に、金融機関が多額の不良債権等を抱え、金融システム不安が生じている今日のような環境の下においては、ある金融機関が破綻の危機に直面した場合、連想によって他の金融機関にまで預金引出しの動きが拡がり、破綻が連鎖する危険性が大きい。

「システミック・リスク」とは、このように「個別金融機関の倒産、特定の市場または決済システム等の崩壊が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスク」(BISグローバル金融システム委員会プロミセル・レポート)のことを指している。こうしたシステミック・リスクが一旦顕現化すると、信用仲介機能や決済システムの機能および市場の機能が停止し、最終的には経済活動全体が混乱し、その安定が損なわれることにもなりかねない。

金融危機の原因が、金融機関等の支払不能や市場機能の低下など流動性の枯渇にある場合には、最終的には中央銀行しかこの問題に対応できない。中央銀行の「最後の貸手」機能は、まさにそうした流動性の供給を行うことによってシステミック・リスクの顕現化を回避するために存在するものであり、その意味で、原則1.は、その発動の適否を判断するに当たって満たすべき最も重要かつ根源的なものである。中央銀行の「最後の貸手」機能の発揮は、個々の金融機関等の保護、救済を目的とするものではなく、個々の金融機関等の預金払戻しの停止やその他の債務不履行が金融システム全体を揺るがすことになるかどうかという点にある。

具体的な運用に当たっての考え方

原則1.の「システミック・リスクが顕現化する惧れがあること」とは、具体的には次のような点に該当すると判断される場合があげられる。

  1. (1)金融システムを巡る環境等から判断して、当該金融機関が預金払戻し等を停止することにより、預金者等の不安心理を高め、他の金融機関に対する預金取付け等の波及が懸念されること。
  2. (2)金融機関相互間の取引の状況等からみて、当該金融機関が支払不能となることにより、他の金融機関の支払も困難となる等、支払不能の連鎖が懸念されること。
  3. (3)金融機関等の支払不能により、各種市場での取引が約定通り履行されないことの結果、内外市場の著しい混乱や市場機能の大幅な低下が懸念されるとともに、それらを通じて、支払不能の連鎖が懸念されること。

原則2.日本銀行の資金供与が必要不可欠であること

現在、金融機関の経営破綻への対応に当たっては、預金保険制度によって、預金の払戻しができなくなった金融機関の損失を全額補填するとともに、当該破綻金融機関の営業(事業)を引受け先金融機関に譲渡すること等により、預金を始めとする全ての債権の保護が図られている。預金保険制度は、このように破綻金融機関の損失を資金援助の形で補填し、あるいは破綻金融機関に代わって保険金を支払うことにより預金者等の保護を図り、預金の安全性に対する信認の確保を通じて信用秩序の維持を図ろうとするものである。

他方、中央銀行の「最後の貸手」機能は、流動性不足に陥った金融機関等に対し、流動性の供給を行う主体がほかにいない場合に、中央銀行が文字どおり最後の資金の貸し手として、一時的に流動性の供給を行うことにより、預金の払戻しや既存の取引の実行を確保し、原則1.で述べたようなシステミック・リスクの顕現化を回避することを目的としている。金融機関の破綻処理においては、日本銀行の実施する特融等は、破綻金融機関が預金保険制度の資金援助の活用等により、引受け先金融機関に営業譲渡されるまでの間のつなぎ資金の供給を行う役割を担うものである。このように、中央銀行の「最後の貸手」機能は、基本的に一時的な流動性の供給を行うものであり、金融機関において既に生じてしまった損失を補填するために必要とされる資金とは性格が異なる。

しかし、こうしたセーフティネットの発動が安易に行われると、預金者や金融機関経営者等のモラルハザードの問題が大きくなる。現在のように、金融システム全体に対する不安感が根強い状況の下では、時限的に預金者等の保護の面で弾力的に対応することはやむを得ないが、そうした中にあっても中央銀行の流動性の供給は、文字どおり「最後の貸手」として機能すべきであり、その発動に当たっては、それ以前に、可能な限り解決策が模索される必要がある。すなわち、中央銀行の流動性の供給は、金融機関経営上のモラルハザードを最小限に止めるためにも、真に資金の出し手が他にいない場合に限られ、金額も必要最小限のものに限られなければならない。また、貸付金利についても優良資産を担保とする通常の貸付金利を上回るものとすることが適当である。

具体的な運用に当たっての考え方

原則2.の「日本銀行の資金供与の不可欠性」については、具体的には次の諸点にすべて該当すると判断される場合を指す。

  1. (1)流動性の供給を必要とする当該金融機関等が資金調達について自ら最大限努力してもなお、資金が不足すると見込まれること。
  2. (2)他の金融機関等による支援その他の民間の枠組みによる対応も困難であること。
  3. (3)預金保険機構による資金の貸付けなど他の公的枠組みによる対応も困難であること。

原則3.モラルハザード防止の観点から、関係者の責任の明確化が図られるなど適切な対応が講じられること

セーフティネットは、システミック・リスクの顕現化を防止し、金融システムの安定を確保するためにどうしても必要なものである。しかし、それが整備され、周知の事実になればなるほど、経営者や株主等による自己規律が失われかねないという、モラルハザードの問題が生じる。従って、その発動に当たっては、関係者の規律維持への配慮も極めて重要となる。

当該金融機関等の関係者に関し、民事・刑事において責任を生じうる事由がある場合には、法律の規定に基づき厳正な対処がなされることとなるが、こうした対応に加えて、これまでの金融機関等の破綻事例においては、原則として、経営者は破綻に至った責任が問われ、退任が求められるとともに、株主、出資者にも損失負担が求められてきている。

ただ、経営者等の責任の大きさ・内容等は、個々のケースによって必ずしも一様ではない。また、金融機関等の破綻処理は行政的手法の下で行われるものであり、その中で関係者の責任も問われていくものであるため、中央銀行が独自に責任追及を行っていくことは必ずしも適当ではない。しかし、破綻処理において「最後の貸手」機能を発揮するに当たっては、モラルハザードを防止する観点から、破綻処理の枠組みの中で経営責任を負うべき経営者と株主・出資者の責任が明確化される見込みであるか否かを確認しておくことが重要である。

具体的な運用に当たっての考え方

原則3.の「モラルハザード防止の観点から、関係者の責任の明確化が図られるなど適切な対応が講じられる場合」としては、具体的には次のような措置が講じられる見込みであることがあげられる。

  1. (1)経営破綻等に関して責任を負うべき経営陣の退任等その責任が明確化される見込みであること。
  2. (2)資本金、出資金の損失への充当等、株主、出資者の責任が明確化される見込みであること。

原則4.日本銀行自身の財務の健全性維持に配慮すること

中央銀行の「最後の貸手」機能は、基本的に一時的な流動性の供給であり、明白に回収不能なケースについての損失補填はその役割ではない。日本銀行は、これまでの金融システム不安への対応に当たって、そうした一時的な流動性の供給のみならず、臨時異例の対応として出資等の資本性の資金供与も行ってきた。こうした対応は、セーフティネットが十分整備されていない状況の下で、システミック・リスクを回避するためのやむを得ざるものとして実施してきたものである。しかし、こうした資金供与は、原則2.でも述べたとおり基本的に中央銀行の対応範囲を超えるものであり、本来、預金保険制度など他の枠組みの下で対応が図られるべきものである。

また、特融等は、通常、経営が困難となっている金融機関等に対し、無担保で行うものであるため、安全度の高い資産を担保として行う通常の信用供与に比べ回収の不確実性が高いという問題がある。

他方、日本銀行は、わが国の中央銀行として、財務の健全性を常に確保するよう慎重な配慮を加えながら、政策運営を行っていくことが求められている。これは、仮に一国の中央銀行に対する信認が損なわれると、政策遂行自体が困難になるばかりではなく、中央銀行の発行する通貨そのものへの信頼の低下を通じて国全体の信用力が失われ、その国の企業や家計の経済活動にも重大な支障が及ぶことになるからである。

従って、「最後の貸手」として日本銀行が果たすべき役割についても、「システミック・リスク顕現化の可能性、および当該リスクが顕現化した場合の影響」と、「信用供与に伴うリスクの大きさ、および当該リスクが万一顕現化(損失が発生)した場合の日本銀行全体としての財務の健全性に与える影響」について慎重に比較検討しつつ、これを果たしていくことが求められる。そのうえで、「最後の貸手」機能を発揮する場合には、リスクに応じた措置を可能な限り講ずることによって、日本銀行全体としての財務の健全性が維持されるよう努めなければならない。

また、「最後の貸手」としての役割を果たす場合、こうした観点からも、貸付金額はあくまで必要最小限のものに限られなくてはならないし、貸付金利についても優良資産を担保とする通常の貸付金利を上回るものとすることが適当である。

具体的な運用に当たっての考え方

原則4.の「財務の健全性維持への配慮」としては、具体的には次の諸点について十分配慮することを指す。

  1. (1)明白に回収不能なケースについての損失補填ではなく、回収可能と見込み得る事由が存在すること。
  2. (2)資本性の資金の供与ではなく、流動性の供給を基本とすること。
  3. (3)損失発生の可能性に備える観点から、個別案件ごとに、必要に応じて貸倒引当金を積立てることにより、中央銀行として信認の維持を図ることが可能なだけの財務内容を維持すること。