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BISグローバル金融システム委員会報告書「ストラクチャード・ファイナンス市場における格付の役割」(日本銀行解説)

2005年 1月26日
日本銀行

 以下には、報告書の解説を掲載しています。報告書の全文は国際決済銀行(BIS)のウェブサイト(www.bis.org/(外部サイトへのリンク))から入手できます。

1. 目的・調査方法

 本報告書は、急速に拡大しているストラクチャード・ファイナンス(SF)市場の実態を把握するとともに、同市場においてなくてはならない存在となっている格付の機能を整理し、金融システムの機能や安定性等に与える影響を検討することを目的としている。なお、報告書は、各国の金融機関、機関投資家、格付会社などの市場関係者との面談等を通じた調査に基づき作成されている。

2. SF商品と格付会社の役割

 本報告書では、SF商品を、証券化商品をベースに、(1)複数の資産をプール化したうえで、(2)資産プールを保有しているオリジネーターの信用リスクから切り離された特別目的会社を経由して、(3)当該原資産プールのキャッシュフローに基づき、優先劣後関係のある複数の証券を発行するもの、と定義している。

 ABS(資産担保証券)やCDO(債務担保証券)といった代表的なSF商品の場合には、証券化される原資産プールの信用リスクのほかに、複雑な商品の仕組みや、オリジネーター、サービサー等の多様な関係者を含めて全体としてリスク評価をする必要がある。格付会社はこうした要素を含めた包括的な評価に基づいて、当該SF商品の信用リスクを判断して格付を付与している。

 SF商品への格付の付与は、格付会社にとって重要なビジネスに成長している。例えば、ムーディーズのSF格付による収入は1996年から2003年の間に年3割近いペースで増加し、格付収入全体の4割を占めるに至っている。

SF商品の仕組みの例

3. SF市場の現状

 SF商品の発行額は、オリジネーターの資金調達ニーズや、投資家のクレジット商品に対する需要等を背景に、着実に増加している。また、90年代後半は米国での発行が中心であったが、近年は欧州やアジアなど米国以外の市場の拡大も著しい。

ABSとCDOの発行額の推移

  • ABSとCDOの発行額の推移(グラフ)。詳細は本文のとおり。

4. SF商品格付と社債格付との比較

 SF商品に対する格付と伝統的な商品である社債に対する格付は、基本的なコンセプトは同じであるが、評価の過程における格付会社の関与の性質が異なる。

 すなわち、社債については、格付会社は、一般に既存の企業の財務状況等を踏まえた償還能力を事後的に評価して格付を付与している。これに対し、SF商品の場合、格付会社は、新たに組成する商品に対して、設計段階から密接に関わっている。その結果、信用補完の程度など商品設計にも影響を及ぼしつつ、原資産プールの信用リスクや商品の構造も詳細に分析した上で、将来にわたるキャッシュフローを評価している。

5. SF商品投資において格付を利用する際の留意点

SF商品のリスクの特性

 SF商品は、優先劣後構造を持つため、原資産プールのリスクが支払優先順位の低い証券に集中する仕組みとなっている。従って、相対的に優先順位の低い証券を購入した場合には、いったん損失が発生し始めると損失額が大きくなる可能性が高いという特性がある。投資家は、こうしたSF商品特有のリスク特性を踏まえた格付評価が行われているかどうか、十分に理解した上で投資判断を行う必要がある(別添参照)。

 SF商品に習熟している大手の機関投資家などは格付のみに依存せず、独自のリスク評価を行った上で投資を行っているようである。しかし、一部の国では個人向けのSF商品の販売も始まっており、格付のみに依存したかたちで投資をしているケースが有り得ないわけではない。

格付会社の利益相反の可能性

 格付業界は大手数社による寡占状態にあるほか、前述のように、SF商品に対する格付がいずれの格付会社にとっても重要な収益源となってきている。そうした中、「発行体寄りの格付評価を行っているのではないか」との声も聞かれている。しかし、市場参加者(投資家等)の圧力や格付会社自身がレピュテーション・リスクを重視するため、格付会社間の健全な競争が行われているようであり、こうした事実は面談等からは確認されなかった。

 一方で、格付会社はコンサルティング業務にも力を入れつつあり、当該ビジネスのウェイトが高まってくると、格付業務との利益相反を防止することがより難しくなる可能性もある。

情報開示と市場の透明性

 SF市場が拡大し、市場参加者が多様化していく中、信用リスクの移転状況など市場の実態を把握することはより困難となってきている。SF市場に関しては、市場規模やリスク評価に必要な情報(原資産プールのパフォーマンスデータ等)が依然として不足しており、一層の改善が期待される。

 また、SF商品のリスクに関する市場参加者の理解を深めていくために、格付会社が、格付手法や格付変更の背景に関する情報開示を更に進めることも期待される。

6. 金融システムへの影響と中央銀行にとっての課題

 SF市場は、流動性のない資産に流動性を付与することによって資金調達手段の多様化等に寄与しているほか、投資家のリスク・リターンの選好に応じた金融商品の提供も可能としている。その結果、金融市場における信用リスクのより効率的な配分やプライシングにも貢献している。

 SF商品は、幅広い投資家へのリスクの分散を通じて金融システムの安定性に寄与しうる一方で、特定先や業態への信用リスクの集中を引き起こす可能性が無いわけではない。現時点では、リスク移転の規模はさほど大きくないが、(1)今後さらに市場が拡大していく可能性が高いこと、(2)リスク評価やプライシングの難しい商品であること、(3)SF市場は、これまで市場そのものを揺るがすほどの大きなショックを経験していないこと、を考慮すると、中央銀行として安定的な市場機能を確保していくことに力点をおきつつ、SF市場の動向をモニタリングしていく必要があると考えられる。

以上


(別添)優先劣後構造と損失の関係

(別添)優先劣後構造と損失の関係[PDF 14KB]