公表資料・広報活動

ホーム > 公表資料・広報活動 > 公表資料 2006年 > 電子納付の飛躍に向けて

電子納付の飛躍に向けて

2006年6月21日
日本銀行業務局

 本稿は、2006年6月14日に開催されました日本マルチペイメントネットワーク推進協議会総会における日本銀行業務局長・佐々木俊彦の説明要旨です。

はじめに

 ただいまご紹介いただきました日本銀行の佐々木でございます。本日は、日本マルチペイメントネットワーク推進協議会の18年度通常総会にお招きいただき、お話をする機会を賜りまして、誠にありがとうございます。

 マルチペイメントネットワークは、年々、参加する企業・団体、その取引量が増加しており、わが国の決済インフラとしてのプレゼンスも高まってきています。これも、推進協議会・運営機構事務局、会員企業・団体の皆様が、日々の安定運行や利用促進に向けて積み重ねてきた努力の賜物だと思います。これまでの皆様の取組みに対し、改めて敬意を表したいと思います。

 本日は、国庫金電子納付の現状と課題について、特に電子納付の利用促進を図るためにどのように取組んでいくべきかに関して、日ごろから考えていることをお話させていただきます。

国庫金事務電子化の取組み

 日本銀行は、「政府の銀行」として、国の資金——これを国庫金と呼びます——を政府預金として預かっています。日本銀行では、国庫金事務に関し、様々な役割を担っていますが、国民との関係が深いところでは、国税、社会保険料、交通反則金などの「歳入金等」の受入れ、年金や公共事業費などの「歳出金等」の支払いを行っています。

 例えば、社会保険庁からの請求により年金受給者の金融機関口座に年金などを振込むのも日本銀行の仕事です。歳入金等に関しても、日本銀行が納付者から受入れることになっています。歳入金等は、全国33の日本銀行本支店の窓口で納付することもできますが、ほとんどの納付者は、日本銀行の歳入代理店に指定されている近くの銀行、信用金庫、郵便局など、約42,000の店舗で納付しています。

 日本銀行における国庫金の年間事務量は、2005年度中、歳入金が1.8億件(1,084兆円)、歳出金が2.7億件(1,085兆円)となっています。これまでの国庫金事務では、こうした大量の取引の多くを、手作業や書面による情報の受け渡しにより処理してきました。これを最新のIT技術を活用して事務処理の流れを電子化し、ペーパーレス化、ネットワーク化、自動処理化等を図るために、日本銀行では、2000年に「国庫金事務電子化プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトは、国民の利便性向上、関係機関(金融機関、官庁、日本銀行)における事務の効率化を目的とするもので、その前年に開始した政府の「電子政府構想」に呼応しての対応という側面もあります。

 これまでの5年間における電子化の進展により、公共事業費や失業給付金等が、従来よりも早く金融機関の口座に振込まれる仕組みが整ってきています。また、2004年1月からは、官庁、金融機関、日本銀行の間が「マルチペイメントネットワーク」により結ばれ、国庫金の電子納付が実現しました。こうしたインフラの整備により、国民の利便性が向上したほか、国庫金事務に携わる関係機関には、多くの事務効率化メリットも生み出されています。官庁や日本銀行における事務効率化を通じたコストの削減は、社会全体のコスト低下、すなわち国民全体のメリットにつながります。

 このようにインフラの整備は進んできましたが、実際にどの程度電子化スキームが利用され紙処理の削減が実現されたかについて、次にご説明します(図表1参照)。支払いに関しては、05年度と02年度を比較すると、2003年に実現した歳出金振込のオンライン化により、オンライン処理件数は4.5倍、紙処理件数は約5割減となっており、紙処理比率は全体の10%程度にまで低下しています。一方、受入れに関しては、正確な計数は不明ながら、約半数を占める口座振替が、最近ではほとんどがMT処理となっていることから、その比率の上昇により、紙処理も緩やかに減少しているとみられます。もっとも、電子納付の受入れ全体に占める割合は、0.2%と低い水準に止まっており、納付書とお金を持って金融機関の窓口で納付している割合が、依然として約半数を占めているのが実情です。このように、受入れに関しては、電子納付が進んでいないために、紙処理比率の削減が捗々しくなく、電子納付の利用促進が重要な課題となっています。

国庫金電子納付の現状と課題

 図表2は、国庫金電子納付件数・比率の月別の推移を示したものです。国庫金電子納付の取扱開始以降、取扱件数は増加傾向を辿っており、本年4月には、初めて月間5万件を超えました。もっとも、その水準をみると、足もと増加しているとはいえ、口座振替除くベースの電子納付比率は4月で0.76%と、1%に満たない状況が続いております。

 一方で、取扱開始以降、電子納付可能な国庫金の範囲が順次拡大しており、現在では交通反則金以外のほとんどの国庫金が電子納付可能となっています。また、電子納付に対応している金融機関は、日本銀行が歳入代理店を委嘱している金融機関(407行庫)の92%に当たる373行庫に上っています。

 こうした中で、電子納付件数・比率が、このように低水準となっていることには、いくつかの要因が考えられます。

 第一に、電子納付に関する一般的な認知度が必ずしも高くないことがあります。日本銀行が実施している「生活意識調査に関するアンケート調査」の中では、国庫金の電子納付の認知度を定期的(年2回、6・12月)に調査しています。昨年12月に実施した調査では、「知っている」と答えた人が30%、「聞いたことはあるがよく知らない」が37%、「聞いたことがない」が33%となっています。

 第二に、電子納付の前提となる電子申請・申告等について、手続きが煩瑣で利用者の使い勝手が良くないという指摘がされています。例えば、個人が国税の電子申告をするときには、まずは、電子認証として、住民基本台帳カード(いわゆる住基カード)を市役所で取得する必要があります。それから、住基カードを読むためのカードリーダーを購入し、いざ自宅のパソコンから申告を行ったとしても、領収書などの添付書類は別途郵送しなければなりません。煩瑣なうえに、住基カードの取得費用とカードリーダーの購入費用(約5,000円)がかかるということで、私の職場にも、電子申告にチャレンジしようという人がいましたが、あきらめてしまう人が多いのが実態です。

 第三には、金融機関の納付チャネルと、納付者のニーズとの間にミスマッチが生じていることがあります。最近の収納チャネル別の国庫金の電子納付実績をみますと、インターネットバンキングが約45%、ATMが約40%、モバイル約2%になっています。一方、金融機関のチャネル整備状況をみると、インターネットバンキングは全て、モバイルバンキングが約8割の金融機関で整備されているのに対し、ATMチャネルは8先のみとなっています。このように、対応金融機関が最も少ないATMが利用される割合が高くなっており、納付者にとってATMが最も身近なチャネルとなっていることがおわかりいただけるかと思います。今年に入り、日本郵政公社や三井住友銀行といった大手金融機関がATM対応を実施したことにより、電子納付対応のATM台数は増加しておりますが、さらなるチャネルの整備・拡充が利用促進を図るうえで重要になっています。

 これらの要因からは、納付者に電子納付についてもっと知ってもらうとともに、電子納付を使いやすい環境を整えていくことが利用促進を図るうえで如何に重要かがわかります。

利用促進に向けた政府の取組み

 今年に入り、政府でも、電子納付の利用促進に向けた新しい動きがみられ始めています。本年1月に公表した「IT新改革戦略」では、「申請・届出等手続におけるオンライン利用率を2010年度までに50%以上とする」といった目標を掲げました。この目標の確実な実現に向けて、本年3月には、2008年までの「オンライン利用促進のための行動計画」を公表し、今後3年間の利用件数・利用率の目標値のほか、申請等の添付書類の電子化・省略・廃止、インセンティブの付与などといった改善に向けた具体的な取組みを示しています。

 先に説明した国税の電子申告に関しても、税理士が関与する申告については、本人認証の不要化やスキャナ読取データの送信の可能化について検討をすることになっています。また、インセンティブ措置として、確定申告期間の24時間受付、還付申告の処理期間の短縮、その他の優遇措置についても検討することになっています。今後、こうした検討や取組みが実際に利用促進に結びついていくのか、帰趨が注目されるところです。

 インセンティブ措置に関して、余談になりますが、海外事例を紹介してみたいと思います。韓国では、税の電子的な方法による納入の比率が、法人税約97%、個人所得税約75%、付加価値税約72%となっています。国税庁では、その電子申告システム(Home Tax Service)の利用者には、法人税と個人所得税で各20,000ウォン(≒2400円)、付加価値税で10,000ウォン(≒1,200円)の割引を行っています。また、シンガポールでは、04年4月までの年度でみると、税申告の68%が電子申告となっています。現在は実施していませんが、数年前には、(1)電子申告をした者に抽選で賞金のあたるくじ(Cash Lucky Draw:最高賞金20,000Sg.$<≒140万円>)を与える、(2)電子申告の仕方を他に教えた者にはこのくじを増やす、といった利用促進策が採用されました。米国では、96年からEFTPS(Electronic Federal Tax Payment System)という電子納税システムを導入済みですが、米国の法律では大手企業は電子納税を義務付けられています。海外の事例をみると、「アメ」にしろ「ムチ」にしろ、インセンティブ付けが利用促進を図るうえで有効に使われていることがわかります。

日本銀行の取組み

 次に、日本銀行の取組みについてお話したいと思います。日本銀行では、昨年3月に平成17~21年度の「中期経営戦略」、本年3月に平成18年度の「業務運営方針」を公表しました。「中期経営戦略」は、今後5年間に日本銀行が何に重点をおいて業務をしていくかを初めて取りまとめたものです。その中で、「国庫金事務の電子化のための事務・システム対応の推進とその効果を拡大していくための官民の利用促進」という方針を掲げており、日本銀行全体として国庫金事務の電子化やその利用促進に取組む姿勢を示しております。

 日本銀行が、電子納付の利用促進策として具体的に何を行ってきているのか、最近の主な取組みをご紹介したいと思います。

 まず、本年4月から電子納付分にかかる歳入代理店手数料を、従来に比べ5割ほど引上げることとしました。日本銀行では歳入金を取扱う歳入代理店に対し、事務に必要なコストを賄うとの考え方から、手数料を支払っています。1件あたりの引上げ額は金融機関の取扱量により異なりますが、最大で29円(55円→84円)、平均では18円(35円→53円)になります。今回の措置は、金融機関で歳入金事務に必要なコストの見直しではありますが、これが結果として、金融機関による電子納付の取組み姿勢を積極化させ、電子納付対応ATMなどのチャネル整備につながることも期待しています。

 広報活動としては、ホームページに「国庫金事務の電子化」コーナーを設けて、電子納付の方法をわかり易く解説しているほか、全国の支店とも連携をしながら、金融機関、見学などにきた一般の方々に、電子納付の利用促進の働きかけを行って参りました。

 また、日本銀行は官庁、金融機関とも日常的に連絡を密にとっており、各関係者に働きかけ、その間を取り持つ役割をこれまで果たしてきました。官庁との関係でも、電子申請・申告の使い勝手の向上に向けて、金融機関やユーザーの声も踏まえながら各官庁に情報提供、意見具申を行ってきております。運営機構・推進協議会の事務局の方々とは、日ごろから揃って官庁に働きかけに出かけたり、司法書士会・税理士会などのユーザーから意見・要望を聞いたり、政府主催の電子政府イベントにも参加しています。現在、各官庁では電子申請・申告の改善に向けた様々な対応がとられようとしています。これらの施策が真に利用増加に繋がるようなものとなるよう、これまで以上に、積極的に働きかけを行っていきたいと思っていますので、引続きご協力をお願いしたいと思います。

今後に期待すること

 利用促進に向けて様々な動きがみられる中で、私どもとして、さらなる電子納付の利用促進に向けて、今後に期待していることについてお話したいと思います。

 まずは、電子納付の収納企業・団体のさらなる拡大です。国庫金、地方公金、公共料金など収納するお金の種類を問わず、電子納付の対象が拡大することは、ペイジーの認知度向上や電子納付の利用機会増加に繋がります。個々の収納企業・団体の利用促進に向けた動きが、電子納付全体の大きな発展に繋がり、それが巡り巡ってさらなる利用促進に繋がるという好循環の広がりが期待されます。個人にとっては、国庫金は納付する機会が少なく、馴染みも薄いと思われます。収納企業・団体が増加し、電子納付を利用することのバリューが高まることで、国庫金の電子納付利用も増やすことができればと思います。

 現状、地方自治体においては、地方公金、地方税を電子納付化する動きが広がっていますが、電気・ガス・水道といった公共料金の収納に関しては、電子納付がほとんど利用できない状況が続いています。公共料金は、国民にとって最も身近な支払いのひとつですので、これを取り込むことで、電子納付の裾野は大きく広がります。関係者の皆様方におかれては、これまで以上に、電子納付の利用促進に注力していただきたいと思います。

 次に、利用促進に向けては金融機関における収納チャネルの整備・拡大も重要になってきます。先程、日本銀行がチャネル整備・拡大の下支えになることも期待して電子納付分にかかる歳入代理店手数料の引上げを実施した旨のお話をしました。個々の金融機関がどのようなチャネル整備を行うかは、もとより金融機関の判断するところではありますが、電子納付の利用促進には、ATMを中心としたチャネル整備が有効であることに異論はないところかと思います。金融機関の皆様におかれては、電子納付化の動向やコスト等について検証のうえ、それぞれのビジネスモデルに適合するチャネルの整備・拡大について前向きにご検討をいただければと思います。

 今後、収納企業・団体や取引ボリュームの拡大に伴い、マルチペイメントネットワークの社会基盤インフラとしての重要性はますます高まることになります。これは同時に、システム障害時などネットワークが停止した場合の社会的な影響も大きくなることでもあります。バックアップセンターの構築については、中期的に展望されているようではありますが、その必要性も高まってくるものと思います。国庫金の電子納付が実現してから約2年半が経過していますが、この間、目立ったトラブルもなく順調に運営されてきており、大変心強く思っております。引続き、多くの利用者が、「いつでも、どこでも」、安全に、安心して利用できるよう、マルチペイメントネットワークの安定運行、セキュリティ確保について、ご配慮をいただきますようお願いします。

おわりに

 ここにいる関係者の皆様方にとって、ペイジーの認知度向上、電子納付の利用促進は共通の願いであり、この成否について、大袈裟に言えば、マルチペイメントネットワークに関係している全ての人々は運命共同体であります。足もとの関係者の取組みやペイジーの利用件数の伸びをみますと、電子納付はあと一息のところでブレイクする予感があります。ここにいる皆様方とともに、今、電子納付の利用促進に向けて出来ることを着実に実行していくことで、今年度が電子納付の大きな飛躍に向けてのスプリングボードになることを切に願っています。私どもも、皆様方と気合を揃えて、頑張って参りたいと思いますので、引続きよろしくお願いします。

 最後に、ここに来場されている企業・団体の皆様におかれては、国税、社会保険料などの国庫金を納付されていると思います。まだ、これらの支払いを電子納付されていないようでありましたら、是非、電子納付の利用を検討いただきますようお願いをしまして、話を終えたいと思います。

 本日は、ありがとうございました。

以上

本件についての照会先

日本銀行業務局総務課

河合 03-3277-2275、shinji.kawai@boj.or.jp