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アジア債券市場育成について:回顧と展望

「アジア金融システム研究会」における議論のとりまとめ

2009年7月22日
日本銀行国際局
アジア金融協力センター
長井滋人*

概要

  1. アジア危機への対策としての現地通貨建て債券市場育成論については、危機直後の慌しい状況で短期間に打ち出されたものだけに、その背景にあるアジア危機の原因に関する基本認識や政策効果についての理屈付けといった面で、必ずしも論理が堅牢でなかったり、実証分析による裏付けが十分でないものも含まれる。
  2. アジア危機以降、韓国、タイ、マレーシア、インドネシアの債券市場は、国債や不胎化目的の中央銀行債などの公債市場は拡大した一方、社債などの民間債券の市場の発展は限定的であった。一方、債券発行に占める自国通貨建ての比率は上昇した。
  3. このように鍵となる社債市場の発展が進んでいない結果、アジア危機の再発を防ぐという面で現地通貨建て債券市場育成に期待されていた諸効果のうち、(1)資本フローへの依存からの脱却、(2)銀行システム一辺倒から社債市場という代替的信用仲介ルートへのシフトという点ではさほど成果が見られていない。
  4. 一方、通貨と期間のダブル・ミスマッチを含む資本フローの活用に際しての様々なリスクの管理については、規制・監督体制の整備などを通じたリスク管理の徹底や為替の柔軟化などのマクロ政策運営の改善により、アジア危機時に比べてかなり向上しているように窺われる。このことが、最近の資本フローの変調の際にも金融危機への懸念の高まりが限定的であったことに寄与していると考えられる。
  5. 社債市場発展の遅れの原因としては、市場インフラの不備などの社債発行に係る金融面の制約というよりも、発行が可能な大企業からの長期資金の調達ニーズが十分に顕在化していないという実体経済面の制約が大きかった可能性がある。実際、大企業向けの銀行融資も低迷している。その背景としては、マクロの投資水準の伸び悩みや産業構成の変化に加えて、直接投資を含む株式を通じた資金調達や外資系企業を中心とする内部資本市場の活用が果たす役割が大きいことが影響している可能性がある。
  6. 現地通貨建て債券市場育成は、危機対策としての政策効果ばかりが注目されてきた面があるが、市場による金利形成機能の向上やそれに伴う効率的な資源配分の実現、金融政策のトランスミッション・メカニズムの整備など、より広い意味での意義は引き続き大きい。その点でこれまでの公債市場の規模拡大は評価できるが、市場流動性の向上や投資家の裾野の拡大など流通市場の活性化が引続き課題である。
  7. 債券市場育成に向けての地域協力は、これまで主に投資家の掘り起こしや市場インフラ面での障害の除去といった分野で成果を挙げてきた。今後、経済・産業構造の変化に伴って、従来顕在化していなかった債券発行ニーズが高まってくれば、これまでの地域協力の取組みが社債市場の拡大という成果に繋がっていくことが期待される。

本稿で示されている意見や評価については、必ずしも日本銀行やアジア金融協力センターの公式見解を示すものではありません。

  • アジア金融協力センター 参事役(現鹿児島支店長、shigeto.nagai@boj.or.jp)