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金融経済月報(基本的見解1)(2002年 5月)2

  1. 本「基本的見解」は、5月20日、21日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、5月20日、21日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年 5月22日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0205.pdf 738KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢をみると、輸出の増加や在庫調整の進展を背景に、生産が持ち直しつつあるなど、悪化のテンポは緩やかになっている。

 最終需要面をみると、設備投資の減少が続いているほか、個人消費も引き続き弱めの動きとなっている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少傾向にある。一方、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、海外景気の回復に伴って、増加している。

 輸出の増加に加え、在庫調整が全体としてさらに進んでいることを反映して、鉱工業生産は持ち直しつつある。もっとも、依然として雇用過剰感が強いもとで、企業は人件費の削減姿勢を堅持している。このため、雇用者数の減少が続き、賃金の低下幅が拡大傾向にあるなど、家計の雇用・所得環境は引き続き悪化している。

 今後の経済情勢についてみると、まず国内需要の面では、設備投資は、先行指標や企業の投資計画などからみて、当面、減少傾向を辿るとみられる。個人消費も、雇用・所得環境の悪化等から、弱めの動きが続く可能性が高い。政府支出も、基調的には減少傾向を続けることが見込まれる。

 しかし、輸出環境をみると、海外景気は、米国・東アジアを中心に回復過程を辿る可能性が高い。また、世界同時的な情報関連財の在庫調整は、ネットワーク機器などの一部を除き一巡しており、為替相場も昨年秋頃に比べてなお円安の水準にある。これらを背景に、輸出は、緩やかな回復を続けると予想される。そのもとで、鉱工業生産は、在庫調整の進展にも支えられて、緩やかな増加傾向を辿るとみられる。そうした生産の増加は、製造業を中心とする企業収益の回復を促し、次第に設備投資をはじめとする国内民間需要を支える要因として働いていくと期待される。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、輸出や生産が増加し、それが企業収益ひいては国内民間需要の下支えに作用していくことを通じて、全体として次第に下げ止まっていくと予想される。ただし、雇用・所得環境の弱さに加え、輸出や生産の増加テンポも総じて緩やかなものにとどまる公算が大きいことなどを踏まえると、非製造業や中小企業、あるいは家計部門へと前向きの力が拡がっていくには、なおかなりの時間を要すると考えられる。また、輸出環境についても、米国をはじめとする海外経済の先行きには、原油価格の動向とその影響を含めて不確実な要素が少なくない。このように、景気に脆弱性や不確実性が根強く残るもとでは、為替市場を含め内外の金融・資本市場が不安定な動きを示すような場合、実体経済にその悪影響が及びやすいという点には、引き続き留意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、原油価格の上昇などを受けて、引き続き上昇している。国内卸売物価は、輸入物価の上昇や在庫調整進展の影響と、機械類の下落や電力料金の引き下げなどが相殺し合い、このところほぼ横這いとなっている。しかし、消費者物価や企業向けサービス価格は、引き続き下落している。

 物価を取り巻く環境をみると、これまでの円安や、原油価格の上昇は、当面、物価の下支え要因として働くと考えられる。もっとも、国内需要の弱さが当面続くとみられるため、需給バランスの面からは、物価に対する低下圧力が掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も物価を押し下げる方向に作用するとみられる。加えて、賃金の低下幅が拡大傾向にあることも、その影響を受けやすいサービス価格を中心に、価格低下要因として働く可能性がある。これらを反映して、為替相場や原油価格の影響を受けやすい国内卸売物価は、当面、横這い圏内で推移する可能性が高い一方、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

 金融面をみると、短期金融市場では、日本銀行が潤沢な資金供給を続けるもとで、日本銀行当座預金残高は、最近では15兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、オーバーナイト物金利は、引き続きゼロ%近辺で推移している。また、ターム物金利も、落ち着いた動きを続けている。

 長期国債流通利回りは、最近では1.3%台で推移している。また、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、幾分縮小している。もっとも、低格付債については、依然としてスプレッドの大きい状態が続いている。

 株価は、総じてみれば11千円台での横這い圏内で推移している。

 円の対米ドル相場は、米国株価の軟調等を背景とする米ドルの全般的な軟化傾向を反映して、上昇した。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては貸出姿勢を慎重化させる傾向を強めている。企業からみた金融機関の貸出態度も厳しさを増している。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境をみると、低格付け企業の発行環境は総じて厳しい状況が続いているが、高格付け企業では、このところ改善している。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。社債の発行残高は、前年比伸び率が幾分鈍化している。CPの発行残高も、前年を大幅に上回っているものの、前年比伸び率は鈍化を続けている。

 4月のマネタリーベースは、大手行のシステム障害を背景に、新年度入り後も流動性需要が高止まったこともあり、伸びを一段と高めた。マネーサプライ(M2+CD)前年比は、3%台後半の伸びとなっている。

 企業の資金調達コストは、総じてみれば、きわめて低い水準で推移している。

 以上のように、最近のわが国の金融環境は、金融市場の状況を総じてみれば、きわめて緩和的な状況が続いている。また、企業の資金繰りも、悪化傾向に歯止めが掛かりつつある。しかし、信用力の低い企業に対する投資家の姿勢は依然として厳しいほか、民間銀行の貸出態度も引き続き慎重化している。このため、金融機関行動や企業金融の動向には、引き続き十分注意していく必要がある。

以上