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金融経済月報(基本的見解1)(2002年10月)2

  1. 本「基本的見解」は、10月10日、11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、10月10日、11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年10月15日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0210.pdf 820KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢をみると、全体として下げ止まっているが、世界経済を巡る不透明感の強さもあって、回復へのはっきりとした動きはみられていない。

 最終需要面をみると、設備投資は下げ止まりつつあるが、個人消費は弱めの動きを続けている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。一方、輸出は、テンポの鈍化を伴いつつも、増加を続けている。

 こうした最終需要動向や在庫調整の一巡を反映して、鉱工業生産は、そのテンポが幾分緩やかになりつつも、引き続き増加している。そうしたもとで、企業収益が回復しているほか、企業の業況感も全体として改善が続いている。もっとも、世界経済を巡る不透明感の強さもあって、業況感の改善テンポは、現状、先行きとも緩やかなものになってきている。雇用面では、所定外労働時間が引き続き増加し、新規求人も堅調に推移している。ただし、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、夏季賞与が大幅に落ち込むなど、雇用者所得は明確な減少を続けており、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢についてみると、輸出は、海外景気の緩やかな回復傾向を背景に増加基調が続くと考えられるが、年末頃までを展望すると、海外における在庫復元の一服などを反映して、増勢の鈍化傾向が続くと見込まれる。そのもとで、鉱工業生産も、基調的には緩やかな増加傾向を続けていくと考えられるが、当面は増勢の鈍化傾向が続く可能性が高い。

 一方、国内需要については、公共投資が減少を続けると見込まれるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。設備投資は、企業の収益動向や先行指標の動きなどからみて、徐々に下げ止まりが明確になっていくとみられるが、世界経済を巡る不透明感が強いことなどから、直ちにはっきりした回復に転じる可能性は低いと考えられる。この点、輸出や生産の増加基調が維持される見通しがはっきりとしてくれば、その好影響が国内民間需要へもより明確に及んでいくと期待される。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、海外景気の緩やかな回復が持続する中で、次第に底固さを増していくものと考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、輸出や生産の増勢が当面は鈍化傾向を辿ると見込まれることなどを念頭に置くと、景気回復への動きがはっきりとしてくるまでには時間がかかると考えられる。また、米国をはじめとする世界の株価動向、情報関連需要の先行き、さらには国際政治情勢や原油価格の動きなど、輸出環境には強い不透明感が存在している。国内面でも、株価がかなりの下落となっているだけに、今後、金融機関の不良債権処理がどのように進められ、それが株価や実体経済にどのような影響を及ぼすかについて、注視していく必要がある。

 物価面をみると、輸入物価は、原油価格の上昇などを反映して、下げ止まりつつある。一方、国内卸売物価は、これまでの輸入物価の下落などを反映して、弱含みの動きとなっている。また、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にあり、企業向けサービス価格も下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、輸入物価は、下げ止まりから上昇に転じていくとみられる。しかし、需給バランスの面では、在庫調整の一巡や稼働率の上昇がある程度下支え要因として働くものの、国内需要の弱さが当面続く中で、物価に対する低下圧力はなお掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も引き続き物価を押し下げる方向に作用するとみられる。こうした中で、国内卸売物価は、輸入物価がどの程度上昇するかにもよるが、当面はなお弱含みの動きを続ける公算が大きい。消費者物価については、消費財輸入の増勢鈍化が、価格低下圧力をなにがしか緩和する要因として働くとみられる反面、賃金の低下幅の拡大傾向は、サービス価格を中心に価格低下を促す可能性もあり、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

 金融面をみると、短期金融市場では、日本銀行が引き続き潤沢な資金供給を続けるもとで、日本銀行当座預金は、ほぼ一貫して15兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、オーバーナイト物金利は、9月末日における一時的な上昇を除けば、引き続きゼロ%近辺で推移している。また、ターム物金利も低水準で安定している。

 長期国債流通利回りは、不良債権処理を巡る思惑の台頭などから、9月半ば以降振れの大きい展開となり、一時1.3%近傍まで上昇したが、その後は再び低下し、最近は1.1%台で推移している。この間、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、横這いとなっている。

 一方、株価は、海外機関投資家による日本株の売却持続を背景に欧米株価につれるかたちで再び下落し、最近は8千円台半ばでの動きとなっている。

 円の対米ドル相場は、世界的な経済情勢の不透明感や不安定な中東情勢などを背景に神経質な地合いが続く中、最近では122~125円で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては、貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては、貸出姿勢を慎重化させている。企業からみた金融機関の貸出態度も幾分ながら厳しさを増す方向にある。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境をみると、低格付け企業ではなお厳しいが、高格付け企業では緩和的な状況にある。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。CP・社債の発行残高は、このところ前年並みの水準で推移している。

 この間、企業の資金繰り判断は、中小企業を中心になお厳しい状況が続いている。

 マネタリーベースは、伸び率が幾分鈍化しているが、引き続き前年比2割台の高めの伸びとなっている。マネーサプライも、前年比3%台半ばの伸びが続いている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上を踏まえて、金融面の動きを総合すると、金融市場では全体としてきわめて緩和的な状況が続いているほか、マネーサプライやマネタリーベースも、経済活動との対比でみれば、高めの伸びを維持している。もっとも、株価が不安定な動きを続けているほか、長期金利も幾分振れの大きい展開となっている。また、企業金融面をみると、信用力の高い企業は総じて緩和的な調達環境にあるが、信用力の低い企業については投資家の姿勢が依然として厳しく、民間銀行も貸出姿勢を慎重化させている。このため、株価など金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、十分注意してみていく必要がある。

以上