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金融経済月報(基本的見解1)(2003年 1月)2

  1. 本「基本的見解」は、 1月21日、22日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、 1月21日、22日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2003年 1月23日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0301.pdf 709KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢をみると、全体として下げ止まっているが、回復へ向けての不透明感が強い状態が続いている。

 最終需要面をみると、設備投資はほぼ下げ止まっているものの、個人消費は弱めの動きを続けている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。このように国内需要に依然として回復の動きがみられない中で、輸出は横這い圏内の動きを続けている。

 こうした最終需要の動向を反映し、鉱工業生産は、横這い圏内で推移している。雇用面では、所定外労働時間や新規求人が緩やかな増加基調にあるほか、臨時雇用等を広く含む雇用者数は下げ止まり傾向にあるとみられる。しかし、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、賃金が引き続き低下するなど、雇用者所得は明確な減少を続けており、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢を考えると、まず本年の海外経済については、緩やかな回復を辿るとの見方が一般的である。しかし、このところ米国をはじめ、経済指標が総じて弱めであることを踏まえると、少なくとも当面、海外経済の回復力はかなり弱いものとなる可能性が高い。そのもとで、当面、輸出は横這い圏内の動きにとどまり、鉱工業生産も、横這い圏内で推移するものと考えられる。

 一方、国内需要については、公共投資が減少傾向を辿ると見込まれるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。設備投資は、これまでの企業収益の改善が下支えに作用するとみられるが、海外経済を巡る不透明感が強いことなどから、当面、はっきりした回復に転じる可能性は低いと考えられる。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、本年の海外経済について緩やかな回復を前提とすれば、いずれは輸出、生産が再び増加に向かうことを通じて、底固さを増していくものと考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、輸出や生産が当面横這い圏内で推移するとみられることなどを念頭に置くと、景気回復への動きがはっきりとしない状態がしばらく続く可能性が高い。また、米国をはじめとする海外経済の先行きについては、国際政治情勢やその影響を含めて、下振れのリスクには引き続き注意を要する。国内面でも、株価が低調に推移しているだけに、金融機関の不良債権処理がどのように進められ、それが株価や企業金融、ひいては実体経済にどのような影響を及ぼすかについて、注視していく必要がある。

 物価面をみると、輸入物価は、昨年夏から秋にかけての原油価格の上昇や円安などを反映して、引き続き上昇している。国内企業物価は、機械類の価格低下が続いているものの、輸入物価の上昇や素材業種における需給改善を受けて、下落幅が縮小している。この間、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にあり、企業向けサービス価格も下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、輸入物価は、原油価格上昇と最近の円高が相殺するかたちで、横這い圏内の動きとなる可能性が高い。一方、需給バランスの面では、在庫が低水準にあることなどがある程度下支え要因として働くものの、国内需要の弱さが当面続く中で、物価に対する低下圧力はなお掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も引き続き物価を押し下げる方向に作用するとみられる。こうした中で、国内企業物価は、当面、弱含みで推移する可能性が高い。消費者物価については、消費財輸入の増勢一服が、価格低下圧力をなにがしか緩和する要因として働くとみられる反面、賃金の低下幅の拡大傾向は、サービス価格を中心に価格低下を促す可能性もあり、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

 金融面をみると、日本銀行が潤沢な資金供給を行うもとで、日本銀行当座預金残高は20兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、短期金融市場では、オーバーナイト物金利が、引き続きゼロ%近傍で推移している。また、ターム物金利も、全体として低水準が維持されている。

 長期国債流通利回りは、銀行や機関投資家による積極的な国債購入姿勢を背景に一段と低下し、最近では0.8%台での動きとなっている。この間、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、概ね横這い圏内で推移している。

 株価は、国内景気の先行きに対する不透明感を背景に、8千円台半ばでの低調な動きが続いている。

 円の対米ドル相場は、中東情勢の緊迫化などを背景とした米ドルの全般的な軟化傾向を受けて引き続き強含み、最近では117~118円台で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては、貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては、貸出姿勢を慎重化させている。企業からみた金融機関の貸出態度も中小企業を中心に引き続き厳しい。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境も、高格付け企業は緩和的であるが、低格付け企業では厳しい状況にある。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が低調に推移していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。CP・社債の発行残高は、概ね前年並みの水準で推移している。

 この間、企業の資金繰り判断は、中小企業を中心に厳しい状況が続いている。

 マネタリーベースは、前年比2割程度の高めの伸びとなっている。マネーサプライは、12月は伸びが低下し、前年比2%台前半となっている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上を踏まえて、金融面の動きを総合的に判断すると、金融市場では、全体としてみればきわめて緩和的な状況が維持されている。長期金利は低下しているほか、マネーサプライやマネタリーベースも、経済活動との対比でみれば、高めの伸びを維持している。もっとも、株価はなお不安定な地合いにある。企業金融面では、信用力の高い企業は総じて緩和的な調達環境にあるが、信用力の低い企業については投資家の姿勢が厳しく、民間銀行も貸出姿勢を慎重化させている。このため、不良債権処理の加速、産業・企業再生等に向けた政府の対応の影響も含め、金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、引き続き十分注意してみていく必要がある。

以上