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金融政策決定会合議事要旨

(1998年 2月13日開催分)*

  • 本議事要旨は1998年 3月13日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年 3月18日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年 2月13日(9:00〜13:00)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 松下康雄(総裁)
  • 濃野 滋(任命委員)
  • 後藤康夫(  任命委員  )
  • 武富 将(  任命委員  )
  • 中川隆進(大蔵省代表)
  • 藤島安之(経済企画庁代表)

(執行部からの報告者)

  • 副総裁福井俊彦
  • 理事永島 旭
  • 理事米澤潤一
  • 理事山口 泰
  • 企画局長川瀬隆弘
  • 営業局長竹島邦彦
  • 営業局審議役川原義仁
  • 国際局長杉田正博
  • 調査統計局長松島正之

(事務局)

  • 政策委員会室長三谷隆博
  • 政策委員会室参事補渡部 訓
  • 企画局企画課長山本謙三
  • 企画局参事補雨宮正佳

I.執行部からの報告の概要

1.最近の金融調節の運営実績

 前回会合以降の金融調節の運営実績をみると、前回会合で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す)のもとで、各種の調節手段を十分活用しつつ、市場に対する潤沢な資金供給に努めた。とくに、1月最終週以降は、ターム物の期落ち(期限到来分)集中に伴う資金手当ての活発化などから、無担保コールレート(オーバーナイト物)への上昇圧力が強まったが、これに対しては逐次資金供給額を拡大する一方、随時追加オペを実行するなどして、金利上昇の抑制を図った結果、目立った上昇は回避された。

 ターム物金利については、かねて期越えを含む長めの資金供給を積極的に進めてきており、この結果、ターム物キャッシュレートは年明け後いったん低下傾向をみせた。しかし、信用リスク不安が根強く残る中で、期越え資金の調達本格化などを背景に、1月下旬以降は再びジリ高となった。なお、市場では、当面、ターム物金利は信用リスク不安を背景に高止まりを続けるとの見方が根強いものの、一部では、(1)日本銀行による期越え資金供給が累増していること、(2)政府の金融システム安定化策が具体化しつつあること、等を背景に、低下の可能性を指摘する見方もでている。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対米ドル相場は、前回会合以降、(1)日本の追加的景気対策への期待が台頭していること、(2)アジア情勢が一頃に比べれば落ち着いてきたこと、等から円高が進み、足許は120円台前半の水準となった。この間、円の対マルク相場も、やや円高方向への動きとなった。円の名目実効レートをみると、対アジア通貨で円安が進行したものの、対ドル・対欧州通貨での円高化を受けて、全体としては若干円高方向に振れ、95年秋頃の水準となった。なお、アジア諸国の通貨は、全体としては次第に安定を取り戻しつつある。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済の動向をみると、97年第4四半期のGDPが公表され、家計支出等を中心に、堅調な拡大を続けていることが確認された。物価は引き続き落ち着いた動きとなっている。金融面をみると、長期金利は、アジアの通貨・金融不安を受けた資金流入等により1月初まで低下を続けたが、1月半ば以降やや上昇した。株式市況は、10〜12月期の企業業績の良好やアジア情勢の安定化期待等から大きく上昇し、2月10日には既往ピークを更新した。

 欧州については、ドイツ、フランスとも、輸出の持ち直しを中心とする景気回復が続いているが、ドイツでは内需への波及がフランスに比べやや弱い。英国では、景気は総じて堅調な拡大傾向にあるが、純輸出の減少等からやや減速感も窺われている。

 東アジア各国では、一部に経常収支改善の兆しが窺われるが、内需は減退傾向が強まる状況が続いている。なお、株式市況は、1月半ば以降、総じて持ち直している。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要面をみると、純輸出が引き続き増加基調にあって経済活動を下支えしているが、これまで増勢を維持してきた設備投資には、このところ頭打ちの様相が窺われる。個人消費については、家計マインドが慎重化していることなどを背景に、低迷が長引いている。また、住宅投資が落ち込んだ状態を続けているほか、公共投資も減少傾向にある。こうした最終需要動向を背景として、在庫調整の動きが本格化しており、鉱工業生産は弱含み基調となっている。この結果、雇用・所得の改善テンポも、鈍化を続けており、生産・所得・支出を巡る前向きの循環は停滞している。

 先行きについては、外需の下支え効果や、家計支出に対する特別減税の好影響などが期待されるが、在庫調整圧力が強まっている中で、最終需要の目立った回復が見込めないことから、今暫くは停滞色の強い展開が続くものとみられる。また、これまでの景気減速によって、わが国経済の追加的なショックに対する耐久力は低下してきているものとみられる。このため、今後、アジア経済の調整がわが国の輸出等に与える影響や、後述するような金融面の動向が実体経済に及ぼす影響などには、十分な注意を払っていく必要がある。

(2)物価

 物価面をみると、財市場における需給の緩和を反映して、卸売物価が軟化しているが、消費者物価は消費税率引き上げ等の制度変更要因を除いても、前年を若干上回る水準で推移しており、全体としては、これまでのところ安定した動きを示している。今後についても当面、物価全般は総じて安定的な推移を辿るとみられるが、国内需給ギャップの縮小を見込みにくい状況の下にあって、アジアにおける需給の緩和などを背景に国際商品市況が下落しており、物価の潜在的な下押し圧力は増してきているものとみられる。

(3)金融情勢

 金融面をみると、短期金融市場では、1月中旬にかけて一旦やや低下したターム物金利が、1月後半には再び上昇するなど、3月期末を控え、流動性リスクや信用リスクに対する市場の懸念が強い状況が続いている。この間、景気対策や金融システム安定化策の具体化等を背景に、株価が反発しているほか、長期国債利回りが幾分上昇し、為替相場も円高方向の動きとなっている。ただ、市場の景況感が明確に改善したとは言い難い。

 民間金融機関貸出やマネーサプライ等の量的金融指標には、全体として大きな変化はみられない。また、株価や円相場の反発、金融システム安定化策への期待等により、金融機関貸出に対する自己資本面からの制約は、一頃に比べれば幾分緩和していると考えられる。しかし、基本的には、金融機関の融資姿勢は引き続き慎重であるほか、企業の資金調達コストは、銀行借入、社債ともに、若干上昇してきている。したがって、金融機関の融資姿勢や直接金融市場の動向、それらの企業金融に与える影響については、引き続き注意深く点検していく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

 景気の現状については、家計支出を中心とする内需減速の影響が生産面や雇用・所得面に及んでいるほか、企業マインドも悪化しており、景気は停滞を続けているとの見方で委員の意見の一致をみた。

 このように実体経済活動が停滞を続ける一方で、株価は反発しており、こうした最近の金融・資本市場動向をどう解釈するか、という点について検討が行われた。大方の委員は、最近の市場動向の変化は、実体経済面での改善を示す具体的な材料に支えられたものではなく、政府による金融システム安定化策や特別減税等の効果、さらには今後の追加対策等への期待感の高まりを反映している面が大きいとの評価であった。
 このため、一頃懸念されたようなコンフィデンスの一層の落ち込みは避けられているものの、これが、市場参加者の景況感の改善を示すものかどうかという点については、なお今後の情勢の展開を見守る必要があるとの意見が大勢であった。

 この間、金融機関の貸出動向については、政府による金融システム安定化策の策定、株価の持ち直し等を背景に、この先、融資姿勢が一段と慎重の度を加えるといったリスクは幾分後退しているのではないかとの意見が示された。また、実際に、1月の貸出の伸び率が落ち込みを示していないこと、社債・CP等の直接金融手段、政府系金融機関などの代替的な資金調達手段がそれなりに機能していることも指摘された。
 ただし、3月期末を控え、金融機関の融資姿勢の動向とその企業金融に対する影響については、引き続き注意して観察していくべきであるとの意見が多かった。その際、今回の支店長会議(1月26・27日開催)における各地からの報告を踏まえると、この問題については、地域差が大きいことに留意すべきであるとの意見があった。

 景気の先行きについては、まず、当面の経済活動の下支え要因として、昨年の消費税率引き上げ等の財政面からの影響が時間の経過とともに減衰していくとみられるほか、金融システム安定化策や特別減税等の措置の効果が期待できること、全体としてみれば、輸出の増加基調が維持されていること、などが指摘された。
 一方、先行きの景気展開に関連して留意すべき事項として、設備投資の今後の動向、在庫調整の深さと期間、アジアの経済調整の影響などについて検討が行われた。

 まず、設備投資の先行きについては、大方の委員から慎重な見方が示された。すなわち、関連先行指標やアンケート調査の動向を踏まえると、企業の設備投資意欲に減退の兆しがみられるとの意見が出された。この背景としては、情報関連投資が一巡しているとみられること、生産・在庫調整に伴い企業収益の下押し圧力が強まっていること、などの要因が指摘された。このため、設備投資を景気の下支え要因としてみておくことは難しくなっている可能性があり、今後の動向を注視していく必要があるとの意見が多く示された。

 これに関連して、当面の生産・在庫調整圧力の評価についても検討が行われた。多くの委員から、最近の最終需要動向からみて、在庫調整の期間が長引くリスクは否定できないとの意見が示された。また、生産活動の回復が遅れる場合、企業収益・雇用者所得の下押しを通じて、設備投資等民間部門の自律回復力そのものに悪影響を及ぼすおそれがあるとの意見もあった。

 次いで、アジア諸国の経済調整の影響について意見交換が行われた。目下のところ、輸出全体としては増加基調を維持しているが、いずれ、アジアの内需減退の影響から、輸出の増勢が鈍化してくる可能性があるとの意見が示された。具体的には、先行き、在庫調整に目処がつき始めた頃に、輸出面からの新たな悪影響が生じる可能性に留意しておく必要があるとの意見であった。また、アジア諸国の経済調整の影響は、貿易面だけでなく、国際商品市況、連結決算ベースでの企業収益、金融機関経営など、多面的な経路を通ずる影響を観察していく必要があるとの意見もあった。
 このほか、これら諸国の経済調整の先行きに関しては、国際機関や関係国により迅速な協調体制が組まれたという好材料がある一方で、国内経済・金融システムの再建という難しい課題も明らかになりつつあり、今後の動向やわが国に及ぼす影響については十分慎重に見守っていく必要があるとの意見が示された。

 物価面では、まず、当面は、やや弱含みとはいえ現在の安定基調が続く可能性が大きく、上昇・下落ともに大きく変動するリスクは小さいとの意見が示された。これに対して、国際商品市況の動向や国内の製品需給等からみて、下押し圧力が大きくなっているとの意見も出された。後者の意見では、潜在成長率の計測には難しい問題があるが、かりにそれを2〜2.5%程度とみても、本年度から来年度にかけては需給ギャップが拡大する方向にあり、これが、物価下落圧力の増大につながるのではないかとの見方であった。こうした検討を踏まえ、当面、物価は安定的な推移を辿るとみられるが、潜在的な下押し圧力が増してきている可能性には十分留意して、先行きの動向を見守ることが適当であるという点で、委員の意見の一致をみた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 まず始めに、短期市場金利のうちターム物金利の高止まりの評価と対応のあり方に関する検討が行われた。

 ターム物金利高止まりの原因については、大方の委員が、期末を控え、流動性リスク、信用リスクに対する市場参加者の懸念が引き続き強い状況にあることを指摘した。先行きについては、3月末の期越え調達に対応するレートがとりわけ高くなっていることからみて、期越え資金の手当に目処がつけば、ある程度市場動向も落ち着くことが期待されるとの意見があった。一方、信用リスク懸念の払拭にはなお時間を要するのではないかとの見方も示された。これらの検討を通じて、最近の短期金融市場動向を評価するうえでは、期越え資金調達が一巡した後のターム物金利の動きや、その貸出金利等への波及状況等を見極める必要があるとの意見が多かった。
 このため、日本銀行としては、引き続き、潤沢な資金供給や、期越えを含む長めのオペレーションの活用などにより、市場心理の落ち着きを促していくことが適当であるとの見解で、委員の意見の一致をみた。

 なお、ターム物金利の低下を図るために、オーバーナイト金利の一層の低下を促すという考え方についても議論された。この点については、当面は、上記のように、日本銀行による潤沢な資金供給等の効果を見極めることが適当であるとの意見が多かった。また、この考え方は、追加的な金融緩和政策の妥当性という問題に帰着するため、金融政策運営の基本方針という観点から検討する必要があるとの意見が多く示された。
 そこで、これまで検討された景気・物価情勢を踏まえ、金融政策運営の基本方針について検討が行われた。
 まず、景気のダウンサイドリスクを重視する場合、追加的金融緩和政策がこれと整合的な選択となりうるものの、その必要性、効果については、全体としての金融経済情勢を踏まえ、慎重な検討が必要であるとの意見が多かった。すなわち、追加的な金融緩和は、設備投資調整や在庫調整の度合いを軽減する効果があるとみられる一方で、現在の企業や家計のコンフィデンスの状況を踏まえると、直接的な需要喚起効果には限界があるのではないかとの意見が出された。これに関連し、現在の局面の特徴は、期待成長率あるいは期待投資収益率が下方屈折していることにあると考えられ、「資金コストが高いために投資需要が制約されている」というより、「投資機会そのものが少ないと企業が感じている」状況にあるとの意見もあった。

 こうした状況を踏まえ、景気回復の基盤を整えるうえでは、経済主体のコンフィデンスを強化し、下方屈折した期待成長率や期待投資収益率を回復させるよう促すことが必要であること、そのためには、サプライサイドの活性化や、投資インセンティブの強化を念頭において、産業構造転換の促進や財政構造改革を進めていくことが重要であること、等が指摘された。

 このほか、追加的な金融緩和については、さらなる金利低下が消費者マインドにどのような影響を与えるか、短期市場金利のボラティリティが高まるおそれはないか、外為法改正を控え、金利低下が外貨資産等への過度なリスクテイク活動をもたらすことにならないか、などの検討すべきポイントが各委員から指摘された。

 一方、このところ、景気刺激のためには金利引き上げが必要との議論が台頭していることを踏まえ、こうした主張を巡っても検討が行われた。
 まず、このような議論が起きる背景として、所得分配面からの預金者の不公平感が高まっていること、低金利がリストラ等の経営努力をかえって阻害するとの見方があること、などの要因が指摘された。このうち前者については、95年9月以来、低金利による金利収入の減少が続き、この間、昨年の消費税率引き上げ、医療費負担の増大もあって、実際に家計の負担感が次第に重くなっているという事情は、十分念頭におく必要があるとの意見があった。
 しかし、そうした意見を述べた委員も含め、経済全体としてみた場合、現状では、景気回復の基盤が整えられるまでは、今暫くこれまでの金融緩和姿勢を維持することが必要であるとの見解で、委員の意見の一致をみた。すなわち、マクロ経済全体としてみれば、低金利は、企業収益や投資活動を下支えすることにより、雇用・所得の確保に貢献しており、景気の自律回復力が整わないうちに金利を引き上げれば、経済活動全体、ひいては家計所得にも悪影響を与えるとの見解が共通であった。このほか、ミクロ的な所得分配面の問題は、金融政策のようなマクロ経済政策というよりも、社会政策面から対応することが適当な分野ではないかとの意見もあった。

 この間、大蔵省代表委員から、金融システム安定化策、特別減税、公共事業の追加やいわゆるゼロ国債の確保など、政府の措置が着実に実施に移されつつあり、これらが設備投資、個人消費等の実体経済活動に好影響を及ぼすことが期待されるとの説明があった。また、現在は、平成10年度予算の早期の成立が何よりも大事であり、今後とも、既往の措置とあわせ、着実に政府の諸施策を実施していくことが、先行きの不透明感を払拭することに資するとの考え方が述べられた。
 また、経済企画庁代表委員からは、日本経済の構造的な課題として、(1)不良債権問題の処理、(2)日本的な経済システムの改革、(3)産業の空洞化への対応の3点が挙げられた。政府としては、これらを踏まえ、規制緩和などの構造政策を打ち出しており、こうした政策が財政構造改革と相まって、景気浮揚に結びついていくとの考え方が示された。また、当面の景気情勢との関係では、その時々の経済の実情に応じ、臨機応変な対策をとっていくことは当然であるが、当面は、10年度予算の早期成立に全力をあげている旨の説明があった。

IV.採決

 以上の検討の結果、次回金融政策決定会合までの金融政策運営については、現状の金融緩和姿勢を維持し、その効果がターム物金利等に波及していくことを促しつつ、政府による諸施策の具体化やその効果も含め、情勢の展開を注意深く見守っていくことが適当であるという点で、概ね共通の見解に達した。

 これを踏まえ、議長が以下の議案をとりまとめ、採決が行われた。

議案

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:松下委員、濃野委員、後藤委員、武富委員
  • 反対:なし

 最後に、当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が了承され、金融経済月報を2月17日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成10年 2月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(全員一致)。

以上