金融政策

ホーム > 金融政策 > 金融政策決定会合の運営 > 金融政策決定会合議事要旨 1999年 > 金融政策決定会合議事要旨(1999年 4月 9日開催分)

金融政策決定会合議事要旨

(1999年 4月 9日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年5月18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年 5月21日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年 4月 9日(9:00〜12:23、13:51〜16:11)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   武藤敏郎 大臣官房総務審議官(9:00〜13:54)
  • 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:00〜16:11)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巌
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 国際局長村上 堯
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局早川英男
  • 企画室参事(企画第1課長)山本謙三

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役門間一夫
  • 企画室調査役栗原達司

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(3月12日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、4月14日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(3月25日)で決定された金融市場調節方針(より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート<オーバーナイト物>を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初<注:2月12日の金融政策決定会合時点>0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。)にしたがって運営した。すなわち、前回会合以降、期末・期初の資金決済需要が高まる局面では、大量の資金供給を実施してきた。この結果、期末・期初のオーバーナイト・レートは、0.03〜0.05%とこの時期としては例年にない落ち着いた推移となった。今積み期間(3月16日〜4月15日)のオーバーナイト・レートの平均値は、前営業日(4月8日)までで0.03%となっている。

 この間の動きをやや詳しくみると、3月30日は、資金決済需要の高まりに加え、外銀が預金保険機構向け貸出のための資金調達を積極化させたことが目立った。これを受けて日本銀行が資金供給額を拡大した結果、当日のオーバーナイト・レート(加重平均)は0.04%となった。3月31日は資金の繁忙感が一段と強まったため、準備預金の積み上幅を昨年6月30日以来の3兆円とする大規模な資金供給を実施した。この結果、オーバーナイト・レートは0.05%と小幅の上昇に止まった。4月1日も、朝方から大量の資金供給(積み上幅2.2兆円)を行ったが、都銀等が期末越え資金の期落ち分の確保に努めたことなどから、オーバーナイト・レートが0.05%を超えて上昇する気配を示したため、昨年12月15日以来の日中の追加供給オペを実施した。今週(4月5日週)に入ってからは、期末・期初要因も剥落し、市場は一転して取り手優位の展開となっており、金利も再び低下している。なお、数日前に一部金融機関の経営問題に関する報道があったが、市場では混乱はみられていない。

 この間、ターム物金利は期末にわずかに強含んだあと、再び小緩んでいる。

 前回会合以降2週間の市場の動きの中では、次の3点が注目される。

 第1に、オーバーナイト・レートが事実上のゼロ%まで低下したもとで、資金の運用サイドは少しでも高い金利を求め、資金をコールローンからCPやレポ、あるいは期間長めのターム物への運用へと振り向ける動きが目立っている。また、格付けがやや低めの社債の購入も増やしている模様であり、流動性リスクと信用リスクに対する取り組み姿勢が幾分前傾化してきているように窺われる。第2に、コール市場残高は、年度末にいったん回復したが、今週(4月5日週)に入って再び大きく減少している。期末の市場残高の回復は、生保がソルベンシー・マージン比率(生保などの経営の健全性の度合いを把握する指標。通常の予測を超えて発生するリスクに対してどの程度の支払余力を有しているかを示すもの。)の計算を意識して一時的に資金の運用替えをしたこと(普通預金からコールローンへのシフトバック)によるところが大きく、コール市場残高の減少基調自体には変化はないものとみられる。第3は、日本銀行が短期金融市場に大量の資金を供給しても、都銀など大手行は超過準備を保有しないスタンスを維持しており、準備預金非適用先である短資会社等の日銀当座預金口座に資金が滞留する傾向が続いている。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 前回会合以降の円の対米ドル相場は、ユーゴスラビア情勢の悪化に伴う有事のドル買いや、機関投資家による新年度外債投資のためのドル手当てがみられた一方、輸出企業のドル売り意欲も根強かったため、狭いレンジでの動きとなった。

 欧州通貨に関連しては、昨晩(4月8日)、欧州中央銀行(ECB)が、主たる政策金利である2週間物定例オペ金利を0.5%引き下げた(3.0%→2.5%)。また、スイス中銀(SNB)がこれに追随している。さらに、これらとは別に、イングランド銀行(BOE)も、政策金利であるレポ金利を0.25%引き下げた(5.5%→5.25%)。

 ユーロの対米ドル相場は、前回会合以降、ユーゴスラビア情勢の悪化や、ユーロエリア経済の先行き不透明感の高まり、さらにはECBの利下げ観測などを背景に、軟化を続けた。ここ数日は、ユーゴスラビア側が一方的に停戦を宣言したという報道や欧州当局者によるユーロ安警戒発言もあって小反発したが、昨晩のECBの利下げ幅が市場予想を上回る0.5%であったため、ユーロは再び下落している。この間、ユーロの対ポンド相場は、英国の景気後退懸念などから強含みに推移した。

 ブラジル・レアルの対米ドル相場は、経済情勢が好転する中、IMFによる融資実行承認も好感されて続伸した。

(2)海外金融経済情勢

 米国景気は拡大を続けている。家計支出は、良好な所得環境などを背景に堅調な伸びを維持しており、製造業では生産が持ち直しつつある。労働市場では失業率が低下しているが、非農業部門就業者数の伸びは落ち着き、時間当り賃金の伸びも緩やかとなるなど、賃金上昇圧力は顕現化していない。こうした中で、物価は落ち着いた推移にある。

 米国株価(ダウ工業株30種)は、インフレ懸念が小さいことや、99年第1四半期の企業業績が好調であるとの見通しを受けて、10,000ドル台乗せを実現した。

 東アジア諸国の経済は、韓国で持ち直しがみられるほか、タイでも金融面での安定が確保されるもとで底入れの様相が窺われる。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気の現状について、まず最終需要をみると、設備投資は、依然として減少を続けている。また、純輸出は横這い圏内の動きとなっており、個人消費も低調に推移している。一方、公共投資の発注が急増しているほか、住宅投資は持ち直しに転じつつある。

 こうした最終需要の動向や在庫調整の進捗を背景に、生産は下げ止まっており、企業の業況感は、厳しい水準ながら幾分改善している。

 このように、足許の景気は下げ止まりの様相を呈している。

 なお物価は全般に弱含みである。

 先行きについては、当面、企業リストラの本格化に伴って設備投資の圧縮が続く一方で、公共投資が再び大幅な増加に向かい、住宅投資も引き続き持ち直していくとみられる。

 もっとも、そのあと、景気が明確な回復に転じるかどうかについては、本年度下期には公共投資、住宅投資による景気浮揚効果が減衰するとみられることから、それまでに民間需要が回復するきっかけを掴めるかどうかがポイントとなる。この点、現時点ではっきりした判断を下すことは困難であるが、以下のような環境を踏まえると、回復のきっかけを掴む蓋然性は依然として高くないと考えられる。

 第1に、現在の企業収益、家計所得の下では、公共投資や住宅投資が増加しても、直ちに設備投資や個人消費の回復に結びつくとは考えにくい。

 第2に、在庫調整の進捗は、通常であれば、最終需要が生産に結びつきやすい状況にあることを意味するが、企業では最近、財務リストラへの意識を一段と強め、在庫の積み上がりには神経質になっているため、きわめて慎重な生産スタンスを崩していない。

 第3に、株価の上昇や、公的資本の投入に伴う金融システム不安の鎮静化は、資金繰りへの不安感を和らげることによって、とくに中小企業の設備投資の下振れリスクを減じるほか、リストラ本格化に伴う家計のコンフィデンス悪化を和らげる効果も期待しうる。ただ、これらが直ちに支出増に繋がるという展望を得られている訳ではない。

 しかし、最終需要が実際に増加し始めれば、企業の生産態度も変化し、これが金融面の環境変化との間で好循環をもたらす可能性も皆無とは言えない。その蓋然性をみきわめるために、当面、最終需要と生産の動向を注視する必要がある。

 また、物価は、当面下落基調を続けると見込まれるが、物価の下落テンポが直ちに加速するようなことにはならないものとみられる。なお、この1か月の間に原油価格がかなり上昇しているが、これが定着すれば、国内卸売物価の下落ピッチを幾分緩める可能性もある。

(2)金融情勢

 短期金融市場では、オーバーナイト金利が0.03〜0.04%で推移するもとで、金融機関の流動性確保に対する懸念が急速に後退している。さらに公的資本の投入もあって、ジャパン・プレミアムはほぼ解消された状態が続いている。ターム物金利も低水準で推移しており、ユーロ円金利を分解した1か月物インプライド・フォワード・レートからは、市場が、少なくとも向こう半年程度の間に金利が上昇するリスクはほとんどないとみていることが窺われる。

 長期金利は、足許の民間資金需要の低迷などを背景に、民間銀行が再び債券購入姿勢を強めていることなどを反映して、緩やかに低下している。一方、株価は、企業のリストラ効果に対する内外の期待や、米国株価の上伸などを背景に、底固い動きを示した。

 金融の量的側面に関連して、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要は低迷を続けているほか、資金調達環境の厳しさを意識した手許資金積み上げの動きも収まってきており、資金需要全体としては、一段と低調になっている。

 一方、民間銀行の融資姿勢をみると、企業の信用リスクに対する警戒感は依然根強く、基本的に慎重な融資態度が維持されている。ただ、民間銀行自身の資金繰り不安や、自己資本面からの制約は緩和されてきている。こうしたもとで、民間銀行も信用リスクの小さい融資案件に対しては積極的な取り組み姿勢を示し始めるなど、これまでの回収一本槍の融資態度にも若干の変化が窺われる。

 これらの結果、企業金融を巡る逼迫感は和らいできている。

 ただ、格付けが低めの企業などでは依然厳しい調達環境にある先が少なくなく、引き続き注意が必要である。また、今後民間銀行の融資姿勢がどの程度緩和されていくのか、さらにこれが企業の投資意欲などにどのように結びついていくのか、といった点を十分注目していく必要がある。

 なお、先行き4〜6月のマネーサプライ前年比についてみると、前年同期には金融不安の一時的な鎮静化のもとで、銀行からの貸出回収圧力も強かったため、企業は手許資金を大規模に取り崩して銀行に返済した。本年も金融システム不安が収まり、企業は手許資金を圧縮するとみられるが、銀行からの貸出回収圧力は前年ほど強くはないと見込まれる。これらを踏まえて見通すと、4〜6月のマネーサプライ前年比は、1〜3月対比でやや高まる見通しである(前年比見通し「+4%前後」)。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状について、各委員は一致して、「足許、下げ止まりの様相を呈している」との判断を示した。

 こうした判断の背景として、多くの委員からは、(1)公共投資の発注が大幅に増加していること、(2)住宅投資が持ち直しつつあること、(3)在庫調整がさらに進捗し、鉱工業生産は横這いの動きとなっていること、(4)企業の景況感が小幅ながら改善したことなどが指摘された。

 このうちのひとりの委員からは、(1)公共工事の本格化によって、普通トラックの受注高が持ち直しており、今後、建設機械などへの波及が期待されること、(2)自動車のノックダウン輸出が、東南アジア向けを中心に下げ止まり、ここにきて前年水準を上回るような動きとなっていること、(3)住宅関連では、首都圏のマンション販売が好調のほか、プレハブメーカーの販売も好転していること、(4)こうした住宅販売動向を受けて白物家電の販売も好調であり、これが民生用電気機器の生産増加にも結びついていること、などの事例が紹介された。また、別のある委員は、景気動向指数の一致指数の動きは底這いの状態が続いており、低水準とはいえ、景気が下げ止まっていることを示していると発言した。

 しかし、これらの委員からは、前回会合までと同様に、民間需要の低迷を指摘する発言も多く出された。

 まず、各委員は一様に、企業収益や雇用・所得環境がきわめて厳しい状況にあるもとで、設備投資が減少を続けており、個人消費も総じて低調に推移していると指摘した。

 ひとりの委員は、失業者が300万人を超えたことを踏まえて、雇用情勢が今後の経済回復にとっての大きな制約要因になることを危惧せざるをえないと発言した。別の委員は、足許の消費関連指標がやや弱くなったことについて、これまでは所得が低迷している分を消費性向の上昇が補っていたために消費支出の落ち込みが回避されてきたが、2月以降は、消費性向が再び低いレベルとなっているため、所得の低迷がストレートに消費支出に投影されていると発言した。また最近の輸出動向については、海外経済の動向や為替相場から予想される姿に比べると幾分弱めに推移しており、貿易摩擦への懸念が影響している可能性があるとの認識を示した。これらを踏まえて、その委員は、1〜3月の経済活動水準は完全には下げ止まらず、新年度に向けた発射台も幾分低下した可能性があるとの見解を明らかにした。

(2)金融面の動き

 金融面では、多くの委員が、3月に明確に改善した金融資本市場の状態が引き続き維持されているとした。それらの委員からは、政府による信用保証制度の拡充や公的資本の投入、さらには日本銀行によるゼロ金利を目指した徹底的な金融緩和策の効果が、金融資本市場や企業金融にはっきりと現れており、景気の下げ止まりに寄与してきているとの認識も示された。

 まず、金融市況については、(1)オーバーナイト金利がゼロ%近傍にあること、(2)ターム物金利が低水準で推移し、ジャパン・プレミアムもほぼ解消した状態にあること、(3)長期金利が低下していること、(4)株価も堅調な動きを示していること、(5)円相場は120円前後で安定していることなどを挙げて、3月以来の好ましい状態が持続しているとの指摘が多く出された。また、こうした金融市場の動きは、景気の下げ止まりにも寄与しているとの評価が少なからず示された。

 このうちのひとりの委員は、2月の金融緩和の際に懸念していた長期金利や円相場などの動きが実体経済に悪影響を及ぼすリスクは、かなりの程度回避できたのではないかとの判断を明らかにした。

 これに対して、別のひとりの委員からは、今回の金融緩和策の効果がよく現れている背景としては、(1)2月12日の政策変更が市場にとって予想外であったこと、(2)2月25日以降の調節スタンスがアグレッシブかつスピーディなものであったこと、などを挙げることができるが、そうした効果も時間の経過とともに、着実に薄れていく性格のものであるとの指摘があった。

 こうした議論のなかで、株価については、慎重な見方も少なくなかった。複数の委員は、現在は外人勢が日本経済の先行き不透明感の後退やリストラなどの構造調整の進展を見込んで、日本株を買い入れているが、日本のリストラは、(1)欧米型のレイオフを中心とするドラスティックなものとは異なるため、収益の好転に直ちには結びつかず、また(2)有利子負債の削減に偏重して、得意分野への戦略的・集中的な資源配分が不十分となる可能性もないとはいえないため、株価に織り込まれているような収益改善への期待が実現するかどうか、今後の進展をみきわめる必要があるとの注意喚起を行った。

 なお、コール市場取引が縮小していることについては、目下のところは市場の決済機能に支障はみられないが、市場における資金の流れは大きく変化しているため、その動向は十分に注視していく必要があるとの認識が多くの委員の間で共有された。

 一方、金融の量的側面についても、何人かの委員が言及した。

 ある委員は、オーバーナイト金利ゼロ%を実現するために、日本銀行は潤沢な資金供給を続けてきたが、そうしたもとでマネタリーベース(=流通現金+準備預金)の前年比伸び率が幾分回復するなど、「金利の低下」とコインの表裏の関係にある「量の拡大」がオーソドックスなかたちで進み、金融機関や企業の流動性に対する不安感も大きく後退したとの評価を述べた。また、その委員は、金融資本市場では、これまでに比べれば、金融機関や機関投資家が多少前向きにリスクを取るような動きが生み出されつつあるとの指摘も付け加えた。

 別の委員は、金融機関の中小企業向けの融資姿勢は、ここにきて業績と案件さえ問題がなければ融資するというスタンスに切り替わってきているとしたうえで、公的資本の投入による金融機関の資本基盤の整備や日本銀行による徹底した金融緩和などの効果は、企業のレベルに十分浸透している点を強調した。さらにその委員は、このように現在は企業金融が緩和されてきているにもかかわらず、設備投資など前向きの資金を借り入れる動きが出てこないことが問題であるとの見解を明らかにした。

(3)景気の先行き

 景気の先行きについては、多くの委員の間で、民間経済の動きが引き続き弱いことや、今後企業が本格的にリストラに着手するとみられることなどを踏まえると、景気回復の展望は依然として不明確なままであるとの認識が共有された。

 まず、何人かの委員が、生産活動、企業収益・雇用所得、および設備投資・個人消費といった民間経済の循環メカニズムに力が備わってきていないことを指摘したうえで、執行部が示した先行き見通し──今年度下期の経済は下振れするリスクが高く、その過程では、物価下落圧力が高まる可能性がある──には概ね違和感はないとの判断を示した。

 このうちのひとりの委員は、製造業の在庫状況からすれば生産の増加が始まっても不思議ではないが、実際には、企業の生産態度は依然慎重であり、この結果、今年度下期に経済が下振れする懸念も否定できないとの見方を述べた。その背景としてその委員は、ほかの複数の委員とともに、3月の日銀短観の結果にあるとおり、設備や雇用に強い過剰感があることを指摘した。

 また、何人かの委員は、3月の日銀短観では企業の収益見通しが下期に回復する計画となっていることに関心を向け、これは、生産・販売の増加というよりも、リストラによるコスト削減に期待をかけたものに過ぎないとする意見を示した。ひとりの委員は、各企業が収益改善を目指してリストラを本格化した場合は、マクロ的にはデフレ圧力が高まって、収益は回復しないとの考え方を述べた。別の委員は、素材産業の収益は卸売物価の動向の影響を受けるが、卸売物価の下落基調を踏まえると、下期の収益回復期待は本当に実現するのか疑問であるとの判断を示した。さらに、もうひとりの委員は、こうした収益の下振れ懸念は、実体経済の支出活動に対しても、また、株価を通ずる様々な期待形成への影響という意味でも、大きなリスクとなっているとの見解を明らかにした。

 このうちのひとりの委員は、企業の設備廃棄やリストラが本格化するなかでは、設備投資や個人消費が立ち直る兆しはなかなか見えてこないとの厳しい認識を基本としつつも、その一方で、本年秋以降、都内を中心に民間ビッグプロジェクトが目白押しとなることを紹介し、これが、今年度下期以降、公共投資の景気浮揚効果が減衰する影響をどの程度緩和できるのか、注目したいと期待感をにじませた。

 このように、景気の先行きについて、各委員が共通して慎重な見方を示す中にあって、何人かの委員は、金融面の改善の動きが、先行きの景気動向に対しても、何らかの良い効果をもたらすことになるのではないか、といった観点からの発言を行った。

 ある委員は、徹底した金融緩和による金融機関の流動性懸念の後退と、公的資本の投入による資本基盤の強化の結果として、金融機関の与信態度がここにきて微妙に変わりつつあるとの認識を示した。具体的には、(1)金融機関は、資産圧縮によるROE(株主資本利益率)の向上という課題と、乏しい資金需要という制約を受けているため、貸出をただちに増やせるような状況にはないが、少なくとも、中小企業の設備投資が金融面から抑制されるといった可能性は低下したこと、(2)低金利のもとでマネーフローが変化しており、日本でも、欧米と同様に資金の一部がリスク資産に戻りつつあること、を指摘した。そのうえで、その委員はこうした金融面の動きが実体経済にプラスの効果をもたらしうる状況になっており、実際にそれがどの程度のものになるかに注目したいとの考えであった。

 別の委員も、金融面の明るい動きを実体経済サイドに伝える役回りとして、民間金融機関のリスクテイク姿勢に注目した。その委員は、(1)金融機関は財務の健全性確保の観点から厳格な審査基準を一挙に緩める訳にいかず、ボリュームの拡大は難しいこと、(2)企業サイドもこのあたりの事情を把握しているため、3月短観での企業金融に関する受け止め方が依然慎重であったことを指摘しつつも、(3)ここにきて、金融機関が貸出回収一本槍の姿勢を潜め、低めの格付けの社債への購入意欲を高めていることを挙げて、今後のそれらの動きを期待を込めて観察したいとの考えを述べた。

 もうひとりの委員は、現在の株価が、外人勢の日本株買いなどを背景に、実体経済動向に比べてやや割高であるとの認識を前提に考えると、(1)そうはいっても、この株価が示すような企業収益が、一連の金融市場の改善の動きなどの中で実現すれば、先行きの経済は執行部が示した見通しよりも上振れるとみられる一方、(2)もし、株価が実体経済に擦り寄るかたちで下落すれば、先行きの経済は見通しよりも下振れることになるのではないか、との見方を述べた。

 物価動向については、多くの委員が、引き続き下落傾向が続くであろうとの立場をとったが、下げ幅が小幅に止まる可能性はないか、あるいは、一転上昇に転ずるリスクも無視しえないのではないか、といった立場から、次の2つの発言があった。

 ある委員は、今後賃金の更改時期に入り、場合によっては、サービス価格が低下することもありうるが、その一方で、企業の流動性制約が大きく緩和しているもとでは、そうした資金が企業の在庫ファイナンスを容易にするような経路を通じて、物価をサポートすることもあるのではないかと発言した。その委員は、そうした問題意識は、マネーサプライの伸びが名目経済成長率の動きに比べて高目となっていることをどのように考えるかという議論とも密接に関係するとの認識を付け加えた。

 別の委員は、反発している原油価格相場に注目し、今般の産油国の減産合意は、世界の推定需要に対して7〜8%に及ぶ大幅なものであり、しかも最近のアラブ諸国間の関係を踏まえると、協定が遵守される可能性は高いとした。そのうえで、その委員は、今後、夏場のガソリン需要が高まる時期に入るので、原油価格の上昇圧力が顕現化しやすくなることに十分な注意が必要であると発言した。

 構造調整や、企業のリストラ努力の必要性についても、何人かの委員が言及した。

 ある委員は、財政・金融政策の面で打つべき政策はすでに打たれてきている以上、今後は、企業が過剰債務、過剰設備および過剰雇用の処理に取り組む番であり、その際は、人件費の切り込みに伴って、個人のレベルにも強い痛みが生じることは避け難いとの考えを述べた。そのうえで、その委員は、財政政策、金融政策には構造調整に伴うデフレ圧力を和らげる役割も期待されているとして、財政面では、雇用対策、設備廃棄促進税制、さらには土地の流動化策、金融面では、徹底した金融緩和スタンスの継続が望まれるとの見解を示した。なお、その委員は、一部報道にあるように信用保証制度がさらに拡大されると、本来ならば市場から退出するような企業が延命することとなり、構造調整努力には逆行することになる、との危惧を表明した。

 別の委員は、日本企業の経営指標をいくつか示し、総資本当期利益率、売上高当期利益率、あるいは人件費対売上高比率などが、欧米に比べて大きく水を開けられていることに加え、かつては米国を上回っていた有形固定資産回転率も90年代前半以降逆転された状態にあることからみても、今後の日本企業のリストラが非常に厳しくなることは必至であると発言した。また、その委員は、ここにきて、大企業の売上高損益分岐点比率が、中堅・中小企業並みの水準にまで上昇しており、大企業にも相当の合理化余地が発生しているのではないか、との意見を付け加えた。

 ほかのひとりの委員は、同じように金融システム不安に陥った日本と韓国の雇用情勢をとりあげ、昨年1年間で失業率が4%台から8%台に上昇した韓国に比べて、日本の雇用調整が緩慢であることを指摘したうえで、今後、日本で雇用調整が本格的に実施されると、多額の財政資金が必要となるとした。具体的には、これまでの日本の雇用対策は、失業者への失業保険給付と、企業に過剰雇用を抱えてもらう政策——それに対する主たる助成金は「雇用調整助成金制度」——の2つから成るが、本来であれば、職を失った人々の職業訓練などに財政支出を行うことが望まれると主張した。また、その委員は、一部の委員が構造調整に際しては個人が痛みを負担することもやむを得ないと発言したことに対して、そうした負担を課す前に、1200兆円にのぼる個人金融資産の運用の選択肢を広げるよう、たとえば、TB、FBを個人が購入できるようにするなど、さまざまな規制を見直すことが先決なのではないかと反論した。

 こうした議論のなかで、経営指標をもとに企業を取巻く厳しい環境を指摘したひとりの委員は、公共投資の効果が減衰する今年度下期以降の経済の展望は全く得られておらず、景気底割れの危険があるとするきわめて厳しい先行き見通しを述べた。その背景として、その委員は、(1)今年度の上期と下期の公共投資には、約6兆円の落差があるとみられ、この坂は通常であれば補正予算を組まないと埋め合わすことができない規模であること、(2)4月の鉱工業生産の予測指数は、自動車、電気機械といった他の部門への波及が大きな業種を中心に減少しており、今後、部品産業などの川上への影響が予想されること、(3)主力輸出先のアジア、アメリカ、およびEUの経済金融動向は不安定であり、今後の輸出や生産にも響く可能性があること、(4)個人消費については、家電の買い替え需要が本年夏で一巡するほか、自動車の更新は長期化しているため2000年までは買い替え需要が起こらないとみられること、(5)最近の失業率からみると、今後消費性向が一段と低下すると予想されること、などの各点を挙げた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の経済情勢に関する認識をあらためて整理すると、(1)公共投資の大幅増加や住宅投資の持ち直し、さらには生産の横這い圏内での推移などを背景に、企業の景況感はわずかに好転し、景気は下げ止まりの様相を呈している、(2)これまでの金融緩和政策は金融資本市場に浸透し、十分な効果をもたらしている、(3)ただ、景気はなお底這い圏内にあり、民間経済の動きが相変わらず弱いことや、今後企業のリストラが本格化することが見込まれることなどを踏まえると、景気回復の展望は依然として不明確なままである、といったものであった。

 また、何人かの委員は、日本経済にとって現在求められている処方箋は構造調整であり、財政政策と金融政策には、これに向けた環境を整備する役割が期待されているとの認識を示したうえで、金融政策がこうした構造政策の役割を過度に担うことは適当でないとの立場から発言した。

 このうちのひとりの委員は、(1)日本銀行による金融政策は、構造対策には金融政策を割り当てないとするヨーロッパ型の割り切った議論とは異なり、構造調整に伴ってデフレ圧力を受けたマクロ経済全体に対して、金融面からできる限りの下支え措置を実施していく、との考え方に則って運営してきたが、(2)金利政策としては、すでに目一杯のところまでやってきており、これ以上の役割を担うことができない、との見解を示した。

 別の委員も、金融緩和政策は、構造調整を進める企業にとっては、資金繰り不安を和らげ、資金調達コストを引き下げるといった効果を通じて、調整過程における痛みを和らげるものであるとの考え方を示した。そのうえで、その委員も、(1)金融政策はそれ以上の役割を担うことはできない、(2)金融緩和の維持がこれまで経済の下支えに貢献してきたことも軽視すべきではない、といった点をよく認識する必要があるとの趣旨の発言を行った。

 さらに、ある委員は、(1)日本銀行がオーバーナイト金利をできるだけ低めに誘導するために、必要かつ十分な量を供給していることは、金利ターゲッティングの政策として、市場では明確に理解されており、(2)市場機能を維持しながら、金利をギリギリ低目に誘導するという現在のディレクティブは、突発的な市場の混乱や金融機関の破綻などにも対処しうる柔軟な組み立てになっているため、この柔軟さは当面維持すべきである、との立場を明確にした。

 別のひとりの委員からは、現在は、これまでの金融緩和が呼び起こしつつある様々な変化を見定めていく段階にあるとの考え方が示されたほか、もうひとりの委員からも、ようやく実体経済にみえはじめたコンフィデンスの芽を大切にしていくことが肝要であるとの発言があった。

 これらを踏まえて、当面の金融政策運営方針については、現在の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

 もっとも、少数ではあるが、こうした金融政策運営方針とは立場を異にする委員もいた。

 ひとりの委員は、これまでオーバーナイト金利をゼロ%近傍に誘導するために大量の資金供給を行ってきたことの効果について言及し、(1)確かに金融市場の小康状態をもたらしているのは事実であるが、(2)現下の最大の課題である金融機関の収益改善には結びついておらず、(3)また、実体経済に何らの効果ももたらすことなく、その資金は鞘取り目当ての資産取引に向かっている可能性すらあるとして、超低金利政策の効果は十分に認識することができないとの考えを述べた。そのうえで、その委員は、超低金利水準を維持する政策には反対する意向を明らかにした。

 一方、別のある委員は、一段の金融緩和を主張した。その委員は、みずからの景気の先行きに対する見方が他の委員とは際立って厳しいことを強調したうえで、中期的な物価上昇率の目標を設定し、マネタリーベース(=流通現金+準備預金)にターゲットを置いた本格的な量的緩和に移行すべきであるとの、かねてからの主張を繰り返した。その理由としては、(1)本年夏以降、景気が失速する可能性が高まっていること、(2)マネタリーベースなどの量的金融指標の伸びは依然として低く、十分な資金供給が行われているとはみられないこと、(3)金融市場におけるオペの対応余力は少なくとも約20兆円はあるとみられ、量的緩和に必要な資金供給には十分対応できること、などを列挙した。また、同じ委員は、最近の金融市況の展開には、量的緩和が大きく寄与したとの理解を示した。具体的には、ゼロ金利のもとでの量的な緩和には、通常の金利ルートのほかに、為替や株価を通ずるトランスミッション・メカニズムが具備されていることが明らかになったとして、(1)資本の流入超(外人勢の日本株買いや日本の機関投資家による外債換金売りによるもの)を受けて強まっていた円高圧力を打ち消した、(2)財政赤字拡大懸念に伴う長期金利の上昇圧力を抑制した、(3)株価の上昇をもたらした、といった諸点を例示した。

 一段の金融緩和を主張する委員が、量的緩和が金融市況にかなりのインパクトを及ぼしたとの理解を示したことに対しては、ひとりの委員より、量の概念を持ち出さなくとも、日本銀行がオーバーナイト金利をゼロ%に推移させるとの強い決意のもとで金融市場調節を行ない、そうした考え方が市場に浸透したことが効いた、ということで十分理解できるとの反論が呈示された。また、別の委員も同じ立場から、中長期の期間の金利形成は、理論的には、足許のコールレートと、将来にわたるコールレートの予想値から成り立っているとしたうえで、今回、期間の長い金融資産が大きく動いた理由は、日本銀行が、一定期間徹底した金融緩和を続けるとの強い決意を示したものと受け止められた結果、将来にわたるコールレートの予想値がかなり低下したことにある、との理解を示した。

 このような日本銀行の金融政策に対する市場の受け止め方に関連して、会合では、前回会合に引き続いて、金融政策の対外説明のあり方をどのように考えるかという点が、議論の中心になった。

 ひとりの委員は、「量的緩和」についての理解は、世の中に様々なものがあって混乱している感があるとして、あらためて次のような整理を行った。

 まず、金利と量とは同時決定の関係にあり、オーバーナイト金利ターゲットのもとで、それをゼロ%近傍に誘導することを実現するために、「オーバーナイトの資金需要をすべて満たすよう、リザーブの潤沢な供給を図ってきた」ので、その意味では、すでに十分な量的拡大が図られたと言うことができるとの判断を強調した。

 また、「狭義の(もしくは厳密な意味での)量的緩和」は、この金利と量が表裏一体であることを前提に、金融政策の操作目標として「量的ターゲット」に政策的な意義を見出すものである、と説明した。その得失を自分なりに整理すると、(1)期待インフレ率が大きく振れて、名目金利をターゲットとすることが難しい局面では、量的ターゲットのほうが望ましいケースがある反面、(2)資金需要が、金融システム不安などを背景に実体経済から乖離して振れる場合には、結果的に金利の乱高下と経済活動の振幅の拡大をもたらすリスクが伴う、との考え方を整理した。そのうえで、こうした政策の選択は、最終的には、実体経済とターゲットとの関係の安定性や、ターゲットの操作可能性などをよく検討して行うべきものであるとの考え方を呈示した。

 別のひとりの委員も、量的ターゲットに関する理解を整理する必要があるとしたうえで、日々の金融調節においては、朝方準備預金の積み上幅という量的なアナウンスを行い、市場ではこれをオーバーナイト金利コントロールのためのシグナルとして受け止めているが、これは量的ターゲットとは言えないとした。量的ターゲットと言った場合には、マネーサプライやマネタリーベースなどに中間的な数値目標を設定し、その目標を達成するよう、コールレート経由で(あるいは経由しないこともある)働きかけるということであるとした。しかし、そのうえで、具体的にどの指標に、どのような目標を設定し、さらにその目標を達成しうるかどうか、ということになると、様々な難しい問題に直面する、との理解を示した。

 はじめに「量的緩和」についての理解を整理した委員は、最近唱えられている主張として、「名目金利がゼロ%まで低下したあとの政策としての量的ターゲット」にも言及し、リザーブの供給をさらに増やすことで期待インフレ率を上昇させ、その結果として実質金利を引き下げていくことができるとの考え方に対して、その実効性について懐疑的な立場を採った。具体的には、(1)実質金利を引き下げて、かつマイルドなインフレにとどめるといったコントロールが金融政策として可能なのか、(2)期待インフレ率が上昇する場合は、それを織り込んで長期の名目金利も上昇する可能性が大きく、その場合は実質金利が下がらず、所期の効果が挙がらないことになるのではないか、(3)長きにわたって低金利を維持するもとでさらに政策的にインフレ期待を醸成すると、金融資産の目減りが生じ、金利収入に多くを依存する人々が一段と厳しい状況になるが、それでも構わないのか、といった問題点を挙げたうえで、これらについて答を出してからでなければ、採り得る政策にはならないとの判断を示した。

 また、ほかのもうひとりの委員は、現在のゼロ金利政策は、日本経済がデフレスパイラルに陥ることのないように採っているやむを得ざる政策であり、本来、正常で安定的な経済成長を考えた場合、世界で例のない異常な措置であるが、デフレ懸念が払拭されるまでは続けるべきであるとの認識を示した。そのうえで、こうしたギリギリの政策が目下のところ金融市場で十分に機能してきているにもかかわらず、量的緩和という言葉がひとり歩きして市場にさらなる過度な緩和期待が生じると、日本経済の再生にとってはマイナスの影響を及ぼすとの懸念を表明した。

 金融政策の対外説明に関連するもうひとつの論点として、現在のゼロ金利政策はどのような情勢になるまで維持するのかを明確にすることをどう考えるか、という点について、何人かの委員が発言した。

 ひとりの委員は、最近の金融市場では、金利の低下が、期間の短いものから長い期間のものにかけて順次波及しており、現在のゼロ金利政策が長く続くのではないかということを市場が感じ始めている、との見方を述べた。そのうえでその委員は、日本銀行が、今のオーバーナイトのゼロ金利を、デフレ懸念がなくなるまでしっかりと維持することをはっきりと表明すれば、オーバーナイト金利から長めの期間の金利までを低位に安定させることにつながり、金融緩和効果も極大化することになるのではないか、との考えを述べた。

 また別の委員は、量的ターゲットやインフレーション・ターゲットの狙いのひとつは、中長期的な政策のコミットによって市場の期待形成に何らかの働きかけをすることにあるとの認識を述べたうえで、仮にこうした政策を採るのが技術的に難しいとする場合、金利ターゲットのもとでも、ゼロ金利をどのような経済情勢になるまで継続するのかという目途を示していけば、中長期的な政策のコミットという点では、同等の効果を期待できるとの考え方を示した。その委員は、そうしたことの具体例として、市場参加者が先行きの金融政策運営について何らかの不確実性を感じる結果、金利が上昇して経済に悪影響をもたらしてしまうというようなリスクを軽減させることができることを挙げて、その方法はかなり効果的である、との見解を明らかにした。

 ほかの何人かの委員からも、こうした点を対外的に明らかにしていくことについて、共感を示す意見が述べられた。

 さらに、別のひとりの委員は、現在の金融政策運営において、対外的に「わかりやすい」メッセージをもっとはっきりと伝えるということであれば、そのメッセージは、日本銀行の経済情勢判断に関する説明と、「デフレ懸念の払拭に向けて、日本銀行としてやれることはすべてやっている」ということに尽きているとの見解を呈示した。そのうえで、その委員はそうした観点からも、毎回毎回の金融政策決定会合で、金融経済情勢の入念な点検と、質の高い議論を積み上げ、それを議事要旨等のかたちで対外的に明らかにしていくことが、大切なことであるとの考えを付け加えた。

 こうした議論を総括して、ひとりの委員が、ここ数年とってきた金融政策は、インフレでもデフレでもない物価の安定を目指すということと、それを通じて持続的な経済の成長を促すということであったので、それを踏まえて、デフレ懸念が払拭できるような情勢になるまで、現在のゼロ金利を継続するといった趣旨を、ディレクティブとは切り離して、総裁の記者会見などの場でわかりやすく市場に対して説明していってはどうか、という考え方を示し、多くの委員の支持するところとなった。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中で、政府からの出席者も発言した。まず、大蔵省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • 景気は民間需要が低調なため、依然として厳しい状況にある。しかし、公共投資が緊急経済対策の効果によって堅調に推移しているほか、信用保証制度の拡充や金融システム安定化策の進展などの下支え効果などもあって、景気はこのところ下げ止まりつつある。
    また、平成11年度予算の早期成立を受け、3月23日には、景気回復に全力を尽くすとの観点から、今年度上半期の公共事業等の施行について、上半期末における契約済額が前年度実績対比で10%を上回るような伸びとなることを目指して、積極的な施行を図ることが、閣議決定された。この結果、上半期における契約済額は過去最大となって、15兆円を超えるものと見込んでいる。

 経済企画庁からの出席者からは、次のような趣旨の発言があった。

  • 景気の現状判断は、民間需要が低調なために依然として厳しい状況にあるが、様々な政策の効果に支えられて、下げ止まりつつあるとの認識に変化はない。今朝(4月9日)の閣議で、総理から昨年11月の緊急経済対策のフォローアップに関する指示があり、今月中に報告することとなった。
    金融政策については、引き続き十分な流動性の確保に努める等、適切な運営をお願いしたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気は、下げ止まりの様相を呈している、(2)金融緩和の効果は十分に浸透しており、公的資本の投入の効果と相俟って、経済活動を相当程度下支えしている、(3)しかし、民間経済の動きは相変わらず鈍く、景気回復の展望は依然として不明確なままである、(4)今後の日本経済の処方箋は、金融システム建て直しと構造改革をしっかりと推し進めていくことであり、金融政策面からは、デフレ懸念の払拭が展望できる情勢になるまで、現在の思い切った金融緩和を継続することにより、経済活動をしっかりと下支えすることが重要である、(5)短期金融市場は、引き続き、オーバーナイト・レートがゼロ%で推移するという新たな環境に対応するための調整過程にあり、資金の流れがどう変わるかといった点を今後も注意深く見守る必要がある、というものであった。

 こうした認識を背景に、引き続き、市場機能の維持に配意しながら、これまでの金融市場調節方針を維持することが適当であるとの意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、本格的な量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標としてCPI(除く生鮮)の前年比が1%程度となること(2000年10〜12月平均の対前年同期比:0.5〜2%)を企図して、超過準備額を4月平残で前月比5,000億円程度拡大させるペースで増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、本年第4四半期(10〜12月)のマネタリーベースの前年比(四半期平均対前年同期比)が10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。」との議案が提出された。

 なお、その委員は、すでに示した幾つかの認識のほかに、テイラー・ルールの考え方——GDPギャップとインフレ率から最適な政策変数の水準を試算する算式——に則って、一定の前提のもとに計算すると、この物価目標は、マネタリーベース前年比10%弱の伸び率で達成できるとの試算結果が得られることを紹介した。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • 「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

 中原委員は、(1)今年度下期には、経済が失速する危険性が高まっており、金融政策の効果浸透のラグも考え合わせると、早期の金融緩和が必須であること、(2)金融政策が後手に回ると、内外から再び国債引き受けや、国債買いオペ増額論が高まる可能性があること、(3)金利政策では追加的な効果は期待できず、ゼロ金利誘導が限界にきている以上、新たな政策レジームを実行する必要があること、などを理由に挙げて、上記採決において反対した。

 篠塚委員は、現在のゼロ金利政策によって、経済が小康状態となっている点は評価するが、経済活動の中核である個人消費や設備投資といった内需には、十分な効果が行きわたっておらず、そうしたもとで、大量の資金供給を続けていくことの意義が不明確であるとして、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を4月13日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成11年 4月 9日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下の通りである。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • 「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

以上