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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 1月19日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年2月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 3月 5日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2001年 1月19日(9:00〜12:28、13:32〜16:08)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁) (注)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口泰(  副総裁  )
  • 武富将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 速水委員は、月例経済報告等に関する関係閣僚会議に出席のため、9:00〜10:38の間、会議を欠席した。この間、藤原委員が、日本銀行法第16条第5項の規定に基づき、議長の職務を代理した。
4.政府からの出席者
  • 財務省 村上誠一郎 財務副大臣(9:00〜12:28)
    田村 義雄 大臣官房総括審議官(13:32〜16:08)
  • 内閣府 坂井 隆憲 内閣府副大臣(9:00〜12:28)
    小林 勇造 内閣府政策統括官(経済財政—運営担当)(13:32〜16:08)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(12月15日)で決定された金融市場調節方針 1 にしたがって運営した。年末越えにRTGS導入という要因も加わる中で、オーバーナイト金利の安定を確保するため、潤沢な資金供給を続けた。この結果、オーバーナイト金利は、総じて0.25%ないしそれを若干下回る水準(加重平均値は0.24%)で推移した。なお、1月16日からは、年度末(3月末)越えの資金供給を開始した。

  1. 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

 国内金融市場では、年明け後、「円安、株安、長期金利低下」の動きが一段と進んだ。

 株価についての市場の見方を窺うと、現状はやや下げ過ぎであり、これ以上大きく下げる可能性は小さいが、年度末を控えて大きな上昇も望みにくいとの見方が多い。

 長期金利は一昨年5〜6月以来の低水準に低下している。金利先物のイールド・カーブをみても、市場の先行きの金利上昇予想は一段と後退している。この間、先週から、いわゆる「ジャパン・プレミアム」が、ごく僅かながら観察されている。

 為替市場では、足許では1ドル117〜119円台まで円安の動きが進んでいる。この背景としては、(1)日本経済に対する先行き不透明感、(2)日本の金融システム問題再燃に対する懸念、(3)日米通貨当局者の発言が円安・ドル高容認の姿勢を示すものと市場参加者に受け止められていること、が挙げられている。

3.海外金融経済情勢

 米国の実体経済は減速傾向が一段と明らかになっている。すなわち、設備投資の減速に加え、個人消費の面でも、小売売上高は昨年末にかけて急速に伸びが鈍化しており、消費者コンフィデンスも、水準はなお高いものの、方向としては低下している。生産も、昨年末にかけて急速に伸び率が鈍化し、一部の在庫には積み上がりの傾向がみられる。この間、労働需給はなおタイトな状態が続いているが、雇用者数の増加テンポが鈍化するなど、需給緩和の兆しもみられる。

 こうした中で、米国連銀は1月3日、政策金利であるFFレートの誘導目標を0.5%引き下げた。1月末のFOMC(連邦公開市場委員会)については、多くの市場参加者が再度のFFレート引き下げを予想している。

 米国金融市場では、ハイ・イールド債のスプレッド拡大には歯止めがかかりつつあるが、なお、その水準は高い。また、株価も足許では上昇傾向にあるが、依然としてボラティリティの大きい状況が続いている。こうしたことからみて、金融環境のタイト化には歯止めがかかりつつあるが、なお、不安定な状況が続いていると判断される。

 先行きについて、米国の市場関係者やエコノミストの間では、本年上期の成長率はいったんかなり低下するが、下期には再び加速し、2001年を通してみれば大幅な減速は回避できるとの見方が多い。ただ、こうしたシナリオの蓋然性について判断を下すには、なお材料不足である。

 ユーロエリアでは、夏場以降、独仏で生産にスローダウンの兆しが見られているが、一方で、減税などの効果もあって、消費者コンフィデンスは改善しており、総じてみれば、経済は底固く推移している。

 アジア諸国では、昨秋以降、IT関連輸出のウエイトの高い韓国、台湾で、輸出が減速し、生産の伸びも鈍化するなど、景気のスローダウンが明確となっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気は、緩やかな回復傾向を続けているが、そのテンポは輸出の減速により鈍化している。

 最終需要面をみると、設備投資は増加を続けている。個人消費は、依然回復感には乏しいものの、一部には明るい指標もみられている。公共投資も減少テンポが鈍化している。

 一方、純輸出は輸出の減速と輸入の増加により減少している。なお、米国クリスマス商戦が総じて不振に終わる中で、米国内のパソコン販売の下振れの影響が、日本の電子部品や半導体製造装置などの輸出にも表れているほか、本邦自動車メーカーの一部には、米国乗用車販売の下振れを受け、輸出計画の下方修正を検討する動きがみられる。

 この間、住宅投資も徐々に減少している。

 生産の増加テンポは、輸出の減速を主因に、足許では鈍化している。一方で、企業収益は改善を続けている。家計の所得環境は引き続き厳しい状況にあるが、労働需給は改善傾向にあるほか、賃金もわずかながら前年を上回って推移している。

 先行きについては、当面、設備投資の増加が見込まれるほか、補正予算の成立を受け、公共投資もいったん増加することが展望される。一方、純輸出については、海外景気の展開次第ではあるが、当面は減少が見込まれる。このように、内需と外需が綱引きする展開の中で、目先1〜3月期の生産は横這い程度で推移する可能性が高い。そうした中で景気回復の持続が展望できるかどうかは、企業部門を起点とする所得創出メカニズムの継続性にかかってくる、と考えられる。

 この点、まず、輸出減速の輸出企業への影響が予想されるが、その一方で、(1)電子部品生産の多様化が進んでいることや、(2)円安や原油価格の反落が収益にプラスに作用することから、収益の下方修正の程度は小幅に止まると考えられる。民間調査機関の収益予測をみても、2001年度の企業収益が減益になるとの予想はみられていない。このため、現段階では、大規模な設備投資の見送りや雇用削減といったドラスティックな調整が生じることは考えにくい。ただ、海外景気の動向次第では、輸出や生産へのマイナスの影響がさらに強まる可能性もあり、この点には注意が必要である。

 また、株価の低迷が続く中で、企業や家計の心理が広範に冷え込むことがあれば、それ自体が景気にマイナスに作用する可能性も考えられる。

 これらのダウンサイド・リスクが、前月に比べ高まっていることは否定できず、十分注視していく必要がある。

 物価面では特に大きな動きはない。技術進歩の速い電気機械等の値下がりや公共料金の引き下げ、流通合理化などを反映して、国内卸売物価、消費者物価とも、幾分弱含みで推移している。先行きについても、当面、総じてやや弱含みで推移する可能性が高い。

(2)金融環境

 足許の金融環境を評価していく上では、株価低迷の影響が注目点となる。具体的には、(1)金融機関の融資姿勢、(2)社債やCPなど、直接金融市場を通じた企業の資金調達、(3)これらを通じた企業金融の環境、などに変化がみられるかどうかが問題となる。

 これらの点についてみると、まず、民間銀行は、貸出先の信用力を慎重に見きわめつつ、優良企業向けを中心に、貸出を増加させようとする姿勢を続けており、融資姿勢の面には殆ど変化は窺われていない。

 また、市場での調達については、エクイティ・ファイナンスのごく一部に、株式の公開が先送りされたり、調達規模が圧縮されるケースがみられるが、社債の発行は安定的に推移しているほか、CPの発行はむしろ増加しているなど、全体として大きな変化は生じていない。

 さらに、金融環境に関する各種の企業アンケート調査にも目立った変化はみられていない。以上を踏まえると、企業金融はこれまでと同じ程度の緩和された状態が継続していると判断される。

 ただ、株価の動向が企業の資金調達環境に及ぼす影響については、今後とも注視していく必要がある。

 昨年12月のマネタリーベースは、前年比ではマイナス(−1.1%)となった。これは、1年前の99年12月から2000年1月にかけて、「コンピューター2000年問題」への対応のため、現金や日銀当座預金への需要が急増し、マネタリーベースの残高が大きく増加していたためである。因みに、12月のマネタリーベースの残高水準(約68兆円)は、ここ1年間の平均的な水準(約65兆円)を上回っている。

 マネーサプライ(M2+CD)は、このところ前年比2%程度の伸びが続いている。なお、1〜3月期のM2+CDの前年比も、10〜12月期と同程度の伸びとなる見通しである。

 企業の資金調達コストは、短期は横這い圏内で推移しているが、長期は市場金利の動向を背景に弱含んでいる。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状について、大方の委員は、前回会合以降の経済指標や、ミクロ情報などを総合的に勘案したうえで、「景気は緩やかな回復を続けているが、そのテンポは輸出の減速により鈍化している」との判断を共有した。

 すなわち、これらの委員は、(1)米国をはじめとする海外経済のスローダウンの影響が、輸出や生産の面に表れている、(2)この間、金融市場では、円安や株安や長期金利の低下といった、市場の景況感の慎重化を示す動きが、一段と進んでいる、(3)ただし、設備投資や企業収益、個人消費、雇用・所得環境など、実体経済に関連する指標は総じて「緩やかな回復」に沿った動きを示している、との認識を示した。

 ひとりの委員は、こうした景気の現状について、(1)景気は緩やかな回復軌道になお乗っている、(2)二極分化や構造調整を抱えながらの回復という点を踏まえれば、ここまでは回復してきたといえるが、(3)足許では、価格弱含みのため景気回復が企業収益の増加に直結しにくいうえ、(4)輸出・生産が減速しており、この結果、景気の「小休止」ないし「踊り場」感が強まっている、(5)ただ、今のところ後戻りの気配はない、と述べた。

 別の複数の委員も、景気の「踊り場」感が強まっているとの見方には、基本的に同意した。

 次に、個々の需要項目について、議論が行われた。

 公共投資について、ひとりの委員は、公共工事の請負金額は、足許では前年比のマイナス幅が縮小し、前月比ではプラスとなってきており、今後、補正予算の執行に伴って、公共投資は春以降は前年比プラスに転じるであろう、との見方を述べた。

 輸出動向を巡る議論では、多くの委員が、(1)米国経済のスローダウンが一段と明確になっていること、(2)東アジア諸国のうち、情報関連輸出の依存度の高い韓国、台湾でも、これまでの高い成長の反動や輸出の減速を背景に、景気の減速が明らかになっていること、を指摘した。そのうえで、こうした海外経済の減速の影響を受け、足許では日本の輸出も減速している、との判断を示した。

 ひとりの委員は、輸出の減速の程度は、これまでのところは企業の見通しの範囲内に止まっているが、先行き、純輸出はさらに減少することが予想される、と述べた。別のひとりの委員は、情報関連を中心とする輸出の鈍化は、これまで景気のリード役を果たしてきた電気機械業種の景況感に影響を与えているようにみられ、こうした企業マインド面を通じた影響についても注意が必要である、と述べた。

 次に設備投資について、大方の委員は、機械受注や建築着工床面積などの関連指標からみて、情報関連を中心に増加基調を続けている、との見解を示した。

 この間、ひとりの委員は、現時点で各種の先行指標が増加基調を維持していることからみて、少なくとも今後しばらくの間は、設備投資の増加基調は続く可能性が高い、との見方を示しつつも、(1)機械受注をみると、電気機械からの受注の伸びが鈍化傾向にあること、(2)株価の低迷が企業のマインドや設備投資スタンスに影響を与えている可能性があること、を指摘した。

 こうした議論を踏まえ、大方の委員は、企業収益や設備投資の増加基調に、現時点で変調が生じているわけではなく、企業部門を起点とする景気回復のモメンタムは維持されている、との見解を共有した。

 次に、家計部門の動向について、議論が行われた。

 個人消費について、大方の委員は、販売関連指標は概ね一進一退の範囲内で推移しているとの判断を示した。ただし、このうち何人かの委員は、前回会合以降、乗用車・家電販売、旅行取扱高など、比較的堅調な指標もみられることを指摘した。

 ひとりの委員は、(1)12月の自動車販売が3か月連続で前年比プラスとなったこと、(2)11月の家電販売(NEBA統計ベース)も前年比+12%と12か月連続の前年比プラスとなり、製品別の内訳をみても、世代交替が進みつつあるVTR(DVDに代替)、ワープロ(パソコンに代替)、電話機(携帯電話に代替)の3つを除き、全てが増加していることを指摘した。そのうえで、耐久消費財の販売は総じて回復しつつある、との見方を述べた。

 さらにこの委員は、(1)年末年始の海外旅行者数が過去最高となったこと、(2)百貨店・スーパー等、既存の小売業態の売上高が前年比マイナス基調を続けている一方で、大型アウトレット店や衣料品の新興勢力の販売は好調であること、(3)消費財供給数量は96〜97年の水準まで回復していること、を指摘し、消費は二極化の動きが目立っているが、全体としては「平時」——好況でも不況でもない普通の時——に戻っている、との評価を示した。

 この間、別のひとりの委員は、販売統計に断片的に改善の動きがみられることは確かであるが、消費動向全体について、現段階で明確に上向きの変化が出てきたとはいえない、と述べた。

 また、個人消費の背景となる雇用環境について、多くの委員は、改善の方向にあるとの見方を維持した。

 このうちひとりの委員は、(1)有効求人倍率が改善を続けていること、(2)失業率はなかなか下がらない状況が続いているが、昨年秋以降、労働力人口比率(労働力人口/15歳以上の人口×100)が上昇していることからみて、これまで職探しを諦めていた人々が労働市場に再び参入していることが影響している、との見解を示した。

 別のひとりの委員も、雇用情勢の改善を示す一例として、毎月勤労統計ベースの常用雇用者数に加え、労働力調査ベースの就業者数も、最近では前年比プラスに転じていることを指摘した。その一方で、企業がなお過剰雇用問題を抱えており、この面でのリストラ圧力が残存している中では、労働市場の流動化や新産業の育成といった、インフラ面での対応が政策課題である、と付言した。

 さらに、所得面についても、何人かの委員が、名目賃金が若干の前年比プラス基調を維持していることを指摘し、雇用・所得環境は全体として改善の方向にある、との見解を示した。

 ただし、このうち一人の委員は、家計消費の環境を、概念的にフローとストックとに分けて考えると、(1)フロー・ベースでは、雇用・所得環境は改善方向にあるが、(2)ストック・ベースでみると、資産価格の低下やこれまでの所得減の累積効果から、ネット・ワースは十分に修復しているとはいえず、これが消費性向を抑える方向に働いている、との考え方を示した。

 多くの委員は、以上のような最終需要の動向、とりわけ輸出の減速を受け、足許で生産の伸びが鈍化していることを指摘した。

 何人かの委員は、1〜3月期の生産は、純輸出の減少を主因に横這い圏内となる可能性が高い、との見方を示した。このうち複数の委員は、これまで、生産の増加を起点とする企業部門での収益や設備投資の増加が景気回復を支えてきたことを踏まえれば、今後生産が横這いに転じた場合に、企業の収益や設備投資スタンスにどのような影響が及ぶのか、警戒的にみていく必要がある、と述べた。

 別のひとりの委員は、需要の面で、外需から国内民需へのバトンタッチが徐々に進み、これによって引き続き生産が支えられていくというのが、自律的回復の基本的なシナリオであるが、このうち、外需の減速が予想以上に早く到来していることは否めない、と述べた。その一方でこの委員は、携帯電話の新世代端末など、外需を代替し得る前向きの国内需要も徐々に出てきている、とコメントした。

 この間、景気についてとりわけ慎重な見方をとるひとりの委員は、景気は既に崩れ始めている、との判断を示した。

 その理由として、この委員は、(1)11月の景気動向指数をみると、一致指数は19か月振りに50%割れ(42.9%)となり、先行指数も改定値では50%割れとなる可能性が高い、(2)一致指数の個別系列11のうち過半の指標が昨年8月以前にピークをつけた可能性が高い、(3)機械受注をみると、IT関連需要に減少傾向がみられるほか、達成率が下落しており、設備投資のモメンタムは失われつつある、(4)生産指数の実現率が5か月連続のマイナス、予測修正率が3か月連続のマイナスとなっている、(5)所得環境は必ずしも改善しておらず、家電販売や旅行の伸びも、BSデジタル放送の開始や「コンピューター2000年問題」の反動といった一過性のものである可能性が高く、消費主導へのバトンタッチは失敗する可能性が高い、と述べた。さらに、平成不況は3度の不況をもって終わると考えており、その3度目に入りつつある可能性が高い、との見方を示した。

 物価について、多くの委員は、景気回復のテンポが緩やかなものにとどまっていることに加え、技術進歩を背景とする電気機械などの価格低下や、輸入を活用した流通合理化の動きなどを反映して、幾分弱含みで推移しており、先行きについても、当面はやや弱含みで推移する可能性が高い、との見解を共有した。

 この間、ひとりの委員は、日本の大手自動車メーカーから始まった企業間の素材・中間財を巡る値下げ交渉は、ここにきて殆ど終息しつつあり、今後、国内卸売物価は下げ止まっていく可能性が高い、との見方を示したうえ、これが今後の景気のマインド面での下支えになることを期待したい、と付け加えた。

(2)経済・物価の先行きの展望とリスク

 景気の先行きについて、大方の委員は、足許、景気回復のテンポは鈍化しているが、「経済・物価の将来展望とリスク評価」(昨年10月公表)で示した、「緩やかな回復の継続」という標準的なシナリオを変更するほどの材料が得られているわけではない、との見方を共有した。

 すなわち、何人かの委員は、(1)企業収益や設備投資の増加基調は維持されており、企業部門を起点とする回復メカニズムが維持されている、(2)家計の雇用・所得環境も改善傾向にあり、上記の回復のメカニズムが、徐々にではあるが家計にも及んでいるように見受けられる、と指摘した。

 ただ、ひとりの委員は、(1)2000年度前半の成長率は、7〜9月期のGDPの下方修正を織り込めば、前期比ベースではほぼフラットとなるとみられる、(2)こうした中で、景気の「踊り場」的な状況が当面続くのであれば、上記「経済・物価の将来展望とリスク評価」で示した、2000年度成長率の「政策委員の見通し」に比べ、実際の成長率は下振れる可能性が高い、との見方を示した。

 また、各委員は、「経済・物価の将来展望とリスク評価」で指摘していたダウンサイド・リスクのうち、(1)米国や一部東アジア諸国など、海外経済の減速に由来するリスクと、(2)内外金融市場の動向に由来するリスクが、一段と高まっている、との認識を示した。

 さらに、複数の委員は、設備投資や個人消費は景気に遅行する傾向があり、これらの堅調が維持されている間に、上記の2つのリスク要因が改善の方向に向かわない場合には、いずれ景気全体にも影響が及んでくる可能性がある、と指摘した。

 こうした認識を踏まえ、多くの委員は、景気回復のメカニズムが今後とも維持されていくかどうかという観点から、上記の2つのダウンサイド・リスクに、これまで以上に注意していく必要がある、との見解を共有した。

 次に、それぞれのリスク要因について、議論が行われた。

 まず、海外経済、とりわけ米国経済の動向と、その日本経済への影響について、各委員が発言した。

 多くの委員は、米国経済が、これまでの5%前後といった高い成長率から、より低めの成長パスに移っていく過程で、本年前半の前期比ベースでみた成長率はかなり低下する可能性が高い、との見方を示した。

 このうち複数の委員は、米国は財政・金融政策の両面で政策対応の余地が大きいことなどを踏まえると、ソフト・ランディングの蓋然性はなお高い、と述べた。

 一方で、別の複数の委員は、米国経済がこれまで非常に速いテンポでの拡大を続けてきただけに、調整がいったん始まってしまうと、これが長引いたり、マグニチュードが大きくなる可能性も排除できない、と指摘した。このうちひとりの委員は、具体的な留意点として、(1)家計部門の貯蓄率の低さ、(2)負債の膨張、(3)個人の株式保有が多いこと、を挙げた。

 こうした議論を総括する形で、何人かの委員は、「米国経済が本年前半にいったん減速した後、後半に再び加速する」というシナリオを強く支持する材料も否定する材料も、現段階で十分に得られているわけではなく、先行きについては、なお不確実性が高い状況とみておくべきである、と述べた。

 この間、米国経済についてとりわけ慎重な見方を示すひとりの委員は、(1)米国で盛んなストック・オプションは、株価下落の際には個人消費と企業収益の両方にマイナスに作用する、(2)米国株価が底を打つのは2003年前後となる可能性が高いとみている、(3)すでに始まった在庫調整はいずれ設備投資調整にも結びついていくと考えられ、経済の調整が本年前半で終わるとは考えにくい、(4)カリフォルニアの電力危機は、IT関連企業等の電力調達に影響を及ぼしており、米国全体にとってもエネルギー不足が経済活動の制約となりつつある、と述べた。さらに、11月のOECDの景気先行指数は前月比−0.7%となっており、世界経済全体でも失速しつつある、との見方を示した。

 また、何人かの委員は、仮に米国経済のソフト・ランディング・シナリオが維持され、調整が本年前半で一段落するとしても、この間の景気減速が東アジア諸国や日本に対してどのような影響を及ぼすのか、なお注視していく必要がある、とコメントした。

 こうした議論を踏まえ、各委員は、米国経済をはじめ、世界経済の動向には、今後とも十分な注意が必要である、との見解を共有した。

 次に、金融市場において、「円安・株安・長期金利低下」という動きが進んだことについて、その解釈や経済に与えるリスクを巡り、議論が行われた。

 何人かの委員は、個人消費や設備投資関連など、実体経済指標が総じて「緩やかな回復」という流れに沿った動きを示す中で、ファンダメンタルズと株価との乖離が目立っている、との見方を示した。

 その背景について、何人かの委員は、(1)これまで、内外株式市場において、「ネットバブル」的な期待がかなり大きく膨らんでいたため、その反動が大き目に出ていること、(2)足許の海外経済の減速について、金融市場はそのマグニチュードや日本への影響をかなり慎重にみていること、を理由として挙げた。

 また、このうち複数の委員は、市場では、(1)株価の下落により、金融システム問題などの構造問題が再燃するのではないかといった懸念が生じ、(2)このことが一段の景況感の慎重化を招く、といった心理的な悪循環が生じている可能性を指摘した。

 さらに、このうちひとりの委員は、年金や社会保障の先行きに対する不安や、財政再建の道筋がなかなか見えないことも、企業や家計のマインドに影響を及ぼしている、と述べた。

 この間、株価についてとりわけ慎重な見方を示すひとりの委員は、株価は、目先についてもなお底を打ったとは言い難く、中期的にも、先行きさらに下落する可能性が高い、との見方を示した。

 なお、ひとりの委員は、足許の株価下落は需給バランスの崩れにも起因しており、したがって、経団連が提案している自社株取得保有の自由化は、インサイダー取引への対応を万全にした上であれば、機動的な企業組織の再編を容易にするという点で意味があるほか、持ち合い解消の受け皿を作るという意味でも株式市場の安定につながる、との見解を示した。

 別のひとりの委員は、株価形成は基本的に市場に委ねるべきものであり、株式市場活性化のためには、日本の構造改革全体が前に進むイメージをより具体的に市場に伝える政策と企業努力が不可欠である、と述べた。そのうえで、何らかの対策があり得るとすれば、(1)投資家層の厚みを増す市場整備であること、(2)外人投資家の比率が高まっている中で、国際的な観点からも違和感を生じないものであること、が必要であると指摘した。

 次に、こうした金融市場の動向が実体経済に及ぼし得る影響についても、議論が行われた。

 ひとりの委員は、実体経済が金融市場の動きに、いわば自己実現的に鞘寄せされてしまうリスクへの注意を喚起したうえで、こうしたリスクが現実化するルートを、(1)企業や家計のマインド面への影響を通じるルートと、(2)銀行の融資姿勢の慎重化や信用リスク・プレミアムの拡大など金融面を通じるルート、の2つに整理した。

 そのうえで、この委員を含む複数の委員は、(1)消費者コンフィデンス関連の指標に大きな変化はみられていないほか、耐久消費財の販売も、最近ではむしろ堅調が目立つこと、(2)銀行の融資姿勢やクレジット・スプレッドなどからみて、企業金融面にも目立った影響は及んでいないこと、を指摘した。

 また、このうちひとりの委員は、円安や長期金利の低下は、景況感の悪化に市場が自律的に反応し、より緩和的な金融環境を実現しているとみることもできる、とコメントした。別のひとりの委員も、現在程度の円安であれば国内景気や株価にプラスとみられ、対外的な関係にも大きな問題は生じないであろう、と述べた。

 ただし、何人かの委員は、現在のような株価の低迷が続けば、これが、金融システム問題の再燃や金融機関の融資姿勢の慎重化といった新たな負のショックの起点となるリスクも否定できない、と述べた。

 以上のような議論を経て、多くの委員は、内外資本市場の不安定な動きは、現時点では「緩やかな回復の継続」という標準的なシナリオの変更を迫るような影響を実体経済面に及ぼしているわけではないが、今後、その影響には十分注意すべきである、との見解を共有した。

 また、多くの委員は、(1)ダウンサイド・リスク要因が高まりをみせる中、期末を控えた金融市場において、今後、流動性の面で何らかの問題が出てこないとも言い切れない、(2)市場の動きを仔細にみると、エクイティ・ファイナンスの先送りや、ごく僅かな「ジャパン・プレミアム」の発生など、限界的な変化もみられている、(3)仮に、金融市場で何らかの混乱が生じれば、景気回復の流れにも影響が及びかねない、と指摘した。そのうえで、何人かの委員は、中央銀行として、こうした事態を未然に防ぐよう、何らかの対応を考えるべきではないか、との問題意識を示した。

 この間、多くの委員は、原油価格は昨秋に比べてかなり水準を下げており、この面でのリスクはひとまず後退している、と述べた。

 なお、ある委員は、(1)OPECは消費国の在庫を低水準に抑えるため、中長期的戦略としてより積極的に減産を行っている、(2)民間石油会社も在庫を極力圧縮する方針で臨んでいる、(3)石油産業のインフラの手当てが不十分な状況となってきている、(4)こうした中で原油価格のボラティリティは上昇している、と指摘した。そのうえで、原油価格については、相場が中期的に転換しているので、当面は25〜30ドル/バレルで推移する可能性が高い、との見方を示した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)景気は緩やかな回復傾向を続けているが、輸出の減速により、回復テンポは鈍化している、(2)また、海外経済の減速や内外資本市場の動向に由来するリスクが、一段と明確になってきている、(3)物価は、先行きやや弱含みで推移するとみられる、(4)金融は緩和された状態が続いている、といったものであった。

 こうした情勢判断を踏まえ、委員の大勢は、当面は金融緩和スタンスを継続して景気回復を支援していくとの観点から、現在の金融市場調節方針を継続することが適当である、との判断で一致した。そのうえで、海外経済や内外資本市場の動向といったリスク要因に、これまで以上に注意を払っていく必要がある、との見方を共有した。

 このうち何人かの委員が、金利引き下げの選択肢について言及した。

 ひとりの委員は、先行き、ダウンサイド・リスク要因が「緩やかな回復の継続」というシナリオ自体に影響を及ぼす事態となれば、金利の引き下げも検討すべきである、と述べた。また、別のひとりの委員は、(1)金融システム不安がシステミック・リスクにつながるか、(2)実体経済が現在の「踊り場」から後戻りする懸念が出てくる時には、弾力的な政策対応が必要と思う、と述べた。

 さらに別のひとりの委員は、予防的な政策運営という観点からは、すでに金利を引き下げてもよい状況である、と述べた。一方で、オーバーナイト金利の引き下げ余地はきわめて限られており、また時間軸効果を含むゼロ金利政策や量的緩和等の一段の緩和策については、注意深く検討すべき点が残されている、とも指摘した。そのうえで、金融市場に限界的な変化が見られている中で、現実に流動性の面での問題が生じるまで政策対応を躊躇することは妥当とは思われず、この面で何らかの対応を準備することを条件として、現状維持を支持したい、と述べた。

 さらに、金融政策だけでなく、経済政策全体のあり方について、何人かの委員が発言した。

 ひとりの委員は、市場の動きを巡っては、とかく株価に焦点が当たりがちであるが、仔細にみると、長期金利は1.6%台から1.5%台へと低下し、為替も対米ドルで5%以上の円安となっているなど、株式市場でのみ突出した動きが起こっているわけではない、と指摘した。そのうえで、足許の市場の動きは、株式の短期的な需給を反映したものというよりも、市場参加者に広く共有されている先行き不透明感を反映している可能性が高い、と述べた。

 こうした認識に立って、この委員を含む何人かの委員は、バブル崩壊後、財政・金融というマクロ政策の面から大規模なサポートを続けてきたにもかかわらず、依然としてこうした先行き不透明感が消えない事実は、重く受け止めなければならない、との見解を示した。そのうえで、この事実は、企業や金融機関のバランスシート問題やグローバル競争への対応力の問題など、日本経済の構造問題に対する内外の懸念が根強いことを物語っている、との見解を示した。

 これらの委員は、市場の不安感を根本から解消し、日本経済の長期的な展望を切り拓いていくためには、経済の構造問題に正面から取り組み、供給サイドを強化していく努力が不可欠である、と主張した。

 このうちひとりの委員は、今年の日本経済の課題は、設備・債務・雇用の「3つの過剰問題」の解消と不良債権問題の処理である、と強調した。そのうえで、(1)構造改革は民間の自助努力で取り組むべきである、(2)政府は規制緩和や税制面でのサポートなど環境整備に徹するべきであるが、先行きのスケッチを明確に示すことが重要である、(3)不良債権処理は金融機関自らが進めるべきであるが、日本銀行も信用秩序維持の観点から、事態の正確な把握と金融庁への提案・サポートに力を注ぐべきであり、また必要に応じて、この3月末までに公的資金の投入ないし再投入を考えるべきである、と述べた。

 この間、年度末を控えた金融市場の安定性確保の問題を巡り、多くの委員が発言した。

 ひとりの委員は、(1)銀行が期末越えの資金調達に向けて動き始めている一方、(2)企業側では、株価の低迷を背景に、銀行の融資姿勢が期末にかけて慎重化するのではないかとの懸念が強まっているとの見方を紹介し、期末越えの資金供給を潤沢に行うことが重要であり、金融調節面での対応に万全を期すべきである、と述べた。

 別のひとりの委員は、現在、金融市場では、マグニチュードの面では大きく差があるにせよ、先行き警戒感の増大の中で株安が進み、ジャパン・プレミアムも観察されるなど、98年後半にみられた現象と方向としては類似した動きがみられる、と述べた。そのうえで、市場の安定性の面で万が一にも問題が生じることのないよう、何らかの方策を考える余地はないか、との問題意識を示した。

 さらに別の何人かの委員も、金融市場の先行き不透明感が強い中で、今後、年度末を控えた市場に、流動性の面で問題が生じる可能性は否定できない、との認識を示した。そのうえで、97年や98年の流動性逼迫の際には、銀行自身の流動性懸念やクレジット・クランチ、リスク・プレミアムの拡大などを通じて、結局は実体経済にも影響が及んでおり、同様の事態は避けなければならない、と述べた。

 こうした認識に立って、ひとりの委員は、金融機関の流動性調達に支障をきたすことがないよう、日本銀行の流動性供給手段を改善する余地がないか、検討してはどうか、と提言した。この提言に、多くの委員が賛意を示した。

 これらの討議を受け、議長は、次のような見解を示した。

(1)海外経済の減速と内外資本市場の不安定な動きという、2つのリスクが増大している中で、今後、年度末を控えている金融市場に、何らかのショックが及ぶ可能性は否定できない。

(2)金融市場の動揺が出発点となって、経済活動に悪影響が及ぶことがあれば、景気回復に影響を与え、構造改革の芽も摘んでしまうことになりかねない。金融市場の安定性を確保していくことは、中央銀行の重要な責務であり、そのような事態が生じないよう努めていく必要がある。

 さらに、市場の安定を確保することは、現在の金融政策の緩和効果を確保するためにも、大事な課題である。

(3)次回会合では、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すため、市場への流動性供給方法に関する改善策について検討することとしたい。

 こうした議長の見解に対し、大方の委員が賛意を示した。これを受けて、議長は、市場への流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないかを検討し、次回決定会合までに報告するよう、執行部に指示した。また、本議長指示の対外公表方法については、後ほど討議することとされた。

 この間、ひとりの委員は、CPI上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

 その理由としてこの委員は、(1)内外のリスクが顕現化しつつある中、アヘッド・オヴ・ザ・カーヴで大胆に新しい政策を採るべきである、(2)「経済・物価の将来展望とリスク評価」で示した「緩やかな景気回復の継続」という、多くの委員が描いてきた標準シナリオは崩れつつあり、潜在成長率と考える1.5〜2%まで景気を加速させ、一定期間それをキープすべきである、(3)物価指数が全般に前年比マイナスとなっており、未曾有のデフレが継続している、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済は企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが継続し、全体としては緩やかな改善が続いている。ただし、雇用情勢は依然として厳しく、個人消費も概ね横這い状態が続いているなど、家計部門の改善が遅れている。こうした中、物価は、原油価格の高騰にもかかわらず、消費者物価指数やGDPデフレーターの前年比マイナスが続いており、物価の下落が経済に与える影響について留意する必要がある。また経済の先行きについては、株式市場の動向や米国経済の減速等、留意すべき要因が増大している。米国では先般連邦準備制度が機動的に金利引き下げを行ったところであるが、これらの要因がわが国経済に及ぼす影響について注視していく必要があると考えている。
  •  政府としては、昨年10月に「日本新生のための新発展政策」を取りまとめ、これを受けて平成12年度補正予算を編成し、現在その円滑かつ着実な執行に努めている。さらに平成13年度予算については、わが国の新たな発展基盤の構築に資する施策に一層の重点化を図りつつ、11年度、12年度当初予算と同水準の公共事業関係費を確保するなど、自律的な景気回復の実現に向けて十分な対応を行うこととしている。一方税制面では、企業組織再編成に関わる税制を整備するほか、新たな住宅ローン減税制度を創設するとともに、中小企業投資促進税制を継続するなどの措置を講じている。政府としては、これら諸施策を着実に実施することにより、21世紀の新たな発展基盤を構築しつつ、経済を自律的回復軌道に着実に乗せるよう全力を尽くしてまいりたい。
  •  日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施とあわせ、経済を民需中心の本格的な回復軌道に乗せていくよう、経済や市場の動向を注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策運営を行って頂きたい。

 内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  経済動向については、財務省からの出席者から発言があった通りである。すなわち、全体としては緩やかな改善が続いているが、米国経済や株価など、懸念要因がやや顕在化しつつある。
  •  こうした状況を踏まえ、政府は経済を自律的回復軌道に乗せていくため、引き続き景気回復に軸足を置いて政策運営を行っていくこととしている。
  •  昨年12月19日に閣議了解された「平成13年度の経済見通しと経済運営の基本的態度」では、次の3項目を重点として、適切かつ機動的な経済運営を行うこととしている。第1に、景気を自律的回復軌道に乗せること、第2に、時代を先取りした経済構造改革を推進し、IT革命の実現等による中長期的な経済成長力の向上を図ること、第3に、多角的貿易体制の維持・強化、アジア・太平洋地区における重層的な地域協力の枠組みの構築等に努めることにより、世界経済の持続的発展に貢献することである。このような経済運営の下、平成13年度は緩やかな雇用・所得環境の改善と企業の増益基調の継続を背景として、個人消費・設備投資等の民需を中心とした経済成長を続ける姿が定着し、実質GDP成長率は1.7%程度になる見通しである。
  •  日本銀行におかれても、今後とも金融・為替市場の動向を注視しつつ、豊富でかつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き景気回復に寄与するよう金融政策を運営して頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、現在の金融市場調節方針を継続することが適当である、という意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定し、マネタリーベースの拡大を図ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2002年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2001年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で15%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)生産は既にピークアウトしている可能性が高く、設備投資も失速する可能性が高まっているほか、輸出も米国の景気減速等を背景に減少に転じていること、(2)内外の株価が大幅に下落しているもとで、現在の政策では不十分と考えられること、(3)物価の下落が顕著であり、未曾有のデフレが続いているとみられること、(4)政策目標として何らかの数値を掲げないと、アカウンタビリティを果たしていることにはならないと考えること、の4点を理由に、上記採決において反対した。

VI.対外公表文「議長から執行部への指示について」の検討

 本日、議長が執行部に対し、市場への流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないか検討し、次回の決定会合までに報告するよう指示した件につき、その対外公表の方法について議論が行われた。

 何人かの委員は、議長の指示について対外公表を行うことのメリットとリスクを整理した。

 まず、メリットとしては、市場にやや不安定な動きがみられる中で、日本銀行が流動性供給方法に関する検討を開始した事実を伝えることが、市場の安心感の醸成に寄与し得る、との考え方が示された。一方で、(1)議長から執行部への指示という事実を公表するだけでは、政策委員会の考え方が市場等に十分に理解されず、かえって、具体策への過大な期待が生じ、これが後に失望につながるリスク、(2)日本銀行が金融システムにおける流動性リスクを強く懸念しているといった不安感を煽ってしまうリスク、も指摘された。

 こうしたメリットとリスクを比較考量した上で、大方の委員は、現在の金融市場の状況を踏まえれば、検討を指示した事実を対外的に公表することが望ましい、との見解に至った。

 次に、具体的な公表方法について、検討が行われた。

 ひとりの委員は、(1)本日、対外公表文を発出する方法と、(2)2営業日後(1月23日)に予定されている記者会見において総裁が説明する方法がある、と整理した。そのうえで、対外公表文による方法は、「日本銀行が特定の金融システム問題について強い懸念を持っている」といった誤解を招く可能性も考えられ、総裁記者会見による方がリスクが小さい、との考え方を述べた。

 これに対し、多くの委員は、(1)市場の安定を確保するという観点からは、極力早めに公表することが望ましい、(2)その上で、公表に伴うリスクの問題については、公表文の表現を工夫することで対応したい、との見方をとった。

 こうした議論を踏まえて、議長は執行部に対し、対外公表文の原案の起草を指示した。執行部による起草作業は、決定会合を一時中断して行われた(3時13分中断、3時26分再開)。

 会合再開後、執行部から提出された対外公表文の原案について、政策委員による検討が行われ、最終的な文案として「議長から執行部への指示について」(別添2)が作成された。これを公表することにつき、採決が行われた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

中原委員は、(1)オーバーナイト金利0.25%という調節方針自体に反対の立場であること、(2)仮に0.25%を前提に考えると、期末越えに関しては、「コンピューター2000年問題」やRTGS絡みの年末越えにも十分対応できていること、(3)それ以上の事態に備える趣旨であれば、金融市場調節方針に「状況に応じて十分な資金供給を行う」旨をなお書きで加えた方が効果的であること、を理由に、上記採決において反対した。

篠塚委員は、流動性供給の方法を検討することは必要であり、それ自体には賛成である、と述べた。しかし、議長が検討を指示した事実を公表するだけでは、市場参加者などに対し、政策委員会における議論の考え方が十分には伝わらず、かえってさまざまな憶測や誤解を招く可能性が高いとして、上記採決において反対した。

 これを受けて、「議長から執行部への指示について」が、同日公表されることとなった。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を1月22日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)景気は既に停滞局面に入り、下落を始めているとみていること、(2)個人消費に関し、「一部の指標にやや明るさが窺われている」との記述には同意できないこと、(3)適正在庫水準が下がっている可能性があるので、在庫について「全体としてなお低水準」とは判断できないこと、(4)所得環境もより慎重にみるべきであること、などを理由に、上記採決において反対した。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(11月30日)と前回会合(12月15日)の議事要旨が、各々全員一致で承認され、1月24日に公表することとされた。

以上


(別添1)
平成13年1月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。
 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。

以上


(別添2)
平成13年1月19日
日本銀行

議長から執行部への指示について

 本日の金融政策決定会合における討議を踏まえ、議長は、執行部に対して以下を指示した。

 金融資本市場においては、最近の海外経済・市場の動向に加え、年度末を控えているという要因もあり、やや不安定な動きがみられている。そうした状況に鑑み、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すため、市場への流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないかを検討し、次回決定会合までに報告すること。

以上