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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 4月12、13日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年5月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 5月23日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年4月12日(15:02~17:01)
2001年4月13日( 9:02~12:17)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(副総裁)
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 村上誠一郎 財務副大臣(12日)
    田村義雄 大臣官房総括審議官(13日)
  • 内閣府 坂井隆憲 内閣府副大臣(12日)
    小林勇造 政策統括官(経済財政−運営担当)(13日)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(3月19日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。具体的には、日本銀行当座預金残高を、新しい調節方針導入直後と期末期初に5兆円をやや上回る残高としたほかは、5兆円程度となるような調節を行った。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、期末期初に若干上昇したことを除けば、概ね0.02~0.03%で安定的に推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 株価は、期末を控えた持ち合い解消売りが一服する中、本行の金融緩和措置に加え、本格的な不良債権処理や緊急経済対策に対する期待感等から持ち直す展開となっている。

 債券市場では、長期国債流通利回り(10年)が、前回決定会合直後に一旦1.0%台まで低下した後、将来の国債増発懸念の高まりや当面の材料出尽くし感に伴う投資家の利益確定売りなどから、最近では1.4%台まで上昇している。

 為替市場では、円の対ドル相場は、本行が前回会合で決定した緩和政策の長期化の可能性が意識される中、日米通貨当局が円安容認姿勢を採っているのではないかとの思惑等から下落した。その後、円安進行を牽制するわが国政府当局者の発言などを材料に、やや反発している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、企業が在庫調整を進めており、生産は減少傾向にある。また、情報関連業種を中心に設備投資の減速傾向も明確化している。この間、家計支出は底固い動きを示しているが、先行きを見通すうえでは、雇用情勢やその消費者コンフィデンスに対する影響などが注目される。

 こうした中で、米国連銀は3月20日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利であるFFレートの誘導目標を0.5%引き下げ、5.0%とした。短期金融市場では、年央までにさらに0.5%から0.75%の利下げを織り込む展開となっている。

 ユーロエリアの景気は、生産の伸びが緩やかな低下傾向を辿り、製造業コンフィデンスの悪化が続くなど減速傾向が窺われる。ただ、雇用情勢の改善や主要国における相次ぐ減税の効果などから、個人消費は引き続き底固く推移しており、減速の程度は他の地域に比べ緩やかである。

 東アジア諸国では、昨年秋以降、輸出の増勢鈍化から、景気は減速している。また、一部の国では、設備投資の伸び鈍化や個人消費の低迷など、内需の減速もみられる。こうした状況下、台湾、香港、フィリピンでは、3月下旬に一段の利下げに踏み切る動きがみられた。物価は概ね安定基調が維持されているが、韓国、インドネシアなど一部の国では物価上昇率が高まりつつある。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要面をみると、国内需要が底固さを維持する一方で、米国、東アジア経済の急激な減速を受けて、輸出は大きく減少している。その影響から、鉱工業生産の減少が一段と鮮明になっており、電子部品や一部素材などでは在庫の過剰感が高まっている。企業の業況感は、製造業を中心に悪化しており、企業収益の改善も、製造業において急ブレーキがかかっているとみられる。こうした下で、機械受注の動きや2001年度設備投資計画にみられるように、企業は設備投資スタンスを徐々に慎重化させつつある。家計部門においても、所得はなお底固さを維持しているとはいえ、新規求人や所定外時間などの限界的部分には、生産減少の影響が表れ始めている。以上を総合すると、わが国の景気は、輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にあると判断される。

 景気の先行きについてみると、(1)輸出は減少を続けるとみられること、(2)設備投資が次第に頭打ちに向かう公算が大きいこと、(3)在庫循環面からも、程度は大きくないとはいえ、調整を要する局面に入っていること、などを踏まえると、鉱工業生産は暫く減少傾向を辿るとみられる。また、このような傾向が長引けば、家計の所得が伸び悩み、家計支出面にも影響が及ぶ可能性がある。このため、これまでの企業部門を起点とした所得創出メカニズムが働き続けることは、期待しにくくなっている。こうした下で、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続けるものと予想される。

 さらに先の景気展開については、海外景気、とりわけ米国景気の動向や情報関連需要の動向に左右されるところが大きい。今回の短観においても、景況感の悪化に比べて売上げ・収益は底固い計画となっているが、(1)輸出が上期減少のあと、下期に増加することが見込まれていること、(2)製造業加工業種の収益が上期減益の後、下期増益となっていること、からみて、海外景気、ないし情報関連需要の下期回復が前提とされているものと考えられる。したがって、仮にこの前提が崩れると、売上げ・収益の姿も大きく変わってくる可能性がある。このほか、株価の動向やその企業・家計心理面への影響、不良債権処理が加速していった場合の影響についても注視していく必要がある。

 物価面では、景気の調整が続く下で、国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が働き易い状況にある。また、技術進歩や規制緩和(通信料金)が引き続き下落方向に作用するほか、衣料品をはじめとする流通合理化の影響も、ある程度尾を引くとみられる。このため、各種物価指数は、当面、総じて弱含みで推移する可能性が高いと予想される。また、海外景気の下振れなどに伴い景気に対するダウンサイド・リスクが顕現化する場合には、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まることとなる点には、十分に留意が必要である。

(2)金融環境

 3月のマネタリーベースの前年比は、前年「コンピューター2000年問題」への対応(2月29日および年度末)等により伸びを高めた裏が出る形で、前月に比べ、幾分低下した。ただ、3月平残の水準は、前月を上回っている。マネーサプライ(M2+CD)は、郵便貯金からの資金シフトやCPの発行増などを反映して、このところ、やや伸びを高めている。

 企業の資金調達コストをみると、一段の金融緩和措置に伴う市場金利の大幅低下を背景に、短期プライムレートが引き下げられたほか、CP発行金利も一段と低下している。また、長期プライムレートも、4月に引き下げられ、既往最低水準となっている。

 企業金融の動向をみると、金融機関の貸出態度は、3月短観ではすべての企業規模でほぼ横這いとなり、株価下落の影響はみられなかった。一方、資金繰り判断は、中小企業金融公庫の調査ではやや改善しているものの、3月短観では製造業を中心に小幅悪化したほか、商工中金の調査でもこのところ幾分悪化している。中小企業の資金繰りに関しては、3月末に「中小企業金融安定化特別保証制度」の取り扱いが終了したことの影響も注意して見ていく必要がある。

 このように、金融機関の貸出態度や企業金融は、これまでの緩和された状態が続いているとみられる。当面、金融緩和措置の波及効果を見守る一方で、株価の動向が金融機関行動や企業の資金調達環境に与える影響についても、引き続き注視していく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

 会合では、前回会合以降に得られた各種指標、3月短観の結果、4月の支店長会議での報告などの情報をもとに議論が行われた。

 景気の現状については、情報関連を中心に輸出・生産の減速が明確化してきており、調整局面にあるという認識で一致した。ある委員は、景気は踊り場状態から悪い方向に一歩進んで、後戻りの入り口に入った、と表現した。

 まず、企業部門の動向について、多くの委員は、3月短観や支店長会議での報告などを踏まえると、(1)輸出、生産の減速が鮮明化している、(2)収益改善に急ブレーキがかかり、投資姿勢が慎重化している、(3)製造業を中心に業況感が悪化している、など、減速が明確化してきた、との認識を示した。

 このうちひとりの委員は、輸出について、米国経済の急激な減速、そのアジア経済への波及などによって、当面減少傾向は避けられない、との見通しを述べた。この委員は、現在の金融緩和措置が円安をもたらし、輸出にプラスに働く可能性はあるが、世界経済の減速感が強まる中で、わが国の輸出拡大は貿易摩擦の新たな火種となりかねず、製造業は非常に慎重な輸出計画を立てている、とコメントした。

 生産について、ある委員は、IT関連、建設関連を中心に生産調整の動きがみられる、と指摘した。この委員は、支店長会議で、海外現地生産の拡大が国内生産に及ぼす影響について報告があった点にも注目する必要がある、と付け加えた。また、別の委員は、電気機械の生産減少や在庫圧縮の動きが、非鉄・一般機械などの関連業種の生産にも影響を及ぼし始めている、と述べた。この間、ひとりの委員は、在庫調整局面に入る業種が徐々に拡大しており、鉄鋼、紙パ、石油化学、半導体などを中心に生産減少が続くと予想されるが、ITによる在庫管理の高度化などもあり、かつてのような大きな生産調整にはならないと思われる、と述べた。ただ、一部素材産業では、構造的な供給過剰問題が残っており、負け組企業が生き残りをかけて高操業を続けている結果として、在庫調整が長引く可能性もある、と付け加えた。

 企業収益については、複数の委員が、上期は、製造業・大企業では減益となる可能性が大きい、との見方を示した。一方、短観において下期が増収増益となっている点については、多くの委員が、こうした見通しは米国経済やIT需要の下期回復シナリオを前提としており、外的要因に伴うリスクが大きい、との見方を示した。このうちひとりの委員は、こうした楽観的な見通しは、業況判断の悲観的な見方と乖離がある点にも留意する必要がある、と付け加えた。また、こうした下で、設備投資については、機械受注などの先行指標や今年度の設備投資計画などから判断して、先行き鈍化する可能性が高い、との見方で一致した。

 個人消費については、このところ底固い動きを示しているが、今後雇用・所得面で厳しさが増していく可能性が高いことを考えれば、「景気の下支え」という程度以上のことは期待しにくい、という認識が多くの委員から示された。ある委員は、足許、消費関連の一部に堅調な指標が出ていることは心強い材料だが、一方で、企業部門の停滞が雇用・所得環境に悪影響を及ぼし、それが家計支出の抑制を通じて企業活動に影響する「後ろ向きの循環」に陥ることがないか、留意すべき局面にある、との見方を示した。この間、ひとりの委員は、(1)消費の「構造変化」、(2)消費の「飽和感」、(3)雇用、年金、老後などに対する「不安」という消費抑制要因が支配している下では、消費は買い換え需要や機能満足型商品の需要が中心とならざるを得なくなる、と指摘したうえで、そうした中でも、家計は所得に見合った消費を継続しており、消費財供給数量も戻ってきていることを踏まえると、消費は平時に復していると判断すべきだ、とコメントした。また、構造調整を抱える中では、企業部門の回復が家計部門に伝わり消費の伸びにつながるには時間がかからざるを得ない、と付け加えた。

 以上の議論を踏まえ、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続ける可能性が高く、これまでの企業部門を起点とした所得創出メカニズムが働き続けることは期待しにくくなっている、との見方が共有された。

 日本経済の先行きについては、米国経済や世界的な情報関連財需要の動向が大きなポイントとなる、という認識が多くの委員から示された。

 米国経済について、ある委員は、生産・雇用・設備投資などの面で、製造業を中心に調整局面に入っている、と指摘した。ただ、企業や消費者のコンフィデンスは低水準ながらも底打ち感が出てきており、全体としては、昨年末から本年初にかけての急減速のあと、若干落ち着きを取り戻しつつあるのではないか、と述べた。そのうえで、先行きについては、年後半ないしは年末にかけて回復に向かうとのシナリオを中心に考えるべきであろう、との認識を示した。これに対して、別の委員は、90年代の労働生産性の上昇には、現在想定されているよりも、循環的な面が大きく寄与していた可能性があり、今後成長率の低下を出発点とするマイナスの循環に陥る可能性も否定できない、と述べた。また、もうひとりの委員は、先行きの懸念材料として、(1)レイオフがなお低水準に止まっているなど、企業内には余剰労働力が温存されており、今後、その反動で失業率が上昇した場合に消費者コンフィデンスに大きな影響を与える可能性があること、(2)今夏にかけて、ガソリン価格の急騰や渇水による電力供給の削減のおそれがあること、を挙げた。

 この間、ひとりの委員は、「海外経済減速の日本経済への影響」という一方向の関係だけで議論することは適当ではなく、生産・在庫調整が相互に影響を及ぼしあう関係を注視すべきである、と指摘した。そのうえで、情報関連業種の先行きをみるに当たっても、米国経済の状況のみならず、日本を含めたアジアの現地需要の動向が重要なカギを握っている、との見方を示した。

 金融機関の不良債権処理をはじめとする構造改革の影響についても、多くの委員が言及した。ある委員は、先週発表された政府の緊急経済対策には、不良債権処理をはじめとする金融システム強化策や、構造改革のための各種メニューが盛り込まれており、従来型の公共投資中心の対策と異なる点、高く評価できる、と述べた。この委員は、民間の自助努力なしには真の改革は進まないので、今回の対策をひとつのきっかけとして、改革の実施に向けた機運が高まり、各方面の取り組みがこれまで以上に進展することを期待したい、と付け加えた。これに対して、別の委員は、破綻先・破綻懸念先に対する債権の最終処理を早めるとともに、経済実態に即した債務者区分の見直しを行っていくことも重要である、との認識を示した。

 ひとりの委員は、不良債権処理の問題は、今後大きく進展すれば短期的なデフレ圧力となりうる一方、放置すれば金融不安再燃の火種を残すというデリケートな問題である、と述べた。この点、別のひとりの委員は、不良資産の最終処理の過程で生じるデフレ圧力を考えると、世界経済が悪化している間は、日本経済の構造改革は難しく、最終的にはマーケット主導のハードランディングになるおそれが高まってきているのではないか、との懸念を示した。この間、ある委員は、企業の倒産が失業に与える影響は、下請け構造などによっても異なる、と指摘した。そのうえで、他のひとりの委員とともに、構造調整に伴う雇用問題は、仕事・プロジェクトなど雇用の受け皿がどれだけあるか、という視点から見ていくことも必要である、と述べた。

 以上のような景気情勢の下で、物価については、(1)国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が働き易い状況にある、(2)また、技術進歩、流通合理化、規制緩和といった供給面の要因も引き続き物価下落方向に働く、(3)このため、物価は、当面、弱含みで推移するものと考えられる、という認識で一致した。ある委員は、物価下落について、国際価格への鞘寄せの動き、負け組企業によるコスト無視の安値提示、海外からの安値輸入品の流入の動き、などが続いている、と指摘した。別の委員も、延命のためにダンピング的な価格を提示する「破壊的供給者」の存在による物価下落が続いており、構造調整が進んで業界が整理されてこないと、こうした傾向は収まらない、とコメントした。もうひとりの委員は、(1)このところ、円安の影響が表れ始めており、これと内需の弱さとの綱引きがしばらく続く可能性が高い、(2)賃金は当面横這い圏内で推移するとみられ、この面から大きな物価低下圧力が出てくることは考えにくい、(3)こうした点を踏まえると、消費者物価指数は、当面、現在のように前年比若干マイナスといったところで推移する可能性が高い、と指摘した。

 企業金融の面では、ある委員は、資金調達コストは下がっており、また短観の貸出態度判断がほとんど変化していないことをみても、全体として、緩和された状態が維持されていると考えられる、と指摘し、今後は、金融緩和の波及効果を見守っていくとともに、やや持ち直した感がある株価の動向やその影響について、引き続き注意して見ていきたい、と述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 委員の認識は、景気情勢は一段と悪化しているが、前回会合の決定は、こうした展開も予想して思い切った手段に踏み切ったものであり、当面その効果を見極めていくべき局面にある、との見方で一致した。このため、すべての委員が、当面の金融政策運営方針としては、現状維持を支持した。

 そのうえで、前回会合で決定した金融緩和措置の効果について、議論された。

 金融資本市場への効果については、多くの委員が、所期の効果を発揮しつつある、との評価を示した。

 まず、何人かの委員が、新たなコミットメントは、強力な時間軸効果を通じて、やや長めのものを含めて金利を全般的に低下させる方向で効果があった、との評価を示した。これらの委員は、ターム物金利がかなり長めのゾーンまで低下していることや、債券投資のデュレーションがやや長めになる動きがみられることなどを指摘した。この間、長期金利が、前回会合前に比べやや反発した形になっている点については、何人かの委員が、緩和策が事前に相当程度織り込まれていたことや、財政支出拡大による需給悪化懸念などの影響と考えられる、との見方を示した。

 株価に関して、ある委員は、今回の金融緩和策は、日経平均、NYダウ、NASDAQの順次の底入れ・反転の動きをサポートする意味で大きな効果があった、と述べた。別の委員は、投資家のコメントなどから判断して、金融市場調節の操作目標の変更や強力な時間軸効果が材料視されたほか、緩和策全体として金融機関の不良資産処理を促進させる方向で受け取られ、株価の押し上げ要因になった、と分析した。また、円相場について、ある委員は、海外投資家による国債売却や円キャリー・トレードの増加などによって円安に作用したという見方があるが、これまでのところ限定的であった、との見方を示した。

 以上の議論の結果、多くの委員の認識は、(1)「金利低下+時間軸効果」を通じて、事実上ゼロ金利政策の有する金融緩和効果が実現している、(2)それ以外のルートでどのような効果が生じるかについては、「期待」を通じる効果がどのように表れるか、金融機関の超過準備保有が恒常化した場合にどのような効果が出るか、といった点を中心に、さらに点検していく必要がある、という見方で一致した。ある委員は、今回の政策は「重層的」な政策であるので、効果をモニターするのが従来より難しい、とコメントした。

 こうした下で、追加的な緩和余地については、現在の政策の効果の表れ方をきちんとフォローアップし、分析したうえでないと結論を下しがたい、との認識が共有された。そのうえで、理論的な整理として、いくつかの論点が議論された。

 まず、日銀当座預金残高の目標をさらに増加させた場合の効果について、ある委員は、金利水準がここまで下がっている中で、多くは期待できないのではないか、と述べた。

 また、日銀当座預金残高の目標を増加させることのフィージビリティについて、複数の委員が、金融機関の側から見れば、不要の資金が供給されることになるので、簡単に達成できるとは限らない、と指摘した。この点、もうひとりの委員は、現状では、本行オペに対する応札倍率の低下はみられていない、とコメントした。

 さらに、長期国債オペの効果についての議論も行われた。ある委員は、長期金利は、基本的には、将来の短期金利の予想値の平均値に等しいが、現在でも、「事実上のゼロ金利+時間軸効果」を通じて、短期金利の予想に働きかけており、長期国債の買い切りオペで長期金利を直接制御する意味はほとんどない、と述べた。別の委員も、長期金利は、本来将来の経済成長とインフレ率に関する期待で決まるものなので、金融政策で短期的にコントロールすることはできない、と述べたうえで、長期金利の上昇に対して長期国債買い切りオペ増額で対応することは適切でない、とコメントした。この委員は、現在の日本の財政赤字は主要先進国で最も深刻であり、こうした状況で長期国債買い切りを増額すれば、国債引受とか財政規律の喪失などの連想を生み、長期金利に悪影響が出る懸念がある、と述べた。この点に関連して、もうひとりの委員は、(1)昭和恐慌時と比べて、経常収支は改善しているものの、財政赤字の対名目GDP比率は、現在の方が高く、企業の過剰債務問題もより深刻である、(2)日本国債のクレジット・デフォルト・スワップのレートが高止まっているほか、先々、2004年から適用予定の新しいBIS基準の影響も見極める必要がある、と指摘した。

 この間、複数の委員が、ベースマネー、マネーサプライ、経済・物価の間に安定的な関係が成立していないことに言及した。その背景として、ひとりの委員は、(1)信用創造機能がうまく働いていないこと、(2)企業のバランスシート調整圧力が強いこと、(3)家計の将来不安が根強いこと、などを挙げた。そのうえで、これらは、流動性制約によるものではないので、日本銀行がベースマネーを供給しても簡単に貸出やマネーサプライが増える状況にはなく、この面からの金融政策の効果は限定的といわざるを得ない、と述べ、財政政策や民間の自助努力による構造改革との合わせ技が必要、とコメントした。また、別の委員も、金融システム等の構造的な要因が強く働いている中、適正なリザーブの水準を判断することが困難になっている、と述べた。

 ある委員は、金融政策手法の高度化のための研究が行内でも進んでいるので、各種の政策ルールに基づく試算を定期的に行ったり、先進国の一部の中央銀行でも用いられているマネーギャップを使った予測手法を取り入れるなど、多角的なチェックに利用し、その結果を委員を含めて共有していくべきである、とコメントした。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いているほか、企業部門についても、輸出の減少を背景に生産が減少しているなど、景気は弱含んでいる。また、米国経済の減速など先行き懸念すべき点がみられる。こうした中、物価は、消費者物価指数やGDPデフレータの前年比マイナスが続いており、物価の下落が、実質金利の上昇、実質債務負担の増大などを通じて経済に与える影響が依然として懸念される。
  • こうした状況下、政府としては、先に成立した平成13年度予算の円滑かつ着実な執行に努める所存である。また、不良債権処理を始めとする構造問題への取り組みが喫緊の課題であるとの認識の下、緊急経済対策を取り纏め、金融再生と産業再生、証券市場の構造改革、都市再生、土地の流動化などについての具体的施策を盛り込んだところである。これらの施策の着実な実行を通じて、わが国経済の構造調整が一層進展することを期待している。
  • 日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施と合わせ物価の安定を図ることを通じて経済の発展に資するよう、経済や市場の動向を注視しつつ、新たな金融市場調節方式の下で潤沢な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策を行って頂きたい。

 内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 今月の「月例経済報告」では、(1)生産の減少がはっきりしたこと、(2)企業収益の伸びが鈍化し、企業の業況判断が製造業を中心に急速に悪化していることなどを踏まえ、総括判断を3ヵ月連続で下方修正し、「景気は、弱含んでいる」とした。先行きについては、先月と同様、米国経済の減速や設備投資の鈍化の兆しなど懸念すべき点がみられる。
  • 政府としては今回の緊急経済対策における具体的施策の着実な実施を通じて、今後の経済の礎を築くことができると考えている。同時に、このような構造改革を推進するためにも、引き続き景気回復に軸足を置きつつ、適切かつ機動的な経済財政運営を行うこととしている。
  • 日本銀行におかれても、景気の先行きに懸念すべき点がみられることから、物価の安定の実現を目指して、予防的観点を含めた適切かつ機動的な金融政策の運営を行って頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員、須田委員
  • 反対:なし

 なお、今回から2日間開催となった月初会合の議事の進め方について、議長より、議事内容について厳正な機密管理に努めるよう、改めて要請があった。また、ある委員から、各委員がまとまった意見開陳について従来通り十分な時間を確保できるよう運営に留意して欲しい、との発言があった。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を4月16日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(2月28日)の議事要旨が、全員一致で承認され、4月18日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成13年4月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上