金融政策

ホーム > 金融政策 > 金融政策決定会合の運営 > 金融政策決定会合議事要旨 2001年 > 金融政策決定会合議事要旨(2001年 4月25日開催分)

金融政策決定会合議事要旨

(2001年 4月25日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 6月20日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年4月25日(9:00〜12:50)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 田村義雄 大臣官房総括審議官(9:00〜12:50)
  • 内閣府 小林勇造 政策統括官(経済財政−運営担当)(9:00〜12:50)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(4月12、13日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって、日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるような調節を行った。こうした調節のもとで、オーバーナイト金利は0.01〜0.02%で推移した。金融市場における資金余剰感は、ゼロ金利政策時以上に強まっている状況にある。こうした中で、金融機関の資金調達意欲は急速に減退しており、先週後半には、資金供給オペのレートは、入札最低単位である0.01%まで低下している。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 前回会合以降の市場の動きをみると、短期金融市場では、ターム物金利が一段と低下し、概ねゼロ金利政策時のレベルを下回る水準となっている。これは、3月19日に決定した金融緩和策の「時間軸効果」が、ゼロ金利政策以上に強力であることを反映していると考えられる。

 株価は、米国NASDAQ指数の大幅反発を受けたIT関連株の持ち直しや、一部企業の経営統合などを好感した中低位株の物色買いの動きを反映して、比較的堅調に推移している。

 長期金利の動向をみると、3月下旬以降、主要国において、長期金利の反発傾向が共通して観察される。これは、(a)世界経済に関する過度に悲観的な景況感の修正や、(b)株価の持ち直しを背景に、これまでの株式から債券への資金シフトの巻き戻しがみられていることによるものと考えられる。こうしたもとで、日本の長期金利も、利食い売りの動きや、先行きの財政運営を巡る思惑を受けた国債需給悪化への懸念などを受けて上昇した。

 この間、社債・金融債利回りの対国債スプレッド(信用スプレッド)には、全体としては大きな変化はみられていないが、一部には、運用難を背景とする信用リスク・テイクの動きを受け、信用スプレッドが縮小するケースもみられる。

(2)為替市場

 円の対ドル相場は、日本の当局による円急落牽制発言や、4月以降の本邦機関投資家の外債投資スタンスが事前の市場予想ほどは積極化していないといった見方を受けて上昇し、最近では121〜122円台となっている。

3.海外金融経済情勢

 前回会合以降の特徴的な動きとしては、(a)3月下旬以降、株価の持ち直しと長期金利の反発が同時並行的に進むなど、各国の株式・債券市場で連動した動きがみられること、(b)インドネシア、トルコ、アルゼンチンといったエマージング諸国で、市場の不安定な動きがみられていること、が挙げられる。

 米国の実体経済をみると、景気減速の中でも、乗用車の生産・販売は比較的堅調に推移しており、乗用車を中心とするオールド・エコノミー分野の在庫調整には目途がつきつつある。一方で、ハイテク関連分野の在庫調整については、調整完了は本年後半以降にずれ込むといった見方が増えてきている。この間、内需の減速を受け、最近では輸入の減少が目立っている。このことは、米国経済のスローダウンの影響が他国に及んでいることを示す一方で、米国内の生産への影響のバッファーとして働く面もある。

 こうした状況下、米国連銀は、4月18日に臨時に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)において、FFレートの誘導目標水準を、それまでの5.0%から4.5%へと引き下げた。

 株価は、ハイテク関連企業の収益に左右されやすい展開が続く中、上述の米国連銀の利下げ措置や、一部大手ハイテク関連企業の1〜3月期収益が市場の予想を上回ったことなどを背景に、ハイテク株を中心に反発している。長期金利は、債券から株式への資金シフト等の動きを受けて上昇している。

 ユーロエリアでは、生産の伸びが緩やかな低下傾向を辿るなど、景気の減速傾向が窺われているが、雇用環境の改善や欧州主要国における減税の効果等を背景に、個人消費は引き続き底固く推移している。この間、物価は、口蹄疫による肉類の価格上昇などを受けてやや上昇しており、3月の消費者物価前年比は+2.6%となった。

 NIEs、ASEAN諸国では、米国景気の減速や世界的な半導体需要の伸び鈍化等を反映した輸出の増勢鈍化から、景気は減速している。この間、中国では、財政支出の増大や高水準の直接投資の流入を反映して、高成長が維持されている。

 この間、一部エマージング諸国では、金融市場で不安定な動きが高まっている。まずインドネシアでは、政情不安や経済改革の遅れを背景に、株価や通貨が下落しており、中央銀行は通貨防衛のための金利上昇を容認した。アルゼンチンでは、カレンシー・ボード制が維持できなくなるのではないかとの思惑を背景に、対米国債スプレッドが急拡大している。ブラジルでも、政情不安やアルゼンチン情勢の影響などから通貨レアルが既往最安値を更新し、中央銀行が利上げを行うなどの動きがみられた。トルコでも、引き続きリラ安や対米国債スプレッドの拡大がみられている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降に公表された経済指標からは、「輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にある」との景気判断を変えるような材料はみられなかった。

 前回会合以降に公表された経済指標をみると、まず、3月の公共工事請負金額は、年度末にかけての補正予算の執行集中に伴って前月比大幅な増加となり、1〜3月期でみても前期比増加となった。ただし、国と地方を合わせた補正予算の規模自体が年々縮小していることから、前年対比でみれば、公共投資は減少傾向が続いている。

 3月の実質輸出入をみると、輸出は前月比ほぼ横這いであり、基調としては、これまでの減少傾向が続いているとみられる。

 この間、最近では、輸入について弱めの動きが目立っている。内訳をみると、中国等からの消費財の輸入が堅調な動きを示している一方で、情報関連財の減少傾向が明確となってきている。国際分業が進んでいる情報関連財は、輸出と輸入が同様の動きを示すことが予想されるが、こうした傾向が計数面でも明確に表れつつあるように思われる。また、素原材料も、国内生産の減少を反映し、弱めの動きとなっている。

 法人企業動向調査による2001年度の設備投資計画は、製造業が若干の減少、非製造業が小売業等を中心に大きめの減少となっている。これは、既に公表されている短観やその他の設備投資アンケート調査と同様の結果である。

 この間、これまで株価下落のもとでも比較的安定していた消費者コンフィデンス関連指標について、足許での悪化が目立っている。内訳をみると、雇用環境への不安が高まっている兆しが窺われ、この点は、今後の消費動向を展望する上で重要な要素として、注意してみていく必要があろう。

 3月の企業向けサービス価格指数は、2月に比べ、前年比マイナス幅を若干拡大した。これは、(a)長期金利の低下を反映したリース料率の低下や、(b)「マイライン」への顧客囲い込みを目指した通信各社の価格競争などを反映したものである。

(2)金融環境

 前月の会合以降新たに公表された指標は、企業倒産など、一部の指標に限られている。

 民間銀行貸出は、このところ概ね2%弱のマイナス幅で推移している。3月の金融緩和措置が銀行の融資姿勢に及ぼす影響については、現時点ではなお、確認し得る材料が十分に揃っていない。今後、日本銀行の「ローン・サーベイ」等の調査も踏まえ、点検していきたい。

 企業倒産は、ここ数か月間、ほぼ前年並みの水準で推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 会合では、前回会合(4月12、13日)以降に明らかになった経済指標等の評価を中心に検討が行われたが、結論としては、前回会合時点での「景気は、輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にある」という判断を変更する材料はないとの見解が、大方の委員に共有された。

 多くの委員は、世界経済が減速する中で、輸出や生産は当面減少を免れず、こうしたもとで、設備投資もいずれ頭打ちとなっていく可能性が高い、との見解を示した。

 ひとりの委員は、生産面について、(a)補正予算の発注は3月までに大方出尽くし、公共投資は4〜6月期に端境期を迎える、(b)建設関連の下落がはっきりしてきている、(c)素材産業を中心に4月以降に在庫調整を本格化させる先が多い、との見方を示し、4〜6月期の生産は1〜3月期に引き続き減少するとみられる、と述べた。さらにこの委員は、企業収益に関し、(a)国際価格への鞘寄せや国内での価格競争の激化を反映し、「価格」の面で厳しい状況が続いている中、(b)生産面での「量」の減少も加わり、企業収益を巡る環境は厳しくなりつつある、と発言した。

 別の複数の委員は、(a)経済全体としては若干の上向きの力が残っており、足許のGDPはまずまずの数字となる可能性もある、(b)ただし、景気のメカニズムという観点からみると、製造業セクターが明確に減速し、今後設備投資もピークアウトが見込まれる、との見解を示した。

(2)金融面の動き

 金融面では、3月19日の金融緩和策の決定以降、金融市場にみられる変化について、多くの委員が発言した。

 ひとりの委員は、3月の緩和策の決定後、短期金融市場でターム物金利が低下し、多くの金利がゼロ金利政策時の水準を下回っていることを指摘した。そのうえで、こうした姿は、(a)ゼロ金利政策と比べても、明確なコミットメントを持つ現在の金融緩和策がより強力なものであること、(b)さらなる金利低下の余地はもう殆どないという観点からは、金融緩和がほぼ限界まで進んでいること、を示していると述べた。

 また、複数の委員は、3月の金融緩和措置後にみられる市場の変化の一例として、定期性預金から株式投信、社債等への資金シフトといった形で、信用リスク・テイクの動きがみられると述べた。そのうえで、こうした広い意味では、金融緩和の効果が浸透を続けている段階とみられる、との見解を示した。

 また、何人かの委員は、金融面における好材料として、3月下旬以降、内外株価に持ち直しの動きがみられていることを挙げた。ただし、別のひとりの委員は、NT比率(日経225/TOPIX)が低下していることからみて、IT関連株主導の力強い反発局面にならない可能性が高いとの見方を示した。

 長期金利の動向についても、何人かの委員が発言した。
複数の委員は、3月下旬以降の長期金利の上昇について、(a)海外の長期金利上昇や内外株価の持ち直し、さらには円安傾向の一服と並行して生じており、「日本売り」を反映した動きではないこと、(b)長期金利の水準自体は依然としてきわめて低いこと、を指摘し、特に懸念すべきものとはいえないとの見解を示した。さらに、これらの委員を含めた何人かの委員は、足許の長期金利の上昇は、3月中旬まで、過度に悲観的な経済見通しや先行きの金融緩和を織り込んで低下していた後の反発という面が大きい、との解釈を示した。

 ただし、同時にこれらの委員は、市場が先行きの財政運営や国債需給に敏感になっているようにみられることも指摘した。

 ひとりの委員は、長期金利上昇の要因をイールドカーブの形状からみると、(a)中短期ゾーンは、現在の金融緩和策のコミットメントに伴う「時間軸効果」もあって低く抑えられている一方、(b)長期ゾーンでの上昇が目立っていること、を指摘した。そのうえで、(a)長期債は、海外投資家の投資スタンスの影響を相対的に強く受けること、(b)海外投資家は日本の財政赤字への関心が高いこと、(c)既に日本国債の利回りは、格付けではより低いイタリアの円建て国債を上回っていること、などを踏まえれば、今後の長期金利の安定にとっても、構造改革の展望や財政赤字のサステナビリティの確保が重要であると述べた。

(3)経済・物価の将来展望とリスク評価

 次に、当会合において「経済・物価の将来展望とリスク評価」を決定し、公表することを踏まえ、委員は、2001年度から2002年度初めにかけての経済・物価の展望や、こうした標準見通しに影響を与え得るリスク要因について、議論を行った。

 多くの委員は、先行きの経済の展望について、(a)2001年度上期中は、海外経済の減速のもとで輸出・生産が減少を続け、景気は調整色の強い展開を辿る可能性が高い、との見方を共有した。また、(b)2001年度下期以降、米国経済が緩やかな回復に転じるとみれば、海外経済に由来する日本の輸出・生産への下押し圧力は徐々に減衰すると見込まれるが、経済に残存している構造調整圧力などを踏まえると、景気が明確に回復するにはなお時間を要する、との見通しを示した。

 こうしたもとで、物価については、需要・供給両面からの低下圧力を受け、本年度中は弱含みで推移するとの見方が共有された。

 さらに、こうした経済・物価の動向に影響を与え得る要因として、各委員はまず、米国経済をはじめとする海外経済や、IT関連分野の動向を挙げた。

 多くの委員は、上述のような経済・物価の「標準的なシナリオ」の前提となる米国経済の先行きについて、「調整の進捗に伴い、本年後半には回復傾向に転じるが、そのテンポはかなり緩やかである」との見通しを示しつつ、現時点では不確実性が高いことを、あわせて指摘した。そのうえで、(a)米国経済の調整が長引き、本年下期にも回復に至らない場合には、日本の輸出・生産を下押しするリスクとなる一方、(b)米国経済の調整が比較的早期に一巡し、明確に回復に転じる可能性もあり、そうなれば日本経済にも上向きの力を与える要因となり得る、との見解を述べた。

 このうちひとりの委員は、(a)現在の米国経済の調整は、過去に生じたさまざまな経済の行き過ぎに対するストック調整の面もあること、(b)こうした面が強く表れると、企業の中長期的な期待成長率の低下を通じて、自己実現的に深い調整を招くリスクもあること、を指摘した。一方で、金融政策面からの対応が行われている中で、企業の期待成長率が3%前後の水準を維持するのであれば、逆に、上記の想定よりも明確な回復となる可能性もある、との見方を述べた。

 ただし、別のひとりの委員は、米国経済の先行きについて、(a)設備投資等の分野で、IT関連の調整が他の分野にも広がりつつある、(b)株価下落による逆資産効果が今後本格化し、家計貯蓄率も上昇が見込まれる、(c)いわゆる「電力危機」が米国西部全域に波及しつつあり、米国における灯油・軽油等の価格を上昇させる可能性が高い、といった見方を理由に、下期の回復は展望できないとして、他の委員よりもさらに慎重な見解を示した。

 また、何人かの委員は、米国経済と世界経済・日本経済の結びつきの強さに言及した。

 まず、ひとりの委員は、経済のハイテク化・グローバル化が進展し、日本経済が国際分業に組み込まれる度合いが強まっているもとでは、日本独自の景気循環メカニズムが消えているわけではないにせよ、在庫など様々な面で、世界経済の影響を受けやすくなっていると指摘した。そのうえで、今後、日本経済が調整局面を経過するもとでも、消費財等での輸入ペネトレーションがさらに進むのかどうかを、注目点のひとつに挙げた。

 別のひとりの委員は、「米国の内需が減速すると、アジアからのハイテク関連輸入が減少し、アジアでの生産が減少する」といった形で、アジア経済が、米国における内需減少の生産面への影響を緩和する「バッファー」として働いている可能性を指摘した。そのうえで、このことは裏を返せば、米国の需要減少の影響がアジア経済に及びやすいことを示唆している、と述べた。

 また別のひとりの委員は、日本のIT関連分野の成長が、世界的なITブームを背景としていたことを踏まえれば、米国においてIT関連分野の調整が長期化すれば、日本のIT関連投資のスタンス自体に、直接に影響を及ぼしていく可能性があると述べた。

 さらに別のひとりの委員は、これまでのIT関連財の輸出入の拡大基調が転機を迎えており、先行き、生産財の国内生産や輸出、資本財の輸入が減少していく可能性が高いと指摘した。

 そして、こうした議論を経て、多くの委員は、(a)海外経済の標準的なシナリオは、本年後半に緩やかながら回復に向かう姿を展望しつつも、(b)これよりも上振れ・下振れする可能性も十分念頭に置きながら、注意深く情勢の点検を続けていくべきであるとの認識を、概ね共有した。

 さらに、多くの委員は、先行きの経済・物価に影響を与え得る要因として、日本経済の構造調整の影響を指摘した。

 これらの委員は、(a)構造調整は、短期的には雇用調整圧力や企業再編を通じたデフレ圧力となり得る一方で、(b)中長期的には経済全体の生産性を高めるものであり、(c)また、構造改革への取り組みが資本市場や家計・企業に前向きに受け止められれば、市場の評価と経済活動との好循環をもたらすきっかけとなり、短期的にもデフレ圧力を緩和し得る、といった考え方を示した。そのうえで、経済の本格回復を実現していくためには、構造改革への前向きな取り組みが、市場や経済主体が明確なイメージを持てるような形で進められていくことが重要である、との見解を述べた。

 ひとりの委員は、構造改革に向けた、民間、政府および金融セクターという三者合わせ技での取り組みが進んでいけば、現在の日本経済を覆っている閉塞感の除去にも繋がる可能性がある、と述べた。加えて、この委員を含めた複数の委員は、現在、国民の間でも、こうした取り組みに向けた新政権への期待が大きくなっている、と指摘した。

 また、何人かの委員は、構造改革について、具体的な方策に則して評価していくべきであると述べたうえで、そのひとつとして、まず、(a)不良債権処理と金融システムの健全化を進めていくことの重要性を強調した。さらに、このうちひとりの委員は、(b)産業の生産性の向上、(c)財政リスク・プレミアムの圧縮、を重要なメニューとして指摘した。

 このように、海外経済の動向および構造調整の影響という2つが、先行きの経済を左右し得る大きな要因であるという点について、委員の見解は概ね一致したが、さらに、何人かの委員から、これら以外に注目すべき、いくつかのリスク要因が指摘された。

 まず、複数の委員は、国民の将来に対する不安感を、ひとつの注目点として挙げた。すなわち、現在、年金制度への不安など、将来に対する不安感が消費行動を抑制するひとつの要因となっている、と指摘した。そのうえで、今後、企業収益の減少が家計の雇用・所得環境にも影響を及ぼしていくことが予想される中で、構造改革への取組みは、こうした不安感を後退させるという観点からも重要であると述べた。

 別のひとりの委員は、株価など資産価格の動向に言及し、海外経済の動向や新政権の政策運営等に対し、市場がどのように反応していくのかが、重要な注目点であると強調した。

 この間、米国経済に関し、他の委員に比べてさらに慎重な見方を示したひとりの委員は、わが国の個人消費についても、(a)消費者態度指数をみると、雇用環境の悪化や耐久財の買い時判断の後退を理由に大きく悪化していること、(b)これまで消費を牽引してきた単身者世帯の支出スタンスが慎重化していること、(c)消費動向調査からみて、サービスへの支出が今後減少する可能性が高いことを挙げ、厳しい見方を示した。さらに、(d)景気動向指数が低下している、(e)第3次産業活動指数の中の移動通信業が足許低下しており、やや長い目でみても踊り場にさしかかっている、(f)物価の下落傾向が明確になっている、(g)為替が中期的な円高傾向に転じた可能性が高くなっている、等のマイナス材料を指摘した。

 なお、「経済・物価の将来展望とリスク評価」に参考計表として掲載する、2001年度についての「政策委員の大勢見通し」2は、実質GDP(年度平均前年比。以下同じ)が「+0.3%〜+0.8%」、国内卸売物価指数が「−0.9%〜−0.6%」、消費者物価指数(除く生鮮食品)が「−0.8%〜−0.4%」となった。また、同年度についての「政策委員全員の見通し」3は、実質GDPが「−0.1%〜+1.0%」、国内卸売物価指数が「−1.5%〜−0.5%」、消費者物価指数(除く生鮮食品)が「−1.0%〜−0.3%」となった。

  • 2 各政策委員の見通し計数のうち最大値と最小値を1個ずつ除いたものを「幅」で示したもの。
  • 3 政策委員の作成した全見通し計数を最大値、最小値の「幅」で示したもの。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 委員の金融経済情勢に関する認識は、(a)「景気は輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にある」という前回会合での判断を変える材料は得られておらず、(b)また、先行きについても、当面は生産面を中心に調整を続ける可能性が高い、というものであった。

 多くの委員は、現時点で持ち得る経済・物価の展望は、上記のようにかなり厳しいものであるが、日本銀行は3月19日の金融政策決定会合において、こうした厳しい姿をかなりの程度想定したからこそ、思いきった金融緩和に踏み切った、という考え方を述べた。そのうえで委員は、現在の金融緩和政策を継続することが適当である、との判断を共有した。

 さらに、多くの委員は、日本経済の構造改革に向けた、幅広い主体の積極的な取組みへの期待を表明した。

 ひとりの委員は、現在の思いきった金融緩和のもとでも、本年度の経済・物価についてかなり厳しい姿を展望せざるを得ない背景には、(a)金融緩和の効果発現にラグがあること、(b)現在採っている政策は、内外の歴史に例のない緩和策であるだけに、その効果には不確実な部分もあること、に加え、(c)日本経済には様々な構造問題が残存しているため、金融政策だけで経済の立て直しを図ることは難しいという事情がある、と指摘した。そのうえで、今後、経済の構造改革が進み、金融仲介機能がある程度回復する中で、ひとたび経済に前向きのモメンタムが生じれば、現在の金融緩和は、そうした動きを強力にサポートし得るものだ、と述べた。

 別のひとりの委員も、現在の金融緩和策について、内外の歴史からみて、中長期的にはインフレ・リスクを孕むものではないかといった論調も一部に聞かれるほど、強力な緩和策である、と述べた。そのうえで、民間主導の構造改革の進展への期待を表明した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済は、雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いているほか、輸出の減少を背景に生産が減少しているなど、景気は弱含んでいる。また、米国経済の減速など先行き懸念すべき点がみられる。こうした中、物価は、消費者物価指数やGDPデフレータの前年比マイナスが続いており、物価の下落が実質金利の上昇や実質債務負担の増大などを通じて経済に与える影響が依然として懸念される。
  •  こうした状況下、政府としては平成13年度予算の円滑かつ着実な執行や緊急経済対策の着実な実行に努めることとしている。
  •  日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施とあわせて、物価の安定を図ることを通じて経済の発展に資するよう、経済や市場の動向を注視しつつ、新たな金融市場調節方式のもとで潤沢な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策を行って頂きたい。

内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気判断および政府の政策運営に関しては、只今、財務省からの出席者から発言があった通りである。
  •  金融政策に関しては、物価の安定の実現を目指して、予防的観点を含めた適切かつ機動的な金融政策の運営を行って頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員、須田委員
  • 反対:なし

VI.「経済・物価の将来展望とリスク評価」の決定

 次に、「経済・物価の将来展望とリスク評価」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、賛成多数で決定され、4月26日に公表されることとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員
  • 反対:中原委員

 中原委員は、(a)先行きの経済の展望についての表現は、「調整が本格化する」とすべきである、(b)米国など海外経済の本年下期の回復は展望できない、という2点を理由に、上記採決において反対した。

VII.議事要旨の承認

 最後に、前々回会合(3月19日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月1日に公表されることとなった。

以上


(別添)
平成13年4月25日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上