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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 5月17、18日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 6月20日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年 5月17日(14:00~15:41)
2001年 5月18日( 9:00~12:18)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口泰(副総裁)
  • 武富将(審議委員)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 田村義雄 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 薦田隆成 大臣官房審議官(経済財政−運営担当)(17日)
    小林勇造 政策統括官(経済財政−運営担当)(18日)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室企画第2課長梅森 徹(18日、9:00~9:18)
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役長井滋人
  • 金融市場局調査役栗原達司(18日、9:00~9:18)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(4月25日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。具体的には、日本銀行当座預金残高を、4月積み期の最終日に当たる5月15日に、約6兆円としたほかは、5兆円程度となるような調節を行った。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、5月15日に若干上昇したことを除けば、概ね0.01~0.02%で安定的に推移した。

 なお、金融緩和効果の浸透を受けて、前回会合以降、オペの応札額がオファー額に満たない「札割れ」が発生しているが、現在までのところ、現行の金融市場調節方針を実行する上で支障を来してはいない。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金利は、長めのターム物を含めて、ゼロ金利政策時を下回る水準まで低下しており、今回の政策の時間軸効果が強く働いていることを示唆している。

 債券市場では、長期国債流通利回り(10年)が、自民党総裁選の結果を眺め、国債の需給環境に対する警戒感が後退したことなどから、1.2%台まで低下している。

 株価は、新政権下での構造改革の進展に向けた期待感や、米国株価が強含みに推移したことを好感して上昇した後、米国株価がやや弱含みに転じたことなどから幾分下落してい

 為替市場では、円の対ドル相場は、構造改革推進への期待感を背景とした海外投資家の日本株買い等から120円台となった後、わが国株価の下落などを受けて、やや円安方向に振れ、最近では123円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、個人消費が引き続き底固く推移している一方、企業部門においては、生産・雇用調整が続く中で、設備投資の動きも鈍く、全体として緩慢な景気展開が続いている。先行きはなお不透明であるが、(1)雇用・所得環境の悪化が見込まれる中で、個人消費の堅調がどの程度維持されるか、(2)IT分野の調整がどの程度尾を引き、それが企業収益にどのような影響を与えるか、といった点を注視していきたい。なお、金融資本市場では、(1)イールドカーブのスティープ化、(2)株価の持ち直し、(3)ドル高地合いの継続など、中長期的な成長期待が維持されていることを示唆する動きが見られている。

 こうした中で、米国連銀は5月15日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利であるFFレートの誘導目標を0.5%引き下げ、4.0%とした。

 ユーロエリアの景気は、個人消費は引き続き底固く推移しているものの、生産・受注の伸びの落ち込みが目立っており、製造業コンフィデンスの悪化が続くなど減速傾向が窺われる。

 こうした中で、欧州中央銀行は、5月10日の定例理事会において、政策金利である主要リファイナンシング・オペの最低入札金利を0.25%引き下げ、4.50%とした。

 NIEs、ASEAN諸国では、輸出の減少から、生産が減少基調にあり、製造業コンフィデンスの悪化が続くなど、景気は減速している。一方、中国では、輸出の伸びが鈍化傾向にあるが、内需は好調を維持しており、高い成長が続いている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要面をみると、米国、東アジア経済の減速の影響から、輸出の減少が続いている。国内需要面では、個人消費は、全体としては回復感に乏しいものの、一部に明るい指標がみられている。一方、これまで増加を続けてきた設備投資は、頭打ちになりつつあるとみられる。こうした下で、鉱工業生産の減少が続いており、電子部品や一部素材などでは在庫の過剰感が高まっている。企業収益は、製造業を中心に減益に転じているとみられる。家計部門においても、所得は全体としてなお底固さを維持しているとはいえ、生産減少の影響が労働時間の減少等を通じて家計部門にも及び始めている。このように、わが国の景気は、輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にある。

 景気の先行きについてみると、輸出は、当面、減少傾向を辿ると考えられる。設備投資も、企業収益が減益に転じる中で、頭打ちから減少に転じていく公算が大きい。さらに、電子部品を中心とした在庫面からの調整圧力も加わり、鉱工業生産は少なくとも夏場までは減少傾向が続くと予想される。また、生産活動の低下が続く中で、家計の所得形成も次第に弱まっていくと考えられる。以上を総合すると、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続けると予想される。

 年度後半にかけての景気展開については、今のところ調整が輸出・生産関連に集中している一方で、内生的な需要回復を展望できる要素も乏しいことから、海外景気、とりわけ米国景気の動向に左右されるところが大きいと考えられる。このほか、株価の動向やその企業・家計心理面への影響、不良債権処理が加速していった場合の影響についても注視していく必要がある。

 物価面では、既往の円安は物価を押し上げる方向に作用するとみられる。しかし、景気の調整が続く下で、国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が働き易い状況にある。このほか、技術進歩や規制緩和(通信料金)が一定の幅で影響するほか、衣料品をはじめとする流通合理化の影響も、ある程度尾を引くとみられる。このような事情を総合すると、各種物価指数は、当面、総じて弱含みで推移する可能性が高い。また、海外景気の下振れなどに伴い景気に対するダウンサイド・リスクが顕現化する場合には、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まることとなる点には、十分に留意が必要である。

(2)金融環境

 4月のマネタリーベースの前年比は、前年、金融機関が年度末にかけて超過準備を積み上げたことや、郵便局が郵貯集中満期に備えて多額の現金を引き出したことの裏が出る形で、3月に引き続き、小幅の伸びにとどまった。マネーサプライ(M2+CD)前年比は、2%台半ばの伸びとなっている。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、貸出先の信用力を見極めつつ、優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢を続けている。企業から見た金融機関の貸出態度にも大きな変化はみられていない。ただ、より子細にみると、優良先への貸出姿勢が一段と積極化する一方で、信用力の低い企業に対しては慎重化の兆しが窺われるなど、「貸出スタンスの2極化」の動きが強まっている可能性がある。この間、社債・CPなど資本市場を通じた企業の資金調達環境は、金利の低下や投資家の信用リスク・テイク姿勢の強まりを背景に、さらに改善している。CPの発行残高は既往ピークを更新している。

 企業の資金調達コストは、一段の金融緩和措置に伴う市場金利の低下を受けて、全般に低下している。

 以上を総合すると、金融機関の貸出姿勢や企業金融は、緩和された状態が続いている。当面、金融緩和措置の波及効果を見守る一方で、株価や企業収益の状況などが、金融機関行動や企業の資金調達環境に与える影響についても、注視していく必要がある。

II.「手形買入基本要領」等の一部改正の決定

1.執行部からの提案内容

 本行の資金供給力の向上を通じて、金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、「手形買入基本要領」および「日本銀行業務方法書」を一部改正し、これまで「3か月以内」としていた手形期間を「6か月以内」に延長することとしたい。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定された。本件は、執行部からあわせて説明のあった金融市場調節の円滑化に向けた他の諸措置(手形買入(本店買入)における買入対象先数の拡大、国債買入における買入対象に中期国債を追加すること、オペの入札における刻み幅の細分化)とともに、適宜の方法で公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

 会合では、前回会合以降に得られた各種指標等をもとに議論が行われた。

 景気の現状については、「輸出の落ち込みを主因に生産が減少するなど、調整局面にある」という、前月までの判断を踏襲することで意見が一致した。ただ、生産・在庫・設備投資などの面で、企業部門の減速が鮮明化していることを示す材料が次第に多くなっており、今後注視していく必要がある、との認識が多くの委員から示された。ある委員は、景気動向指数などの分析から、景気は遅くとも年初には転換点を迎え、後退局面に入ったことが確認された、と述べた。また、別の委員は、緩やかな後戻りの状態が続いている、と表現した。

 まず、企業部門の動向について、多くの委員が、輸出・生産の減少がより明確になってきた、との認識を示した。ひとりの委員は、生産について、昨年までの景気回復局面では、過去の回復局面に比べて、輸出主導型産業の寄与が大きかった、と指摘し、輸出の失速は、生産に大きな影響を与えており、ひいては設備投資にも影響することになる、と述べた。

 企業収益については、複数の委員が、生産の減少と価格の下落により、減益に転じている、との見方を示した。こうした下で、これまで増加を続けてきた設備投資についても頭打ちになりつつあり、先行きは減少に転じていく可能性が高い、との認識が多くの委員から示された。ある委員は、設備投資の減額、中止の動きが、IT業種以外にも広がっており、現状は、工場建設など中断できない案件が行われているという状況だ、とコメントした。もっとも、ひとりの委員は、今のところ減少が加速する兆候までは見られていない、と付け加えた。

 個人消費については、(1)このところ比較的明るい指標がみられる、(2)しかし、生産の減少の影響が、労働時間など雇用所得環境や、それを受けた消費者コンフィデンスの動きなどに表れてきている、(3)今後、こうした動きが本格化して、企業部門と家計部門が「後ろ向きの循環」に陥ることがないか、留意すべき局面にある、という認識が示された。

 ある委員は、足許では、乗用車等一部耐久消費財や都内百貨店売上高のように明るい動きもみられ、消費は引き続き好況でも不況でもない普通の時、すなわち「平時」にある、とコメントした。別の委員は、個人消費は、もともと回復感に乏しい動きを続けてきたが、「一進一退」の範囲でまずまず健闘している、と述べた。そのうえで、こうした企業部門と家計部門のモメンタムの違いは、調整局面初期に典型的な現象であるが、今後、企業部門の調整がタイムラグを伴って家計部門に波及していくかどうか、注視していきたい、とコメントした。もうひとりの委員も、今年度後半の景気展開を判断するうえで、(1)減益に転じているとみられる企業収益が今後どのように展開するか、(2)収益が悪化した場合、企業が雇用面でどのような対応を取るか、注視していきたい、と述べた。この点に関連して、ある委員は、現在、労働時間が減少しているのは、企業が固定費を変動費化する努力を続けてきたことのひとつの表れと考えられる、と指摘し、雇用・所得面の調整は、過去とやや異なる形で表れる可能性もある、との見解を述べた。また、別のひとりの委員は、職種・年齢などによる雇用のミスマッチが拡大しており、失業率はさらに上昇する可能性が高い、との見方を述べた。

 ある委員は、生産の減少がはっきりしてくる中で、雇用・所得環境への懸念から消費者コンフィデンスの悪化が見られ、今後注意して見ていく必要がある、と述べた。一方、別の委員は、消費者コンフィデンスが悪化している中で、消費性向は、最近むしろ上昇している、と指摘したうえで、家計の一部に節約疲れが出ていることや、変化に対する期待感などが影響しているのではないか、とコメントした。

 この間、公共投資については、複数の委員が、年央までは増加するが、その後は、補正予算がなければ減少に向う公算が大きい、と述べた。また、住宅投資について、ひとりの委員は、既にピークアウトしており、減税効果にも反応しなくなっている、との見方を示した。

 以上の議論を踏まえ、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続ける可能性が高く、これまでの企業部門を起点とした所得創出メカニズムが働き続けることは期待しにくくなっている、との見方が共有された。

 日本経済の先行きについては、引き続き米国経済や世界的な情報関連財需要の動向が大きな要因となる、という認識が多くの委員から示された。ある委員は、これに加えて、国内要因としては、新政権の構造改革に向けた取り組みなどを注視していきたい、と述べた。別の委員も、不良債権処理、国債発行残高の圧縮等を含め、構造改革の実体経済へのインパクトを分析し、その結果を委員を含めて共有していく必要がある、とコメントした。

 米国経済については、良い材料と悪い材料が交錯しており、本年後半の回復というシナリオについて、現時点で判断するのは困難である、という認識が多くの委員から示された。

 ひとりの委員は、第1四半期のGDPが予想以上に高い数字になったほか、家計部門が底固い動きを示すなど、良い材料が出ている一方で、これまで高い伸びを続けた労働生産性が第1四半期にマイナスをつけるなど、不安を残す材料もある、と指摘した。複数の委員は、株価や長期金利の上昇、ドルの底固さなどからみて、金融資本市場は、米国経済が最悪の状況に陥るリスクが減少しつつあると評価している、との見方を示した。

 これに対して、ひとりの委員は、(1)労働生産性の低下やエネルギー価格の上昇などのコストアップ要因が生じてきているが、これが今後本格的な雇用調整につながり、個人消費に悪影響が生じるおそれがある、(2)ハイテク分野を中心に稼働率が低下する中、過去の過剰投資の結果、生産能力はなお拡大を続けており、今後の資本ストック調整は不可避である、と述べ、米国景気の調整が長引くリスクが高まっている、との見解を示した。別の委員は、(1)家計負債が増加傾向にあること、(2)消費関連分野でも過剰設備となっていること、(3)逆資産効果による消費への影響が懸念されることなどを指摘し、ここ2~3か月が先行きを見る上で重要なポイントとなる、とコメントした。また、低公害型ガソリン在庫の減少や電力危機が広がるおそれなどを背景に、原油価格は目先30ドル台に乗せる可能性があり、エネルギー価格次第ではスタグフレーションに陥る可能性もある、と述べた。さらに、米国のITブームの再来はありえず、あるとすればエネルギー関連投資のブームではないか、との見方を示した。

 ある委員は、米国経済の減速の程度に比べて、わが国の生産・輸出の減少の程度が大きい、と述べた。そのうえで、わが国経済の先行きを見る上では、全体としての米国経済の回復度合いよりも、むしろ、情報通信分野の動向の影響が大きいのではないか、との見方を示した。

 欧州経済について、ある委員は、生産・受注の伸びの落ち込み、製造業コンフィデンスの悪化など、企業部門の減速がみられる一方、エネルギーや畜産物価格の上昇など、先行きの物価上昇にも警戒が必要であり、両睨みの難しい局面にある、との見方を述べた。

 以上のような景気情勢の下で、物価については、需給両面の要因により弱含みの動きが続いている、という認識で一致した。ある委員は、景気の弱さに加え、衣料品などの輸入競合品の価格低下やマイラインの影響も大きく、当面、こうした要因は大きくは変わらないとみられる、と指摘した。また、別の委員は、物価は、様々な要因により低下しているが、需要の弱さによる価格下落や構造調整の過程で「負け組」企業が安値攻勢をかけている点が、企業収益面に重くのしかかっている、と述べた。もうひとりの委員は、円安の効果で輸入物価は、前年比10%程度の上昇となっている一方、消費者物価段階では、輸入品、輸入競合品の価格低下が続いている、と指摘し、輸入による消費財の下落圧力は続いている、と述べた。

 金融環境については、多くの委員から、前回会合と比べて、総じて一段と緩和方向に動いている、との認識が示された。

 多くの委員は、長短金利は、ゼロ金利政策時並みかそれを下回るレベルまで低下しており、今回の政策は強力な緩和効果を発揮している、との見方を示した。このうちひとりの委員は、札割れが発生していることも、今回の資金供給額がいかに潤沢なものかを端的に表している、と述べた。別の委員は、こうした金利の低下は、企業収益に対して、さらなる下支え効果を発揮している、との見方を示した。

 また、何人かの委員が、社債・CPなどの資本市場を通じた資金調達環境が好転していることを指摘した。ある委員は、信用スプレッドが縮小していることから見て、投資家のリスクテイク活動を積極化させる効果は、ゼロ金利政策導入時より早く表れている、との見方を示した。また、別の委員も、今回の政策による各種金利の低下を受けて、個人が、株式投信、社債・地方債等への購買意欲を高めているほか、機関投資家も、低格付債や外債への投資を積極化し、債券投資のデュレーションの長期化を図るなど、リスクテイクが促進されている、と指摘した。

 一方、貸出姿勢など金融機関行動の面では、複数の委員が、これまでのところ大きな変化はない、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、金融機関の信用リスクに対する警戒感は根強く、企業側も過剰債務の返済を優先しているため、マネタリーベースの伸びが、貸出やマネーサプライの伸びにはなかなかつながっていかない、と指摘した。

 こうした議論を踏まえて、今回の緩和策を評価するには、さらにデータの蓄積を待って分析する必要があるが、金融資本市場では、概ね想定したような効果が表れ始めている、という認識が共有された。

 この間、株価については、何人かの委員が、金融緩和による金利の低下、米国株価の持ち直しに加えて、構造改革への期待が下支え要因となっている、と指摘した。ある委員は、日本銀行の金融緩和が市場に安心感を与えており、これが株価の上昇にも寄与している、との見方を示した。もっとも、複数の委員は、不良債権処理など構造改革の実現性についてはなお不透明感が強く、最近の株価動向は、こうした市場心理を反映している、と述べた。このうちひとりの委員は、構造改革が資本市場での評価を通じて経済にプラスに働くためにも、市場の信認が得られるような具体的なプランを策定し、実行に移していくことが重要である、と付け加えた。この間、別の委員は、チャート分析などの観点から、日本の株価は3月以来の短期の上昇局面が終了した、とコメントした。また、米国株価については、NYダウは2000年1月の過去最高値を更新する可能性もある、と述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 委員の認識は、(1)景気は概ね想定の範囲内の動きを続けている、(2)金融資本市場では金融緩和の効果が表れ始めている、として、当面現在の政策の効果を見極めていくべき局面にある、との見方で一致した。このため、すべての委員が、当面の金融政策運営方針としては、現状維持を支持した。その上で、金融緩和措置の浸透状況、米国景気や情報関連財需要の動向、構造改革の進展度合いなどを注意深く見ていく必要がある、との認識が示された。ある委員は、民間の自助努力と財政・金融政策の合わせ技で、不良債権処理・構造改革をサポートし、これを通じて景気回復を達成するという道筋がどうなるか、まだまだ注視すべき局面にある、とコメントした。

 また、最近、本行オペで札割れが生じている点についても議論された。多くの委員は、(1)金融機関の資金余剰感が強い中で、ある程度予想されたことである、(2)日本銀行当座預金残高を5兆円程度とするうえでも支障は生じていない、との認識を示した。このため、3月19日の決定の考え方に沿って、現時点では、長期国債買切りオペを増額する必要はない、と述べた。また、何人かの委員は、本日決定した措置等によって、資金供給がよりスムーズに行われるようになることを期待している、とコメントした。ただし、このうちひとりの委員は、オペ手段の改善を図っていくことは必要であるが、あらゆる無理をしてまで長期国債買切りオペの増額をしない、という印象を与えることは適当ではなく、増額するか否かに過度の注目を集めることにもなる、と付け加えた。また、もうひとりの委員は、買切りオペの増額について、日銀当座預金残高の目標を達成する手段としての有効性および、これとは別に、増額自体が金融資本市場に与える影響について、注意深く分析する必要がある、と述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済は、雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いているほか、輸出の減少を背景に生産が減少している中で、在庫が増加しているなど、景気はさらに弱含んでいる。こうした中で、物価の下落が経済に与える影響が依然として懸念される。
  •  政府としては、経済の回復が遅れている背景に、バランスシート調整や国民の将来への不安感などがあり、本格的な景気回復のためには構造問題への取り組みが不可欠である、と考えている。このため新たに発足した小泉内閣の下で「構造改革なくして景気回復なし」という考え方に立ち、経済・財政の構造改革を断行していく方針である。具体的には、不良債権問題について、2~3年以内に最終処理を目指すこととしている。また、財政構造改革については、財政健全化の第一歩として来年度予算における国債発行を30兆円以下に抑制することを目標とし、歳出の徹底した見直しに努めることとしている。その後、わが国財政を持続可能なものとするため、例えば、過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないことを次の目標とするなど、本格的な財政再建に全力で取り組んでいく所存である。
  •  日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施と合わせ、物価の安定を図ることを通じて経済の発展に資するよう、経済や市場の動向を注視しつつ、新たな金融市場調節方式の下で潤沢な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策運営を行って頂きたい。

 内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気認識と当面の経済運営に関しては、財務省の発言と同じである。
  •  経済財政諮問会議においては、総理のリーダーシップの下、6月を目途に、来年度予算を初めとする今後の経済財政運営と経済・社会の構造改革に関する基本方針、いわゆる骨太の方針を作成する予定である。
  •  日本銀行におかれても、需要の弱さに基づく物価下落圧力が強まる可能性に配慮しつつ、引き続き物価の安定の実現を目指して、予防的観点を含めた適切かつ機動的な金融政策の運営を行って頂きたい。

VI.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)とじ

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員、須田委員
  • 反対:なし

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を5月21日に公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月12、13日)の議事要旨が、全員一致で承認され、5月23日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成13年5月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上