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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 6月14、15日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年7月12、13日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 7月18日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年 6月14日(14:03~15:42)
6月15日( 9:01~12:11)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(副総裁)
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 田村 義雄 大臣官房総括審議官(14、15日)
  • 内閣府 薦田 隆成 大臣官房審議官(経済財政−運営担当)
    (14日、15日<9:01~10:25>)
    竹中 平蔵  経済財政政策担当大臣
    (15日<10:25~12:11>)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役長井滋人
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(5月17、18日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって、日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるような調節を行った。こうした調節のもとで、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、5月31日に0.03%に上昇したことを除けば、0.01%での推移を続けた。

 なお、資金供給オペの応札状況をみると、オペ入札におけるレート刻み幅の細分化など、5月に講じた金融市場調節の円滑化措置の奏効もあって、5月22日以降、オペの応札額がオファー額に満たないという「札割れ」は生じていない。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金利は、ターム物まで含め、ゼロ%に近い極めて低い水準で安定的に推移している。長期金利は前回会合以降、概ね1.2%台での推移を続けてきたが、ごく最近では1.1%台に低下している。

 株価は、構造改革への期待が引き続き下支え要因として働いているものの、最近では、企業収益の下振れリスクや銀行の不良債権処理の遅れが意識されたことなどから、総じて軟調な推移となっている。

 円の対ドル相場は、海外投資家が円ポジションのショートカバーを進めたことなどを背景に、6月初にはいったん118円台まで円高方向の動きが進んだ。もっとも、その後は再び弱含み、足許では120~122円台と、ほぼ前回会合並みの水準で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、家計部門が相対的に底固く推移する一方で、企業部門では、IT分野を中心とする調整が深まっている。こうした動きが、現在、日本を含めたアジアや欧州経済の下押し圧力となり、世界景気の同時減速をもたらしているようにみられる。

 IT関連を中心とする企業部門の調整は長引く可能性が高く、その影響がいずれ米国家計部門にも波及するリスクは排除できない。したがって、現在の在庫調整が峠を越えたとしても、その後の景気回復力は弱いとみておくべきであろう。

 この間、米国金融市場では、長期金利が上昇し、株価も持ち直すなど、来年にかけての景気回復を織り込む展開となっている。ただし、ごく最近では、株価がIT関連株を中心に再びやや軟化する中、米国連銀幹部の発言などを受け、市場では、次回(6月末)FOMCでの再利下げを予想する向きが増えている。

 ユーロエリアでは、主要国における減税の効果もあって、個人消費は引き続き底固く推移している。しかし、米国経済減速の影響は表面化しつつあり、独仏を中心に生産や受注の伸びが鈍化している中で、製造業の設備投資にも減速感が窺われる。この間、物価上昇率は、家畜伝染病の影響やエネルギー価格上昇の影響から高止まっている。

 東アジア諸国では、IT関連を中心に米国・日本向け輸出の減少が続いている。これを受けて生産も減少基調にあり、製造業のコンフィデンスの悪化が続くなど、景気は大幅に減速している。特に、韓国や台湾では、稼働率の低下や企業収益の悪化から、設備投資の伸びが鈍化している。このうち台湾では、失業率の上昇等から消費マインドが悪化し、個人消費も低調に推移している。一方、韓国では、ウォン安による自動車・機械等の輸出増が、景気減速の緩衝役となっている。

 この間、中国では、輸出の伸びが鈍化傾向にあるが、財政支出の増大や高水準の直接投資の流入に伴う内需の好調を反映して、高成長を維持している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 米国、東アジアなど海外経済の減速、とりわけ情報関連財の需要低迷を背景に、輸出・生産は大幅な減少が続いている。また、電子部品や一部素材などでは、在庫過剰感が一段と高まっている。こうした動きを受けて、企業収益は製造業を中心に減益に転じており、設備投資も減少に転じつつあるとみられる。

 一方、生産の大幅減少にもかかわらず、家計部門への影響は、なお限定的にとどまっている。すなわち、家計所得はなお底固さを維持しており、個人消費も、全体としては回復感に乏しいものの、一部には明るい指標もみられている。ただし、生産減少の影響は、労働時間の減少等を通じて家計部門にも及び始めている。

 このように、景気は、輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まりつつある。

 先行きについても、景気は当面、生産面を中心に調整を続けると予想される。すなわち、輸出が当面減少傾向を辿るもとで、電子部品を中心とした在庫面からの調整圧力も加わり、生産は少なくとも夏場までは減少傾向が続くとみられる。こうした中で、家計の所得形成も次第に弱まっていくと考えられる。

 その先、本年後半以降の景気展開については、今のところ調整がIT関連を中心とする輸出・生産面に集中しているとはいえ、内生的な需要回復を展望できる要素も乏しく、海外景気、とりわけ米国景気の動向に左右されるところが大きい。このほか、株価の動向やその企業・家計のマインド面への影響、さらに、今後不良債権処理が加速していった場合の影響等も、注視していく必要がある。

 物価は、需給の緩和に加え、技術革新や流通合理化等の影響もあって、全体として弱含みで推移しており、先行きも、総じて弱含みで推移する可能性が高い。

(2)金融環境

 前回会合以降も、金利や信用リスク・プレミアムなどの面で、金融緩和は着実に浸透を続けていると判断される。

 すなわち、まず金利の面では、長短市場金利が、ゼロ金利政策時をも下回る低水準での推移を続けている。こうした中で、貸出金利やCP、社債の発行金利など、企業の調達金利も大幅に低下している。

 また、投資家の信用リスク・テイク姿勢が前向きになる中で、信用リスク・プレミアムも縮小傾向にある。このため、CP発行市場では、格付けが相対的に低めのCP(A2、A3格)の発行シェアが増加傾向にある。

 資金仲介活動の面では、銀行の貸出スタンスに大きな変化はみられていない。ただし、子細にみると、大企業を中心とする優良先への貸出スタンスを一段と積極化する動きがみられる一方で、相対的に信用力が低い先に対しては慎重化する兆しが窺われるなど、「貸出スタンスの2極化」の動きが強まっている可能性がある。

 この間、マネーサプライ(M2+CD)やマネタリーベースといった量的金融指標の伸び率は、このところ、少しずつ高まっている。

 以上のように、金融機関の貸出姿勢や企業金融は、総じてみれば、緩和された状態が続いている。当面、金融緩和措置の波及効果を見守る一方で、株価や企業収益の状況などが、金融機関行動や企業の資金調達環境に与える影響についても、注視していく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状

 景気の現状について、各委員は、IT分野を中心とする海外経済の減速を背景に、輸出・生産の大幅な減少が続いていることを指摘した。また、多くの委員が、経済の調整が輸出から生産、企業収益、設備投資へと徐々に進みつつあるとの厳しい認識を示した。このうちひとりの委員は、足許の景気動向指数の低下などを紹介したうえで「景気後退が進行中である」と付言した。別のひとりの委員は、景気の現状を「後戻りしつつある」と表現した。これらの委員も含め、景気の総括判断については、「調整が深まりつつある」というかたちで、前月に比べて認識を慎重化させることで、委員会の見解は一致した。

 ただし、複数の委員は、厳しいとはいえ、こうした経済の足取り自体は3月の金融緩和措置の決定の際に概ね想定していたものであり、これまでのところは、4月の「展望レポート」で示した標準シナリオの範囲内でダウンサイド・リスクがやや増している状態である、との評価を述べた。

 一方、ある委員は、現時点で既に「展望レポート」の内容は景気の実態に遅れている、と主張した。

 輸出や生産が大幅に減少している背景として、多くの委員は、米国を始めとする世界的なIT関連分野の調整を指摘した。

 これらの委員は、米国経済の動向について、(1)自動車等いわゆるオールド・エコノミー分野の在庫調整の進捗や家計支出の堅調など、経済の底固さを示す動きがみられる一方で、(2)IT関連のニュー・エコノミー分野の調整は、ネットワーク投資等を中心に後ずれする傾向がみられる、といった明暗両面の動きを指摘した。ある委員は、日本の生産の大幅な減少はIT関連分野の世界的なリンケージの強さを反映している、とコメントした。

 この間、別のひとりの委員は、需要面におけるここにきての最大の変化点は、官民の建設投資の減少を反映した、建設関連需要の落ち込みであると指摘した。

 多くの委員は、上記のような生産の減少を受け、企業の収益環境は厳しさを増しており、設備投資も減少に転じつつあるなど、企業部門における調整が一段と明確になっている、との見解を示した。

 一方で、複数の委員が、家計の雇用・所得環境や個人消費が相対的には底固さを維持しており、生産減少の家計部門への影響は、現段階では限定的なものにとどまっていることを指摘した。ある委員は、消費の構造変化、飽和感を背景に、家計は身の丈に合せた消費スタンスになっており、ミクロでは「売れる企業・商品」と「売れない企業・商品」とが二極化する傾向が一段と強まっているが、全体としての個人消費の状況は、好況でも不況でもない「平時」の状態にある、と述べた。

 この委員は、個人消費を巡る環境について、(1)雇用不安や年金・医療制度の先行きへの不安が根強い一方で、(2)借入れ残高の動向などからみて家計のバランスシート調整に伴う消費下押し圧力は徐々に小さくなっている、との見解を示した。

 ただし、これに対して、別のひとりの委員は、可処分所得と比べた住宅ローンの返済負担はむしろ重くなっており、借入れのある世帯とそうでない世帯との差が大きくなっているのではないかと指摘した。さらに、(1)本年1~3月期のGDPの前期比マイナスは、外需と国内民需のマイナスが主因であり、(2)中でも、個人消費が、家電リサイクル法による駆け込み需要があったにもかかわらず前期比ゼロにとどまったことは、厳しく受け止める必要がある、と述べた。

 この間、複数の委員は、昨年の景気回復局面の特徴として、(1)IT関連の輸出・生産等の増加が、非製造業など他分野の経済活動水準の上昇になかなか結びついていかなかったこと、(2)企業収益の大幅な増加が、家計の雇用・所得の顕著な改善に結びつかなかったこと、を指摘した。一方、現在はIT関連の輸出・生産が大幅に減少している中で、それ以外への波及は限定的なものにとどまっており、景気展開の特定分野への集中という特徴が、去年とは逆のかたちで表れている可能性がある、と述べた。

2.景気の先行き

 景気の先行きについて、多くの委員は、輸出の減速が続くもとで生産財の在庫積み上がりが顕著になっており、生産は当面減少傾向を辿る公算が大きいとの見方を示した。

 さらに、このような輸出・生産動向のほか、価格の低下傾向もあって、企業収益は当面、厳しい状況となることは避けられず、設備投資も減少傾向を辿る可能性が高い、との見解を述べた。

 このうちひとりの委員は、過剰能力の顕在化が著しく、在庫調整は長引かざるを得ず、さらに、ここにきて在庫ファイナンスのための資金需要が増加していることから、債務圧縮にもブレーキがかかっている、と述べた。

 別のひとりの委員は、(1)本年度上期の製造業の経常利益は前年比10%程度の減益となる、(2)法人季報に基づく企業のROAはこのところ3%程度で推移しているが、これを4%程度まで引き上げようとすれば、バランスシートの20%強の圧縮や人件費の大幅な削減といった、大胆なリストラが必要となる、との試算結果を示した。

 上記の試算に対し、また別のひとりの委員は、前年の増益幅がかなり大きいこともあり、仮に上期収益が前年比で1割程度減少するとしても、利益水準や利益率はある程度高めのレベルを維持するのではないか、とコメントした。

 次いで、先行きの注目点として、IT分野を中心とする企業部門の調整が、今後、家計部門にどの程度の影響を及ぼしていくのかという点について、議論が行われた。

 多くの委員は、企業部門の調整が、今後、家計の雇用・所得にも影響を及ぼしていくこと自体は避けられない、との見解を示した。このうち複数の委員は、今後、こうした家計部門への影響がある程度の所でとどまるのか、それとも、消費の減少がさらなる企業収益の減少を招くといったかたちで、企業部門と家計部門が「後ろ向きの循環」に陥っていくことはないか、一段と注意深くみていく必要があると述べた。この間、ある委員は、雇用・所得環境の悪化や住宅ローン負担の増大等の要因を指摘し、個人消費の先行きについて、より慎重な見解を述べた。

 別のある委員は、雇用不安を背景に、消費マインドが悪化の傾向にあるが、こうした観点からも、先行き不安に対するセーフティ・ネットの整備が重要であり、これにより、家計の金融資産ストックを支出に向かわせることも可能であろうと付言した。

 先行きの経済を展望するうえでのリスク要因として、(1)米国をはじめとする海外経済やIT関連分野の動向、および、(2)構造改革の具体的な進展とその影響、について多くの議論が行われた。

 ひとりの委員は、97~98年の景気後退局面と現状とを比較するかたちで、先行きの景気回復の条件とリスクを整理した。

 この委員は、97~98年当時の状況について、大型の金融機関破綻などを契機に金融不安の高まる中、「金融・実体経済連動型」で経済が全般的に悪化した局面と整理した。そのうえで、こうした事態への対応策としては「金融システム不安・流動性不安の解消」が重要であり、実際、(1)金融政策面では利下げや企業金融対策、(2)金融システム面では公的資金の投入等の対策が有効に機能した、と述べた。

 一方で、現状については、米国経済の調整に端を発する「日米連動型」調整であり、また「IT分野集中型」の色彩が強い、と述べた。したがって、現在の経済調整が完了する条件としては、金融面の対応よりも、IT需要自体の回復や米国経済の動向が鍵になると考えられる、と述べた。

 さらに、米国経済の先行きについて、多くの委員が発言した。

 複数の委員が、(1)ニュー・エコノミー分野の調整が、オールド・エコノミー分野や家計部門に及んでいく可能性は否定できない一方で、(2)逆に、これまでの金利低下の効果がオールド・エコノミー分野の回復を通じて経済全体を持ち上げていく可能性もあり、現段階ではなお不確実性が大きいと述べた。ある委員は、米国景気の先行きをみるうえでの留意点として、(1)ニュー・エコノミー分野における過去の「行き過ぎ」の大きさがどの程度のものだったか、(2)比較的早期に進んでいる雇用調整が、家計部門の悪化と企業収益の早期回復のどちらに強く作用するのか、(3)生産性上昇のトレンドがどの程度変化しているのか、などの点を挙げた。

 そのうえで、何人かの委員は、米国経済の回復時期については、ニュー・エコノミー分野を中心に後ずれするリスクが高まっている、との見解を示した。

 このうちひとりの委員は、仮に米国経済の回復がオールド・エコノミー中心となり、IT分野の調整が遅延する場合には、日本の輸出環境という観点からは厳しい状況が続くことを意味するかもしれない、と付け加えた。

 別のひとりの委員は、家計のクレジット負債の増加や純資産の減少、民間負債の対GDP比率の上昇などからみて、民間部門のバランスシートは痛んでおり、米国経済の回復時期は、早くとも2002年第1四半期になるだろうとの慎重な見通しを示した。

 また、多くの委員が、今後の構造改革の進展とその影響を見きわめていく必要性に言及した。

 何人かの委員が、構造改革の重要性を指摘しつつ、そのマクロ経済に与える影響については、今後の具体化の動きを踏まえて評価する必要があると述べた。ある委員は、今後注目すべきポイントとして、(1)財政バランスの改善がどのようなペースで行われていくのか、(2)不良債権の処理がどのような規模・ペースで進められていくのか、という点を挙げた。

 この間、ひとりの委員は、現在、日本の家計支出が比較的堅調を維持している背景として、(1)97~98年当時の状況とは異なり、金融システム不安が後退していることに加え、(2)構造改革への期待感が家計のマインドを下支えしている可能性を指摘した。

 他方、別の委員は、「構造改革により短期的にはデフレ圧力が強まる」といった認識が先行しており、これが、企業マインドにマイナス方向に働いている可能性を指摘した。

 これらの議論を踏まえ、何人かの委員は、今後、財政赤字の解消や年金・医療制度改革、不良債権処理等について、具体的な構造改革の道筋を示していくことが、経済主体や市場のマインドにプラスに作用する、との見解を述べた。

 なお、このうちひとりの委員は、構造改革の進め方について、(1)民間の自助努力を中心に据え、市場原理を活用すべき、(2)政府の役割は、税制面のサポートや規制緩和、流動的な労働市場やセーフティ・ネットなどの環境整備を中心とすべき、(3)財政出動は、極力乗数効果の高いかたちで行うべき、(4)不良債権処理においては法的整理を原則とし、債権放棄は例外的措置とするとともに、経営責任・株主責任の厳格化や再建可能性の目途の明確化が必要、(5)債務者区分の厳格適正な見直しを行うとともに、引当金を厚く積むことで、不良債権の新規発生に対処することが必要、との意見を述べた。

 物価動向に関し、ひとりの委員は、足許の物価弱含みの背景として、(1)技術革新、(2)国際競争価格への鞘寄せ、(3)海外の低賃金・低地価を反映した安値輸入品の流入、といった供給面・コスト面の要因と、(1)需給バランスの悪化や、(2)市場から退出すべき企業の採算度外視での安値販売といった「悪い価格下落要因」が両者混在しながら、全体としての物価下落につながっている、と述べた。

 そのうえで、この委員を含めた何人かの委員は、経済の調整が深まりつつある中、需要の弱さに起因する物価低下圧力に一段の注意が必要な状況となっている、との見解を示した。

 なお、ある委員は、本年第3四半期の原油価格の見通しについて、概ね現状程度で推移するのではないかとの予測を述べた。

3.金融面の動向

 最近の金融環境について、多くの委員は、3月の金融緩和措置の効果が着実に浸透を続けている、との評価を示した。

 すなわち、多くの委員は、(1)3月の金融緩和措置の「コミットメント」の効果もあって、長短金利がゼロ金利政策時を下回る低水準での推移を続けていること、(2)流動性懸念がほぼ払拭されていること、(3)市場参加者のリスク・テイク姿勢の強まりを反映し、信用リスク・プレミアムも縮小していること、(4)こうしたもとで、社債・CPなど市場を通ずる企業の資金調達環境も改善していること、などを指摘した。そのうえで、複数の委員は、全体としての金融環境は、ゼロ金利政策時を上回る緩和的な状態が維持されている、と述べた。

 この間、足許の株価の軟調について、ひとりの委員は、企業部門における調整の深まりや収益の下振れ予想を反映している面が大きい、と指摘した。別のひとりの委員は、市場の信認が得られるような構造改革の具体的なプランを策定し、実行に移していくことが、資本市場にも良い影響を及ぼしていくと考えられる、とコメントした。

 なお、ひとりの委員は、このところ政府余資が大幅に増加しており、これが日本銀行当座預金残高のこれ以上の積み増しを困難にしているとの論調もあることについて、執行部に質問した。これに対し執行部から、政府の余資の積み上がりが調節上の負担となり得ることは確かであるが、このこと自体と日本銀行当座預金の供給のフィージビリティとは別の問題と考えられる、との回答があった。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要と

 続いて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員は、(1)景気の現状については、輸出・生産面を中心に調整が深まりつつある、(2)ただし、3月の金融緩和措置はこうした厳しい情勢の展開を想定して決定したものである、(3)金融市場では金融緩和の効果が着実に浸透を続けている、との認識を共有した。

 そのうえで、すべての委員が、当面は現在の金融調節方針を継続し、海外経済の動向や構造改革の進展とその影響、金融緩和の浸透度合い等を注意深く見守っていくことが適当である、との見解で一致した。

 まず、多くの委員が、現在の金融緩和策の効果について発言した。

 何人かの委員が、現在の金融緩和策について、潤沢な資金供給、強力なコミットメント、ロンバート型貸出制度のセーフティ・ネット効果などにより、(1)経済に前向きの動きが生じれば、これを十分にサポートすると同時に、(2)構造改革の過程で短期的に生じ得るデフレ圧力にも対応し得る枠組みであるとの認識を示した。このうちひとりの委員は、とりわけ量的な面での効果を強調した。

 ある委員は、現在の緩和策について、いわば「潜在緩和度」がきわめて高く「懐の深い」政策であると述べた。そのうえで、この委員は、(1)現在は、実体経済が金融緩和の効果を十分に活用できない、いわば「金融緩和の不完全利用」の状況にあり、(2)金融緩和の活用度を高めていくためには、資本や雇用の効率的な再配分やその高度化・活性化に向けた具体的施策を組み合わせていく必要がある、と述べた。また別の委員は、消費者物価指数を利用したコミットメントによる自動調整機能──いわゆる時間軸効果──の役割を強調した。この委員は、景気情勢が悪化すれば、金融緩和期間が長期化するとの市場の期待形成を通じてイールド・カーブがさらにフラット化すると指摘し、このような現在の政策の機能については必ずしも理解されていないと述べた。こうした見解に対して多くの委員が賛同した。

 また、複数の委員が、構造改革と金融政策の関係について発言した。これらの委員は、金融緩和の効果がフルに発揮されるためには、金融システムの立て直しを含めた構造改革の進展が不可欠の前提であり、構造改革と金融緩和の効果が相まって経済の本格回復への道筋が拓かれる、との見解を示した。このうちひとりの委員は、現在の金融緩和策は、構造改革に伴うデフレ圧力をも念頭に置いたうえで実施に踏み切ったものであり、こうした金融緩和策と、民間の自助努力、および財政政策の「合わせ技」を通じて、景気の本格的な回復を実現していくことが重要であると述べた。

 次いで、追加的な緩和策についても議論が行われた。

 まず、複数の委員が、追加的な緩和策の有効性について問題提起を行った。具体的には、(1)金利面では各種金利が既に下限に近づいていること、(2)経済主体のリスク・テイク能力が低下しており、これ以上の超過準備の供給が信用創造活動の積極化や運用多様化につながりにくくなっていること、等の問題点が指摘された。このうちある委員は、追加的な緩和策の内容によっては、金融・資本市場で、かえって物価変動に関するリスク・プレミアムや財政ポジションに関するリスク・プレミアムを増大させる危険も否定できないと述べた。また、別のある委員は、構造改革に伴う痛み自体を追加的な金融緩和で完全にオフセットするといったことは難しい、と述べた。このほか、流動性に対する需要が充足されている中で、これ以上の当座預金増額が可能かどうかという実行可能性の問題も提起された。

 ただし、これらの委員も含め、多くの委員が、日本経済の先行きは不確実性が高く、情勢が悪化した場合に金融政策面でとり得る対応についてはさらに検討を深めていきたいと述べた。

 ある委員は、現在の政策の時間軸効果は確かに強力であるが、それだけでは時間の経過を待つだけの受け身の政策であり、(1)さらに、当座預金の増額やベースマネーの増加等、これ以上の量的緩和をどのように進めるか、よく検討しておくべきであるほか、(2)情勢が悪化した場合には、何年先といった期間を明示したインフレ・ターゲットの設定などの政策対応を検討する必要があると主張した。別の委員は、当座預金の増額や長期国債買い入れの効果について、さらに検討していきたいと述べた。さらに別の委員は、これ以上の緩和策について、副作用なしに期待形成に働きかけることが可能かどうか、という検討ポイントを提示した。

 こうした議論をまとめる形で、複数の委員が、(1)日本銀行としては、その時々の経済情勢を踏まえて、最善の政策を実行する必要がある、(2)既に強力な金融緩和を続けている中、考え得る追加的な方策については、その効果や実現可能性等について慎重な検討が必要である、(3)いずれにせよ、こうした政策判断の前提として、先行きの経済の動向について、海外経済や構造改革の影響も含め、十分に見きわめていくことが重要である、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、景気悪化への対応策として、一部に円安誘導を主張する声があることに関し、(1)為替レートはあくまで、経済のファンダメンタルズを反映した形で安定することが望ましく、(2)こうしたことを前提に、民間企業がリストラ等の企業努力を通じて国際競争力をつけていくことが本筋である、(3)デフレ懸念払拭や量的緩和の手段として円安誘導や為替介入をするといった考え方は不適当である、と述べた。

 別のひとりの委員も、為替レートの形成は、極力市場に委ねることが望ましい、と発言した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  経済財政諮問会議では、今後いわゆる「骨太の方針」をとりまとめるが、かなり大胆な内容のものにできると自負している。構造改革は不確実性が大きく、未知の領域であることは確かである。しかし、効果は不確実だがやらなければいけない政策である。
  •  振り返ると、これまでは構造改革遅延のしわを金融当局に寄せていた、といった面はあったように思う。しかし、今、流れは変わってきた。ここまで構造改革を引っ張り出した日本銀行の役割は大きかった。また、日本銀行も、政府と同様「効果は不確実だが一歩踏み出さなければいけない」という問題意識に立って、3月に新たな金融政策の枠組みを作られたものと認識している。
  •  今後、財政の制約も厳しい中で、構造改革を進めつつ、デフレ圧力をどの程度抑えられるかが課題である。政府は、構造改革の具体化について努力するので、日本銀行としても、政策の総動員という観点からハーモナイゼーションにご尽力いただきたい。その際、「構造改革の影響を見極めて」というご議論があったが、低く垂れ込めた雲間に窓をあけることによって、いろいろな動きが結集されるという「政策の窓」という考え方もある。そうした政策運営のダイナミズムのなかで、金融政策の役割はたいへん大きい。
  •  以上を踏まえ、調整期間におけるデフレ圧力の動向も踏まえ、柔軟な金融政策対応を行って頂きたい。

 財務省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済については、雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いているものの足許で弱い動きがみられるほか、輸出・生産も引き続き減少しており、景気は悪化しつつある。設備投資弱含みの兆しなど、先行き懸念される点もみられる状況の中で、物価の下落が実質金利を上昇させ、企業収益の伸びの鈍化とあわせて、企業の実質債務負担の増大などを通じて、経済に与える影響が依然として懸念される。
  •  政府は、「構造改革なくして景気回復なし」との考え方に立ち、構造改革を断行していく。財政構造改革については、財政健全化の第一歩として、平成14年度予算における国債発行を30兆円以下に抑制することを目標として、非効率的な部門を中心に予算を切り詰める一方で、成長部門に対する重点化を進めるなど、歳出の徹底した見直しに努めていく。その後、例えば過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないことを次の目標とするなど、本格的な財政再建に取り組んでいく所存である。
  •  こうした構造改革を進めるうえで、景気を下支えするための金融政策の果たす役割は、きわめて重要と考えている。現下の厳しい経済情勢に即応し、日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施とあわせ、物価の安定を図ることを通じて経済の発展に資するよう、経済や市場の動向を注視しつつ、新たな金融市場調節方式の下で潤沢な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策運営を行って頂きたい。

 上記のような政府からの出席者の発言のうち、「政策のハーモナイゼーション」に関し、何人かの委員が追加的に発言した。

 ひとりの委員は、金融政策が「まだ相当自由に発動できる」といった状況にないことには、留意する必要があるのではないか、と述べた。別のひとりの委員は、金融政策だけで経済を刺激できる状況ではなく、その意味からも、構造改革の実施が重要と考えられる、と発言した。

 さらに別のひとりの委員は、「政策のハーモナイゼーション」については、日銀法4条に規定されている趣旨に立脚すべきと考える、と述べた。内閣府からの出席者も、こうした見解に同意した。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員、須田委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を6月18日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月25日)および前回会合(5月17、18日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月20日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成13年6月15日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上