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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 7月12、13日開催分)*

  1. 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年8月13、14日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 8月17日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年 7月12日(14:01~15:57)
7月13日( 9:00~12:59)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(副総裁)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(12、13日)
  • 内閣府 小林 勇造 政策統括官(経済財政−運営担当)(12日)
    竹中 平蔵 経済財政策担当大臣(13日)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(6月28日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって、日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるような調節を行った。こうした調節のもとで、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、月末要因により6月29日に0.06%となったことを除けば、0.01~0.02%で落ち着いて推移した。

 なお、金融市場調節の入札連絡事務に関する新システムが完成し、7月23日にカットオーバーされることとなった。これにより、導入準備を進めてきた手形全店買入オペの実施が可能となるほか、全てのオペにおける入札レート刻み幅が0.001%となる。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 最近の金融・為替市場の動きを概観すると、短期金利がゼロ金利政策時のボトムを下回る極めて低水準で推移している中、株価の軟調、長期金利の反転上昇、為替の円安傾向が見受けられる。この背景としては、米国株価の下落の影響、わが国の景気に対する見方の慎重化、追加景気対策に関する思惑の台頭、といった要因が指摘できる。

 株価は、米国IT関連企業の業績下方修正が相次いだことや、国内での持合い解消売り圧力が意識されたことを背景に、一段と値を下げた。業種別には、電気機器、通信、サービスといったIT関連株や銀行株の下落が寄与している。

 長期金利は、このところ、長期ゾーンを中心に上昇しており、イールドカーブは「ベア・スティープ化」した。これは、景気対策への思惑から国債増発の可能性が意識され、投資家の利益確定売りが広がったことが背景にある。もっとも、足許では、調整が一段落しつつあり、1.3%前後の水準で推移している。

 円の対ドル相場は、7月初めにかけては123~124円台でもみ合う展開となったが、その後、国内景気の先行きに対する懸念の高まりなどから円安傾向となり、最近では125~126円台で推移している。市場では、先行き、内外の景気情勢、わが国の構造改革の進展度合い、エマージング市場の動向などを睨み、神経質な展開を予想する向きが多い。

3.海外金融経済情勢

 米国では、引き続き、IT関連業種の生産の減少が目立っているが、企業部門のうちオールド・エコノミー分野が比較的持ちこたえているほか、家計部門の需要が底固く推移している。企業コンフィデンスをみると、6月のNAPM指数が生産や受注判断を中心に改善し、このところ底入れの兆しが窺われる。今後、在庫調整の進展や金融緩和・減税の効果もあって、本年秋頃から来年にかけて回復の動きが出てくることが展望できるが、その後の景気回復力は弱いとの見方が多い。この間、雇用面では、製造業を中心に雇用者数が減少するなど、労働需給の緩和が続いている。また、物価は落ち着いた動きとなっている。

 ユーロエリアでは、個人消費が引き続き底固く推移している一方、企業部門では、独仏を中心に生産や受注の伸びの落ち込みが目立っているほか、企業の景況感も悪化傾向が続いている。製造業の設備投資にも減速感が窺われ、域内主要国に景気の減速傾向が徐々に広がりつつある。

 東アジア諸国では、IT関連を中心に米国・日本向け輸出の減少が続いているため、生産も減少基調にあるなど、景気の減速が続いている。これまでのところ、底入れの兆しは窺われない。

 国際金融面では、このところ、世界各国の株価の下落、ドルの他国通貨に対する強含み、エマージング市場の動揺といった動きがみられている。

 株価については、米国のみならず欧州、日本におけるIT関連企業の業績悪化の動きが、各国の株式市場に悪影響を与えている。こうした展開は、IT分野の先行き不透明感を象徴しており、IT関連の世界的調整は長期化するとの見方が多い。

 エマージング市場では、アルゼンチンやトルコなど一部の債務国の対米国債スプレッドが急激に拡大しており、不安定な情勢となっている。とくにアルゼンチンの動きはブラジルにも波及しつつあり、個別国の問題が世界的なリスクに繋がらないか、留意が必要である。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 わが国経済は、世界経済の減速やIT関連需要の落ち込みを背景に、輸出や生産の減少が続いており、調整が深まっている。ただし、IT関連分野の調整の国内他産業への影響は、今のところ限定的に止まっている。6月短観でもこの点を確認することができた。

 まず、企業の業況感をみると、製造業で明確に悪化している一方、非製造業では概ね横這いないし若干の低下に止まっている。業種別にみると、昨年にかけての景気回復局面で業況感が大幅に改善した電気機械をはじめ、情報関連業種での業況感悪化が顕著である一方、回復局面ではあまり改善がみられなかった個人消費関連ではほとんど業況感が悪化していない。

 企業収益は、今年度上期は製造業を中心にかなりの減益となる見込みである。下期については、再び増益に転じる計画となっているが、大企業の一部が年度計画を大きく変えずに、上期減益分を下期に上積みしていることが影響している可能性がある。ただ、業種や企業規模によっては、海外景気や情報関連需要の下期回復期待が依然根強いことを示しているとも考えられる。

 設備投資については、資本財出荷の動きと合わせてみると、足許、減少に転じている可能性が高い。また、6月短観の本年度設備投資計画をみても、(1)製造業・大企業は比較的高い伸びとなっているが、これは昨年度からのずれ込み分が影響していること、(2)中小企業における上方修正の程度がこの時期としては小さかったことなどから、全体としては慎重な投資姿勢が窺われる。もっとも、先行指標である機械受注の動き等から判断すると、設備投資の前年比マイナス幅は大幅なものにはならないと予想される。

 雇用面では、5月の失業率が既往ピーク水準となった一方、有効求人倍率は、昨年末から3月にかけて低下した後、概ね横這いで推移している。新規求人は、製造業で減少が続いている一方、非製造業で再び増加しており、全体としても幾分増加に転じている。

 個人消費は、総じてみれば横這いで推移している。百貨店や乗用車販売などが底固く推移している一方、消費財の供給動向はこのところ弱めの動きを示している。

 この間、物価面をみると、景気の調整が続くもとで、国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が働きやすい状況にある。加えて、技術革新や流通合理化等の影響を踏まえると、各種物価指数は、当面、総じて弱含みで推移する可能性が高い。

(2)金融環境

 金融環境の現状を評価すると、3月の金融緩和措置の効果が現時点で全て出尽くしているわけではなく、引き続き緩和効果が浸透する過程にあると判断される。

 まず、企業の資金調達コストをみると、貸出約定平均金利は、新規分はすでに下げ切っている感があるが、ストックベースでみると、なお低下余地があると考えられる。社債のクレジット・スプレッドも、総じて縮小傾向を辿っており、ゼロ金利時代のボトム水準を勘案すると、さらに縮小する可能性がある。

 社債・CP市場では、金利低下や投資家の信用リスク・テイク姿勢の強まりを背景に、発行の活発化の動きが続いている。これらの市場では、低格付企業の発行シェアが高まりつつあり、発行環境は一段と改善している。

 量的金融指標をみると、マネタリーベースは、郵貯の大量満期に伴い郵便局が手許現金を積み上げていることもあり、このところ伸びを高めている。6月のマネーサプライ(M2+CD)は、前年比+3.2%と、前月に比べ伸び率が高まった。内訳をみると、現金通貨や預金通貨の伸びが高くなっており、郵貯からの資金シフトに加え、流動性選好の高まりも窺われる。

 銀行の貸出スタンスは、優良先に対して貸出を積極化する一方、相対的に信用力が低い先に対して慎重化させる兆しが窺われる。もっとも、短観の結果によると、企業の資金繰り判断や企業からみた銀行の貸出態度判断は、全ての企業規模でほぼ横這い圏内の動きとなっている。そのほかのアンケート調査を合わせてみても、「貸出スタンスの2極化」が、足許で広範な動きになっているわけではないと考えられる。これらの動きについては、今後も注意深くみていく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状

 景気の現状について、多くの委員は、IT分野を中心に、輸出と生産の大幅減少傾向が一層明確化したとして、前月よりさらに厳しい認識を示した。このうちひとりの委員は、「景気の後戻りが続いている」と表現したほか、もうひとりの委員は、「景気は後退局面にある」と発言した。一方、別のある委員は、景気はさらに悪化しているが、悪化のテンポが加速している状況にあるわけではない、との見方を述べた。これらの各委員の認識を踏まえ、わが国の景気は「調整が深まっている」として、前月に比べて判断を幾分慎重化させることで、委員会の見解は一致した。

 もっとも、多くの委員は、IT関連分野の生産・在庫調整が深まっている一方、その他の産業分野や家計部門は相対的に堅調さを維持している、との認識を示した。このうちの複数の委員は、生産が減少しているものの、内需全体が下振れしているわけではないと指摘したうえで、99年からの回復局面において輸出や生産の好調がIT関連業種に集中していたのと同様、現在の調整もそうした業種に集中的に現れている、との見方を述べた。また、別の複数の委員は、6月短観をみると、業況悪化はIT関連の製造業中心に観察され、その他の業種に広範に広がるといった事態には陥っていない、との評価を示した。

 ただ、こうした見方に対しては、何人かの委員が、IT関連以外の分野にも調整は広がりつつある、との認識を示した。ひとりの委員は、業種別の生産動向に関する分析を示し、生産が減少している業種がIT関連以外の業種にも拡大している点を指摘した。この委員は、6月短観において、大企業製造業の在庫水準判断では、先行き大幅な改善が見込まれているが、一方で、製商品需給判断ではほとんど改善を予想していないなど、企業の見方自体が先行きに期待をかけ過ぎており矛盾を含んでいる、とのコメントを付け加えた。もうひとりの委員は、このところ、建設需要の低下や在庫調整圧力の増大が目立っており、これが素材産業全般にダメージを与えている、と述べた。

 生産の大幅な減少を背景に、多くの委員が企業収益の悪化を指摘した。何人かの委員は、6月短観において、本年度下期の収益が回復する見込みになっている点についても、海外経済の早期回復を前提とした楽観的なもの、ないしは漠たる期待に過ぎないものであり、その実現は不透明である、との見方を述べた。このうち、ひとりの委員は、最近の収益悪化状況を素直に反映させれば、下期は相当の減益になる、とコメントした。また、別のある委員は、ユニット・レーバー・コストの上昇に伴うユニット・プロフィットの縮小と数量の減少から、製造業の収益が減少している、との分析を示した。

 企業収益の悪化を受けて、設備投資の弱さを示す材料が増えてきたとの指摘が複数の委員から示された。ある委員は、設備投資の動きに先行する企業のキャッシュフローの伸びが鈍化してきたほか、機械受注も先行き反転上昇することは見込みがたい、との見方を示した。他方、別の何人かの委員は、(1)昨年までの回復局面においてもかなり低い期待成長率を想定した慎重な投資スタンスが維持されていたため、ストック調整圧力はそれほど高まっていない、(2)機械受注の業界見通し対比の実績の達成率が回復する兆しがある、(3)ソフトウエア投資が増加しているなど、ITユーザーの投資が広がりつつある、といった点を挙げ、設備投資の大幅な落ち込みは避けられるのではないか、との考えを述べた。

 こうした企業部門の悪化が家計部門に及ぼす影響について、複数の委員は、このところ労働分配率およびユニット・レーバー・コストが上昇しており、先行き、企業収益の悪化が賃金や雇用者所得にどのように影響するか注意してみていく必要がある、と指摘した。この点について、別のある委員は、これまでのリストラ効果等もあって、企業収益の減少が雇用者所得の大幅な削減に直結するような状況ではないと思われる、との見方を示した。また、もうひとりの委員は、雇用に関して、IT関連以外の分野で新規求人が拡大する兆しが窺われるが、こうした動きが継続するか注目していきたい、と述べた。

 個人消費については、多くの委員が、総じて横這いで推移しているとの認識を示した。ひとりの委員は、消費は「平時」の状態が続いていると述べた。

 以上のような景気情勢に関し、ある委員は、上記の機械受注の達成率回復の兆し、生産指数の予測修正率や実現率のマイナス幅縮小のほか、景気動向指数のCI一致/遅行比率が本年2月をボトムに上昇していることなどを挙げ、年末までに景気の転換点を迎える可能性がないわけではない、との考えを述べた。これに対し、別のある委員は、景気動向指数の改善の動きは一時的なものに過ぎず、景気は後退局面にあると評価すべき、との見解を述べた。

 この間、物価について、ひとりの委員は、国内卸売物価が弱含んでいることの背景として、世界的なIT分野の調整や、国内素材関連の需給悪化が影響している点を指摘した。もうひとりの委員も、このところ、国内卸売物価は下落傾向を強めている、との見方を示した。この委員は、先行指標である最終需要財の在庫率指数が悪化を続けていることなどからみて、国内卸売物価は秋以降、一段と下げ幅が拡大するのではないかと、続けた。また、別のある委員は、生産量の落ち込みに加え、価格が下落していることが、企業収益の悪化に繋がっているとの認識を付け加えた。

2.景気の先行き

 景気の先行きについて、各委員は、生産面を中心に調整を続ける可能性が高いとしたうえで、内需の自律的回復は期待しがたく、本年度下期の景気展開は不確実性が高い、との認識を相次いで表明した。このうちの複数の委員は、在庫調整が長期化する可能性を強調したほか、ひとりの委員は、景気は9月期末に向けさらに後戻りを続け、その後の展開は予断を許さない、と述べた。

 今後の具体的な留意点としては、多くの委員が、(1)米国を中心とした海外経済の動向や世界的なIT分野の調整の深さ、(2)調整圧力の家計部門への波及度合い、(3)わが国の構造改革の進展度合いとその影響を指摘した。ある委員は、相対的に堅調さを維持しているIT以外の分野が何とか持ちこたえている間に、IT分野の調整に目途がつくかの「時間との勝負」となっている、との見方を述べた。

 まず、米国経済について、多くの委員は、(1)年初来の275bpの利下げの効果がまだ現れていない、(2)IT関連企業の業績下方修正の動きが広がっている、といった点を指摘して、IT分野を中心とした調整が長期化している、との慎重な見方を述べた。ある委員は、コンピュータと電子部品に対する新規受注が5月には大幅な落ち込みを示しており、IT関連需要の先行きが懸念される、と発言した。別のある委員は、米国企業は長期にわたる景気拡大のもとで、資本ストックや雇用コストが過大となっている可能性が高く、今後、設備投資の抑制、雇用削減の動きが広がり、それが家計部門にも悪影響を与えるのではないか、との見解を示した。もうひとりの委員は、米国の利下げは、オールド・エコノミー分野を押し上げる効果はある程度あろうが、それだけでマクロ経済全体が回復に向かうかは明確でない、と述べた。

 米国経済の回復時期については、複数の委員が、減税の効果や企業・家計のコンフィデンス指数がボトムを打ちつつあることを踏まえ、年末から来年初にかけての回復シナリオはなお維持できる、との見方を示した。一方、別のある委員は、年内のIT分野の調整完了はかなり難しいのではないか、と発言した。もうひとりの委員も、低所得者層を中心に貯蓄が増加する傾向にあること、雇用の悪化が続いていること、消費者コンフィデンスの先行きは楽観できないこと、などの理由から、米国経済はなお下降している、との認識を述べた。また、この委員は、今後、米国経済がさらに悪化すれば、金融セクターが大きな打撃を受けるだろうとの見方を示した。

 こうした米国経済の調整が世界経済に与える影響について、ある委員は、世界経済の米国依存が高まっており、アジア、欧州等が米国の景気悪化の影響を強く受けている、と述べた。同時に、米国の海外現地企業の海外における売上高は、米国の輸出高の2倍以上になっており、米国は海外経済の影響を受けやすい構造になっている、と付け加えた。別のある委員は、米国企業が欧州で生産や投資活動を抑制していることが欧州経済の悪化を招いている面があるとして、多国籍企業の国際的活動がIT分野の調整の世界的リンケージを強めている、との見方を明らかにした。もうひとりの委員は、IT関連を中心に世界的な株価調整が大きなものとなれば、資本市場を経由した影響も考えられる、と述べた。そのほか、ある委員は、これまで日本経済を支えてきた一部製造業の対外競争力が落ちてきているので、その面からも、わが国の輸出の先行きは楽観できない、と発言した。

 次に、わが国の構造改革について、ひとりの委員は、現段階では改革の具体内容が明らかにされておらず、日本経済への影響度合いを評価することは難しいと述べた。もうひとりの委員も、こうした見方に同調したうえで、来年度予算の中味をよくみていきたいと発言した。別のある委員は、わが国が構造改革に取り組む姿勢を示したことは海外からも高く評価されているが、ここで改革のスピードを緩めることなく、できるものから早期に具体的な改革に着手することが重要である、との考えを強調した。

 こうした景気情勢を4月の「展望レポート」との対比でどう位置付けるかについて、何人かの委員が言及した。ある委員は、標準シナリオを幾分下回り始めている可能性は否定できないが、同時に、標準シナリオを大きく逸脱してスパイラル的に悪化していることはない、との見方を示した。別のある委員は、「展望レポート」で想定した下振れリスクの範囲内に止まっていると発言した。これらの意見を踏まえ、多くの委員は、「展望レポート」を作成した4月時点に比べ、経済の足取りは、ダウンサイド・リスクが幾分強まっている、との認識をほぼ共有した。

3.金融面の動向

 最近の金融環境について、ある委員は、3月の金融緩和措置の効果は、全体として、なお浸透過程にある、との評価を示した。この委員は、その理由として、(1)銀行貸出金利は、市場金利の低下を徐々に反映するかたちで引き続き低下する余地がある、(2)社債市場やCP市場では、金利低下やクレジット・スプレッドの縮小を活用する動きが活発化している、(3)企業業績の悪化にもかかわらず、企業からみた金融機関の貸出姿勢にさほど変化がない、といった点を列挙した。これに対し、別のある委員は、金融面で一定の緩和効果が現れていることを認めつつも、金融市場では効果の出尽くし感が窺われ始めているのではないか、との見方を述べた。この委員は、金融機関の貸出態度についても、選別姿勢が厳しくなっており、中小企業においては、企業金融の逼迫感が強まる可能性がある、と続けた。

 金融市場の動きについて、多くの委員が、株式市場などでは市場参加者の景況感が一層悪化しており、今後、株価の動きが実体経済にどのような影響を与えるか注意してみていく必要がある、との認識を述べた。このうち、ひとりの委員は、グローバルなIT関連分野の調整圧力についての不透明感が引き続き強く、このところの株価下落は世界的な現象である、との見解を示した。別の複数の委員は、わが国の構造改革との関連で株式市場の動きを捉え、現在のところ、改革に向けた動きが前向きに評価されるような展開にならずに、むしろ、構造改革のデフレ効果や副作用に対して市場がナーバスになっている面がある、と指摘した。また、別のもうひとりの委員は、9月中間期末に向けて、持合い解消の動きが早くも出ていることが、今後の株価に悪影響を及ぼすのではないか、と発言した。さらに、別のある委員は、金融機関の株価下落が持合い先企業の決算に影響を与えうることを指摘した。

 このような株価動向を踏まえ、ひとりの委員は、証券市場活性化策と日本銀行による流動性供給により株価が上昇すれば、企業・家計のマインド面の改善や、家計が保有する1,400兆円の金融資産ストックが消費に廻ることが期待され、景気にもプラスになる、と述べた。この点に関し、別の複数の委員は、株価については、税制の見直しが鍵となろうが、結局、市場において企業収益の改善が展望されることが重要である、とコメントした。

 米国株価の動向についても、言及があった。ある委員は、チャート分析等を示しつつ、6月の動きが非常に脆弱な状況を示した後、7月入り後、もみ合いからやや値を戻す展開となっているものの、9月から10月にかけて再び値を崩す可能性があるので、今後の動きを注視すべきであると発言した。

 最近の長期金利の上昇についても、何人かの委員から指摘があった。ある委員は、長期金利はなお低水準であり、足許の金利上昇が実体経済活動に大きな影響を与えるものとは考えられないが、補正予算を巡る議論が長期金利上昇の材料とされたことからみて、市場が需給の動きや先行きの金利上昇リスクに敏感になっている、との認識を述べた。もうひとりの委員も、足許は、財政構造改革への期待、事実上のゼロ金利政策、景況感の悪化から長期金利は比較的低位で抑えられているが、債券市場が財政要因を強く意識していることが窺われる、とコメントした。

 また、複数の委員が、アルゼンチン、トルコなどのエマージング市場の動揺が不安材料であると述べた。このうちひとりの委員は、これらの動きが他国市場に波及した場合には、国際金融市場全体や世界経済に悪影響を及ぼす惧れがある、との懸念を表明した。

 会合では、実質金利に関する議論も活発に行われた。複数の委員は、実質金利を算出する際に用いるべき期待インフレ率を正確に計測することが難しい点に留意すべきである、と述べた。そのうえで、ひとりの委員は、物価上昇率の実績値を用いた簡便な方法で算出した最近の実質金利について、歴史的にみればかなり低水準であり、また、名目金利との乖離も小幅であるので、経済活動の強い制約になっていることはない、との見解を示した。また、この委員は、現在、企業がバランスシート調整を進める中で設備投資を行わない理由は、金利水準ではなく、需要が期待できないという面が大きい、と続けた。別のある委員も、企業が投資判断する際には、資金調達コストと投資から得られるキャッシュフローを比較することが基本であり、実質金利水準そのものは企業経営の直接的な判断基準にはなっていないのではないか、と発言した。

 これに対し、ひとりの委員は、生鮮食品だけでなく、家賃、エネルギーを控除した「コアCPI」を作成して実質金利を試算してみると、97年以降、2~3%上昇しており、歴史的にも低い水準とはいえない、との見解を述べた。この委員は、日本経済が「流動性の罠」に陥っていると主張する米国の著名な経済学者の見方を紹介しつつ、日本の実質金利は均衡水準に比べて高すぎる状態にあると評価するのが妥当ではないか、との意見を付け加えた。

 この間、実質金利の国際的な均等化傾向についての議論も行われた。ある委員は、開放経済のもとでは、実質金利は世界的に均等化する方向で動くと考えられ、長期的にみれば、わが国のみ他国に比べて実質金利が高止まりすることは考えにくい、とコメントした。ただし、この委員も含め、何人かの委員は、短期的には各国の実質金利は独自の動きをとるものであり、そこに金融政策の働く余地があるとの見解で一致した。

 そのうえで、複数の委員が、金融政策によりコントロールできる名目金利がすでにほぼ下限まで低下しているわが国の現状においては、実質金利の議論は、人々の期待インフレ率を変化させることができるかどうかという問題に帰着する、と総括した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員は、(1)景気の現状については、輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まっている、(2)ただし、調整はIT関連分野に集中しており、他業種や家計部門への波及は今のところ限定的である、(3)「展望レポート」を作成した4月当時と比べ、経済の足取りはダウンサイド・リスクが幾分強まる展開となっている、との認識を共有した。

 そのうえで、すべての委員が、当面は現在の金融調節方針を継続し、IT分野の調整圧力がどの程度深まり、それが他の業種や家計部門にどの程度広がっていくのか等、内外の経済情勢を注意深く見守っていくことが適当である、との見解で一致した。

 このうちのひとりの委員は、経済情勢からみて、すでに一層の金融緩和を図るべきタイミングとなっているが、当面は、米国株価の動向を見極める余裕があると思う、と述べた。別のある委員は、今後、9月中間決算の姿、来年度予算の骨格、本年度補正予算を巡る動き、中間期末を控えた株価動向、GDPを含めた各種経済指標などが政策判断のポイントとなる、と述べた。

 会合では、多くの委員が、現在の金融政策を巡る状況について発言した。

 複数の委員が、現在の情勢は「流動性の罠」に近い状況であり、日本銀行が資金を供給してもそれが有効に利用されない状態にある、との見方を述べた。もうひとりの委員は、バランスシート調整のもとで企業の資金需要が乏しく、資金が金融市場の中で空回りしている、と発言した。これらの委員を含めた何人かの委員は、現状では金融政策だけで期待インフレ率を引き上げることはかなり難しく、金融政策以外で需要を喚起する必要性を指摘した。さらに、ある委員は、現状では、需要創出のもっとも有効な手段は財政支出の拡大であるが、政府は様々な理由から財政構造改革を選択しつつあると述べたうえで、そのマクロ経済や物価面に及ぼす帰結を十分念頭に置くべきである、と続けた。こうした状況のもとで、先行きの金融政策運営は、その効果や副作用、フィージビリティを踏まえると、かなりナローパスにならざるをえないとの認識が、多くの委員の間で共有された。

 また、ひとりの委員は、「デフレはマネタリーな現象であることから、デフレ解消のためには金融政策が有効」との議論があることに対して意見を述べた。この委員は、(1)物価はマネタリーな現象とされているが、「MV=PQ」という貨幣数量方程式はあくまで恒等的な関係を表すものであり、(2)短期的には、物価は需要と供給のバランスの結果として決まっている、との考えを示した。さらに、この委員は、需給バランスを改善させるためにどのような政策手段があるかということが本質的な問題であり、マネーを増やせば直ちに物価が上昇するというような単純な関係にはないと付け加えた。

 次いで、今後の金融政策運営の考え方について議論が行われた。

 まず、何人かの委員は、金融システム不安の再燃などに端を発して、急激に資金需要が増大する場合には、それに対応して一層潤沢な資金供給を行うことは、中央銀行として当然の責務であると述べ、現在の政策の枠組みにおいてもコミットしている点を確認した。

 そのうえで、多くの委員は、経済のダウンサイド・リスクがさらに増大した場合には、何らかの追加的な政策対応が必要となる、との考え方を共有した。何人かの委員は、具体的な金融緩和策として、日銀当座預金目標の増額、国債買い切りオペの増額を含むオペレーション上の工夫の余地について、意見を述べた。これらの委員は、短期および中期の名目金利がすでにゼロ近辺まで低下している状況下、残された政策余地が大きくないだけに、企業・家計の心理面や市場の期待形成に働き掛ける部分が大きい、との認識を示した。そのうえで、政策発動のタイミング、副作用をミニマイズするための方策等に細心の注意を払う必要がある、と述べた。このうちのひとりの委員は、最近の長期金利動向にみられるとおり、市場が先行きの財政ポジションや債券需給にかなり神経質になっていることを踏まえると、政策全般に対する信認を確保することが非常に重要である、と発言した。

 会合では、インフレーション・ターゲティングについても議論が行われた。ひとりの委員は、インフレーション・ターゲティングは、「物価安定の目標を、具体的な物価上昇率の数値で定め、期間を定めてその実現をコミットするもの」として、あくまで物価安定のための目標設定であり、物価の上昇を直接の狙いとするものではないと整理できると述べた。そのうえで、現行の政策継続に関するコミットメントは、インフレーション・ターゲティングに近い効果を有するものであると理解している、と続けた。この委員を含む何人かの委員は、物価安定のレベル設定とそれを達成するための手段に問題があると指摘し、それぞれ、(1)現在のわが国においては、需要面のみならず、技術革新や規制緩和などの供給面の要因が物価の動きに大きな影響を与えており、「物価の安定」に関する具体的な数値目標を設定することは困難である、(2)名目金利水準がゼロに近づき、企業等のバランスシート調整がなお強い現状においては、金融政策のみによって特定の物価目標を達成することは難しい、と敷衍した。また、別のある委員は、現在の金融調節方式を「消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで」継続するという現行コミットメントのもとでも、インフレ期待が上昇したとの評価は得られておらず、この点からも期待インフレ率を引き上げることは難しいとコメントした。こうした議論を踏まえ、大方の委員は、現時点では、インフレーション・ターゲティングを採用することは適当ではない、との意見を共有した。

 これに対し、ある委員は、インフレーション・ターゲティングの考え方は、調整インフレ論とは明確に峻別されるべきものであり、また理論的にも一定の地位を有しているものなので、日本銀行の目的を明確にするためにその導入を積極的に検討すべきである、と従来からの主張を繰り返し述べた。

 以上の議論を踏まえ、委員の間では、今後の追加緩和策について、引き続き、効果や副作用、フィージビリティといった様々な観点から注意深く検討していくことが適当である、との認識で一致した。

 そのほか、多くの委員は、為替レートの動向についても言及した。ひとりの委員は、貿易財については、グローバルな競争のもとで世界的なディスインフレ傾向にある一方で、非貿易財についても経済構造改革が進めば物価下落圧力が続くとの整理を示したうえで、円安がなければ物価は簡単には安定しない、との見解を述べた。別の複数の委員も、金融緩和策の結果としての動きも含め、市場メカニズムの中で為替相場が円安方向に動くのであれば、それを押しとどめないことが適当である、との考えを述べた。ただし、ある委員は、わが国の多額な純資産残高の存在などのファンダメンタルズを踏まえれば、極端な円安にはならないであろうし、また人為的に円安誘導することは適当ではないとの認識を述べた。もうひとりの委員は、中央銀行は為替レートの具体水準について、一定の立場をとるべきではない、と主張した。こうした議論を踏まえ、別のある委員は、為替レートについては、様々な要因を含めて市場が示す評価を受け入れていくということではないか、と総括した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • 輸出や生産の減少を通じて企業部門が悪化していることの背景として、IT分野の強いグローバル・リンケージが存在するという点が共通認識であったと思うが、政府としても同様の問題意識を有している。わが国のIT分野の発展段階を踏まえると、IT関連需要を一段と拡大することが可能かつ重要であり、政府としては、「e-ガバメント計画」等を前倒しで進めていく方針である。
  • 実質金利についての議論をうかがったが、金融政策がナローパスの状況に置かれていることは十分理解できる。ただ、例えば設備投資を考えるうえで実質金利は重要な変数のひとつであること、実質金利に関する責任をもっているのは金融当局であることなどを踏まえると、実質金利に関する議論を引き続き深めて頂きたい。
  • 構造改革については、「基本方針」の取りまとめに際して、非常に包括的なパッケージを打ち出さなければならなかった。このため、詳細な制度設計は参院選後になったという事情がある。改革は時間を要すると市場に受け止められた面があるかもしれないが、先般、総理より、できることから直ちに取り掛かるよう指示があったところである。政府としては、構造改革により新たな資金需要を生み出すことが重要であることは十二分に承知している。今後ともその方向で努力をするので、日本銀行には、構造改革と金融政策のハーモナイゼーションの観点から、金融政策に関する議論をさらに深めて頂きたい。
  • わが国の景気については、「悪化している」と判断している。先行きについても、在庫の増加や設備投資の弱含みの兆し等懸念すべき点がみられるなど、引き続き厳しい状況にある。政府としては、先般決定した「基本方針」の具体化を図り、平成14年度予算に反映させるかたちで、構造改革を実行していくことが重要であると考えている。日本銀行におかれては、調整期間におけるデフレ圧力の動向も踏まえ、機動的な量的緩和政策を行って頂きたい。

 財務省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 構造改革を進めるうえでは、物価の安定を図り景気を下支えするため、金融政策の役割は一段と重要であると考えている。現在の持続的な物価の下落は、実質金利の上昇を通じ、企業の投資意欲を減退させるとともに、消費の先送りを招来することにより、需要を抑制する。また、物価下落が企業の収益性を圧迫するとともに、実質債務負担の軽減を妨げ、不良債権問題の解決をより困難にすることが懸念される。
  • 3月の金融緩和措置後も物価は下落を続けている。今後、デフレ圧力がさらに強まる懸念がある中で、現在の金融緩和措置が物価安定にどの程度の効果を及ぼすのか、いつになれば物価下落に反転の兆しがみられるのか、明らかになっていない。失業率が高水準で推移し、物価の下落が継続する状況においては、より実効性のある金融緩和が必要であり、構造改革の影響をみながら対応を考えるのではなく、先見性をもった予防的な姿勢で機動的な金融政策運営を行って頂きたい。
  • その際、短期金利がほぼゼロという状況に陥った中では、従来の短期資産を中心とするオペの実体経済に与える効果は限定的であること、またデフレ懸念を払拭するためには、市場や人々の期待に強く働き掛けることも必要であることにも留意し、経済により効果のある政策を幅広く検討頂きたいと考えている。

 上記のような政府からの出席者の発言に対して、議長が以下のような趣旨の見解を述べた。

  • 政府からの出席者が発言された内容は、政策委員会としてこれまでも常々議論してきたことであるが、政府のご意見はご意見として受け止めたうえで、今後とも、政策委員会において十分議論を重ね、適切な判断に努めていきたい。
  • オーソドックスな金融政策についてはほとんど発動の余地が乏しくなっている中で、今後の金融政策運営においては、その効果、副作用、フィージビリティなどについて慎重な検討が必要である。
  • 政府からの出席者には、日本銀行が厳しい情勢認識のもとで、最善の対応を巡って責任をもって議論を重ねていることをご理解頂いたうえで、あくまで決定会合の場において、建設的なご意見を賜わりたい。
  • 日本銀行としては、今後とも、中央銀行として適切な金融政策運営に努力を重ねていく積もりであるが、同時に、政府におかれても構造改革の具体化に向けた取り組みをさらに進めて頂くよう、強く期待している。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、中原伸之委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を7月16日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(6月14、15日)の議事要旨が全員一致で承認され、7月18日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成13年7月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上