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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 2月 7、 8日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年3月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 3月26日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2002年 2月 7日 (14:00〜16:03)
2002年2月 8日 ( 9:00〜12:20)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官( 7日)
    谷口 隆義 財務副大臣( 8日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役長井滋人

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(1月15、16日)で決定された方針1にしたがって運営した。日銀当座預金残高は15兆円程度に維持され、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

 本行による資金供給オペでは、オファー額に対して応札額が下回る「札割れ」が頻発しているが、オペ回数の増加、期間設定の多様化、応札先毎の入札限度額引き上げといった工夫をして15兆円程度の当座預金残高を維持してきている。

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 前回会合以降、国内金融資本市場では、株価下落や長期金利の上昇が進んでおり、円安の進行も含めて、所謂トリプル安を懸念する声も聞かれている。

 ターム物金利は、大量の余剰資金の滞留が長期化していることを映じて、前回会合以降、引き続き低下している。こうした中、1月末以降の短期国債の入札は過熱しており、応札倍率は198倍まで急上昇し、落札決定レートも0.002%まで低下した。

 株価は下落を続けており、TOPIX、日経平均ともにバブル後最安値を更新した。業種別には、IT関連株が米国株価軟調や一部国内企業の決算発表を嫌気して下落したほか、銀行株が株式評価損の発生に対する懸念等を要因に下落した。先行きについては、銀行株の動向がポイントになるとみられ、この関連では金融システム不安の動向などに注意していく必要がある。

 国債流通利回りは、円安進行や財政支出増加に対する警戒感を背景として、前回会合以降上昇傾向にある。今回の上昇局面については、先物市場を中心に海外投資家による売り圧力が強まったことが特徴的である。ただし、先行きについては、運用難の国内投資家からの需要も根強いため、1.4〜1.6%のレンジ内の推移を見込む向きが大勢である。

 一方、社債市場におけるクレジット・スプレッド(社債流通利回りと国債流通利回りの格差)は、業績不振先の信用リスクに対する市場の警戒感は引き続き根強いものの、昨年12月の一部MMFの元本割れを受けて続いていた投信による保有社債売却の動きが一服していることなどから、前回会合以降、概ね横這いで推移している。

(2)為替市場

 円の対米ドル相場は、年度末を控えた国内投資家による外貨建て資産処分を巡る憶測等から、一時は円が131円近辺にまで反発する局面もみられた。その後は、日米景況感格差の拡大、当局による円安容認を巡る思惑、わが国の構造改革の遅れに対する懸念等を背景に円安方向に向かう相場展開となり、最近では133円台を中心にもみ合っている。

3.海外金融経済情勢

 海外経済については、米国、欧州、アジア諸国の一部で景気底入れの兆しがみられるものの、最終需要の動向については不確実性が高い状況が続いている。

 まず、米国経済の動向をみると、昨年第4四半期のGDPは、設備投資と在庫投資が大幅なマイナスになったものの、自動車の販売促進や国防支出の増加が大きく寄与した結果、前期比年率+0.2%と2四半期振りのプラス成長となった。生産は減少幅が縮小傾向にあり、企業の景況感指数(ISM指数)も改善を続けている。家計部門でも、雇用環境の悪化テンポが幾分和らぐ兆しもみられており、年明け後の個人消費も、週間小売統計の動き等からは引き続き底固さを維持している姿が窺われる。先行きについては、回復のタイミングよりも、回復のテンポと力強さが焦点になっているが、住宅投資、設備投資、輸出といった需要項目のいずれも高い伸びは期待し難いだけに、回復は緩やかなものになるとみる向きが多い。

 米国金融市場は、先行きの景気動向や金融政策に対する見方が振れやすくなっている中で、やや方向感に乏しい動きとなっているが、基調としては引き続き景気回復を織り込む形で推移している。株価は、企業収益対比でみた割高感の台頭やエンロン問題を契機とした企業の会計情報に対する不透明感を背景に、やや調整色の強い展開となっている。FOMC(1月29、30日)は、政策金利を据え置いたうえで、先行きのリスクは景気減速方向にあるとの判断を示したが、FF先物金利は年央にかけて0.25%の利上げを織り込む形となっている。

 欧州では、輸出の伸び鈍化、設備投資の減速などから、全体として景気の減速が続いており、特にドイツでは景気後退局面にある。もっとも、これまでの減産による在庫調整の進捗もあって、12月の製造業PMI(ユーロエリア購買者指数)が改善を続けるなど、足許では生産調整のテンポが緩やかになる兆しも窺われている。物価面では、消費者物価指数(HICP)の上昇率は、1月に生鮮食品の価格上昇などから跳ね上がったものの、基調としては引き続き低下傾向にある。

 NIEs、ASEAN諸国でも、総じて景気の減速が続いているが、世界的な半導体の在庫調整進捗等を背景に、輸出および生産面では下げ止まりの兆しもみられつつある。こうした中、外資の流入が続いていること等を背景に、株価は堅調な動きとなったほか、為替レートも安定的に推移した。

 この間、アルゼンチンでは、政治・社会的混乱が発生する中で、公的対外債務の支払停止措置や通貨切り下げの実施に加え、金融システム不安の台頭もみられるなど、事態は深刻さを増している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気は引き続き悪化している。電子部品をはじめ多くの分野で在庫調整が進んでおり、生産の減少幅は縮小してきている一方、失業の増加や冬季賞与の減少など雇用・所得環境はむしろ厳しさを増している。

 需要項目別にみると、公共投資は、補正予算の執行にも拘らず、GDPベースで減少基調を辿っている。実質輸出は、10〜12月に前期比−1.7%と減少幅が縮小し、今後は情報関連財の在庫調整の一巡や海外景気の持ち直し、さらには円安効果等を背景に、年央にかけて下げ止まりから緩やかな回復に転じていく可能性が高い。一方、実質輸入は、7〜9月期に大幅に減少した後に、10〜12月に小幅増加したが、通関日数等の一時的な要因を考慮した実勢でみると、引き続き減少基調にあると考えられる。

 設備投資は、減少が続いている。先行きも、企業収益・金融面などの投資環境や機械受注の動きを踏まえると、これまで減少が顕著であった情報関連の製造業だけでなく、非製造業を含めたより幅広い業種で減少する可能性が高い。

 個人消費は、家計の雇用・所得環境が厳しさを増す中で、弱まっている。この中で、1月の乗用車販売は新車投入効果から小型車を中心に持ち直した。消費者コンフィデンスも引き続き弱いが、個人消費の弱さは、所得の弱さの範囲内に止まっている。

 雇用面では、非自発的失業者の増加を背景に、失業率が毎月ピークを更新している。新規求人数のレベルは依然として96、97年より高い水準にあることをみると、労働力の需給のミスマッチが大きいことが窺われる。また、雇用者所得をみると、冬季賞与が大きめの減少となるなど、所得形成はさらに弱まっている。これらを背景に、先行きの個人消費は、弱めの動きが続くとみられる。

 物価については、国内卸売物価は、電子部品などに下げ止まりの動きもみられるが、全体では機械類や化学製品を中心に下落が続いている。一方、消費者物価は、輸入・同競合品の価格下落に加え、石油製品等の値下がりもあって、下落幅が幾分拡大している。

 景気の先行きについては、今後も悪化を続けるものの、輸出・在庫面からの下押し圧力が減衰するに連れて、そのテンポは次第に和らいでいくと予想される。生産面でも、徐々に減少幅が縮小し、年央までには概ね下げ止まる可能性が高い。ただし、(1)米国をはじめとする海外の経済の先行きには依然不透明な要素が多い、(2)国内では、株価下落などを背景に企業金融を巡る環境や消費者マインドが更に悪化するリスクがある、といった点に留意する必要がある。

(2)金融環境

 1月の銀行貸出は、前年比のマイナス幅を幾分拡大させた。金融機関は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先には貸出姿勢を慎重化させる傾向を強めている。また、企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りを示す各種DI指標も、悪化のペースは緩やかながら、水準的には97、98年当時に徐々に近づいてきている。

 市場を通じた資金調達をみると、1月のCP発行残高は、既往ピークを更新したが、前年比伸び率は鈍化を続けている。格付け別には、A2格の発行条件がやや厳しくなっている。社債市場でも、低格付け社債の発行が低調に推移していることなどから、前年比伸び率は鈍化傾向にある。

 量的金融指標の動きをみると、1月のマネタリーベースは、日銀当座預金の大幅な増加に加え、銀行券の伸びも高まったことから、前年比23.4%と一段と伸びを高めた。この伸び率は、Y2K問題への対応で高い伸びとなった2000年1月(前年比22.8%)を超え、所謂「狂乱物価」時の1974年8月(同23.9%)以来の高水準である。また、M2+CDの伸び率も、前年比3.6%と、前月(同3.4%)に比べて伸び率が拡大した。

 企業の資金調達コストは、総じてみれば極めて低い水準で推移している。ただ、長期プライムレートは、利金債の対国債スプレッドが拡大していることから3ヶ月連続で上昇した。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、高格付け企業では、CPの発行金利が幾分低下するなど、概ね良好な地合いにあるが、低格付け企業の発行環境は総じて厳しい状況が続いている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状と先行き

 景気の現状判断については、大方の委員が、前月の総括判断を据え置くかたちで、「景気は引き続き悪化している」とすることが適当との認識で一致した。これらの委員は、海外経済の底入れの兆しが強まる中で、情報関連分野を中心に輸出・生産面で改善の動きがみられるというプラス要因と、設備投資や個人消費の面では一段と厳しさが増しているというマイナス要因の両面を指摘した。

 景気の先行きについては、輸出回復に伴って来年度下期にかけて下げ止まりに向かうという「展望レポート」で示された標準シナリオは維持されているとの見方が概ね共有された。ただし、海外経済情勢の先行きは依然として不確実性が高いほか、国内面でも、雇用・所得環境の悪化、金融面に端を発するダウンサイド・リスクといった懸念材料があり、引き続き不透明感が強いとの見方が多く示された。特に、当面、期末にかけては、金融資本市場の動向とその影響について従来以上に注意を要することを、ほとんどの委員が強調した。

 こうした中、ひとりの委員は、(1)景気動向指数は足許幾分改善しているが、基調としてはなお急速な下落を続けている、(2)失業率が統計調査開始以来最悪の水準になるなど過去にあまり類をみないほど悪化している経済指標が目立つ、といった点を指摘して、他の委員より慎重な見方を示した。この委員は、日本経済はデフレ・スパイラルが急速に進行しており、今後は賃金やサービス価格の下落が進行する局面に入るとのより厳しい認識を示した。

 まず、海外経済情勢については、今後徐々に持ち直していく展望を描けるようになってきたとの認識が多くの委員の間で共有された。そのうち、ひとりの委員は、一昨年末以降の世界的な調整局面入りが、(1)ITバブル終焉、(2)石油価格上昇、(3)各国での金融引締めを背景とするものであると考えることができると指摘した。そのうえで、そうした要因が剥落あるいは後退する2002年に回復を予測するのはある程度根拠のある議論であるとした。ただし、同時に、多くの委員は、最終需要の動向はなお不確実である点も指摘した。

 米国経済については、今後期待される回復のテンポと力強さについての見方を中心に議論が行われた。現状評価としては、在庫調整の進捗に伴って生産の底入れが近くなっており、個人消費も堅調さを維持しているとの見方が概ね共有された。そのうえで、先行きのリスク要因としては、複数の委員が、(1)個人消費はこれまでのインセンティブ販売や値引き販売の反動があり得ること、(2)設備投資については既往の過剰設備、過剰投資の調整が終了しているか明らかでないこと、(3)インフレ率が低下傾向にある中で労働コストが高止まっていることを指摘した。また、エンロン破綻の影響についても複数の委員が言及し、米国の資本市場や会計制度に対する信認が損なわれ、投資家のリスク回避姿勢が強まることに伴う悪影響に懸念を示した。さらに、ひとりの委員は、(1)消費者信用残高の高い伸びの反動と(2)これまで海外投資家による積極的な政府機関債購入に支えられてきたモーゲージの借換えが今後困難化することを懸念材料として挙げた。この委員は、昨年第4四半期のGDPについて、デフレータの前期比がマイナスになっているほか、財政の伸びによって全体が支えられていると指摘し、厳しい評価を示した。

 米国以外の地域について、ひとりの委員が、東アジア全体で輸出、生産に下げ止まりの兆しがみられ、株価も外資の流入等を背景に好調な動きを示しているなど、明るさが増していることを指摘した。別の委員は、中国や韓国の為替レートが長期的に対円で大幅に下落している中で、これらの国々のGDPに占める輸出のウエイトが高まっていると述べた。

 日本経済の先行きについては、景気後退を先導してきた輸出・生産面で改善方向の動きがはっきりしてくる一方、個人消費や設備投資で一段と厳しさが増していくことから、本格的な内需の回復は依然として展望できないとの認識が概ね共有された。ひとりの委員は、一部の財で在庫が「逃げ水現象」のようになかなか減少しないため、全体でみれば生産はまだ下げ止まりとは言えない段階であると述べた。この委員は、デフレの下で、株安、金融システム不安を背景に企業マインドが萎縮する動きが強まっており、拡大再生産の道筋が描けないと述べた。ある委員は、家計の雇用・所得環境が厳しさを増していることなども踏まえると、景気回復の足取りは弱々しいものにならざるを得ないとの見方を示した。別の委員は、海外景気の動向次第では、今年後半においても経済はせいぜい底這い的な動きに止まるリスクも高いと述べた。

 複数の委員が、日本経済が中長期的な回復軌道に戻っていくためには、賃金水準の引き下げか雇用の削減が不可避であるとの認識を示し、このうち、ひとりの委員は、そうした動きは循環的な景気動向とは関係なく、2〜3年タームで続くとの見方を示した。もうひとりの委員は、国際競争力を強化する観点から、国際的にみても高い企業の労働コストの引き下げが不可欠と述べた。この委員は、今後の課題としてワークシェアリングの問題を指摘したほか、雇用のセーフティ・ネットの整備が重要な課題であると述べた。

 物価動向に関しては、景気が悪化を続ける下で、国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が引き続き働くとの見方が共有された。その中で、複数の委員は、減産、在庫調整の進捗や為替円安に伴う内外価格差是正圧力の低下等もあって国内卸売物価指数に下げ止まりか下落率縮小の動きが出てきていることに着目した。このうち、ひとりの委員は、一部の財で経営統合・再編を契機に減産の足並みが揃い始めた結果、これまで限界コスト近傍にまで低下してきた価格が反転に向かっていると述べた。ただしこれらの委員も、消費者物価指数は消費、賃金の弱さもあって下げ止まりの兆しがみられないと指摘した。ひとりの委員は、特に、国際競争に晒されていない財・サービスや規制に守られた産業の価格については、引き続き高コスト体質是正圧力による値下がり傾向が避けられないと述べた。

 なお、ある委員は、原油価格について、今年1月に短期的な底を打っているとみられ、今後一層下落することは考え難いとの見方を示した。

2.金融面の動向

 大方の委員が、実体経済面で大きな構図の変化はみられない一方で、金融面に由来するダウンサイド・リスクは高まっており、特に期末にかけて、金融資本市場の動向とその影響についてはこれまで以上に注意が必要であるとの認識を示した。

 まず、最近の金融市場動向について、株価、債券価格、円の為替レートの下落というミニ・トリプル安現象を中心に議論が行われた。ひとりの委員は、こうした現象について、日本の構造問題、特に不良債権問題に対する厳しい見方が背景にあり、それが資産価格下落との間である種の悪循環を起こしていると分析した。ある委員は、現在のミニ・トリプル安は、それぞれは独立した事象のように窺われ、コーディネートされた日本売りという動きではないとしながらも、資本逃避を伴う本格的な円安が生じる可能性には十分注意をしていく必要があるとした。

 債券市場については、多くの委員が、財政規律について市場がナーバスな見方をしていることを指摘した。ひとりの委員は、債券安の背景を、円安に伴う海外勢の売りが先導する中、期末接近もあって国内投資家がデュレーション・リスクをとれない状況と分析した。同時に、まだ長期金利に天井感は出ていないものの、いずれ値頃感から買いが入ってくるとの見方を示した。別の委員は、様々な思惑がある中で、先物の売り仕掛けがあった模様であると指摘した。別のある委員は、金利動向からは日本国債のデフォルトといった事態は全く想定されていないように窺われると述べた。

 株安については、大方の委員が、折りからの政治情勢と構造改革後退の懸念、特に不良債権の早期処理の道筋が見えないことを背景として指摘した。ある委員は、米国株価の先行きについて、年末にかけて昨年9月につけた安値を下回る展開も考えられると懸念を示した。

 邦銀の外貨資金繰りについて、ある委員は、ジャパン・プレミアムが発生していないことを理由に97、98年当時よりも安定しているとする見方に疑問を呈した。この委員は、プレミアムが発生するような取引が殆ど行われていないというのが実情であり、邦銀向けのクレジット・ラインが絞られていることも考えると、期末にかけて為替と外貨資金市場の動向には十分注意が必要であるとした。別の委員は、日本の金融機関のクレジット・デフォルト・スワップ・レートが、年明け後に一旦下落した後に、ここへきて再び大幅に上昇していると指摘した。

 資産価格下落の影響について、ある委員は、資産価格上昇がバブルの生成を加速させたように、足許の下落は金融経済情勢の悪化に拍車をかけるとした。この委員は、資産価格の形成には期待が極めて重要な役割を演じており、その行き過ぎを防げるか否かが、信用収縮やデフレ・スパイラルの回避にとって重要であると述べた。別の委員は、98年に見られたような急激な流動性危機は日銀による流動性供給によって封じ込めてきているものの、銀行株価の動向次第では、流動性面でどういう問題が出てくるか予断を許さないと述べた。また、複数の委員が、銀行株下落が当該銀行の問題に止まらず、銀行株を保有する事業会社に大きな評価損をもたらす点について懸念を示した。

 不良債権問題が企業金融へ与える影響についても指摘があった。複数の委員が、不良債権処理の進捗に伴い、銀行の融資選別姿勢が、特に中小企業を中心に来年度から一段と厳しくなる可能性があるとした。このうち、ひとりの委員は、これによって企業金融の二極化が一層進行することは避けられないとの見方を示した。また、別の委員は、金融機関がリスクのバッファー機能を果たすことが期待できない中で、資金を調達する企業が、家計や投資家等のリスク回避姿勢をダイレクトに受け止めざるを得ないため、企業を取り巻く金融環境はかなり強いストレスの下に置かれ続ける可能性が高いとした。

 ある委員は、証券取引の規制に関連して、(1)空売り価格は直近価格を下回ってはならないという、所謂アップティック・ルールについて信用取引が適用除外とされていることは問題である、(2)一方、制度貸借取引における申込みの制限や停止措置に関する細かいルールは自由な市場取引という観点から見直すべきである、と述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営について、検討が行われた。

 大方の委員は、(1)実体経済面で景気は引き続き悪化しているものの、来年度下期にかけて下げ止まりに転じていくという標準シナリオは維持されている、その一方で、(2)株価等の資産価格の下落や金融システム不安の台頭など金融面からのダウンサイド・リスクが高まっている、との認識でほぼ一致した。

 そのうえで、ほとんどの委員は、(1)現状の金融市場調節方針を継続し、潤沢な資金供給を通じて市場の安定に努め、(2)日銀当座預金残高の大幅な増額が金融機関行動や金融市場に与える影響を見極めるとともに、(3)今後何らかの理由で流動性需要が増大するような場合には、それに対して機動的に対応することが必要である、との考えを示した。

 ただし、景気情勢について他の委員に比べて一段と慎重な見方を有するひとりの委員は、(1)インフレーション・ターゲティングの導入、(2)資金供給の円滑な実施のための外債買入れ開始、(3)日銀当座預金残高目標を18兆円程度とする調節方針、を提案したいと述べた。

 12月の政策変更の影響について、ターム物金利の低下や信用スプレッドの拡大傾向を一服させるといった効果があったことについては認識が共有された。一方、当預残高増加が実体経済を刺激する効果については、複数の委員が、もう少し様子を見る必要があるとしながらも、当預残高のさらなる増加の意義について懐疑的な見方を示した。別のある委員は、ポートフォリオ・リバランス効果は未だ顕現化していないが、ベースマネーの前年比伸び率が大幅に高まったのは昨年夏以降なので、効果という点ではもう少し時間をかけて見ていく必要があるとした。

 また、多くの委員が、ベースマネーが増加しても、金融機関の信用創造活動は低調であって、マネーサプライの期待されるような増加は望み難いという認識を共有した。さらに、ひとりの委員は、マネーサプライと経済活動の長期的な関係は否定しないものの、短期的に両者に安定的な関係は存在しないと考えており、最近になって景気動向指数からマネーサプライが落とされたことは、そのことを改めて認識させたとした。

 金融市場調節の運営方法については、オペの「札割れ」が頻発している中で、「10〜15兆円程度」というレンジで示された当座預金残高目標について、「可能な範囲でレンジの上の方を目指す」努力を続けるべきということで意見が概ね一致した。

 多くの委員は、オペの「札割れ」の発生は日銀が目一杯資金を供給していることの証左であり、そのこと自体が市場の安定感確保に貢献していると評価した。そのうえで、複数の委員は、既に資金供給力向上のための工夫を講じてきたことも考えると、10兆円以上の水準を維持できる限り、過度に15兆円の維持にこだわる必要はないと述べた。これに対して、何人かの委員は、特定のレベルを実現しようとする必要はないが、可能な範囲内でレンジの上の方を目指すことでよいのではないかと述べ、大方の賛同を得た。

 この間、国債買い切りオペの位置付けについても議論が行われた。ある委員は、国債買い切りオペの増額は今後の政策オプションとして十分考えられるが、その場合、(1)単なる資金供給手段とするのか、もう少し違う観点から位置付けを見直すのか、(2)市場への影響をどうみるべきか、といった論点の整理を行った。

 この委員は、札割れが頻発している中で、買い切り増額も理屈上はありうる選択であるとしたうえで、最近の長期金利の微妙な動きを踏まえると、今は慎重に臨みたいとの見解を示した。ある委員は、国債買い切りオペを増額しても、他のオペの札割れが発生することで当座預金残高の増加に繋がらない可能性があると述べた。このほか、多くの委員が、財政規律への懸念からかえって金利上昇を招くリスクに留意すべきであると述べた。複数の委員は、国債買い切りオペの増額以外に、応札を改善させるためのオペ運用面での工夫も更に検討すべきとの意見を述べた。

 国債買い切りオペを資金供給の手段ではなく、長期金利に働きかける手段として位置付けることの可能性についても何人かの委員が発言した。複数の委員は、市場の混乱が予想される場合などの対応としては理論的には考えられるとした。そのうえで、現在の1.5%台はパニックを起こすような水準ではなく、国債格下げの可能性や財政の中長期的な展望に対する市場の懸念を踏まえると、逆効果となるリスクも念頭に置いておくべきであるとした。

 先行きの金融政策運営については、大方の委員が、今後、金融資本市場の動向次第で流動性需要が高まるような場合には、流動性供給を一段と増やして対応する必要があると述べた。

 そのうえで、複数の委員は、日本経済の本質的な問題は、流動性不足というよりも、企業と金融機関のクレジット・リスクの高まり、潜在的な資本不足、あるいは新たなビジネス・モデルの構築可能性といったことであるため、流動性供給だけによる対処には自ずと限界があると指摘した。

 別の複数の委員は、当面のもっとも重要な課題は、マクロの金融政策ではなく、ミクロのプルーデンス政策であると述べた。このうち、ひとりの委員は、日本銀行が、「最後の貸し手」機能の機動的発動に万全の体制をとっている旨を対外的にアピールすることが必要と述べた。また、この委員は、銀行株の下落は不良債権の処理と最終的な損失規模の確定を早期に行うことを求める市場の警告であるとして、(1)不良債権の抜本処理に大胆に着手すべきこと、(2)自己資本が自力調達できない先には公的資本投入を早期に行うべきことを強く主張した。別の委員は、風評やイベント・リスクに備えることが重要であるが、預金保険法102条がどのように流動性危機に対して機能するかが明確でない点が問題であると述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府は、現在、先般成立した第2次補正予算の速やかな執行に努めている。今後は、構造改革の一環として歳出の一層の効率化と予算配分の大胆なシフトを実現した平成14年度予算の早期成立に全力を尽くすとともに、「構造改革と経済財政の中期展望」を踏まえ、構造改革をさらに推進することとしている。
  •  日本銀行には、前回会合における金融市場調節手段の拡充の決定により、金融市場調節が一層円滑に行われることを期待している。今後とも、経済・市場動向や金融情勢について十分注視し、金融システム安定にも配慮する必要がある。こうした観点からも、特に年度末に向けての資金需要に的確に対応し、流動性確保に対して市場の不安が生じないよう最大限の潤沢な資金供給を行って頂きたい。
  •  消費者物価指数をみると、物価の下落が依然として継続している。「構造改革と経済財政の中期展望」においても、デフレの阻止は、政府と日本銀行が緊密な連携の下に取り組むべき最重要課題とされている。日本銀行におかれては、わが国経済がデフレ・スパイラルに陥らないよう、引き続き政策論議を深めて頂き、それが経済により効果のある政策に結びつくことを期待している。

 また、財務省からの出席者からは、追加的に以下の発言があった。

  •  年度末に向けて市場に安心感を与える観点から、年度末越えのCP現先オペの一層の活用のほか、金融システムの安定確保という観点からは、生命保険会社の動向にも十分留意して議論を行ってほしい。

 内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気の基調判断については、月例報告に向けて現在検討中であるが、基本的に日銀執行部の見方、景気判断と概ね一致している。
  •  政府としては、来週の12日に開かれる経済財政諮問会議の議論等も踏まえながら、新たな対応の検討も含めて日本銀行と密接に連携を図りつつ、できるだけ速やかに景気の回復と物価の安定を図っていきたい。日本銀行におかれても、デフレ阻止に向けて、引き続き適切かつ機動的な金融政策を行って頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、現状の金融市場調節方針を維持することが適当である、との考え方が大勢となった。

 ただし、ひとりの委員は、現状維持では対応が不十分であるとし、(1)インフレーション・ターゲティングを導入すること、(2)資金供給の円滑な実施のため外債買い入れを開始すること、(3)日銀当座預金残高目標を18兆円程度とすること、を提案したいと述べた。同じ委員は、同時に国債買い切りオペを月8千億円から月1兆円に増額することが必要であるとした。

 この委員はこれらの提案理由として、(1)物価目標を設定する必要があるが、物価上昇率の方が物価水準より国民にわかりやすく、世界の中央銀行でも一般的である、(2)資金供給手段の多様化を図る必要がある、(3)日本銀行による定時定額の外債購入は日銀法上も問題ないと判断される、(4)日銀当座預金の目標を引き上げて緩和姿勢を一段と強める必要がある、といった点を挙げた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 中原伸之委員からは、金融市場調節方式について、(1)「2003年10〜12月期平均の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年同期比を1.0〜3.0%にすることを目的として、金融市場調節を行う」、(2)「日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、実務体制等の準備が整い次第、外債の買入れを開始する」、との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 さらに同委員から、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が18兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)10〜15兆円というレンジでは、執行部の裁量の余地が大きすぎ、不適切である、(2)下限の10兆円では、量として不十分である、(3)デフレの初期段階は過ぎ、今後、賃金とサービス価格の下落が始まるとの認識を前提にすると、現状維持では対応が不十分である、と述べ、上記採決において反対した。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を2月12日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

中原伸之委員は、(1)景気の悪化が広がる中で、前月の「広範に悪化」という表現から「広範に」を削除するのは問題である、(2)倒産、失業率等にも言及すべきである、(3)海外経済の先行きについて表現をトーン・アップさせるのは時期尚早である、(4)当面の物価の下落が「緩やか」との判断は適当でない、と述べ、上記採決において反対した。

以上


(別添)

平成14年2月8日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上