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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 5月20、21日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年 6月26日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 7月 1日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2002年 5月20日(14:00〜16:02)
2002年 5月21日( 9:00〜12:56)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  副総裁  )
  • 須田美矢子(  副総裁  )
  • 中原 眞 (  副総裁  )
  • 春 英彦 (  副総裁  )
  • 福間年勝 (  副総裁  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官(20日、21日 9:00〜10:35)
    竹中 平蔵 経済財政政策担当大臣(21日、10:38〜11:44)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(4月30日)で決定された方針1にしたがって運営した。

 すなわち、大手行のシステム障害の影響に対する市場の警戒感が後退し、予備的資金需要が減少したことを踏まえ、足許では当座預金残高を15兆円程度で推移させる調節を行っている。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移している。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金利は、ユーロ円金利(3か月もの)が0.04〜0.05%で推移するなど、落ち着いた推移を辿っている。

 長期金利は、海外格付け機関による日本国債格付け見直しを巡る思惑などから神経質な地合いが続いているが、銀行による債券投資の拡大等を背景に1.3%台後半まで低下して推移している。株価も、国内景気・企業業績の回復期待や海外投資家による日本株買戻しを巡る思惑に支えられて11千円台での底固い動きとなっている。

 円の対ドル相場は、ドルが主要通貨全般に対し軟化基調にあるなかで、125円台まで上昇した。市場では、日欧と米国の景気格差などから中長期的なドル高を予想する向きが多いが、米国の景気回復の持続力や経常赤字のファイナンスに対する懸念が、目先のドル安要因になっているとの見方も一部に台頭している。円の対ユーロ相場は115〜117円程度の横這い圏内で推移している。

 この間、社債や銀行発行債のクレジット・スプレッドは、国内景気の底入れ期待が強まるなか、地方金融機関や生損保などの機関投資家が購入姿勢を積極化させていることから、縮小傾向にある。もっとも、低格付け債についてはスプレッドの大きい状態が続いており、信用リスクに対する市場参加者の警戒感は依然根強い。

3.海外金融経済情勢

 米国景気の回復が続くなかで、東アジアも回復に転じたとみられるほか、欧州でも景気回復に向けた変化がみられ、海外景気は総じて上向きつつある。ただ、鍵となる米国の最終需要の先行き不透明感は未だ払拭されておらず、年後半にかけての回復テンポが注目される。

 米国では、小売売上高や自動車販売など、個人消費が引き続き堅調に推移しており、消費者コンフィデンスも基調としては改善傾向にある。4月の住宅着工は前月比大幅な減少となった。企業部門では、生産・受注が回復に転じているが、資本財受注の動向などからみて、設備投資には未だ明確な改善はみられていない。雇用面では、雇用者数の減少に歯止めがかかりつつある。4月の失業率は6.0%と94年以来の高水準となったが、主として景気回復に伴う雇用機会拡大等を期待して、労働市場への参入者が増加していることが背景とみられる。ただ、企業の雇用態度は引き続き慎重である。

 米国金融市場では、企業収益や設備投資に明確な改善がみられないこと等から、長期金利、株価などに、先行きの回復テンポに対する見方が一頃より慎重化する動きがみられる。

 ユーロエリアでは、個人消費、設備投資など内需にはなお弱さが残っているが、輸出、生産の下げ止まりから、景気の悪化に歯止めがかかりつつある。消費者物価は引き続き安定しているが、原油価格上昇や高めの賃上げ予想等の懸念材料もあり、市場では年央以降の利上げ観測が幾分高まっている。

 東アジアについてみると、NIEs、ASEAN諸国では、IT関連財の生産・在庫調整の一巡を背景に、輸出・生産が増加に転じているほか、内需も個人消費、設備投資が下げ止まりつつあり、景気は回復に転じている。中国は、輸出が回復基調にあるなど、引き続き高い成長率を維持している。この間、アルゼンチンでは混乱が続いているが、これまでのところ、他の途上国に目立った影響は及んでいない。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 各需要項目の動きをみると、輸出は、海外景気の回復に伴って増加している。中間財や資本財・部品、自動車の輸出が増加したほか、IT関連財も持ち直している模様である。国内では、設備投資の減少が続いているほか、個人消費も、慎重な消費者心理が続くなかで、各種の販売統計にみられるように弱めの動きとなっている。住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少傾向にある。

 輸出の増加や在庫調整の進捗から、生産は持ち直しつつある。もっとも、雇用過剰感が根強いもとで、企業は人件費の削減姿勢を堅持している。このため、雇用者数の減少が続き、賃金の低下幅が拡大傾向にあるなど、家計の雇用・所得環境は、全体としては依然悪化を続けている。ただ、このところの生産回復を反映して、所定外労働時間や新規求人などに限界的な改善の兆しもみられる。

 先行きについては、輸出・生産の増加が、企業収益ひいては国内民間需要の下支えに作用していくことを通じて、景気は全体として下げ止まっていくとみられる。しかし、このところの輸出の強さは、海外における在庫復元など一時的な要因により押し上げられた部分もあり、輸出の回復テンポは先行き鈍化していくと考えられる。設備投資も当面減少を続けるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで弱めの動きが続く可能性が高い。このため、非製造業や中小企業、家計部門に前向きの力が拡がっていくには、なおかなりの時間を要するとみられる。

 物価面をみると、国内卸売物価は、機械類等が下落を続ける一方で、石油製品が上昇に転じているため、ほぼ横這いとなっている。一方、消費者物価、企業向けサービス価格指数は、引き続き下落している。なお、賃金下落がサービス価格に及ぼす影響が注視されるが、サービス料金改定の多い4月についても、既に公表された東京の消費者物価をみる限り、下落幅の目立った拡大はみられていない。

 先行きについては、円安や国際商品市況の上昇の影響を受けやすい国内卸売物価は当面横這い圏内で推移する可能性が高い一方、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向を辿るとみられる。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。社債やCPを通じた資金調達環境は、低格付け企業は総じて厳しい状況が続いているが、高格付け企業はこのところ改善している。なお、アンケート調査などによれば、中小企業からみた銀行の貸出姿勢は引き続き厳しさを増しているが、資金繰りは、売上げの改善傾向や在庫の減少などを背景に、悪化に歯止めがかかる兆しも見られ始めている。

 この間、4月のマネタリーベースは、大手行のシステム障害を背景に、新年度入り後も流動性需要が高止まったことから、伸びを一段と高めた。

 マネーサプライ前年比は、3%台後半の伸びが続いている。内訳をみると、M1(現金通貨+預金通貨)の伸び率上昇が一段と顕著になっている。なかでも、流動性預金が引き続き全額保護の対象となるなかで、4月の預金通貨の前年比伸び率(+38.2%)は、73年7月(+34.3%)を上回る既往ピークとなった。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 わが国の経済情勢の現状について、委員は、輸出の増加や在庫調整の進展を背景に、生産が持ち直しつつあるなど、悪化のテンポは緩やかになっている、との見解で概ね一致した。

 また、先行きについては、(1)輸出・生産の増加が企業収益、ひいては国内民間需要の下支えに作用し、景気は全体として次第に下げ止まっていく、(2)しかし雇用・所得環境の弱さに加え、輸出・生産の増加テンポが総じて緩やかに止まる公算が大きいため、前向きの力が非製造業や中小企業、家計部門に拡がっていくには時間を要する、との見方が概ね共有された。

 まず、多くの委員は、輸出・生産の回復が一段と明確になってきたとの認識を示した。一部の委員は、回復ピッチは展望レポートでの想定より速いのではないかと述べた。もっとも、何人かの委員は、1〜3月の輸出の増加が、米国を中心とするIT関連の急速な在庫復元の影響で強めに出ている可能性に留意した。

 一方、このような輸出・生産の回復が、国内最終需要にまで波及している明確な兆しは窺われない、との見方も概ね共有された。設備投資については、先行指標である機械受注がマイナス基調にあるなど、引き続き減少傾向にあるとの認識が示された。もっとも、ひとりの委員は、機械受注の4〜6月見通しや中小公庫の設備判断DIなどからみて、悪化に歯止めがかかりつつあるのではないかと指摘した。

 個人消費については、複数の委員が、家計調査でみた支出の底固さ、消費者コンフィデンスの改善、新規求人などにみられる雇用・賃金情勢の限界的な持ち直しなど、一部底固さを示す動きを指摘した。また、ある委員は、99年にみられたように、株価の回復が資産効果を通じて消費に好影響をもたらすような展開になるかどうか、ということも着目点のひとつであると指摘した。もっとも、これらの委員も含め、多くの委員は、雇用・所得環境の厳しさを踏まえ、個人消費は基調的には弱めの動きを続けているとみておくべきとの認識を示した。

 こうしたなかで、当面のリスク要因として、多くの委員が、(1)米国景気回復の持続性と、(2)為替市場のドル安傾向に着目した。

 まず、米国経済については、大方の委員が、IT分野の在庫調整の進展や家計支出の堅調を主因に回復基調は明確になっているが、先行きについてはなお不確実性が大きい、との認識を示した。これらの委員は、米国の金融・資本市場でも一頃の楽観的な見方が修正されつつあるのではないか、との見方を述べた。

 その背景について、多くの委員は、住宅価格の上昇に支えられた家計支出堅調の持続性に対する疑問や、エネルギー価格上昇の影響などを指摘した。設備投資についても、複数の委員が、企業コンフィデンスや収益の弱さ、設備過剰感などに鑑みると、回復にはまだ時間がかかると指摘した。ある委員は、投資家や銀行等のリスク許容度の低下が調達コストの上昇等を通じて企業活動を制約する可能性や、積極財政のもとで長期金利が上昇する可能性にも言及した。別のある委員は、米国株価の動向に関連して、企業の情報開示や倫理に対する不信感が投資家の株式市場離れにつながっている面があるのではないかと述べた。

 また、多くの委員は、最近の為替相場動向について言及した。何人かの委員は、ドル安が一段と進行すれば、輸出減少や企業収益の悪化等を通じて、なお脆弱なわが国経済に悪影響を与えかねないと述べた。ドル安の背景について、複数の委員は、米国が多額の対外債務と経常赤字を抱えるなかで、米国への資金流入が鈍っているとの見方を示した。一部の委員は、資金流入の形態が証券投資により依存するかたちになってきている点に言及し、こうした資金流入形態の変化が為替相場の変動を大きくする可能性に留意する必要があると述べた。

 ある委員は、こうした国際資金フローの変化が、相対的に生産性の高い米国への資金流入という大きな構図の変化なのか、一時的な動きなのか、との問題提起を行った。複数の委員は、長期的なドル高の構図は変わらないが、米国景気に対する楽観ムードの修正と日欧の景気持ち直しのなかで、短期的にドル安に向かっていると分析した。もっとも、ひとりの委員は、中長期的なドル高の修正局面に入っている可能性もあるとの見方を示した。この委員は、ドルがITブーム等を背景に過大評価されてきた反動や、株価下落を嫌気した米国からの資本離れをその背景として指摘した。

 以上のような議論を経て、景気判断を3か月連続で幾分上方修正することが適当との認識が概ね共有された。もっとも、輸出・生産の回復の持続性や、これらが内需誘発に繋がっていく蓋然性を見極める必要があり、下げ止まりには至っていない、という基本的な判断を変更するにはなお材料不足との見方が大勢であった。なお、政府が5月月例経済報告で景気は「底入れしている」としたことに関連して、両者の相違は輸出・生産の回復に重点を置くか、最終需要まで含めて表現するかの違いであり、基本認識が大きく異なっているわけではないとの指摘も多くなされた。

 物価に関しては、複数の委員が、国内卸売物価が横這いないし若干の強含みに転じている点に言及した。その背景について、これらの委員は、昨年以降の円安や原油高の影響が大きいものの、国内在庫調整の進展など需給面の要因も働いていると指摘した。これに対して、ひとりの委員は、技術進歩による機械類の趨勢的な下落を割り引いてみても、なお国内需給要因は卸売物価を下落させる方向に働いているとの見解を示した。また別のある委員は、需給の改善が価格上昇に結びついているのは液晶などの一部であり、大方の業種では、なお需要不足の中で価格引き上げ努力が浸透していないとの認識を述べた。

 また、複数の委員は、消費者物価についても、下落傾向は続いているものの幾分変化の兆しがみられると指摘した。ひとりの委員は、最近の消費者アンケートなどをみると、デフレ期待が若干修正され始めているのではないかと述べた。別のある委員は、輸入依存のビジネス・モデルの修正や消費者嗜好の変化が消費者物価にどのような影響をもたらすのか注視したいと述べた。ただし、これらの委員も含め、多くの委員は、賃金下落の影響や需給ギャップの拡大傾向を踏まえると、消費者物価はなお緩やかな下落傾向を辿る公算が大きいとの判断を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、複数の委員が、最近の変化として、(1)短期金融市場において流動性需要が落ち着いてきている、(2)高格付けCPや社債の信用スプレッドが縮小している、(3)中小企業の資金繰りの悪化傾向に歯止めがかかりつつある、といった限界的な改善方向の動きを指摘した。これらの委員は、実体経済面における持ち直しの動きが、金融環境の限界的な改善に繋がっていると述べた。また、別の複数の委員は、企業は厳しいリストラ過程にあるが、リストラ進捗や新たなビジネス・モデル構築の動きが着実に出始めており、株式市場などはこれら企業改革の動きを前向きに評価する雰囲気になりつつある、と指摘した。

 ただし、信用力の低い企業に対する投資家の姿勢は引き続き厳しく、また銀行も信用状態に応じた金利設定方針を強めていることから、資金調達における企業間の格差(二極化)が一層鮮明化しているとの認識も併せて示された。また、別のある委員は、不良債権処理の動向や金融機関の融資姿勢には引き続き留意が必要であると述べた。このため、金融面に端を発するリスクはなお注視していくべきであるとの認識が概ね共有された。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 まず、当面の金融政策運営が議論された。景気判断は上方修正したものの、内需回復の展望が得られていないこと、様々なダウンサイド・リスクが存在することを踏まえ、全ての委員が、現在の調節方針を維持し、潤沢な資金供給を続けることが適当との見解を示した。

 多くの委員は、景気に漸く明るい兆しが見え始め、市場も幾分落ち着きをみせているこの時期に、緩和継続の姿勢を引き続き明確にして、民間経済主体や市場参加者の期待を安定させ、時間軸効果をしっかり維持していくことの重要性を強調した。

 この間、ある委員は、期末を越え、大手行のシステム障害も復旧しつつある中で、なお高めの当座預金が維持されている背景について問題提起を行った。この委員は、いったん供給した流動性が市場に固定化するメカニズムが働いているのではないかと述べた。別のある委員は、ペイオフの部分解禁以降、資金の出し手が信用リスクにさらに過敏になり、市場への資金放出を行わないようになっているのではないかと指摘し、短期金融市場における市場機能の低下に懸念を示した。ひとりの委員は、そうした資金運用意欲の低下という問題点はあるが、それが逆に高めの当座預金残高の達成を可能にしている面があると述べた。

 こうした議論を踏まえ、何人かの委員は、当座預金残高はようやく「10〜15兆円程度」の目標範囲に入ってきたが、流動性需要が振れやすい状況にあるので、引き続き市場動向には細心の注意を払っていく必要があると述べた。

 何人かの委員は、先行きの金融政策運営にも言及した。複数の委員は、景気の足取りの弱さに鑑みると、更なる緩和が必要になった場合の対応について引き続き検討が必要である、と指摘した。これに対して、ある委員は、これ以上の当座預金残高目標の引き上げ、オペ手段の拡大等に関して、その実行可能性、期待される効果、副作用には様々な不確実性が存在すると述べた。この委員はまた、流動性クランチの発生による経済の底割れを防ぐという面での金融政策の発動可能性、有効性ははっきりしてきていると付け加えた。

 このほか、複数の委員が、他の経済政策のあり方、とりわけ構造改革について意見を述べた。複数の委員は、一部景気に明るさのみえ始めた今こそ、民間企業が前向きな経営に取り組み、民需を創出していくことが重要であり、構造改革を通じて環境整備を図ることの効果が大きい、と指摘した。ある委員は、民間金融機関が、融資案件の適切な選別を通じて、本来の信用仲介機能を発揮していくことの重要性を強調した。別の委員は、不良債権処理が中小企業金融に及ぼす影響に留意し、セーフティ・ネットや税制面を含め、肌目細かな対応が必要と述べた。

 この間、何人かの委員が、構造調整の動きが貸出やマネーサプライに与える影響について言及し、その評価に当たっての留意事項を述べた。これらの委員は、(1)銀行が資産健全化を、企業が過剰債務削減を進める過程では、多少景気が回復してもマクロの貸出残高は減少する可能性が高い、(2)直接金融市場の発達に伴う企業の資金調達手段の多様化も、貸出残高の伸びを制約する要因となる、(3)これらの要因で貸出が伸びないとしても、そのこと自体は、経済成長に必要な資金が供給されないということを意味しない、(4)したがって、金融緩和の効果を、貸出やマネーサプライの増加テンポで評価することは適当でなくなっている、(5)こうした点について、よりわかりやすく対外説明をしていく必要がある、といった点を指摘した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  5月の月例経済報告では、景気の現状について、「依然厳しい状況にあるが、底入れしている」とした。ただし、設備投資は相当厳しい状況にあるし、物価下落傾向についても安心していない。日本経済の回復力は決して強いものではないとみている。
  •  構造改革については、政府としては、6月末までに3つの重要なことを決めなければならないと考えている。第1は経済活性化戦略であり、規制改革、なかでも構造改革特区に重点を置いて議論している。第2は税制改革であり、とくに法人実効税率のあり方に問題意識を持っている。第3は財政の健全化であり、10年後を目途とするプライマリー・バランス回復に向けて、歳入・歳出のあり方を議論している。
  •  日本銀行には、マネーサプライが安定的に増えていくような状況を如何に作り出すか、という観点から議論して頂きたい。不良債権処理の過程でマネーに一種のストック調整圧力が働いていることは理解しているが、中央銀行として如何なる中間目標を掲げて政策運営するかという観点は重要である。
  •  政府としては、引き続き不良債権処理の一層の促進とより強固な金融システムの構築に向けた議論を続け、日本銀行と一致協力してデフレ阻止に向けて強い決意で臨むこととしている。日本銀行におかれても、デフレ克服に実効性ある金融政策の検討・実施を継続して頂きたい。

 財務省の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  5月の月例経済報告で、「景気は、依然厳しい状況にあるが、底入れしている。政府は、このような景気の動きを民需主導の持続的な経済の成長につなげるため、引き続き構造改革を断行しつつ、日本銀行と一致協力して、デフレ阻止に向けて強い決意で臨む」としており、6月に、税制の抜本的見直し、経済の活性化方策について基本的な方針を取りまとめることとしている。
  •  日本銀行におかれては、資金供給について、今後とも経済・市場動向や金融情勢を十分注視しつつ、資金需要が急激に増大する場合には弾力的な対応をお願いしたい。また、景気が底入れしているこの時期、デフレから脱却し、経済の本格的な回復を確実ならしめるため、引き続き適切な金融政策運営が必要であり、更なる工夫を講じるべく幅広くご検討頂き、思い切った対応が採られるようお願いしたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は5月22日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月10、11日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月24日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成14年5月21日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上