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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 6月11、12日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年7月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 7月19日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2002年 6月11日(14:00〜15:53)
2002年 6月12日( 9:00〜12:12)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(11日)
    二宮 洋二 官房参事官(大臣官房担当)(12日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局参事役高橋 亘

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 国際局国際調査課長石田和彦(11日14:00〜14:50)
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(5月20、21日)で決定された方針1にしたがって運営し、当座預金残高を15兆円程度に維持する調節を行った。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で落ち着いて推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場は、引き続き落ち着いた推移を辿り、ユーロ円金利、短期国債レートともに低水準が持続している。短期国債レートとユーロ円レート・CPレートとの格差をみると、2〜3月には拡大したが、4月以降は市場参加者のリスクテイク姿勢の強まりから、年初並みのレベルにまで縮小している。

 国内資本市場、為替市場では、国内景気の先行き見通しと、内外資金フローの変化に注目が集まる相場展開が続いた。円の対ドル相場は、テロ再発懸念や米国内への資金流入鈍化懸念などを背景に全般的なドル安基調が続くもとで、5月半ば以降円高テンポを速めた。こうしたもとで、5月下旬にはわが国通貨当局によるドル買い・円売り介入が報じられ、その後、123〜124円台で横這いの展開となっている。株価は、景気・企業業績の回復期待や海外投資家からの資金流入に支えられ、米国や欧州株価の軟調な推移と比べると、総じて底固い動きを続けた。また、長期金利は、概ね1.3%台での横這い圏内の動きとなっている。海外格付け機関による日本国債の格下げが公表されたが、債券市場に特段の反応はみられなかった。

 この間、社債や銀行発行債のクレジット・スプレッドは、機関投資家がリスクテイク姿勢を徐々に強めたことを反映して、高格付け債を中心に縮小傾向が続いている。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は引き続き回復基調にある。とくに個人消費は、消費者コンフィデンスも改善し、底固く推移している。企業部門の動向をみると、5月のISM製造業指数が受注面を中心に前月比改善し、生産は当面拡大することが見込まれる。設備投資に関しては、先行指標とされる非国防資本財受注が下げ止まりを示している。もっとも、企業の過剰債務、過剰設備の問題や企業収益の先行き不透明感を背景に、設備投資の回復を示唆する明確な兆候はなお観察されていない。雇用面では、民間非農業部門雇用者数が2か月連続して増加するなど、雇用調整の圧力は徐々に和らぐ方向にある。

 米国株価は、軟調に推移し、昨年秋以来のレベルに下落した。これは、景気回復期待の高まりに対する修正局面が続いていることに加え、テロ再発懸念やインド・パキスタン情勢の緊迫化、企業会計に対する不信感の強まりなどが影響している。

 ユーロエリアでは、本年第1四半期のGDPが輸出増を主因にプラス成長となり、外需主導の景気底入れの動きが明確化している。物価面では、消費者物価指数(HICP)上昇率は、これまでのところ引き続き安定基調にあるが、原油価格上昇の影響、ドイツの労使交渉における高めの賃上げ妥結等の懸念材料もある。また、マネーサプライは、足許、伸び率がやや鈍化したとは言え、高い伸びが続いている。

 東アジアでは、輸出・生産が増加し、内需にも持ち直しの動きがみられる。輸出を地域別にみると、米国向けに加えて、東アジア域内向けの増加も目立っている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 各需要項目の動きをみると、輸出は、4月も1〜3月期対比ではっきりと増加した。これを財別にみると、資本財・部品や中間財が引き続き高い伸びとなったほか、これまで減少を続けてきた情報関連財も大幅な増加に転じた。世界の半導体需要については、このところ急速に回復しているが、ユーザー在庫復元の影響が大きく、今年後半以降は、伸びが幾分鈍化する見通しにある。この間、輸入については、依然として減少しているが、国内の生産回復を受けて、いずれ下げ止まっていくと考えられる。

 設備投資動向について、法人季報をみると、製造業を中心に大幅な減少となった。しかし、先行指標である機械受注は、製造業では下げ止まりつつあるようにも窺われる。また、企業収益動向を売上高経常利益率でみると、製造業ではほぼ下げ止まったとみられるほか、非製造業についても、低下テンポがかなり鈍化している。こうした動きは設備投資をサポートすると考えられる。

 個人消費については、全体として弱めの動きが続いている。ただし、乗用車販売が持ち直すなど、個人消費は雇用者所得の弱さに比べれば底固さを示しているように窺われる。その背景としては、消費者心理が最悪期に比べれば幾分改善方向にあることなどが考えられる。

 こうした需要動向を背景に、鉱工業生産は持ち直している。4〜6月期の生産については、予測指数(+4.3%)ほどにはならないにせよ、高めの伸びが予想される。在庫は大幅に減少しており、在庫調整は、全体としてはほぼ一巡したとみられる。ただし、財別の出荷をみると、世界的な情報関連財の在庫復元の動きを強く受けて生産財が大きく増加している一方、最終需要財は国内最終需要の弱さを背景になお減少傾向を脱するには至っていない。

 雇用・所得環境については、生産の回復に伴って、所定外労働時間やパートの新規求人など、限界的な部分には改善の動きが出始めている。有効求人倍率は、概ね下げ止まりに近づいている。もっとも、賃金の低下幅が緩やかな拡大傾向にあるほか、雇用者数も全体として減少傾向にあることから、雇用者所得ははっきりとした減少を続けている。

 物価面をみると、国内卸売物価は、前月比でみて4か月連続で僅かなプラスないし横這いとなっている。輸入物価については、春先にかけての原油価格上昇を背景にこれまで上昇をみていたが、足許、円高の影響もあって横這いとなっている。一方、消費者物価は引き続き下落している。

 先行きの物価動向については、輸入物価は下落に転じていくことが予想され、その影響を受けやすい国内卸売物価は、再び弱含みとなる公算が大きい。また、消費者物価は、消費財輸入の増勢鈍化が価格低下圧力を何がしか緩和する要因として働くが、賃金の低下がサービス価格の下落を促す可能性もあり、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿ると考えられる。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。社債やCPの発行残高は、前年を上回っているものの、伸び率は鈍化している。ただ、これまでやや低調だったA格社債やA2格以下のCPの発行が増加するなど、社債、CPの発行環境は改善傾向にある。

 5月のマネタリーベースは、大手行のシステム障害に伴う流動性需要が一服したこともあって伸び率が幾分鈍化したが、引き続き前年比3割程度の大幅な伸びとなっている。

 マネーサプライ前年比は、3%台半ばの伸びとなっている。通貨種類別では、M1(現金通貨+預金通貨)の高い伸び、準通貨の減少という傾向が続いている。そのほかの金融商品の動きをみると、投資信託の減少が継続している一方で、最近では、国債、FBといった安全資産の伸びが高まっている。

 貸出約定平均金利は横這い圏内で推移しているが、金融機関は利鞘改善姿勢を徐々に強めている。この間、中小企業の資金繰り判断は、悪化傾向に歯止めがかかりつつある。これは最近の景気改善の動きが影響していると考えられる。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 わが国の経済情勢の現状について、委員は、国内需要は依然弱いものの、輸出がはっきりと増加し生産も持ち直すなど、下げ止まりに向けた動きがみられる、との見解を共有し、前月に続いて判断を幾分上方修正することで一致した。

 すなわち、足許、輸出・生産を中心に改善を示す材料が増えているとの見方が多く示されたが、同時に、委員の間では、こうした輸出・生産の増加が国内最終需要にまで波及していく明確な動きは確認できていないとして、経済全体の下げ止まりには至っていない、との見方が概ね共有された。また、先行きについては、景気は全体として下げ止まっていくと予想されるが、(1)海外経済の回復テンポがどうなるか、(2)輸出・生産の持ち直しが非製造業や家計部門にどのように波及していくかにつき、引き続き情勢を注意深く点検する必要があるとの認識が多くの委員より示された。

 まず、企業部門の動きについて、ほとんどの委員が、海外経済の回復を背景に輸出がはっきりと増加している点を指摘した。複数の委員は、情報関連財の輸出が増加に転じたこと、アジア諸国の内需が持ち直していること、さらに、アジア域内の相互依存関係が高まり、米国経済の動きの影響を受けにくくなっている可能性があることを、わが国の輸出増加の持続性をサポートする要因として挙げた。

 このような輸出の増加や在庫調整の一巡を反映して、多くの委員は生産が持ち直している、と述べた。もっとも、何人かの委員は、足許の輸出・生産の増加は情報関連財を中心とした在庫復元の動きが背景にあると考えられ、その影響が弱まるにつれて、輸出や生産の増加テンポは緩やかになる可能性がある、との見解を示した。

 一方、設備投資については、多くの委員は、回復の裏付けは得られていない、との評価を述べた。ただ、何人かの委員は、先行指標である機械受注や建築着工床面積(民間非居住用)の4月の水準が1〜3月期に比べて増加していること等から、先行き、設備投資は下げ止まりに近づくことが期待できるのではないか、との見解を示した。

 この間、ある委員は、企業の業況観について、財務省の景気予測調査によると、いずれの企業規模についても、足許、景況判断が改善していることを指摘した。もうひとりの委員は、中小企業金融公庫のアンケート調査によると、売上、収益や雇用面等に関する中小企業の見方が改善しているとの結果を紹介したうえで、経済の前向きの動きが中小企業にも波及しつつあるのではないか、との見方を述べた。

 次に、家計部門についての議論があった。何人かの委員は、生産の増加を背景に所定外労働時間や新規求人など、限界的な労働需給の改善の動きがみられ始めていると指摘した。このうち、ひとりの委員は、企業のリストラは進展し、雇用情勢の悪化にはそろそろ歯止めが掛かり始めるのではないか、と発言した。もっとも、多くの委員は、労働分配率の水準は依然として高く、企業の人件費抑制意欲はなお強いと考えられることから、家計の雇用・所得環境は、全体としてなお厳しい状況にある、との認識を示した。

 個人消費については、何人かの委員が、各種販売統計は総じて横這い圏内にあるが、所得の悪化度合いに比べれば健闘していると評価できる、との見解を示した。このうちのある委員は、その理由として、雇用情勢や消費者コンフィデンスが部分的に改善していることが考えられる、と発言した。一方、複数の委員は、賃金が下落し、雇用者所得が減少する傾向にあるので、消費の基調を判断するにはもう少しデータを見極めたい、と述べた。

 物価に関して、複数の委員は、国内卸売物価は、過去の円安や原油価格上昇の影響に加え、内外でみられる製造業分野での需給改善の影響もあって、ほぼ横這いの動きとなっていると述べた。次に、消費者物価については、何人かの委員は、当面、現状程度の下落が続くと予想されるが、最近の企業の低価格戦略見直しの動きや、消費者のデフレ期待の変化、および賃金のサービス価格への波及度合いを注意深く点検したいとの考えを示した。このうちひとりの委員は、消費者物価が景気情勢との関連付けが乏しいままに動く可能性も否定できない、と述べた。これに対し、別のある委員は、消費者物価の基調は需給ギャップや賃金の動きに規定されると考えると、国内需要の回復が明確ではないもとで、消費者物価の先行きは予断を許さない状況が続く、との見方を示した。

 以上のような経済・物価情勢について、複数の委員は、引き続き、4月の展望レポートにおける標準シナリオの範囲内にあるとの認識を示した。また、複数の委員は、第1四半期のGDP速報について、供給サイドの統計と併せてみると、輸出が高い伸びを示す一方、内需は力強さに欠けるという、想定した景気の展開を裏付けている、との評価を述べた。

 こうしたなかで、当面のリスク要因として、多くの委員が、(1)米国など海外経済の動向や国際的な資本の流れ、(2)国内の構造調整圧力の景気への影響や金融システム不安に着目した。

 まず、海外経済の動向については、多くの委員が、米国経済を中心とした世界経済の回復テンポは依然として不透明感が強いと主張した。ある委員は、米国の個人所得環境は必ずしも堅調ではないことから個人消費は景気の牽引力にはなり難いと考えられるほか、設備投資も比較的低めの伸びを覚悟せざるを得ない、との見解を述べた。これらの委員は、併せて、米国株価が、企業収益見通しの慎重化に加え、中東情勢の動きやテロ再発懸念、企業会計不信等を背景に、このところ軟調に推移していることが懸念されると指摘した。このうちの複数の委員は、米国の財政赤字が拡大していることもあり、米国への資本流入が減少し、国際的な資本の流れに変調を来たすリスクがあると発言した。この点に関連して、何人かの委員は、急激なドル安・円高の動きが国内経済に与える影響について注意すべきである、との見解を示した。

 何人かの委員は、構造調整圧力が国内経済に与える影響について言及した。ある委員は、企業のバランスシート問題が相対的に非製造業分野に集中しているとみられることや、企業の人件費抑制意欲が強いことが、非製造業や家計への景気改善の拡がりを制約する可能性がある、との留意点を述べた。もうひとりの委員は、こうした製造業を中心とする景気の改善の動きと不良債権問題の帰趨、さらにはバブル崩壊以降の土地などの資産価格調整との関連等について、改めて分析する必要があるとの問題意識を示した。また、別のある委員は、金融システムの状況に関して、昨年度の決算において多額の不良債権処理が行われたものの、ペイオフが解禁されているもとで、なお不安定な状態にある、との認識を述べた。この委員は、銀行券やM1が高い伸びを示していることも金融システム不安が根強く残っていることの証左であるとして、今後も、そうした流動性資産の動きに注意を払う必要がある、と付け加えた。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、複数の委員が、景気の改善が高格付け債を中心とする信用スプレッドの縮小に結びついていること、また、株価は海外株価の軟調や一時の急激な円高にもかかわらず、比較的底固い動きを続けていることを指摘した。もっとも、別のある委員は、最近の株価の動きは、過去における過度の売りの調整の域を出ていないと考えられるほか、長期金利が横這いから低下気味に推移していることも踏まえると、市場における景気回復期待はそれほど強くないのではないか、との見方を述べた。この委員は、米国市場をはじめ主要先進国の金融市場においても同様の動きがみられ、世界的に中長期の景気に対する見方が若干慎重化しているように窺われる、と付け加えた。もうひとりの委員は、日本国債格下げの影響は現時点ではみられていないが、先行き、事業法人の資金調達環境に悪影響が及ぶことが懸念される、と発言した。

 そのほか、為替市場の動きについても、何人かの委員が言及した。これらの委員は、5月下旬の急激なドル安・円高の動きが経済に与える影響を勘案すると、政府による今回の介入は意義があったとの認識を示した。ただ、このうちのひとりの委員は、市場介入のみによってドル安の動きを是正するには限界があるのではないか、との考えを述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 まず、当面の金融政策運営が議論された。景気判断は上方修正したものの、構造調整圧力を抱える日本経済を、持続的な成長軌道に復帰させていくためには、引き続き、思い切った金融緩和を通じて経済を下支えする必要があるとして全ての委員が、現在の調節方針を維持し、潤沢な資金供給を続けることが適当との見解を示した。

 また、複数の委員は、民間経済主体や市場参加者の期待を安定させることが重要であるとして、緩和姿勢の継続を明確にすべきである、との意見を述べた。

 日銀当座預金残高の水準については、何人かの委員は、「10〜15兆円程度」という目標の上限を目指すという現在の姿勢を継続することが適当である、との考えを示した。この間、金融システム不安が一頃に比べて後退したにもかかわらず、15兆円程度の当座預金を比較的安定的に供給できていることについて、議論があった。何人かの委員は、その背景として、(1)コール市場の残高縮小にみられるような市場機能の低下や、(2)短期国債市場における需給の緩和を反映して、期間を長めに設定したオペや短期国債を用いたオペに対する需要が高まっているのではないか、との見解を述べた。このうち複数の委員は、市場参加者の間では日本銀行のオペへの依存が定着しつつあり、日本銀行がオペを通じて資金の借り手と貸し手の間を事実上仲介する傾向が強まっている、と発言した。これらの委員は、こうした市場の状況が日本銀行による潤沢な流動性供給とどのような関係にあるかを見極めるためには、引き続き、市場金利や日銀当座預金需要の動きを注意深く点検していく必要がある、との見方を共有した。

 この間、ひとりの委員は、現在、マネタリーベースの高い伸びにもかかわらず、広義のマネー指標の伸びが芳しくない点に関し、世上みられるひとつの議論(金融機関が政府に直接貸し付ける案)に触れ、金融機関から政府への資金供給チャンネルを国債購入から貸し付けに変更しても、マネーの伸びは変わらず、もし政府ファイナンスを通じてマネー供給を増やそうというのであれば、財政赤字が拡大していくことが前提となるのではないか、との意見を述べた。さらに、この委員は、マネタリーベースが大きく増加する過程で、市場参加者の流動性資産やリスクフリー資産に対する選好に大きな変化がみられないことを踏まえると、政策効果が強まるためには、やはり各経済主体のリスク負担能力を高めることが必要である、と続けた。これに対して、別のある委員は、潤沢な流動性供給により、流動性不安は回避され、そのことを通じて中長期ゾーンの金利安定や株価、さらには実体経済活動にも好影響を与えているはずである、との認識を述べた。もうひとりの委員は、強力な金融緩和策のもとで、4月以降、信用リスクプレミアムが縮小するなど、企業のバランスシート調整を円滑に進めやすい環境を提供している面があるのではないか、と付け加えた。

 このほか、何人かの委員は、他の経済政策のあり方についても触れた。ひとりの委員は、来年にかけて金融システム不安が再燃するリスクがまだ残っていると考えざるを得ないため、不良債権処理の目途を早期につけることの重要性を強調した。別の複数の委員は、経済活性化策や税制改革の具体化を通じて、民間経済活動が活発化することを期待したい、との見解を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  本年1〜3月期のGDP速報において、底入れしている景気の動きが改めて確認された。政府は、こうした景気の動きを民需主導の持続的な経済の成長に繋げるため、引き続き構造改革を断行しつつ、日本銀行と一致協力して、デフレ阻止に向けて強い決意で臨んでいる。
  •  このような観点に立ち、政府としては、6月中に規制改革等からなる経済活性化策、税制改革、歳出構造の改革等を内容とする新たな経済政策の基本方針を示すこととしている。
  •  金融政策運営については、現在、当座預金残高目標の上限である15兆円程度の水準で資金供給が行われているが、今後とも、経済・市場動向や金融情勢について十分注視しつつ、資金需要が急激に増大するような場合には、弾力的な対応をお願いする。また、景気が底入れしているこの時期、デフレから脱却し経済の本格的な回復を確実にするために、引き続き適切な金融政策運営が必要であり、さらなる工夫を講じるべく、幅広くご検討頂き、思い切った対応が採られるようお願いしたい。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  1〜3月期のGDPは、前期比+1.4%と4四半期振りにプラスに転じた。これは、基本的には輸出の増加等を通じた外需寄与度の増加が成長率を押し上げた形となっており、こうした姿はこれまでの政府の経済認識にほぼ沿ったものである。
  •  ただし、依然としてデフレは続いているため、デフレ克服に向けて金融面での対応と同時に、民間需要・雇用の拡大に力点を置いた構造改革を進め、自律的な経済成長を実現することが必要と考えている。このため政府としては、経済財政諮問会議において、中長期的な視点を踏まえた税制改革や経済活性化をはじめとする基本方針の第2弾を取りまとめることとしており、6月7日に取りまとめに向けての包括的な総理大臣指示があったところである。
  •  金融面での取り組みとしては、政府は日本銀行と一致協力してデフレ阻止に向けて強い決意で臨む方針であり、引き続き不良債権処理の一層の促進を図るとともに、活性化された経済を支える活力ある金融システムの確立を進める。日本銀行におかれても、デフレ克服に実効性ある金融政策の検討・実施を継続して頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は6月13日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月30日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月17日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成14年6月12日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上