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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 7月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年8月8、9日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 8月14日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2002年 7月15日(14:02〜15:59)
2002年 7月16日( 9:00〜12:16)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(15日)
    谷口 隆義 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官(15日、16日 9:00〜10:30)
    竹中 平蔵 経済財政政策担当大臣(16日10:32〜11:41)

(執行部からの報告者)

  • 理事永田俊一
  • 理事白川方明
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局参事役高橋 亘

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役長井滋人

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(6月26日)で決定された方針1にしたがって運営し、当座預金残高を15兆円程度に維持する調節を行った。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で落ち着いて推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金利は、引き続き落ち着いた動きとなっており、短期国債レート(3ヶ月物)は最近になって幾分低下している。一方、ユーロ円金利(3ヶ月物)は、引き続き水準は低いものの、中間期末越えとなったことを反映して季節的に僅かに上昇した。

 国内資本市場、為替市場では、米国株価の不安定な動きを受けて、神経質な展開が続いている。株価は、6月中は米国株価の動きに引き摺られるかたちで一旦下落したが、6月末以降は、欧米株価対比総じてしっかりとした動きとなっている。為替市場では、米国株価の下落をきっかけにドル安基調が継続している。また、長期金利は、内外株価の下落局面を中心に銀行や機関投資家が債券購入を積極化する姿勢を示したため、金利水準を切り下げてきており、最近では1.3%を割り込んでいる。

 この間、社債や銀行発行債のクレジット・スプレッドは、一部投資家が6月中の株価下落を眺めて利益確定売りを進めたため、4月以降の縮小傾向が一服し、銀行債については若干拡大気味に推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は引き続き回復基調にある。個人消費は、5月の実質個人消費が前月に比べてやや低めの伸びに止まったものの、6月入り後の小売関連統計が回復をみせるなど、底固さを維持していると考えられる。企業部門の動向については、6月のISM製造業指数が受注面を中心に引き続き改善基調にあり、生産は当面拡大傾向を続けるものとみられる。設備投資は、先行指標とされる非国防資本財受注が増加に転じつつあるなど、一部変化の兆しはみられつつも、構造物投資などを含めた設備投資全体では、未だに明確な回復の動きはみられていない。雇用面では、民間非農業部門雇用者数が緩やかながら増加に転じつつあるなど、雇用調整の圧力は和らぎつつある。

 米国金融市場では、企業会計に対する不信感やテロ再発懸念などの影響もあって、株価の大幅下落が続いており、家計や企業のマインド面への悪影響が懸念される状況にある。FF先物金利などから判断すると、当面の利上げ観測は一時に比べて大きく後退しているほか、長期金利も低下基調にある。

 ユーロエリアでは、個人消費、設備投資など内需にはなお弱さがみられているが、輸出増に伴って生産は回復傾向にあり、全体として景気は底入れしたとみられる。物価面では、消費者物価指数(HICP)上昇率は、これまでのところ引き続き安定基調にある。先行きについては、ユーロ高が物価押し下げに寄与する可能性がある一方で、ドイツの労使交渉における高めの賃上げ妥結等に伴う物価上昇圧力の高まりが懸念される。

 東アジアでは、IT関連のウエイトの高い国・地域を中心に、米国向け、東アジア域内向けに輸出が増加を続け、生産も増加傾向にある。これに伴って、個人消費や設備投資にも持ち直しの動きがみられている。

 エマージング金融市場では、欧米の株価下落などを背景に海外投資家のリスク回避指向が強まる中で、アルゼンチン、ブラジル、トルコなどを中心に金融面でやや不安定な動きがみられている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、IT関連財や資本財・部品などを中心に、4〜5月も1〜3月期対比で+6.6%と前期をさらに上回る高い伸びとなった。この間、輸入については、IT関連分野における輸出・生産の増加を主たる背景に、下げ止まりつつある。

 設備投資を巡る環境をみると、企業収益については、輸出や生産の増加に伴い、製造業を中心に持ち直しつつあるとみられる。その中で、機械受注などの設備投資の先行指標には製造業を中心に下げ止まりの兆しが窺われるが、短観などでみた企業の投資計画は総じてなお慎重である。

 個人消費については、全体として弱めの動きが続いている。ただし、乗用車販売や家電販売がやや持ち直しているほか、小売業の業況にも幾分改善の動きがみられるなど、個人消費は雇用者所得の弱さに比べれば底固い面もみられる。その背景としては、消費者心理が最悪期に比べれば幾分改善方向にあることなどが考えられる。

 こうした需要動向を背景に、鉱工業生産は、1〜3月に前期比+0.7%と小幅ながら5四半期振りに増加に転じた後、4〜5月は+3.0%と高めの伸びとなり、はっきりと持ち直している。出荷は生産以上の伸びを示しており、在庫調整は全体として一巡した。ただし、先行きは、海外における在庫復元一服や円安を背景としたスポット輸出といった一時的な要因の剥落に伴い、輸出と生産の増加テンポが鈍化することが見込まれる。

 雇用・所得環境については、生産の回復に伴って、所定外労働時間やパートの新規求人など、限界的な部分には改善の動きが続いており、有効求人倍率は、緩やかに持ち直しつつある。また、短観でも雇用過剰感が幾分後退している。もっとも、賃金の低下幅が緩やかながらもなお拡大傾向にあるほか、雇用者数も全体として減少傾向にあることから、雇用者所得の明確な減少が続いている。

 物価面をみると、国内卸売物価は、前月比でみて5か月連続で僅かなプラスないし横這いとなっている。一方、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にある。

 先行きの物価動向については、在庫調整の進展や稼働率の上昇が下支えに作用する一方で、国際商品市況の頭打ちや最近の円高も徐々にマイナスに作用するため、国内卸売物価は、全体として、横這いから再び弱含みに転じる可能性が高い。また、消費者物価は、引き続き需要と供給の両面から価格低下圧力が働くほか、賃金の低下幅も緩やかな拡大傾向にあることから、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿ると考えられる。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。社債やCPの発行残高は、前年を上回っているものの、資金需要の動向を反映して、伸び率は鈍化している。ただ、これまでやや低調だったA格社債やA2格以下のCPの発行が増加するなど、社債、CPの発行環境は改善が続いている。

 6月のマネタリーベースは、ペイオフの部分解禁や大手行のシステム障害等に伴う流動性需要が一服したことから伸び率が幾分鈍化したが、引き続き前年比2割台の大幅な伸びとなっている。

 マネーサプライ前年比は、3%台半ばの伸びとなっている。通貨種類別では、M1(現金通貨+預金通貨)の高い伸び、準通貨の減少という傾向が続いている。そのほかの金融商品の動きをみると、投資信託の減少が継続している一方で、最近では、国債、FBといった安全資産の伸びが高まっている。

 貸出約定平均金利は横這い圏内で推移しているが、金融機関は利鞘改善姿勢を徐々に強めている。この間、短観でみた資金繰り判断や貸出態度判断については、悪化傾向に歯止めがかかりつつある。

 6月の倒産計数は、引き続き高水準ながら、10か月振りに前年水準を下回った。

II. 金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 わが国の経済情勢の現状について、委員は、国内需要は依然弱いものの、輸出や生産面の明るさが増し、企業の収益や業況感も改善するなど、全体としてほぼ下げ止まっている、との見解を共有し、前月に続いて判断を幾分上方修正することで一致した。

 すなわち、委員は、輸出が大幅に増加し、これに伴って生産がはっきりと持ち直しているほか、短観が企業収益と業況感の改善を示す結果となったことなどから、前月に続き判断を上方修正することが適当との意見で一致した。同時に、委員は、設備投資や個人消費といった国内需要の改善を示す明確な材料が見当たらないこともあり、上方修正は小幅なものとするのが適当との見方も共有した。

 また、先行きについては、景気は下げ止まりが明確になっていくと予想されるが、米国を中心とする世界的な株安やドル安の動きを受けて、(1)輸出環境に不透明感が増している、(2)為替市場を含めた内外の金融・資本市場における不安定な動きが増大すると、実体経済に影響が及びやすいといった点につき、引き続き情勢を注意深く点検する必要があるとの認識が多くの委員より示された。

 まず、企業部門の動きについて、ほとんどの委員が、海外経済の回復やIT関連財の在庫復元の動きを背景に、輸出が予想以上のペースで大幅に増加している点を指摘した。このような輸出の増加や在庫調整の一巡を反映して、生産がはっきりと持ち直していることも多くの委員が指摘した。同時に、多くの委員は、今後、海外在庫の復元効果が剥落していくため、輸出と生産の増加テンポは次第に緩やかになっていくとの認識を共有した。このうち、ひとりの委員は、IT関連部品の発注が最近やや落ちてきている点を取り上げ、現状はクリスマス商戦を睨んで慎重に対応しようとする動きに過ぎず、在庫過剰に至っている訳ではないとの見方を示した。

 こうした輸出と生産の増加を踏まえ、短観の結果も勘案すると、企業収益は回復に転じつつあると判断されるとの認識が、ほとんどの委員によって共有された。ひとりの委員は、短観の企業収益に関する見通しはあくまでも予想に過ぎず、中小企業や非製造業も含めて考えると、企業収益が改善していることを明確に示す材料は見当たらないとの慎重な見方を示した。別の委員は、景気の改善が輸出主導であることを反映して、地域や産業間で回復の動きにバラツキがあるとの指摘を行った。

 設備投資について、多くの委員は、機械受注に下げ止まりの兆しが窺われるものの、短観などでみる限り、企業の設備投資は総じて慎重であることを指摘した。ひとりの委員は、回復の動きが輸出主導であることを考えると、非製造業、中小企業の設備投資はまだ下げ止まりが見込めないとの見方を示した。

 この間、多くの委員が、短観などで企業の業況感が改善している点を指摘した。ひとりの委員は、短観結果の市場での受け止め方について、調査時点の為替レートが実勢レートより円安に想定されていたことを捉えて、予想より強めの結果であったにもかかわらず、やや悲観的に受け止める向きがみられるが、業況改善の動きが業種的に広がりをみせていることや製造業の設備過剰感が大幅に後退したことなどを踏まえると、もっと前向きに評価すべきであると述べた。ただし、別の委員は、業況感を巡って、マクロのデータで感じる業況感と個別企業の業況感の間でずれが感じられる点を指摘し、企業経営者は先行きについて慎重な見方をしていると述べた。同じ委員は、大企業と中小企業、首都圏と地方経済圏の間で、景況感格差が拡大しているとの見方をあわせて示した。

 次に、家計部門についての議論があった。何人かの委員は、生産の増加を背景に所定外労働時間や新規求人など、限界的な労働需給の改善の動きが続いている点を指摘した。もっとも、多くの委員は、所得面では厳しい統計が出ているほか、企業の人件費削減スタンスも続いており、家計の雇用・所得環境は、全体としてなお厳しい状況にある、との認識を示した。

 個人消費については、何人かの委員が、各種販売統計は総じて横這い圏内にあるが、所得の悪化度合いに比べれば健闘していると評価できる、との見解を示した。ひとりの委員は、消費マインドが一進一退ながらも改善しているとの見方を示し、小売業が消費者のニーズを的確に把握し、品揃えの充実などで消費を掘り起こす余地はあると述べた。

 物価に関して、多くの委員は、年初から横這いの動きを続けてきた国内卸売物価について、今春以降の原油価格の頭打ち傾向や円高の影響が、ラグをもって現われてくることから、再び弱含みに転じていくとの見方を示した。ある委員は、国内卸売物価のうち、素材関連には下げ止まりの感があるが、加工組立型の製品はまだ下落傾向が続いていると指摘した。消費者物価については、ほとんどの委員が、当面、現状程度の下落が続くとの見方を示した。何人かの委員は、発泡酒やコンピュータ等で、これまで見直しが進んできていた低価格戦略に逆戻りするような動きがみられることを指摘した。

 以上のような経済・物価情勢について、ほとんどの委員は、引き続き、4月の「展望レポート」における「標準シナリオ」の範囲内、或いは、足許では幾分それを上回る動きを示しているとの認識を示した。こうした中で、当面のリスク要因として、米国を中心とする株安の動きとドル安の動きが、米国など海外経済の動向や国際的な資本の流れのほか、国内の金融資本市場に対してどのような影響を与えるか、といった観点を中心に議論が行われた。

 まず、海外経済の動向については、ほとんどの委員は、米国の実体経済は基本的には緩やかな回復基調が維持されているとの見方を共有した。

 この点に関連して、多くの委員が、米国株価の大幅な下落が今後の米国経済の回復に対して持つインプリケーションについて言及した。ひとりの委員は、株価下落の逆資産効果は、住宅価格が堅調さを維持していることもあって、特に消費を大きく抑制するには至っていないが、消費者コンフィデンスの指標が直近時点で下落している点には留意が必要であると述べた。別の委員は、最近の米国株価の下落は、中長期の行き過ぎた成長期待を下方修正する動きとも理解できると述べ、そのひとつの背景として過去4、5年間のハイテク分野での過剰投資の反動が予想以上に大きかったことを指摘した。ある委員は、株価の下落をTMT(テレコミュニケーション、メディア、テクノロジー)のバブル崩壊の影響として捉えるべきであり、S&P500指数の構成銘柄の4割程度は上昇しており、実体経済を反映した消費財関連や素材関連は上昇していると指摘した。この委員は、バリュエーション指標をみる限り、割高感は既になくなっているが、企業会計への疑惑が払拭されない限り、株価がさらに下落するリスクは残ると述べた。また、別のある委員は、株安の主な原因は、企業会計不信の動きとテロ再発の懸念を背景にした投資家のリスク回避行動であるとしたうえで、これが次第に解決されるに従って、株価は底固めに転じるとの見方を示した。

 企業会計に対する不信や見直しの動きについて、ひとりの委員は、ブームの終焉時によく起きる現象で、中長期的には望ましい動きであるが、過去の決算の見直しといった動きが広がると、経営者の前向きな行動を制約する懸念があると述べた。複数の委員は、企業会計不信の動きがもたらす影響として、米国において中心的な役割を果たす直接金融のメカニズムが働きにくくなったり、クレジット・クランチのような事態が発生するリスクについて懸念を表明した。この点に関連して、別の委員は、格下げの動きが広がっており、社債のスプレッドも投資適格債と投機的格付債の間で2極化が進展しているが、6月の社債発行が堅調に推移したことなどからみて、取り敢えずそれが原因となって経済全体として先行きの設備投資の回復が制約を受けるような事態には至っていないとの認識を示した。

 何人かの委員は、米国の財政赤字が拡大している点にも触れ、米国への資本流入が減少し、国際的な資本の流れに変調を来たすリスクがあることについて、言及した。ひとりの委員は、米国経済の先行きを占ううえでの最大の鍵は労働生産性の上昇が本当に生じているのか、それが今後も持続するのかという点であり、それが確認されれば、米国売りのような事態に陥るリスクはほとんどないとの見方を示した。一方、ある委員は、米国における株安とドル安の動きが、世界的なリスク回避指向の高まりを招いており、欧州でも株式から債券市場へ資金が流れているとの指摘が聞かれると述べた。また、複数の委員が、アルゼンチン、ブラジル、トルコなどのエマージング金融市場の動きを懸念材料として指摘した。

 何人かの委員は、近年、アジアにおいて域内貿易の拡大が進んでいるため、米国経済の回復が予想を下回った場合にも、アジアからの需要がある程度緩衝材として機能することが期待できるとの見方を共有した。このうち、ひとりの委員は、日本を含むアジア域内での貿易拡大の背景として、日本企業の工場進出に伴い、生産ネットワークが域内で広がっていることを指摘した。

2.金融面の動向

 米国株を中心とする株価下落やドル安進行の動きが日本の金融資本市場へ及ぼす影響を中心に議論が行われた。多くの委員は、日本の株価が相対的に底固い動きを示しているほか、社債・CPの発行環境が改善を続けるなど、信用リスクや金融システム問題への懸念が再燃するような動きもみられていないことを踏まえて、日本の金融資本市場はこれまでのところ総じて落ち着いているとの見方を共有した。

 ひとりの委員は、これまではドル安という色彩が強かったが、ここへきて、やや円高の様相が出てきており、企業収益に与える影響は無視できないと述べた。また、ある委員は、現在の生産回復は輸出主導であるだけに円高誘発リスクが累積していくという脆さを持っていると分析した。一方、別の委員は、円高進行は比較的冷静に受け止められているとの認識を示し、その背景として、(1)長期的にはドル高との見方が市場で一般的であること、(2)実質実効レートのベースでは円高の程度はさほどではないこと、(3)輸出企業がかなり為替ヘッジを済ませていること、(4)円高が即実体経済の悪化に繋がる訳ではないとの認識が広がっていること、を挙げた。別の委員は、円は対ユーロではむしろ下落しており、円の実効レートは大きく上昇していないことから、これまでのところ、為替だけの面から大きなデフレ圧力が働くには至っていないと指摘した。

 複数の委員は、最近の急激なドル安・円高の動きに対して、効果がなるべくあがるように配慮しつつタイムリーな為替介入を行うことは意義があるとの認識を示した。これに対して、複数の委員は、為替介入が為替レートの水準を変化させ得るのは、為替レートが明らかに行き過ぎているケースのみであり、最近のような円高というよりもドル安の動きを介入で変化させるのには限界があるとの考えを示した。

 ひとりの委員は、日本株が時に米国株の下落に引き摺られたり、相対的に底固く推移したりすることは、市場参加者が、米国株価下落が米国のマクロ的なファンダメンタルズに関する見方の修正を意味するのか、企業会計不信等の特殊事情を反映しているのか、というふたつの見方の間で揺れ動いていることを示唆していると述べた。別の委員は、日本株の相対的な底固さの背景には、米国経済が90年代半ば以降のバブル的な動きのつけを払っている面があるとの認識があると指摘した。別のひとりの委員は、ドル安が進行する中で、リスク許容度が極端に低下して国際的な資金フローの動きが停滞しない限り、米国株式市場から流出した資金が日本の株式に流れても不思議ではないと述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営については、景気判断は上方修正したものの、先行きの不透明感も同時に高まっている状況では、日本経済を持続的な成長軌道に復帰させていくためには、引き続き、思いきった金融緩和を通じて経済を下支えする必要があるとして、全ての委員が、現在の調節方針を維持し、潤沢な資金供給を続けることが適当との見解を示した。

 日銀当座預金残高の水準について、何人かの委員は、「10〜15兆円程度」という目標の上限を目指すという現在の姿勢を継続することが適当である、との考えを示した。ひとりの委員は、短期国債のオペ金利は落ち着いているものの、応札倍率が非常に高いことを指摘し、短期金融市場における市場参加者間の取引が細り、オペへの依存度が高まっている中で、ALM管理上の必要性から市場にはオペの回数増加を求める声が存在するとの見方を示した。別の委員は、短期金融市場における市場機能低下や流動性預金のシフトといった問題の根底に不良債権問題が存在しているとの認識を示し、金融機関の流動性リスクの動向に引き続き注視が必要であると指摘した。

 また、多くの委員が、米国の株価下落やドル安の進行といった事態にも拘らず、日本の金融環境は比較的落ち着いているとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員が、金融システム問題や信用リスクに対する懸念再燃というリスクが潜在的に存在することから、不安が台頭し、資金需要が急激に増大した場合には、「なお書き」の活用も躊躇すべきでないと述べた。

 何人かの委員は、今後の流動性需要を左右する要因のひとつとして、流動性預金のぺイオフ開始の問題について言及し、金融システムの安定性への影響などの観点も含めて、そのインプリケーションを確認する必要があると指摘した。ひとりの委員は、ペイオフの影響は、単に資金が流出する金融機関だけの問題ではなく、資金が流入する金融機関のALMにも大きな影響を与えるほか、受け皿となる国債、郵便貯金などの金融商品への大規模な資金シフトを生じさせる可能性があると指摘した。

IV.政府からの出席者の発言

会合では、内閣府の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府は、7月の月例経済報告において、「景気は依然厳しい状況にあるが、一部に持ち直しの動きがみられる」という表現で、景気判断を上方修正した。今後のリスク要因としては、米国経済が重要なポイントとなるが、生産性の上昇トレンドに変化がない限り、大崩れするような状況ではないとみている。ただし、資産市場の調整が継続している点には留意が必要なほか、財政バランスの大きな変化がもたらす影響も注視すべきである。
  •  日本の財政に関して、公的部門の貯蓄投資差額がどのように推移するのかという観点から検討することが予算編成を行ううえで重要であると考えている。
  •  金融システム問題に関しては、システム強化のビジョン作りを金融庁にお願いしていたが、最近になって金融担当大臣の私的懇話会から「金融システムと行政の将来ビジョン」が報告されたところである。この報告をもとに、政策金融の問題もあわせて、総合的に議論を進めていきたい。
  •  日本銀行におかれても、デフレ克服に実効性ある金融政策の検討・実施を継続して頂きたい。

財務省の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府としては、構造改革を着実に進め、民需主導の持続的な成長を実現するため、先般閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を今後のデフレ対応の基本として、早急に実施できる事項を検討し、可能な限り早期に実施していくこととしている。なお、この中では、デフレ克服のため、日本銀行においても引き続き実効性のある金融政策運営が期待されている。
  •  こうした政府の方針に呼応し、日本銀行におかれても、デフレ克服のため、金融政策運営にも更なる工夫を講じ、思いきった対応がとられるようお願いしたい。昨日の会合における報告でも、わが国の経済情勢については、全体としてほぼ下げ止まったとの見解が示されたが、金融政策の効果は、前回会合において申し上げたとおり、こういう時期にこそ、デフレ心理を払拭するうえで、より効果的であると考えている。
  •  加えて、現在までのところ、潤沢な資金供給が行われているが、引き続きこれを維持するとともに、今後とも、経済・市場動向や金融情勢について十分注視し、資金需要が急激に増大するような場合には、弾力的な対応をお願いする。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は7月17日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(6月11、12日)の議事要旨が全員一致で承認され、7月19日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成14年7月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上