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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 9月17、18日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年10月30日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年11月 5日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2002年9月17日(14:00〜15:51)
2002年9月18日( 9:01〜13:08)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(17日)
    谷口 隆義 財務副大臣(18日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事永田俊一
  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役和田哲郎(18日)
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局参事役高橋 亘

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男(18日)
  • 政策委員会室政策広報課長市川信幸(17日)
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(18日9:01〜9:17)
  • 金融市場局金融市場課長大澤 真(18日9:01〜9:17)
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(8月8、9日)で決定された方針1にしたがって運営した。資金供給オペにおいて「札割れ」が頻発しているが、オペの工夫を講ずることにより、当座預金残高を15兆円程度に維持できている。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給が続くもとで、大手銀行の市場性資金調達額が引き続き縮小した状態にあることや、「決済用預金の全額保護」報道を受けて銀行の流動性確保の意欲が後退したことなどから、極めて強い資金余剰感が生じている。こうしたもとで、短期国債レートは全てのタームで下限である0.001%で推移しているほか、ユーロ円金利(3か月物)も中間期末越えにもかかわらず、8月下旬以降低下傾向を辿っている。さらに、預金保険機構・交付税特別会計借入やCPについても、金利低下が及んでいる。金融機関は、日本銀行に対しすでに十分な担保を差し入れていることもあり、9月末越えおよび年末越えの資金調達について、不安をほとんど感じていない状況である。

 債券市場においても、金利低下の動きがじわじわと波及している。すなわち、8月中旬までは、中短期ゾーンの金利低下が目立っていたが、8月下旬以降、10年国債の流通利回りも徐々に低下している。この背景としては、地域金融機関が長期債投資を活発化させていることや、市場参加者の間で景気の先行きに対する不透明感が強まっていること等が指摘できる。

 株価は、取引高が減少する中、世界的な株価の軟調を受けて下落し、最近では9千円台前半で推移している。このところ、海外株価との連動が強まっているように窺われる。こうした株価の下落にもかかわらず、社債流通利回りの対国債スプレッドは、総じて横這い圏内での落ち着いた動きとなっている。ただし、海外投資家を中心とするクレジット・デフォルト・スワップ市場では、銀行株価の下落を反映する形で、邦銀に対する見方が慎重化している。

 円の対ドル相場は、国内機関投資家によるドル買いと国内輸出筋によるドル売りが交錯する中、もみ合いの展開となった。足許では、海外投資家による円売りなどから下落し、122円台での動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、減速しつつも緩やかな回復を続けている。もっとも、先行き、ダウンサイド・リスクを注意すべき状態にある。まず、家計部門について、個人消費は、引き続き好調な自動車販売を中心に底固さを維持しているほか、住宅投資も金利低下を背景に高水準を続けている。雇用面では、8月の失業率は前月比小幅低下したが、同月の民間非農業部門雇用者数は、前月比2千人の減少となった。また、週間新規失業保険申請件数も、足許では40万人台に増加している。このような雇用環境の改善の遅れや株価下落の影響から、消費者コンフィデンスは悪化している。

 企業部門では、設備投資の先行指標が増加基調を維持しているものの、設備投資全体は引き続き低調に推移している。企業マインドが受注面を中心にやや弱気化しているほか、企業収益もこのところ減少気味であり、設備投資の回復時期はなお不透明である。

 米国金融市場では、先行きの景気回復テンポについて引き続き慎重な見方が強く、長期金利は低下基調で推移した。株価も、企業会計問題に関する市場の懸念が和らいだことから一時上昇したが、その後は再び軟化した。FF先物市場等の動きから市場の金利観をみると、8月下旬にかけては株価の持ち直し等を反映して利下げ観測が幾分後退したが、最近では、年末にかけての利下げ予想が再びやや強まっている。この間、投資家のリスク認識をみると、依然としてリスク回避志向が根強い様子が窺われる。

 ユーロエリアをみると、輸出の増加を主因に景気は底入れし、第2四半期の実質GDP成長率が2期連続でプラス成長となった。ただ、設備投資は6四半期連続でマイナスとなったほか、個人消費もこれまでの減少の反動増の面が強く、景気全体として回復基調は定着していない。また、ドイツのIFO景況指数をみても、先行きの景況判断が悪化している。

 NIEs、ASEAN諸国では、IT関連の輸出の伸び鈍化が明確になりつつある。これは、予想の範囲内での動きであるが、今後は、米国経済の動向をより直接的に反映する動きになると考えられる。こうした輸出の動きを映じて、生産水準も低下する動きがみられる。他方、内需面では、個人消費や設備投資が持ち直す方向にあり、堅調な動きが続いている。ただし、韓国では、株価下落等により消費者コンフィデンスが悪化しつつあり、これを受けて個人消費に鈍化の兆しがみられている。

 この間、エマージング金融市場では、ブラジルを巡る金融環境が、IMFによる金融支援の決定後、幾分改善したが、アルゼンチン、トルコなどでは、不安定な状態が続いている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 新たな推計方式に基づく実質GDPの推移をみると、4〜6月期は外需に加えて、国内需要も若干のプラスとなり、ほぼ下げ止まりの経済情勢がGDP統計においても確認された。

 輸出は、増加を続けている。先行きは、情報関連を中心とした海外在庫の復元効果が剥落していくことなどを背景に、年末にかけて輸出増加のテンポがいったんかなり鈍化すると見込まれる。もっとも、東アジア向けの輸出は、中間財や資本財などを中心に、引き続き増加するとみられるため、輸出全体の増加傾向自体は維持されると考えられる。

 生産についても、こうした輸出動向を映じた動きとなっており、7〜9月期は、4〜6月期に比べると、増勢は鈍化する見通しであるが、基調的には緩やかな増加傾向を辿ると考えられる。在庫面では、鉱工業全体として調整が一巡している。

 企業収益を売上高経常利益率でみると、製造業では、昨年後半を底として、比較的はっきりとした回復傾向にある。民間調査においても、今年度の増益見通しは維持されている。

 設備投資については、減少テンポは緩やかになってきているが、なお下げ止まってはいない。先行指標をみると、機械受注は4か月連続で増加した一方、7月の建築着工床面積は減少した。これらを踏まえると、設備投資は先行き下げ止まるとしても、回復へと転じるにはなお時間を要するとみられる。

 個人消費は、7月の販売統計が軒並みマイナスとなったが、これは天候要因も影響しており、消費の基調がここへきて急速に冷え込んだとみる必要はないと思われる。実際、8月には、乗用車販売が持ち直したほか、百貨店等の売上も幾分改善した模様である。もっとも、雇用・所得環境は、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、夏季賞与が大幅に落ち込むなど、雇用者所得が明確な減少を続けており、引き続き厳しい状況にある。こうしたもとで、個人消費は、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。

 物価面をみると、国内卸売物価は、これまでの輸入物価の下落を反映して、弱含みとなっている。ただ、足許、原油をはじめ国際商品市況が強含んでおり、輸入物価は、先行き、幾分強含みに転じる可能性がある。消費者物価は、前年比1%弱の緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

(2)金融環境

 民間部門の資金調達は引き続き減少傾向を辿っている。法人季報により企業の資金過不足をみると、キャッシュフローの改善と設備投資の減少から、資金余剰幅が幾分拡大傾向にあり、外部資金調達の需要が乏しいことが分かる。銀行貸出は前年比2%台の減少が続いているほか、CP、社債の発行残高は、このところ前年並みの水準で推移している。ただ、発行環境自体は改善傾向が維持されており、低格付けCP、社債の発行割合は上昇している。また、CP、社債発行金利における信用スプレッドは高格付け先では全体として低位安定している。

 8月のマネタリーベースは、前月に比べて若干伸びを高めた。内訳をみると、太宗を占める銀行券の前年比伸び率が幾分上昇している一方、当座預金は前年の政策変更の裏が出る形で伸び率が鈍化している。マネーサプライは前年比3%台半ばの伸びが、広義流動性は前年比1%台半ばの伸びが、それぞれ続いている。広義流動性内における安全性の高い資産への資金シフトの動きは、このところ一服している。

 貸出金利の動きをみると、7月の貸出約定平均金利は、短期を中心にやや上昇したが、こうした動きが銀行の貸出利鞘引き上げスタンスを反映した継続的なものかどうかは、今後のデータを確認する必要がある。企業からみた金融機関の貸出態度は、民間アンケート調査によると幾分緩和方向にあるが、引き続き厳しい状況にある。企業の資金繰り判断については、悪化傾向に歯止めがかかっている。

 以上のように、わが国の金融環境は、最近の株価下落にもかかわらず、総じて緩和的な状況が続いている。

II.「国債の条件付売買基本要領」の制定等

1.執行部からの提案内容

 金融調節の一層の円滑化を図る趣旨から、市場における取引形態の変化に合わせる形で、現行の短期国債の現先オペおよび国債借入オペ(レポ・オペ)を、広く国債を対象とする新現先方式によるオペレーション(新現先オペ)に一本化し、あわせて事務手続きの整備を図ることとしたい。

 なお、新現先オペへの移行は本年11月中旬を予定している。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、(1)現状、輸出や生産は増加を続けており、全体としてほぼ下げ止まっている、(2)今後、海外景気の緩やかな回復が持続する中で、下げ止まりが次第に明確になっていくと考えられる、(3)一方で、世界経済の動向、国際政治情勢、株価の動きなど、先行きの不透明感が強く、経済が下げ止まった後の展開を現時点で確度をもって予想することは難しい、との見方を共有した。そのうえで、景気の現状に関して、前月の総括判断を据え置くことで一致した。

 ある委員は、今後の成長見通しについて、7〜9月期は、輸出の増加と内需の停滞が綱引きする形で、ゼロ成長圏内に止まり、その後も同様の状況が続くのではないか、との見方を示した。この委員は、物価の動きについても、このような情勢のもとで、そう大きくは改善しないだろう、と付け加えた。

 まず、輸出と生産について、複数の委員は、増加テンポが少し緩やかになっているが、これは海外における在庫復元の動きが一巡していることが背景にあり、予想の範囲内の動きである、と述べた。ただ、何人かの委員は、世界の株価動向、情報関連需要の先行きや国際政治情勢など、輸出環境には強い不透明感が存在している、との認識を示した。

 海外経済の動向については、多くの委員から、米国、欧州において回復テンポが緩やかになっているほか、東アジアでも、一部の国で先行き減速の兆しが窺われる、との見方が示された。

 このうち、米国に関して、多くの委員がこのところの株価低迷に言及した。ある委員は、最近の米国株価の不安定な動きは、企業会計不信を背景としたものから米国経済そのものの先行き不透明感を背景としたものへ性格を変えつつある、と述べた。ただ、同時に、これらの委員は、自動車を中心とする個人消費や住宅投資が引き続き底固く、来年にかけて緩やかな成長が持続するという景気の回復シナリオ自体は維持されている、との認識を明らかにした。もっとも、何人かの委員は、株価の下落を背景に、企業・家計のコンフィデンス低下や資金調達環境の悪化が懸念され、こうした状況が長期化すれば、実体経済活動を停滞させる惧れがある、と指摘した。

 東アジアについて、ある委員は、最終需要は全般的に堅調であり、同地域への輸出がわが国の輸出全体を下支えすることが見込まれる、と発言した。これに対し、別のひとりの委員は、米国経済が減速する中で、東アジアの内需が独立して好調さを保てるか、注意を要する、と述べた。

 次に、設備投資について、何人かの委員は、先行指標である機械受注が、4〜6月期に続き、7月も製造業を中心に増加するなど、下げ止まりの動きを示していることに着目し、設備投資は先行き下げ止まりに向かう、との見方を示した。このうちのある委員は、生産の増加が企業収益の回復をもたらし、それがさらに投資の持ち直しに繋がっていくという意味で、弱いながらも循環的な前向きな動きが働いている、と述べた。もっとも、別の複数の委員は、世界経済を巡る不透明感等から企業マインドが慎重化していることや、中小企業からの機械受注が改善していないこと等を挙げ、設備投資が直ちにはっきりした回復に転じることは見通し難い、と発言した。

 家計部門については、複数の委員が、7月の各種売上指標が軒並み低迷したが、8月については、乗用車販売など改善を示す指標がみられる点に言及した。ただ、これらの委員を含めた多くの委員は、企業のリストラ姿勢が根強い中、夏季賞与の大幅な落ち込みにみられるように、所得環境は引き続き厳しい、との認識を示した。ある委員は、先行き、公務員給与の引き下げ、医療費負担の増加、税制改革に伴う個人の税負担増など、所得を減少させる要因が相次ぐ可能性があることを指摘した。これらの委員は、こうした所得環境のもとでは、個人消費が弱めの動きから脱し、景気の牽引役になるのは難しい、との判断を示した。

 以上の議論と合わせ、各委員は、先行きのリスク要因についても言及した。多くの委員は、まず、米国経済に加え、中東情勢や原油価格の動向、エマージング市場の動きなど、世界経済を巡る不透明感を指摘した。このうちの何人かの委員は、世界的なデフレ傾向も注目されつつある、と付け加えた。ある委員は、わが国経済は、当面、国内需要の自律回復が期待し難く、今後の景気展開は、輸出動向およびその背後にある海外経済の先行きに大きく依存せざるを得ない、と発言した。これらの委員は、同時に、世界各国の資本市場の動揺をリスク要因として挙げた。とりわけ、わが国の株価の下落は、企業や家計の支出行動に影響を及ぼし得るだけでなく、金融システムを不安定化させ、それがさらに経済のダウンサイド・リスクに繋がる惧れがある、との認識が委員の間で共有された。

 この間、ひとりの委員は、新たな推計方法により公表されたGDP統計について言及した。この委員は、新系列のGDPは経済の変動をより適切に反映しているとして、ゼロ金利政策の解除が行われた2000年には、年後半にかけて実質GDPの伸びが高まる姿となっている、と指摘した。

2.金融面の動向

 ほとんどの委員は、わが国の株価は欧米株価の軟調につれる形で下落し、不安定な動きを続けている、と指摘した。ある委員は、年初来のわが国の株価下落率は、欧米市場に比べれば限定的であるが、業種別株価の動きをみると、金融や不動産の下落が目立っており、日本経済の抱える問題点を現わしている、との見方を示した。もうひとりの委員は、実体経済が緩やかながらも改善傾向にあり、企業収益が回復に転じていることを踏まえると、最近の株価下落は、日本経済が構造的な脆弱性を抱え続けていることからくる不安感等を反映している面があるのではないか、と発言した。さらに、別のある委員は、銀行・企業間の株式持合いの解消の動きが市場へのプレッシャーになっている、と述べた。

 このような株価動向の一方で、短期金融市場は平静を保っており、資金余剰感は一層強まっているとの認識が委員の間で共有された。これらの委員は、市場では流動性調達に対する安心感が浸透しており、流動性需要が高まった本年2月頃の状況とは異なることを強調した。何人かの委員は、こうしたもとで、長期金利が低下傾向を辿っているほか、クレジット・スプレッドも総じて落ち着いて推移していることを指摘した。ある委員は、こうした市場動向の背景として、(1)調達に対する安心感の強まりや預貸ギャップの縮小から流動性需要が減少している中で、日本銀行が従来と同様の潤沢な資金供給を続けているため、緩和の度合いが実質的に強まっている、(2)金融機関の負債サイドにおける流動性預金のウエイトが高まったこともあり、金融機関のリスクテイク能力がさらに低下し、国債や高格付け債券での運用が増加している、といった点が考えられると述べた。

 株価下落については、多くの委員が多額の株式を保有する金融機関および金融システム全体への影響が懸念される、との認識を示した。これらの委員は、株安が金融システムの安定性に大きな影響を及ぼさないよう、抜本的な対策が必要であると強調したうえで、今後も株価の動きを注意深くみていく必要がある、との考えで一致した。

 この間、複数の委員は、量的金融指標に関し、マネタリーベースの前年比伸び率は今後さらに鈍化していくと考えられると述べたうえで、日本銀行が量的緩和を維持していることや、市場における資金余剰感がむしろ強まっていることとの関係で、どのように説明していくか、十分な検討が必要である、と指摘した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概

 当面の金融政策運営については、景気は全体としてほぼ下げ止まっているほか、金融市場では資金余剰感が強まり、流動性調達に対する不安感が払拭されていることに鑑み、全ての委員が、現在の思い切った金融緩和を継続し、調節方針を現状維持とすべきである、との見解を示した。何人かの委員は、海外経済を巡る不透明感に加えて、国内株価の不安定な動きとその影響を踏まえると、ダウンサイド・リスクが高まっていることは否定できないが、先行き、下げ止まりが次第に明確になるという見通しを修正する必要はない、との見解を述べた。また、別のある委員は、日本銀行が先行きのリスクの高まりを表明することにより、いわゆる「時間軸効果」がさらに発揮されることが期待できる、との認識を述べた。

 そのうえで、具体的な金融調節運営について、ある委員は、「10〜15兆円程度」という目標の上限を維持すべきである、との考えを示した。また、他の何人かの委員は、今後とも、株式市場に端を発する場合も含め、金融市場で流動性需要が増大するようなことがあれば、調節方針における「なお書き」を活用して、機動的に対応することが必要である、との意見を述べた。

 何人かの委員は、長期国債買い入れの増額の是非について言及した。ある委員は、資金供給オペで札割れが発生しているものの、日銀当座預金残高を目標の上限である15兆円程度に維持できていることに鑑みれば、現在、国債買い入れを増額する必要はない、と述べ、他の何人かの委員もこの考えに同調した。このうちのひとりの委員は、長期金利が一段と低下すれば、銀行や機関投資家の資金運用環境やリスク管理の点で、必ずしもメリットばかりではないと考えられる点にも留意が必要である、と発言した。さらに、もうひとりの委員は、国債買い入れ増額は、日本銀行のバランスシート上の金利リスクを増加させると指摘したうえで、日本銀行の収益(シーニョリッジ)をどのように活用することが有効か、金融システム安定の観点から総合的に検討する時期に来ているのではないか、と問題を提起した。

 オペや担保対象資産の拡充についても議論が行われた。何人かの委員は、現在、金融機関は国債などの資産を豊富に保有しており、日本銀行が資金供給を行っていくうえで、買い入れ対象となる資産が不足している状況ではないとの判断から、ETF(株価指数連動型投資信託)を含め、現時点でオペや担保の対象資産の拡充は必要ない、との認識を示した。他の複数の委員も、担保の拡充は常に検討すべき課題で、予めフィージビリティや実務上の問題点を整理しておく必要はあるが、現時点でそうした措置を講ずる必要性はない、と同調した。別のある委員は、仮に調節手段が不足する場合には、いくつかの観点からみてまずは外債の購入を検討すべきではないか、と発言した。

 株価の不安定な動きに対して中央銀行としてどう対処するか、という観点からも意見が交わされた。ある委員は、株価が先行きの企業収益に対する見方を反映して決まる以上、中央銀行が金融政策の手段を使って株価自体をコントロールすることは適当でないし、可能でもない、と主張した。他の委員も、(1)金融政策は市場の資源配分や価格形成に中立的であるべき、(2)グローバルに広がった市場で株価を人為的に維持しようとすると、巨額の株式を購入する必要があるが、それは事実上不可能である、(3)中央銀行のバランスシートで引き受けることができるリスクには限りがある、といった理由を挙げて、現状、日本銀行が株価そのものに働きかけることは適当でない、との認識で一致した。

 この間、多くの委員が金融政策との関連で金融システムに関わる政策についても触れた。複数の委員は、デフレから脱却し、経済の持続的成長を実現するには、税制改革や規制改革に加えて、不良債権問題を抜本的に解決し、金融システムを安定化させることが重要である、と強調した。別の複数の委員も、マネタリーベースの潤沢な供給がマネーサプライの増加に繋がり、強力な金融緩和効果を発揮するには、金融システムの安定が不可欠である、との見解を述べた。同時に、何人かの委員は、わが国が他国以上に株価下落の影響に神経質にならざるを得ないのは、金融機関が多額の株式を保有し、株価変動に対して金融システムが脆弱であることが背景にあると指摘したうえで、金融機関が貸出の増加に取り組みやすい環境を整備するためにも、金融機関から株価変動リスクを切り離すことが重要な課題である、との考えを示した。

 金融システム安定のための方策について、何人かの委員は、日本銀行と政府が一体となって実効性ある総合的な対応を打ち出す必要がある、と主張した。これらの委員は、日本銀行としてこの問題にどのような貢献ができるか、積極的に検討する必要がある、との考えを示した。ある委員は、現在の日本の金融システムの置かれた極めて特殊な事情を踏まえると、日本銀行がある程度のリスクを承知のうえで、一国の金融システムを守るために、中央銀行として可能な範囲内で施策を講じる局面に来ているのではないか、との認識を述べた。そのほか、複数の委員は、個人投資家の株式市場への参入を促すような証券税制の整備の必要性を指摘した。

 なお、複数の委員は、今回の決定会合の結果については、内外の注目が高まっており、政策判断の背景にある金融経済情勢についての認識や金融政策のスタンス、さらには金融システムの安定を図っていくことの重要性などについて、改めて丁寧に説明する必要があるとしたうえで、これらを簡潔に記したステートメントを公表するとともに、議長から記者会見を行うことが適当ではないか、との意見を述べた。他の委員も、こうした考えに賛同した。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  現状の金融政策は潤沢な資金供給を通じて市場に安心感を与えているが、物価は依然下落しており、デフレの克服には結びついていない。9月9日の経済財政諮問会議等においても、デフレ克服に向けた政府・日本銀行一体となった対応の重要性が再認識され、従来からの議論を総括したうえで、より積極的な金融政策に乗り出すべきとの意見も出されている。また、金融政策が現状維持のままでは、今後マネタリーベースの伸び率が減少していき、金融緩和姿勢が弱まったと受け止められるのではないかとの危惧も示された。
  •  わが国経済が民需主導の自律的な成長を実現するうえで、デフレ克服はこの一両年の経済運営における最重要課題との認識を改めて共有し、日本銀行におかれても、従来の考え方や枠組みに囚われない実効性のある思い切った金融政策運営を是非ご検討頂きたい。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気の基調判断は、最近の株価下落等もあり、厳しい経済環境にあることは間違いなく、先行きについては楽観すべきではないと考えている。今後の金融経済情勢については、これまで以上に注意深く見守っていく必要があると考えている。
  •  株価下落等を含む経済情勢については、9月9日の経済財政諮問会議において、有識者議員より緊急提言がなされ、デフレ対応策について議論があった。今後は、すでに閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」に基づき、「金融システム改革」、「税制改革」をはじめとした構造改革の取り組みを「より速く、より大きく、より分かり易く」を基本に推進することが重要と考えている。株価など、金融・経済動向を注視しつつ、早急に具体化を進めていく。
  •  デフレ克服に向け、政府・日本銀行は、引き続き一体となって、強力かつ総合的な取り組みを行うこととしており、最近の厳しい経済環境に鑑み、金融緩和効果の創出や金融システムの安定に向けて、さらなる対応が必要である。日本銀行におかれても、デフレ克服に実効性ある金融政策の検討・実施をお願いしたい。

VI.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

2. 対外公表文は、別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.対外公表文の検討

 以上の決定事項等にかかる対外公表文について、執行部が作成した原案に基づいて委員の間で議論が行われ、採決に付された。採決の結果、対外公表文(「本日の金融政策決定会合における決定について」)が全員一致で決定され、別添1のとおり、同日公表することとされた。

VIII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は9月19日に公表することとされた。

IX.議事要旨の承認

 前回会合(8月8、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、9月24日に公表することとされた。

X.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、平成14年10月〜15年3月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)

2002年9月18日
日本銀行

本日の金融政策決定会合における決定について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、これまでの金融市場調節方針を継続することを決定した(別添)。
  2. わが国の経済情勢をみると、輸出や生産は増加を続けており、景気は、全体として、ほぼ下げ止まっている。また、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、金融市場は、全般的に極めて落ち着いた動きとなっている。
  3. ただ、株価は、世界経済を巡る不確実性の増加等を背景に、海外主要市場の株価と同様、不安定な地合いを続けている。株価の下落は、様々なルートを通じて企業や家計の支出行動に影響を及ぼし得るだけでなく、現在の金融経済情勢の下では、金融市場や金融システムを不安定化させる可能性があるため注意が必要である。
  4. 現在、金融機関の流動性需要は落ち着いているが、日本銀行としては、金融市場が不安定な動きとなる惧れがある場合には、これまでと同様、金融政策決定会合で決定した当座預金残高目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う方針である。取引先金融機関は日本銀行に対し、既に十分な量の担保を差し入れている。
  5. 日本銀行は、今後とも、物価の継続的下落を防止し、日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するため、金融システムの安定に向けた取り組みを含め、中央銀行として最大限の努力を続けていく方針である。

以上


(別添)

平成14年9月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)

平成14年9月18日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成14年10月〜15年3月)

表5
会合開催 金融経済月報公表(注) (議事要旨公表)
14年10月 10月10日(木)・11日(金)
10月30日(水)
10月15日(火)
−−
(11月22日(金))
(12月20日(金))
11月 11月18日(月)・19日(火) 11月20日(水) (12月20日(金))
12月 12月16日(月)・17日(火) 12月18日(水) ( 1月27日(月))
15年 1月  1月21日(火)・22日(水)  1月23日(木) ( 2月19日(水))
 2月  2月13日(木)・14日(金)  2月17日(月) ( 3月10日(月))
 3月  3月 4日(火)・ 5日(水)  3月 6日(木) 未定
  • 「経済・物価の将来展望とリスク評価(2002年10月)」は、10月30日(水)に公表の予定。

以上