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金融政策決定会合議事要旨

(2002年10月30日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年12月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年12月20日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2002年10月30日(9:00〜14:33)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 谷口 隆義 財務副大臣
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事永田俊一
  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役和田哲郎
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(9:00〜9:10)
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役長井滋人
  • 金融市場局金融市場課長大澤 真(9:00〜9:10)

I.手形買入期間の延長について

1.執行部からの提案内容

 金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、手形買入の期間を、現在の「6か月以内」から「1年以内」に延長するため、「手形買入基本要領」および「日本銀行業務方法書」を一部改正し、本日から実施したい。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(10月10、11日)で決定された方針1にしたがって運営した。後述のように、短期金融市場において短期国債やレポの金利が強含んだことから、資金供給・吸収の両建てオペを増やす等の工夫を図りつつ、当座預金残高を15兆円程度に維持する調節を行った。

 こうした調節のもと、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移した。一方、短期の資金供給・吸収にかかるオペ落札レートは、いずれも強含んだ。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、インターバンク金利は、日本銀行による潤沢な資金供給のもと、低位安定の動きが続いたが、銀行株価の下落をきっかけに金融機関の運用姿勢が慎重化したことを受けて、短期国債やレポ等の金利は強含んだ。ユーロ円先物金利も、年度末越え調達に対する警戒感が強まったことを受けて僅かながら上昇した。

 国内資本・為替市場では、政府による不良債権処理加速策やデフレ対策の公表を控えて、神経質な展開が続いた。

 すなわち、株価は、欧米株価の反発から一時上昇する局面もみられたが、その後は不良債権処理加速策を巡る不透明感の強まりから再び下落した。業種別にみると、銀行や小売、建設の軟調が目立っている。長期金利は、財政支出拡大への警戒感は引き続き根強いものの、運用難のもと銀行や投資家の債券投資意欲が強いことから、ごく足許は9月中旬の直近ボトム(1.03%)近くまで低下している。

 この間、民間債流通利回りの対国債スプレッドは、総じて横這い圏内で推移しているが、トリプルB格以下の銘柄のスプレッドは依然高水準にある。

 円の対米ドル相場は、わが国の不良債権処理加速策やその景気への影響に対する思惑と、米国経済への不透明感の強さが綱引きするかたちで、123〜126円レンジでのもみ合いとなった。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、緩やかな回復基調にある。

 前回会合以降、9月小売売上高、住宅着工、鉱工業生産、物価などの経済指標が公表された。景気判断を大きく修正するような変化はみられないが、下方リスクを意識させる動きもみられる。すなわち、住宅着工や耐久財消費などは低金利効果もあって堅調であるが、他の消費には伸び悩みもみられる。10月の消費者コンフィデンス指数が9年ぶりの低水準となるなど、家計のマインド悪化が続いており、今後の個人消費動向には注意を怠れない。9月の非国防資本財受注も大幅な減少となった。

 米国金融市場では、先行きの景気回復テンポについて引き続き慎重な見方が一般的である。株価は、第3四半期の企業業績が発表され、収益に対する投資家の過度の懸念が薄れたため、前回会合時に比べれば反発している。一方、長期金利は、株価の反発を受けて一旦上昇したものの、足許は弱めの経済指標が相次いだため、再び低下している。先物金利から市場の金利観をみても、株価の反発等を受けて後退していた利下げ観測が、ここにきて再び強まっている。

 ユーロエリアでは、輸出の増加を主因に景気は底入れしたが、個人消費、設備投資などが依然低調に推移しており、全体として回復基調はなお定着していない。前回会合以降、輸出、鉱工業生産などの指標が公表されたが、いずれも伸びの鈍化が明確化している。

 欧州金融市場でも、景気の先行きについては引き続き慎重な見方が一般的であるが、株価は米国市場の動きを映じて反発している。ユーロ先物金利をみると利下げ観測が根強い。

 NIEs、ASEAN諸国は、引き続き回復基調にあるが、最近の統計によると、IT関連の世界的な在庫復元の動きが一段落したことを背景に、台湾、シンガポールなどで、輸出、生産の増加ペースが幾分鈍化していることが確認された。

 この間、エマージング金融市場では、欧米の株価上昇に伴い、東アジアをはじめ多くの地域で、株価や為替相場の上昇がみられた。ただし、インドネシア、フィリピンにおけるテロ事件の発生といった新たな不安要素もみられているほか、ブラジル、トルコでも政治情勢を巡って神経質な動きが続いている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 9月の輸出は前月比減少し、7〜9月でみても前期比+0.6%と、輸出の増勢鈍化が明確になっている。財別には、IT関連の伸びがはっきりと低下している。その他の財は、ミクロ情報によれば海外需要がなお旺盛で当面輸出は堅調に推移するとの見方が多いが、7〜9月の増勢鈍化を踏まえると、先行きを注視していく必要がある。

 このような輸出動向のもとで、鉱工業生産の増加テンポも鈍化している。また、第3次産業活動指数は均してみれば横這い圏内の動きが続いていることから、全産業活動指数の回復テンポは緩やかなものに止まっている。

 家計部門をみると、まず雇用・所得面では、9月の失業率は横這いとなったが、新規求人の伸びは、生産の鈍化傾向につれて低下している。8月の毎月勤労統計が確報となり、名目賃金は若干の上方修正となったが、6〜8月の夏季賞与が昨年の冬季を上回る大幅な落ち込みという基本的な姿に変化はなかった。

 こうしたもとで、個人消費関連の販売指標は、いずれも7月の大幅な落ち込みから8月に持ち直したあと、9月は横這い圏内の動きとなった。7〜9月を通してみれば、総じて前期比横這いないし幾分のマイナスであり、家計所得対比でみれば底固いとはいえ、「弱めの動き」という基調が改めて確認された。9月の消費者態度指数は、改善がごく小幅に止まった。内訳をみると、雇用環境や収入の増え方といった消費者心理に強い影響を及ぼすとみられる項目がマイナス寄与に転じており、今後の動向を注視する必要がある。

 物価面をみると、企業向けサービス価格は3か月前比での下落が続いており、9月の前年比は1%強のマイナスとなった。消費者物価は、前年比1%弱の下落が続いているが、10月の東京の消費者物価は、財の下落幅が縮小したため、前年比マイナス幅が幾分縮小した。内訳をみると被服や食料工業製品の下落幅縮小が目立っている。

(2)金融環境

 10月のマネタリーベースの伸びは、前年比2割弱と、9月(同+21.4%)に比べ若干の鈍化となる見通しである。これは、大宗を占める銀行券が高めの伸びを続ける一方、当座預金が米国テロ事件の発生を受けて資金供給を大幅に増加させた前年の反動から、伸びが鈍化したためである。

 企業金融面をみると、CP・社債発行市場における信用スプレッドには、前回会合以降大きな変化は窺われない。しかし、発行額は高格付け先も含めて低調な水準で推移している。

 10月発表の「主要銀行貸出動向アンケート調査」によれば、銀行からみた企業の借入需要は減少傾向が続いている。一方、銀行の貸出姿勢については、貸出利鞘や信用リスク評価などの貸出条件を厳しくしていく動きが続いている。貸出の減少基調は、企業の資金需要の弱さが主因であるが、銀行の慎重な貸出姿勢が企業の投資抑制や債務返済傾向、ひいては資金需要の弱さに反映されている側面もある。この間、零細企業を対象とする国民生活金融公庫の調査では、7〜9月期の企業の資金繰り判断がやや悪化した。

 企業金融は、借り手の信用力に応じた選別的な動きが続いているが、信用不安の強まった97〜98年のような広範な悪化は生じていない。しかし、不安定な株価動向や景気の先行き不透明感の強まりなどを背景に、幾分神経質な動きも見受けられる。こうしたなかで、政府では不良債権処理の加速策が検討されている。これが金融環境にどう影響するかは具体策次第であるが、信用力に応じた選別的な動きがこれまで以上に強まる可能性がある。また、ペイオフ全面解禁の延期方針や繰延税金資産の計上方法、公的資本注入の方法など、今後検討が進められる制度的な枠組みのあり方も、金融環境全般に大きな影響を及ぼし得る。こうしたことから、先行きの企業金融の動向は、これまで以上に注意深く見守っていく必要がある。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.最近の金融経済情勢

 景気の現状について、委員は、(1)景気は全体として下げ止まっているが、回復へのはっきりとした動きはみられていない、(2)こうしたなかで、世界経済を巡る不透明感や不良債権処理加速の影響など、景気の先行き不確実性が高まっている、との認識を概ね共有した。

 まず、大方の委員は、前回会合以降の経済指標からみて、輸出・生産の鈍化傾向がより明確になってきている点に着目した。ある委員は、輸出が今後も「鈍化」の範囲に止まるかどうかを注視していく必要があると述べた。別のある委員は、生産動向について、自動車や鉄鋼など堅調な業種もあるが、全体としてみると、輸出の鈍化を受けて一進一退になっていると指摘した。複数の委員は、輸出・生産が減速し、前向きのモメンタムが弱まっている分、外的ショックに対してわが国経済の脆弱性が増している可能性を指摘した。

 多くの委員は、海外経済の動向からみて、輸出環境は不確実性を増しているとの認識を示した。米国については、前回会合以降、株価こそ持ち直しているものの、実体経済面で、雇用や消費者コンフィデンス、資本財受注など弱めの指標がみられたこと、ベージュブックでも減速・停滞を報告した地域が多かったことに多くの委員が着目した。ひとりの委員は、ユーロエリアにおける内需の弱さや東アジアにおける輸出の増勢鈍化を指摘した。

 国内需要面では、まず個人消費について、雇用・所得環境が厳しいことから幾分弱めの動きが続いているとの見方が共有された。ある委員は、所得の弱さとの対比でみれば個人消費が底固い状況を続けているとも言えるが、こうした状況が今後も継続するか注視すべきと述べた。設備投資については、複数の委員が、足許下げ止まりつつあるものの、不良債権処理の加速方針やそれに伴う不確実性の高まりから企業マインドが萎縮し、リストラを加速したり設備投資を慎重化させる可能性があることに言及した。ひとりの委員は、輸出・生産が減速を続けると、内需の回復には至らずに景気がピークアウトする可能性もあるとして先行きへの懸念を示した。

 こうしたなかで、物価動向に関しては、消費者物価の緩やかな下落傾向が続いているが、下落幅自体に大きな変化はみられないとの認識が共有された。

 金融面の動向については、不良債権処理加速策に対する不透明感もあって株価が下落しているほか、短期金融市場でも不安定な動きがみられるなど、信用リスクを巡って警戒感が幾分強まりつつある点が重要な変化として意識された。

 まず、政府の不良債権処理の加速策等の影響について、大方の委員は、どの程度引当て増加に繋がるのかという点や、繰延税金資産の資本性の取扱い等によって、金融機関行動が大きく変わり得るため、具体策が明らかでない現状では不確実性が極めて大きいとの見方であった。そうした不確実性を認識したうえで、多くの委員が、今後金融機関の貸出姿勢が一層慎重化するリスクを指摘した。すなわち、一部の委員は、規模やスピードは政府の具体策次第であるが、定性的には信用収縮に向かうことは避けられないのではないかと述べた。別の複数の委員も、金融機関が資本制約をより意識した資産運営を行わざるを得なくなっているとの見方を示した。また、ひとりの委員は、加速策に伴って大手行の地方での貸出が減少すると、地域金融機関ではそれを補い切れないリスクがあり、地方の中小企業経営への影響が懸念されるとの見解を示した。

 こうしたもとで、多くの委員が、株価が不安定な動きを続けている点を懸念材料として指摘した。併せて、短期金融市場において、短国やレポの金利が強含むなど、流動性需要が高まっている点も意識された。その背景について、複数の委員は、(1)日銀当座預金を保有する機会費用が極小化し、金融機関等が僅かな不安の高まりでも運用を手控える傾向にあること、(2)このところ、銀行株価が銀行間の格差を伴いつつ下落傾向を辿るなど、金融機関経営に対する市場の見方が厳しくなっていることなどを指摘した。

2.経済・物価の将来展望とリスク評価

 次に、当会合において「経済・物価の将来展望とリスク評価」(展望レポート)を決定・公表する予定であることを踏まえ、委員は、本年度から来年度にかけての経済・物価の標準的な見通しや、これに影響を与え得るリスク要因について議論を行った。

 まず、景気の先行きの標準的なシナリオについて、委員は、(1)海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、輸出・生産は来年度にかけ増加傾向を維持する、(2)そのもとで、設備投資が回復に向かうほか、個人消費も徐々に底固さを増すことから、景気は来年度上期には回復に転じる、(3)しかし、わが国経済の成長期待が弱いなかで、過剰債務・雇用の調整圧力が根強く続くことなどから、景気の回復テンポはごく緩やかなものに止まる、との見方を概ね共有した。

 また、こうした実体経済動向のもとでは需給ギャップの大幅な縮小も見込まれないため、物価については、なお緩やかな下落傾向が続くとの認識も共有された。

 次に、上記の標準的なシナリオに関するリスク要因について議論が行われた。まず、多くの委員は、標準シナリオが想定通り実現しないリスクが従来以上に大きく、先行き不確実性が大きいとの認識を示した。リスク要因としては、(1)米国をはじめとする海外経済の動向、(2)国内民間需要の回復力、(3)不良債権処理とその影響、(4)財政改革や財政収支の影響、(5)金融資本市場の動向の5点が指摘されたが、なかでも不透明感を強めている要因として、大方の委員が、海外経済の動向と不良債権処理の影響を挙げた。

 まず、今回の標準シナリオが、外需を起点とした回復メカニズムを想定していることから、大方の委員は、米国を中心とする海外経済が、緩やかながら回復傾向を持続するかどうかが重要な鍵を握るとの認識を示した。とくに、米国経済については、足許やや弱めの指標が出ていることもあって、資産価格の下落や企業・家計のマインド悪化、経常・財政赤字の拡大懸念など、下振れリスクがより多く指摘された。また、米国経済が下振れすれば、欧州や東アジアで景気が減速する可能性が高い点も意識された。もっとも、一部の委員は、米国経済の上振れの可能性にも併せて言及し、自動車販売や住宅投資堅調の背景に人口要因があるとすれば、予想以上にこの傾向が持続する可能性があること、足許の株価反転傾向が確固たるものになれば景気にも好影響が及び得ることなどを指摘した。この間、何人かの委員は、国際政治情勢を巡るイベント・リスクの大きさを指摘した。

 不良債権処理の影響についても、政府の具体的な処理加速策が明らかになっておらず不確実性が高いものの、景気に対する下振れ方向のリスクが強く意識された。上記の標準シナリオは、金融機関が借り手の信用力に応じて利鞘を設定する努力を続ける点はある程度見込んでいるものの、こうした動きが急に強まったり、97〜98年頃のような信用収縮に至るといった事態までは想定していないことから、多くの委員が、金融経済情勢に関する議論にもあったように、政府の加速策の内容次第で、想定以上に金融機関の貸出姿勢が厳格化するリスクがあることを指摘した。もっとも、一部の委員は、流動性預金の全額保護、危機時の資本注入など相応のセーフティネットが整備されていることや、政府が不良債権の処理加速策に併せて、中小企業や雇用対策を検討中であり、この影響も見極める必要があると述べた。また、不良債権処理の加速が市場に評価された場合のプラスの影響や、構造改革の進展を通じて経済活性化に資する側面も意識された。

 このように、海外経済の動向や不良債権処理の影響といった大きな不確実性を抱えるもとで、委員は、国内民間需要の回復力についても、かなり幅をもってみておく必要があるとの認識を共有した。これに関連して、何人かの委員は、厳しい雇用・賃金情勢が続くもとでの家計の社会保障負担増加や、不確実性の大きさに起因する企業の投資マインドの萎縮などをリスク要因として指摘した。そのうえで、複数の委員は、今後の財政改革や財政収支の影響、とくに景気が下振れた場合に自動安定化機能を発揮するかたちで運営されるかどうかも、需要の下支えという観点から重要なポイントであると述べた。また、国内・海外両面において不確実性が強まるなかで、内外の株価や国際的な資金フローなど金融資本市場の動向についても、引き続き重要なリスク要因として注視していく必要があるとの認識も概ね共有された。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上の議論を経て、委員は、(1)景気は、回復への明確な動きがみられないなかで、世界経済を巡る不透明感や不良債権処理加速の影響など、先行きの不確実性が従来以上に強まっている、(2)金融面でも、株価が下落しているほか、金融市場でも流動性需要の高まり等からやや不安定な動きがみられている、(3)また、不良債権処理の進め方を含め、今後の展開次第では、流動性需要が一段と高まったり、企業金融がさらに厳しさを増すリスクも十分念頭に置いておく必要がある、といった基本的な認識を共有した。

 そのうえで、当面の金融政策運営については、全ての委員が、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期し、金融面から景気回復を支援する効果を確実なものとする観点から、日銀当座預金残高の目標を15〜20兆円程度に引き上げることが適当との認識を示した。その際、流動性需要の不安定さ等を踏まえると、従来同様5兆円程度のレンジを設けたうえで、「なお書き」を維持する必要があるとの認識も概ね共有された。

 次に、当座預金残高目標の引き上げを前提に、長期国債買い入れの増額の必要性について、多くの委員が発言した。この点に関し、議長は、(1)金融市場調節上の必要性、(2)長期国債買い入れの増額を巡って予想される市場の反応、の2点について、執行部に実務的な見地からの説明を求め、執行部は次のように述べた。

  •  金融市場において流動性需要が高まってきている状況をも踏まえると、金融市場調節上、直ちに長期国債の買い入れ増額が必要な状況にはないが、当座預金残高目標を大幅に引き上げるとすれば、先々の流動性需要の動向にかかわらず資金供給を円滑に行っていく観点からは長期国債の買い入れ増額が必要と考える。
  •  市場への影響の観点では、まず、市場は長期国債の買い入れ増額を既にある程度織り込んでいるとみられる。ただ、仮に今回買い入れを増額しなくても、運用難の資金が国債投資に向かう構図は変わらないため、ごく短期的な反応を別にすれば長期金利に大きな影響はないように思われる。
  •  他方、市場では、買い入れの増額幅次第で遠からず長期国債保有残高が銀行券発行残高上限に抵触する可能性があることが指摘されている。この点、かなり幅をもってみるべき試算ではあるが、従来通りの月2千億円程度の増額であればその可能性は低いと思う。

 こうした点も踏まえつつ、長期国債の買い入れについて議論が行われた。多くの委員は、長期国債の買い入れ増額は、現在の枠組みのもとでは、資金を円滑に供給するうえで必要な場合に行うとの位置づけであり、そうした観点から従来の当座預金残高目標引き上げ時と同じく、月2千億円の増額とすることが適当との考えを表明した。これに対し、別の複数の委員は、当座預金残高目標の大幅な引上げのもとでの円滑な資金供給の必要性という観点に加え、市場へのインパクトを幾分なりとも期待して、大幅な増額、例えば月4〜5千億円程度の増額とすることが適当であると指摘した。

 市場への影響を巡っては、大幅な増額はかえって相場を過熱させボラティリティを高めるとの見方と、市場の織り込み方からみてそうしたリスクは小さいとの見方があった。ある委員は、月2千億円を大幅に上回る増額とする場合は、実際に銀行券発行残高上限に抵触するかどうかは別にして、市場の受け止め方がこれまでと異なるかも知れない点をどう考えるかが重要であると述べた。これらの議論を経て、最終的には、議長が、多数の意見を取り纏めるかたちで、(1)円滑な資金供給を行ううえでの必要性という観点から月2千億円の増額とする、(2)この点は本日の対外公表文で明示する、との見解を示し、大方の委員はこれに賛意を示した。これに対し、複数の委員は、月4〜5千億円程度の増額が適当との考えに変わりはなく、この点は対外公表文に反対するかたちで意思表示したいと述べた。

 なお、当座預金残高目標の引き上げに際しては、従来同様5兆円程度のレンジを設けることとされた。この関連で、ある委員は、従来も「10〜15兆円程度」というレンジのなかで極力上限を目指すとの了解があり、市場もそれを認識している、と指摘したうえで、新たな調節方針のもとでも、レンジ内のどの辺りを目指すのか、目途を示しておくことが政策の透明性の観点から必要なのではないか、と問題提起した。

 そのうえで、この委員は、量的緩和という枠組みを採用しているもとでは、たとえ調節技術上の問題から15〜20兆円程度と目標に幅を持たせたとしても、極力上限の20兆円を目指す姿勢を示すことが必要であるとの見解を示した。これに対して、別のある委員は、基本的な考え方は理解できるが、調節上の実現可能性にも配慮すべきではないかと述べた。別の複数の委員も、当座預金残高目標に5兆円の幅を設けた趣旨に照らせば、その枠内で流動性需要の状況をみながら柔軟に対応していくというのが調節の基本スタンスであり、対外的に何らかの水準に言及するとしてもそうした前提の下での目途値という位置づけを明確にすべきとの見解を示した。この間、複数の委員が執行部に対して調節実務上の見解を求め、執行部は、レンジの中程であれば比較的早期に実現し安定的に維持することが可能と思われるが、20兆円でそれが可能かどうかは不確実性がある旨を説明した。こうした議論を経て、大方の委員は、市場に対して目標レンジ内での調節上の目途を示すという趣旨に照らせば、流動性需要の動向や実現可能性の観点も踏まえた水準とすることが適当との認識を共有するに至った。これを受けて、議長は、当面の目途としてレンジ中程を目指すこととし、この点を政策委員会議長としての記者会見を通じて明確にしていきたいと述べ、大方の委員もこれを了承した。もっとも、ひとりの委員は、量的緩和の枠組みを採用しているなかで目標レンジの中程を目指すことは、当該金額と上限の20兆円との差を「なお書き」との関係でどのように位置づけるのか、どのような状況のもとで当該金額を引き上げるのか、それは追加緩和策なのか等、政策として判りにくい点が多く、問題があると述べ、あくまでも上限を目指すべきとの見解を改めて表明した。

 このほか、これまでの議論のなかで、不良債権処理の加速が企業金融面に及ぼす影響次第で、先行きの金融経済情勢が大きく左右され得るとの指摘が数多くなされた点を踏まえ、複数の委員が、日本銀行としても、この点を注視していくとともに、企業金融円滑化のために、関係者への働きかけといった要素も含め、一段の工夫を講じる余地がないかを検討していく必要があると述べた。他の委員も、この認識を共有し、政策変更についての対外公表文のなかで、日本銀行のそうした考えを示すこととなった。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府は、デフレ克服と民需主導の持続的な経済成長を実現するため、不良債権処理の加速を含む金融システム安定化策などの構造改革の加速策、セーフティネット拡充策を含む「総合的な対応策」を取りまとめることとしており、あわせて、従来の枠組みにとらわれない、思いきった金融政策を要請する旨盛り込む予定である。
  •  現在、日銀は、金融機関に対して潤沢な流動性供給を行っているが、物価は依然下落しており、デフレ克服には結びついていない。デフレ克服は、政府・日銀が一体となって取り組むべき最重要課題であるとの認識を改めて共有し、日銀におかれては、不良債権処理の加速に伴う一層のデフレ心理深刻化を覆すような強い政策態度を示すためにも、流動性供給の質量両面において、従来の考え方や枠組みにとらわれない、実効性のある思いきった金融緩和措置を是非実施していただきたい。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府は、本日、不良債権処理の加速により金融仲介機能の速やかな回復を図るとともに、金融・産業の早期再生を図る観点から、「総合的な対応策」を取りまとめる予定である。政府は、金融システム改革、税制改革、規制改革、歳出改革の四本柱の構造改革を加速するための政策強化を行い、デフレを克服しつつ民需主導の自律的な経済成長の実現を目指すこととしている。
  •  デフレ克服に向けて、政府・日銀は一体となって強力かつ総合的な取り組みを行う必要があり、日本銀行におかれても、政府の取り組みと併せて、従来の政策の枠組みに止まらず、幅広い政策の選択肢の中から実効性ある金融政策を検討・実施して頂きたい。

VI.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当座預金残高の目標値を引き上げ、金融市場の円滑な機能維持と安定性の確保に万全を期することによって、金融面から景気回復を支援する力を確実なものとすることが適当である、との考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

2.対外公表文は、別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.対外公表文の検討

 続いて決定事項等にかかる対外公表文について、執行部が作成した原案に基づいて委員の間で議論が行われ、採決に付された。採決の結果、対外公表文(「金融市場調節方針の変更等について」)が賛成多数で決定され、別紙のとおり、即日公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、須田委員、春委員、福間委員
  • 反対:田谷委員、中原委員

 田谷委員および中原委員は、長期国債買い入れの増額幅は月2千億円より大きくすることが適当との立場から、公表文の他の部分には問題ないが、該当部分のみ賛成できないと述べ、上記採決において反対した。

VIII.「経済・物価の将来展望とリスク評価」の決定

 次に、「経済・物価の将来展望とリスク評価」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、即日公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

IX.議事要旨の承認

 前々回会合(9月17、18日)の議事要旨が全員一致で承認され、11月5日に公表することとされた。

以上


(別紙)

2002年10月30日
日本銀行

金融市場調節方針の変更等について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、金融市場調節方針を変更するとともに、資金供給力を一段と強化する措置を講じることとした。

(1)日本銀行当座預金残高の目標値の引き上げ

 日本銀行当座預金残高の目標値を、これまでの「10〜15兆円程度」から、「15〜20兆円程度」に引き上げる(別添)

(2)長期国債買い入れの増額

 これまで月1兆円ペースで行ってきた長期国債の買い入れを、月1兆2千億円ペースに増額する。

(3)手形買入期間の延長

 これまで「6か月以内」としてきた手形買入の期間を「1年以内」に延長する。

  1. 日本経済の状況をみると、景気は全体として下げ止まっているが、なお、回復へのはっきりとした動きはみられていない。こうした中で、世界経済を巡る不透明感や不良債権処理加速の影響など、景気の先行きを巡る不確実性は強まっており、内外株価も不安定な地合いを続けている。
  2. 金融面をみると、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、金融機関の流動性調達を巡る懸念はほぼ払拭された状況が続いている。しかしながら、最近の株価の動向や不良債権処理を巡る不透明感などを背景に、短期金融市場では、ターム物金利の一部が強含むといった、やや不安定な動きもみられている。金融機関の貸出態度も、厳しさを増すことが予想される。
  3. このような現在および今後予想される経済金融情勢を踏まえ、日本銀行は、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すことによって、金融面から景気回復を支援する効果を確実なものとすることが適当と判断した。
  4. 日本銀行による潤沢な資金供給が経済の活性化に繋がるためには、銀行の機能強化と並んで、資本市場における資金配分機能の向上等が重要である。そうした観点から、日本銀行は、政府による不良債権処理の加速策が企業金融に及ぼす影響について注視するとともに、企業金融の円滑確保のため、一段の工夫を講じる余地がないかを検討していく方針である。
  5. 日本銀行は、日本経済を持続的な成長軌道に復帰させ、物価が下落基調から脱却できる状況を実現するため、金融システムの安定に向けた取り組みを含め、今後とも中央銀行として最大限の努力を続けていく方針である。

以上


(別添)

平成14年10月30日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上