このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2002年11月18、19日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年12月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年12月20日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2002年11月18日(14:00〜16:17)
2002年11月19日( 9:00〜12:54)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(18日)
    谷口 隆義 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事永田俊一
  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役和田哲郎
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役清水誠一
  • 企画室調査役長井滋人

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(10月30日)で決定された方針1にしたがって運営した。すなわち、前回会合以降当座預金残高を徐々に引き上げ、その後、同残高を15〜20兆円程度の中程の水準に維持する調節を続けた。

 調節にあたっては、6ヶ月超物の全店手形買入や国債買現先といった新しいオペ手段を実施したほか、長期国債買い入れの一回当りの買い入れ金額を月1兆円ペースから月1兆2千億円ペースに引き上げた。

 こうした中で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.002%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、前回の追加緩和措置を踏まえた日本銀行による一層潤沢な資金供給のもとで、10月末にかけて強含んだレポ・レートや短期国債レートが低下するなど一旦は落ち着きを取り戻した。しかしながら、その後は、銀行株の下落などを背景に金融機関の運用姿勢が慎重化したことなどから、レポ・レートや短期国債レートが上昇に転じるなど、再び緊張感がでてきている。

 国内資本・為替市場では、政府による金融再生プログラムの具体的運用や追加的なデフレ対策の帰趨を巡り、思惑によって相場の振れやすい展開が続いた。そのなかで、株価は、銀行や信用力の相対的に低い企業の株に対する売り圧力が高まり、かなり下落した。また、長期金利は、財政節度に関する市場の懸念が後退した一方で、銀行によるリスク資産削減が一層の国債購入に繋がるとの見方から、一時は98年11月以来の1.0%割れの水準にまで低下した。しかしながら、その後、銀行株の下落に伴って銀行による売りが増加するとの思惑もあって幾分上昇した。

 この間、民間債流通利回りの対国債スプレッドは、株価の下落にもかかわらず、地域金融機関による購入意欲の強さを背景に、概ね横這いの動きとなった。

 円の対米ドル相場は、前回会合以降、海外ファンド筋による円ショート・ポジション解消の動きなどを映じて幾分上昇したが、足許では方向感のない動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、引き続き緩やかな回復基調にあるが、生産、雇用、所得の改善テンポは鈍っている。景気回復を支える個人消費については、このところ自動車販売が減少するなど弱めの動きが目立っており、こうした動きが先行き景気の回復力を弱めることが懸念される。企業部門では、景気の先行きや国際政治情勢などを巡る不透明感の強まりや既往の株価下落の影響から、マインドの悪化傾向が続いている。このため、企業は、収益の回復にもかかわらず、雇用拡大には引き続き慎重な姿勢にあるとみられるほか、設備投資の先行きも依然として不透明である。

 米国金融市場では、前回の10月末の決定会合以降、11月5日の米国中間選挙、11月6日の連邦公開市場委員会での利下げ、11月8日のイラク問題に関する国連安保理事会の決議などがあったが、市場は若干の動きにとどまった。すなわち、株価は、ほぼ横這いで推移したほか、長期金利も利下げ直後は4%割れとなったが、最近再び若干上昇し4%台に戻している。

 11月6日の連邦公開市場委員会では、FFレート誘導目標水準が0.5%引き下げられ、先行きのリスクについて、景気減速のリスクとインフレにつながるリスクは平衡しているとの判断が示された。この結果、先物金利からみる限り、一段の利下げ期待はさほど窺われなくなった。

 ユーロエリアでは、輸出の増加を主因に景気は一旦底入れしたが、個人消費、設備投資など内需が依然低調に推移するもとで、景気が再び減速する兆しがみられている。

 欧州金融市場でも、景気の先行きについて慎重な見方が強いもとで、長期金利が低下する一方、株価は10月下旬以降、ほぼ横這い圏内で推移した。市場の先行きの金利観をみると、次回(12月5日)のECB定例理事会での利下げ観測が高まっている。

 NIEs、ASEAN諸国では、輸出の増加が続くもとで、個人消費や設備投資も底固く推移しているなど、景気は引き続き回復基調にある。

 この間、エマージング金融市場では、既往の欧米株価の上昇から海外投資家のリスク回避指向が幾分緩和するもとで、個別国の政治情勢に対する懸念がやや後退したこともあって、資金流入が増大する傾向にあるなど、ひとまず落ち着きを取り戻している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出の増勢は一服しつつある。先行きも、このところ米国をはじめ、海外経済で弱めの指標が目立っていることから、当面、輸出は横這い圏内の動きにとどまると考えられる。この結果、生産も、現在は在庫調整一巡に伴う押し上げ効果がなお働いているものの、やはり先行きは横這い圏内で推移すると考えられる。

 企業収益は、リストラ効果もあって改善を続けているが、そのテンポは緩やかになりつつあるとみられる。

 こうしたもとで、設備投資はほぼ下げ止まっている。ただし、先行きについては、輸出・生産が横這い圏内の動きにとどまるとみられ、不確実性も高まっていることから、企業の投資スタンスが積極化する展望は拓けていない。

 家計部門の雇用・所得環境は全体として引き続き厳しい。雇用面では、所定外労働時間が増加を続けているほか、臨時雇用等を広く含む雇用者数には下げ止まり感が窺われてきている。しかし、常用雇用者数の減少が続き、賃金も引き続き低下しているため、雇用者所得は明確な減少を続けている。

 こうしたもとで、個人消費については、各種販売統計に基調的な変化はみられず、弱めの動きを続けている。消費者コンフィデンスの悪化を示す指標もみられており、先行きの個人消費についても、当面、全体として弱めに推移すると考えられる。

 この間、公共投資は減少している。

 物価面をみると、輸入物価は、原油をはじめとした国際商品市況や為替相場の動向を反映して上昇に転じている。そうしたもとで、国内卸売物価は、横這い圏内の動きとなっている。また、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にあり、企業向けサービス価格も下落を続けている。

 先行き、輸入物価は、当面、強含みで推移すると予想される。国内卸売物価は、機械類の趨勢的な下落が続くとみられる一方で、輸入物価強含みや素材の需給改善もあって、当面、全体として横這い圏内で推移すると考えられる。

(2)金融環境

 銀行貸出はマイナス2%台の減少を続けている。また、社債やCPの発行残高をみると、伸び率の低下傾向が続くもとで、10月は前年を幾分ながら下回った。これらを反映して、民間部門の総資金調達はマイナス幅がやや拡大しており、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 量的金融指標をみると、10月のマネタリーベースは前年比2割程度の高めの伸びとなっており、マネーサプライも、前年比3%台前半の伸びとなっている。

 企業金融の環境をみると、資金調達コストは、高格付企業では引き続き低水準にあるが、格付け間の金利格差は高めの水準で推移している。中小企業金融公庫の調査では、金融機関の貸出態度は、7〜9月にかけて幾分改善した後、10月は厳格化方向の動きとなり、信用力の低い企業に対する選別姿勢の強まりを示唆している可能性がある。

 以上をまとめると、金融市場ではきわめて緩和的な状況が続いているほか、マネーサプライやマネタリーベースも、経済活動との対比でみれば高めの伸びを維持している。この間、企業金融面をみると、信用力の高い企業は引き続き緩和的な調達環境にあるが、信用力の低い企業については投資家の姿勢が依然として厳しく、民間銀行も貸出姿勢を慎重化させている。

 こうしたなかで、先行きについては、政府による不良債権処理の加速策が企業金融へ与える影響について十分注意する必要がある。どの程度の影響が出てくるのかを推し量るには、もう少し具体的な内容が明らかになるのを待つ必要があるが、視野に入れておくべき論点は、次のように整理できると考えられる。

 まず、処理加速策の内容に関しては、(1)「資産査定の厳格化」によって、従来に比べてどの程度厳しい処理が行われることになるのか、また対象となる企業の広がりはどの程度か、また、(2)そのような処理の結果として、金融機関の自己資本にどの程度の影響が及ぶのか、といった点がポイントになると思われる。前者に関しては、処理加速策が地域金融機関にはどのように適用されていくのか、また、後者に関しては、繰延税金資産の取扱いがどうなるのか、といった点も重要と考えられる。

 これらの内容次第ではあるが、金融機関の企業に対する選別姿勢が強まったり、場合によっては金融機関が従来以上に自己資本を意識した資産運用を迫られる可能性も念頭に置く必要がある。また、それらの影響を受けて、金融資本市場が信用リスクに一層敏感になることも考えられる。

 他方、企業金融への影響をみていくうえでは、加速策の影響だけを評価することは適当でない。すなわち、(1)同時に検討されている産業・企業の再生策や中小企業金融対策などのセーフティネットがどのようなものとなるか、(2)企業サイドの債務返済傾向は今後も続くのか、(3)大手銀行に代わってリスクを引き受ける主体がどの程度出てくるか、といった企業金融への影響度合いを左右する種々の要素も、幅広く考慮に入れていく必要があるように思われる。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について委員は、(1)景気は全体として下げ止まっているものの、(2)足許、輸出の増勢が一服しつつあり、生産も増加のテンポが緩やかになってきているほか、(3)米国経済に弱めの指標が相次ぐとともに、不良債権処理加速の行方やその影響を巡る不透明感が広がる中で銀行株が大幅に下落するなど不確実性が高まっていることから、景気の総括判断を「回復に向けての不透明感が強まっている」といった表現で幾分下方修正することが適当との認識を共有した。

 ひとりの委員は、一時的に停滞局面に入ることは避けられないとの懸念を表明した。

 まず、輸出について、委員は、情報関連財の在庫復元需要の一服や米国における自動車販売の減少などを背景に増勢が一服しているとの認識で一致した。何人かの委員は、欧米向けの輸出が減速する一方で、内需を中心にアジア経済の動きが底固いことが、日本の輸出全体を下支えしているとの認識を示した。このうち、ひとりの委員は、かつてアジア地域内での企業の生産拠点移転の際にもみられたことであるが、今は、中国に生産拠点を移す動きが広がっているもとで、まず機械・設備の輸出増加が起こり、工場建設後は、それに随伴する部品、原材料の輸出増加に繋がる動きがみられると分析した。

 輸出の先行きを大きく左右する海外経済の動向についても、米国を中心に多くの議論が行われた。

 米国経済について、多くの委員は、緩やかな回復という標準シナリオ自体を見直すには至っていないものの、足許、個人消費などを中心に弱めの指標が相次いでおり、イラク情勢も含めて不透明感が増しているため、支出、生産および雇用が抑制されているとの認識を共有した。

 何人かの委員は、連邦公開市場委員会が市場予想を上回る0.5%の利下げを行ったことについて、その効果が今後どこまで出てくるか不確かであり、先行きを慎重に見守る必要があるとの見解を示した。ひとりの委員は、自動車販売は、金利ゼロの販売促進キャンペーンにも反応しなくなっており、既に息切れしていると指摘した。別の委員は、米国の金融セクターについて、銀行は不良債権が幾分増加しているものの、これまで様々なリスク移転ビジネスを通じてリスクを分散し、強い資本基盤を維持しているが、その裏側で年金を含む広義の家計金融資産がかなりの規模で減価している可能性があると述べた。この委員は、仮に住宅市場が金利低下に引き続き反応していかない場合には家計支出がスローダウンする可能性を否定できないと述べた。

 ある委員は、米国の景気の先行きに関する不透明感が高まっている中で株価が回復の動きを示していることについて、これが何を意味しているか注意深く見守りたいと述べた。

 また、欧州経済について、複数の委員が、ドイツにおける景気悪化の度合や株価下落の影響は米国より深刻であるとの認識を示した。

 このうち、ひとりの委員は、アジアでもデフレ的な兆候が強いなど、世界的にデフレ傾向がみられるなかで、資本の流れがどのように変わっていき、為替の調整がどのように進んでいくのか、注意を要すると指摘した。

 こうしたなかで、国内民間需要については、これまでの輸出・生産の増加がもたらす前向きの力が十分に波及していない点で委員の認識は一致した。

 企業部門の動向について、多くの委員が、これまでの輸出・生産の増加やリストラを背景にした企業収益の改善などを映じて、設備投資の下げ止まりはほぼ確認されたとの認識を共有した。ひとりの委員は、企業収益改善の背景について、リストラを通じた増益という側面に加えて、デフレ環境に適応するためのビジネスモデルを身につけた企業が出てきていることも寄与していると分析した。この委員は、企業は過去の在庫調整局面に比べ、適正在庫水準を低目に抑えながら巧みに対応していることを指摘した。

 設備投資の先行きについては、ほとんどの委員が、投資計画などをみる限り、前向きの動きに繋がっていく展望は拓けていないとの認識を示した。ひとりの委員は、機械受注の10〜12月の見込みがやや大きく減少していることについて、警戒はすべきであるものの、通信業関係の統計の振れという可能性もあり、判断は難しいと述べた。

 家計部門の動向について、多くの委員は、個人消費は総じて弱めの動きを続けているとの認識を示した。ひとりの委員は、各種販売統計について、夏場に下振れた際には消費の一層の悪化を懸念したが、9月以降横這い圏内で推移していることは、取り敢えずの安心材料であると述べた。別の委員は、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」においても、収入が減少している一方で、暮らし向きや支出の項目については、ほとんど横這いの動きとなっていることを指摘した。同じ委員は、7〜9月期のGDP統計において個人消費が比較的増加したことについて、統計作成過程でのイレギュラーな要素が過大に反映されている可能性もあるので注意深く判断する必要があると述べた。

 個人消費の先行きについては、多くの委員が、雇用者所得の減少が続く可能性が高く、消費者コンフィデンスがやや悪化していることを示す指標が増加していることなどから、回復は展望できる状況ではないとの見方を示した。

 物価の動向について、ひとりの委員が、卸売物価は輸入物価が上昇しているが、当面は機械類の下落や電力料金引き下げなどの影響で相殺される展開が続くとの見通しを示した。この委員は、7〜9月期のGDPデフレータをみてもデフレの状況は改善されていないとの認識を示した。

2.金融面の動向

 金融面の動きについては、不良債権処理が今後どのように加速されていくのか、それが金融機関や実体経済にどのような影響を与えていくのかについて不透明性が強いなかで、銀行株を中心に大幅な株価の下落が続いていることが、短期金融市場において金融機関の流動性需要を高め、一部金利の上昇などに繋がっているとの認識が委員の間で共有された。

 金融市場の状況について、ほとんどの委員が、社債発行金利やCP市場の金利が総じて落ちついているなど直接金融にはさほど変化はみられず、株式市場と短期金融市場に緊張感が顕れているとの現状認識を共有した。

 株式市場の動きについて、複数の委員が、米国株価との連動性が薄れ、日本独自の要因で下落していると分析した。そのうちのひとりの委員は、このところの株価下落は、必ずしも日本経済の実態を反映しない形で、風評や不安心理によって進んでいる面があると指摘した。この委員は、こうした株価の下落は、金融機関だけでなく、非金融法人企業の損益を直撃するとともに、年金の積み立て不足などを通じて影響は極めて大きいと懸念を示した。

 短期金融市場の動向について、委員は、前回決定会合で決定した金融緩和措置の結果、10月中旬以降にみられた短期金利の上昇圧力は一旦解消したとの認識で一致した。その後のターム物金利やオペ金利の強含みについては、殆どの委員が、銀行株の下落を受けて、市場参加者の運用姿勢が慎重化していることを背景として挙げた。ひとりの委員は、風評リスクに備えた流動性の積み増しから短期金利にやや上昇圧力が生じていると分析した。

 不良債権処理加速の実体経済に対する影響について、ひとりの委員は、波及のルートとしては、(1)言わば負け組企業が実質的に最終処理され、その設備投資や雇用が減少するという直接的なルートと、(2)金融機関の貸出態度が一段と慎重化し、勝ち組企業を含む企業部門全体が金融面からのサポートを十分に得られなくなるというルートのふたつが考えられると整理した。そのうえで、この委員は、前者のルートについては、こうした企業では既にかなり設備投資や雇用が絞られているために、その規模縮小がマクロ経済に与える追加的な下押し圧力は比較的軽微である一方、後者の影響についてはより注意する必要があると分析した。

 別の委員は、こうした整理に基本的に賛同しつつ、最終処理の対象となるような企業よりは信用度の高い企業からも資金回収が進むリスクがあることに加え、より短期的には、そうした事態に市場等が過剰に反応して一層の株価下落などに繋がってしまうことで、予想以上の信用収縮に陥るリスクが懸念されると述べた。

 ある委員は、銀行のバランスシートの問題と対をなすべき企業のリストラの重要性が改めて注目されていることはひとつの進展であるとしたうえで、その意味でも産業再生機構とRCCがどういう役割を果たすかがかなり重要な意味を持つと指摘した。この委員は、銀行サイドで資産査定の厳格化が進められるのと対をなして、産業、企業サイドでリストラが進展することを期待したいと述べた。

 何人かの委員が、銀行の貸出態度について、借り手の信用力に応じた選別姿勢が強まっていることを指摘し、中小企業への影響についての懸念を示した。ひとりの委員は、金融再生プログラムの公表前後から一部金融機関が貸出態度を変化させ、予防的にリスク資産を圧縮し始めているとの認識を示したうえで、地域によっては公的金融機関が大手行の貸出回収を肩代わりすることで中小企業の資金繰りサポートをしていると述べた。この委員は、金融再生プログラムの具体的な内容が不透明なことから、大手企業の間では、資金の前倒し調達を検討する動きが一部にみられ、企業の資金需要が高まる可能性が出ている一方、銀行はスプレッド引き上げを提示しつつ、より早めに貸出の回収を図ろうとして資金供給を絞っていく懸念が大きいと指摘した。

 ひとりの委員は、97〜98年との比較でみると、現在のマクロ的な企業の財務状況はかなり異なっているとの認識を示した。この委員は、(1)当時は企業の貯蓄・投資バランスが概ね均衡し、信用収縮が直ちに企業部門の資金逼迫を引き起こしやすい環境であったのに対して、現在の企業部門は、キャッシュフローが大幅な余剰となっていること、(2)銀行の貸出態度もやみくもに融資を絞るというよりも、信用力に応じて選別姿勢を強める動きであること、(3)金融政策面では流動性に対する需要に十分応える用意があることを指摘した。別の委員は、当時と比較して、銀行は株式売却が進んでいるほか、外貨資産を含めて資産圧縮がかなり進んでいるため、市場のボラティリティに対する備えは出来ているとの認識を示した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営については、景気の総括判断を回復に向けての不透明感の強まりという点から幾分下方修正するとしても、前回会合で決定した「15〜20兆円程度」という当座預金残高目標のもとで潤沢な資金供給を続け、その効果や流動性需要の動向をもう少し見守ることが適当という点で概ね見解が一致した。

 そのうえで、「15〜20兆円程度」というレンジで示された金融市場調節のディレクティブのもとで、日々のオペレーションで執行部が目指す当座預金残高の目途について、前回決定会合で「レンジの中程」とされた水準を今回はどうすべきかについて議論が行われた。その際には、主として、現在みられている流動性需要の高まりの背景とそれがどの程度持続性のあるものなのかを巡って議論が行われた。

 短期金融市場において、一旦は低下したターム物金利やオペ落札金利が再び強含んできている背景については、基本的には、銀行株が大幅に下落するなかで、運用を慎重化させたり、資金調達を積極化させたりする動きが発生していることが影響しているとの認識で委員の意見が一致した。同時に、多くの委員は、こうした短期金融市場における流動性需要の高まりが今後も続くのか、あるいは一時的なものに止まるのかについては、不確定な要素が多い中で市場の不安心理が先行している面もあるので判断が難しいと述べた。ひとりの委員は、ここ2週間ほどで外国銀行の当座預金残高がかなり増加しているが、その持続性、安定性については不透明であり、もう少し状況を見極める必要があると評価した。

 ある委員は、前回決定会合以降、2〜3兆円もの資金を追加的に供給したにもかかわらず、流動性需要がすぐに高まってきている背景について、(1)流動性需要の高まりと日銀の資金供給拡大による沈静化というプロセスが繰り返されるなかで、市場への資金運用意欲の低い先に資金が溜まっていく傾向がある、(2)金融機関に対する与信枠が株価に連動する傾向がみられる、(3)オーバーナイトでは資金が潤沢にある一方で、長いターム物は取引の厚みが非常に薄いため、日銀によるオペへの依存度が高まっている、といった可能性を指摘した。

 別の委員は、ゼロ金利と金融システム不安への懸念が共存するなかで、コール市場の規模が縮小し、日銀がオペを通じて果たす資金ブローカー的な機能が一層高まっていることを指摘し、ほかの複数の委員もこうした見方に賛同した。この委員は、そうした状況では、当座預金需要を睨みつつ、可及的速やかに当座預金残高を20兆円台にもっていくこと、また、オペの回数を増やし、オペの期間を多様化することを通じて、市場の様々な流動性ニーズを充たすことが必要であると述べた。

 議長は、20兆円程度という当座預金残高目標の実現可能性について執行部からの説明を求めた。執行部は、長いタームのオペへの需要が強いことを踏まえると、ピンポイントではなく多少のブレが許容されるのであれば、20兆円の当座預金残高目標は達成可能である旨述べた。

 こうした議論を経て、委員の間では、不良債権処理加速の今後の行方など不確定要因は多いものの、足許の流動性需要の高まりがすぐに落ちついていく可能性は低いとの認識が次第に共有されていった。この結果、「15〜20兆円程度」というレンジのもとで、執行部が日々の金融市場調節において目指す目途については、最終的に「レンジの上限の20兆円程度を目標に、出来るだけ高い水準を目指す」との認識が委員の間で概ね共有された。また、こうした認識について、2日後の総裁定例記者会見を待たず、会合終了直後に執行部を通じて速やかに市場に明らかにすることが必要という点でも委員の間で意見が一致した。

 先行きの金融政策運営についても意見交換が行われた。

 執行部が検討を進めている企業金融の円滑確保のための方策について、今後明らかになる金融再生プログラム具体化の中身やその企業金融面への影響を注視しつつ、引き続き鋭意検討を進めることを期待する旨、何人かの委員から発言があった。

 また、今後さらに流動性需要が増加していった場合の政策対応のあり方についても議論が行われた。ひとりの委員は、現在の金融緩和の枠組みとゼロ金利にコミットする枠組みを比較して、流動性制約が起点となって実体経済活動が下押しされる悪循環を未然に回避するという効果については変わりがないものの、現在の枠組みでは、一時的に高まった流動性需要が後退したときに当座預金残高の減少をわかり易く説明することが難しく、一旦実現した量が政策運営を制約する可能性があると述べた。この委員は、現在のように不確実性が高い場合には、流動性需要の高まりがどの程度継続するか明らかではないため、市場が落ちついて需要が後退したときの対処も検討する必要があると述べた。

 一方、ある委員は、当座預金需要が極めて旺盛で、かつ予測し難い段階に入りつつあるなかで、年末に向けて需要がさらに高まる可能性もあるため、今後の金融市場調節のディレクティブについて、当座預金残高の上限を示さず、下限だけを示して潤沢に資金供給を行うことも考えられるのではないかとの意見を述べた。こうしたディレクティブの形式について、別の委員は、執行部が日々の金融調節で目途とするものがなくなるという問題があることを指摘した。

 また、長期国債の買い入れ増額について、ひとりの委員は、提案ではないと断りつつ、当座預金残高の目標を20兆円とする場合は、長期国債の買い入れ額を1兆4千億円にまで増額することもひとつの選択肢としてあり得るとの見解を述べ、その理由として、(1)当座預金残高目標達成が容易になること、(2)当座預金となるべく非代替的な資産を買うことによる効果を期待すること、の2点を挙げた。これに対して、複数の委員から、量の増加が金融緩和効果を生み出すと考える量的緩和の枠組みのもとでは、流動性供給の見返りにどのような資産を買うのかは問題ではないため、非代替的な資産を買い入れることによる効果を求めていくことは、現在行っている量的緩和と異なる考え方に基づく金融緩和の枠組みを追求することになると指摘した。また、別のある委員は、非代替的な資産について、その価格に影響を及ぼすことを考えていく場合、長期国債については、国債発行額の大きさからみて政府の国債管理政策の変更のほうが有効であり、政府に働きかけていくことも選択肢なのではないかとの意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 財務省の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • デフレ克服は政府・日銀が一体となって強力かつ総合的に取り組むべき経済運営における最重要課題である。こうした観点から、政府は、10月30日に「改革加速のための総合対応策」を取りまとめ、日銀は、前回決定会合において金融緩和措置を決定した。
  • しかしながら、依然としてデフレ心理の反転が見られず、今後、不良債権処理の加速に伴う一層のデフレ心理の深刻化も予想される。市場関係者の間では、従来の考え方や枠組みに沿った金融緩和措置の追加では、デフレ心理を覆すような強い政策態度を市場に浸透させるのは困難との声も聞かれている。日本銀行におかれては、金融政策運営についても流動性供給の質量両面において、更なる工夫を講じるなど、実効性のある金融緩和措置を是非検討・実施して頂きたい。
  • なお、最近の円高は、景気にマイナスとなり、さらにデフレを悪化させるおそれがある。為替相場の安定をより確実なものとするため、政府が円売りの為替介入を行った場合、日銀は不胎化を行わないことを検討して頂きたい。不胎化した場合、円とドルのマネー量の相対比率が結局変化しないほか、介入効果が持続しないであろう、或いは日銀は円安を望んでいないのではないかといった誤った期待を形成させ、介入の市場へのシグナル効果も減殺することにも繋がる。
  • 年末に向けて企業金融を取り巻く環境は厳しくなると予想されているなか、こうした資金需要の高まりにも対応できるよう一層潤沢な資金供給をお願いしたい。また、前回の決定会合において、金融緩和措置を決定するにあたり、企業金融の円滑確保に資する措置を検討する旨述べられているが、こうした観点から、日本銀行として、企業金融の円滑確保に向けた取り組みの一日も早い実施をお願いする。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 景気の基調判断については、「引き続き持ち直しに向けた動きがみられるものの、そのテンポはさらに緩やかになっている」と若干下方修正した。先行きについては、米国経済等の先行き懸念やわが国の株価の低迷などから、わが国の最終需要が下押しされる懸念が強まっており、今後の金融経済情勢については、より一層注視する必要があると考えている。
  • 政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を早期に具体化するなかで、10月30日に「改革加速のための総合対応策」を取りまとめたところである。さらに、政府内においては、税収動向も踏まえながら平成14年度補正予算について、セーフティネットの拡充など、その対象、規模について検討を始めたところである。
  • 政府はデフレ克服に向けて、日本銀行と一体となって強力かつ総合的な取り組みを行っていきたいと考えている。日本銀行におかれても、幅広い政策の選択肢の中から、引き続きデフレ克服に向けて金融政策の一段の工夫を検討・実施して頂きたいと考えている。

 これらの発言を受け、ひとりの委員は、不胎化を行わないようにという要望は、為替介入の効果を高めるために当座預金残高の目標をその分自動的に変化させることを求めているのならば、それは難しいと述べた。別の委員は、金融市場で銀行券や財政資金の動きを映じて日々膨大な資金が供給・吸収される中で、為替介入資金だけを取り上げて不胎化や非不胎化といった議論をすることは意味がないとしたうえで、日本銀行は為替介入の有無にかかわらず、思いきった金融緩和策を講じてきており、今後も介入資金も利用して、潤沢な資金供給を行っていく方針であると述べた。

 また、複数の委員が、日本銀行も為替レートの変動に決して無関心である訳ではなく、景気や物価、金融情勢にどういう影響があるかという観点から常に注意深く見守りながら金融政策を行っていると述べた。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

  次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は11月20日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 最後に、前々回会合(10月10、11日)の議事要旨が全員一致で承認され、11月22日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成14年11月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上