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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2018年12月19、20日開催分)

2019年1月28日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2019年1月22、23日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2018年12月19日(14:00~15:23)
 
12月20日( 9:00~11:45)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
雨宮正佳 (副総裁)
若田部昌澄(  副総裁  )
原田 泰 (審議委員)
布野幸利 (  審議委員  )
櫻井 眞 (  審議委員  )
政井貴子 (  審議委員  )
鈴木人司 (  審議委員  )
片岡剛士 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
財務省 茶谷 栄治 大臣官房総括審議官(19日)
うえの 賢一郎 財務副大臣(20日)
 
内閣府 中村 昭裕 内閣府審議官(19日)
田中 良生 内閣府副大臣(20日)
(執行部からの報告者)
理事 前田栄治
理事 内田眞一
理事 池田唯一
企画局長 加藤 毅
企画局政策企画課長 奥野聡雄
金融市場局長 清水誠一
調査統計局長 関根敏隆
調査統計局経済調査課長 一上 響
国際局長 中田勝紀
(事務局)
政策委員会室長 小野澤洋二
政策委員会室企画役 山城吉道
企画局企画役 永幡 崇
企画局企画役 稲場広記

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(10月30、31日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、長期国債の買入れ等による資金供給を行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。無担保コールレート(オーバーナイト物)は-0.07~-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、一時-0.3%程度の低水準で推移していたが、短期の円転コスト上昇を背景に海外投資家による短国需要が低下したことなどから、11月下旬以降、幾分上昇している。

株価(日経平均株価)は、米国株価の下落や米中間の通商問題を巡る不透明感などから、振れの大きい展開となっており、最近では、21,000円程度で推移している。為替相場は比較的安定した動きを続けており、円の対ドル相場、対ユーロ相場ともに、前回会合以降、横ばい圏内で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、総じてみれば着実な成長が続いている。先行きについても、総じてみれば着実な成長を続けるとみられる。

米国経済は、拡大している。輸出は、増加基調にある。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて増加基調にあるほか、設備投資も、企業収益や業況感の改善などを背景にしっかりと増加している。物価面をみると、インフレ率(PCEデフレーター)は、総合ベース、コアベースともに、前年比+2%近傍で推移している。先行きの米国経済は、拡張的な財政政策に支えられ、拡大を続けるとみられる。

欧州経済は、減速しつつも回復傾向にある。輸出は、増勢が鈍化している。個人消費は、良好な雇用・所得環境や消費者マインドなどに支えられて、総じてみれば増加基調にあるほか、設備投資も増加基調にある。物価面をみると、総合ベースのインフレ率(HICP)は前年比+2%程度、コアベースは同+1%程度で推移している。先行きの欧州経済は、回復傾向を続けるとみられる。この間、英国経済は、インフレ率の落ち着きなどから、緩やかな回復傾向にある。

新興国経済をみると、中国経済は、総じて安定した成長を続けている。物価面をみると、インフレ率(CPI)は、前年比+2%台前半で推移している。先行きの中国経済は、米国による対中関税率引き上げの影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみられる。NIEs・ASEANでは、輸出が増加基調にあるもとで、企業・家計のマインドは改善しており、内需は底堅く推移している。ロシアやブラジルの景気は、インフレ率の落ち着きなどを背景に緩やかに回復している。インドの景気は、内需を中心に緩やかに回復している。

海外の金融市場をみると、米中間の通商問題や欧州の政治情勢を巡る不透明感などから、投資家のリスク回避姿勢が強まり、米欧の長期金利が低下したほか、株式市場では、多くの国で振れの大きい展開が続いている。この間、新興国の通貨は、米国の長期金利が低下するもとで、総じて落ち着いた動きとなっている。商品市場では、原油価格が、一部産油国における増産の動きや中東における地政学的リスクの緩和観測などを背景に、大幅に下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。先行きについても、緩やかな拡大を続けるとみられる。

輸出は、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けていることを背景に、増加基調にある。先進国向けは増加基調を続けているほか、新興国向けも総じてみれば持ち直している。先行きの輸出は、緩やかな増加基調を続けるとみられる。

公共投資は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。先行きについては、オリンピック関連工事や補正予算などが下支えとなり、高めの水準を維持するとみられる。

設備投資は、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けている。法人企業統計で2018年7~9月の売上高経常利益率をみると、自然災害の影響などから4~6月に比べて低下したものの、均してみれば高水準で推移している。先行指標である機械受注や建築着工・工事費予定額(民間非居住用)は、月々の振れを伴いつつも、増加基調を続けている。先行きの設備投資は、高水準の企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、当面、増加を続けていくとみられる。

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得もこのところ伸びを高めている。有効求人倍率はバブル期のピークを超えた高い水準で上昇基調にあるほか、失業率も引き続き低水準で推移している。

個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、7~9月に前期比で増加した後、10月の7~9月対比も増加した。先行きの個人消費は、雇用者所得の増加に加え、既往の株価上昇による資産効果もあって、緩やかな増加傾向を辿るとみられる。

住宅投資は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などを受けて振れを伴いながらも減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあることから、全体として横ばい圏内で推移している。

鉱工業生産は、内外需要の増加を背景に、増加基調にある。先行きについては、内外需要の増加を反映して、当面は増加を続けるとみられる。

物価面について、国内企業物価(夏季電力料金調整後)を3か月前比でみると、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、1%程度となっており、除く生鮮食品・エネルギーでみた前年比は、足もと0%台半ばとなっている。先行きについて、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。

予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。長期金利から中長期の予想物価上昇率を差し引いた実質長期金利は、マイナスで推移している。

企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、大幅に緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いている。資金需要面をみると、設備投資向けや企業買収関連などの資金需要が増加している。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出残高の前年比は、2%台前半のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、プラス幅が拡大している。企業の資金繰りは、良好である。

この間、マネタリーベースは、前年比で6%程度の伸びとなっている。マネーストックの前年比は、2%台前半の伸びとなっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、米中間の貿易摩擦や欧州の政治情勢を巡る不透明感、原油価格の下落などを背景に、米欧の長期金利は低下し、多くの国の株式市場で振れの大きい展開が続いているとの認識を共有した。複数の委員は、世界経済のファンダメンタルズに大きな変化がみられないことを指摘したうえで、最近の株式市場は、先行きの不確実性にやや過敏に反応している可能性があるとの見方を示した。もっとも、何人かの委員は、最近の株式市場の動きは、先行きの景気後退や何らかの市場の歪みを示唆している可能性があるほか、市場の変動が更なるセンチメントの下振れに繋がる悪循環に陥る可能性もあるため、注意深く点検していく必要があると述べた。この間、何人かの委員は、円の対ドル相場を始め、為替市場は、比較的安定して推移していると指摘した。その理由として、何人かの委員は、米国経済が先行き堅調を維持するとの見方や日米の金利差が安定して推移していること、為替ヘッジなしの海外直接投資が大きく増加していることなどが影響している可能性があるとの見方を示した。新興国の通貨について、複数の委員は、このところ横ばい圏内の動きとなっているが、米国の金利上昇などに伴う資本流出リスクには引き続き留意する必要があると述べた。また、最近の原油価格の下落について、複数の委員は、一部産油国の増産といった供給面の要因に加え、中国経済の減速懸念など需要面の要因も影響していると指摘した。

海外経済について、委員は、総じてみれば着実な成長が続いているとの認識を共有した。多くの委員は、多くの国で企業や消費者のマインドはしっかりしており、内需は増勢を維持していると述べた。ある委員は、「世界経済の同時成長」などと言われた一頃のような理想的な状況ではなくなっているが、全体として景気の前向きなサイクルは維持されているとの見方を示した。これに対し、複数の委員は、国や地域ごとの成長のばらつきがより明確になりつつあり、一部では減速の兆候がみられ始めていると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、総じてみれば着実な成長を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、牽引役である米国経済が高めの成長を続けると見込まれる中、海外経済が全体として拡大基調を続けるというシナリオは維持されているとの認識を示した。そのうえで、委員は、米中間の貿易摩擦を始めとする保護主義的な動きや中国など新興国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開など、海外経済の不確実性は一段と強まっているとの認識を共有した。米中間の貿易摩擦について、多くの委員は、米中首脳会談において一定の交渉進展がみられたものの、両国間には貿易不均衡の問題以外にも様々な懸案が存在していることから、貿易問題だけが先行して解決する可能性は低いとの見方を示した。そのうえで、何人かの委員は、先行き、時間の経過とともに、企業の心理や行動に対する影響が拡がっていくことがないか、よくみていく必要があると述べた。ある委員は、仮に海外経済の減速や後退が明確になるとすれば、各国の財政・金融政策の動向が重要になると指摘した。

経済の現状と先行きを地域毎にみると、米国経済について、委員は、拡大しているとの認識で一致した。ある委員は、7~9月の実質GDP成長率が前期比年率3%台半ばの伸びとなる中、11月のISM指数も、製造業・非製造業ともに60前後の高い水準を維持するなど、しっかりとした成長を続けていると指摘した。別の一人の委員は、良好な雇用・所得環境や最近の原油価格の下落が追い風となる中、クリスマス商戦も好調と伝えられるなど、個人消費は、引き続き増加傾向にあると述べた。こうした中、複数の委員は、金利の上昇が続くもとで、住宅市場がこのところ弱含んでいることや、企業の投資活動などに一部頭打ち感を示す指標がみられることなどには留意が必要と指摘した。米国経済の先行きについて、委員は、拡張的な財政政策にも支えられ、拡大を続けるとの見方を共有した。何人かの委員は、米中貿易摩擦の影響や株式市場の動きには注意を要するが、良好な雇用・所得環境に支えられ、個人消費を中心に先行きも堅調さを維持する可能性が高いとの認識を示した。この間、ある委員は、景気後退を示唆しているとまではいえないが、足もと、予想物価上昇率の代理指標とみなされるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)が低下していることは懸念材料であると述べた。

欧州経済について、委員は、減速しつつも回復傾向にあるとの認識を共有した。複数の委員は、自動車の排ガス規制強化の影響などから、ドイツの生産は伸び悩んでいるが、設備投資や個人消費など内需は概ね堅調を維持しているとの見方を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、回復傾向を続けるとの認識で一致した。何人かの委員は、英国のEU離脱交渉の展開やイタリアの財政問題に加え、ドイツやフランスの政治情勢がやや流動化しているなど、景気の先行き不透明感が高まっているため、この先、欧州経済の回復基調が維持されるかどうか、注意深くみていく必要があると述べた。

新興国経済について、委員は、全体として緩やかに回復しているとの認識を共有した。中国経済について、委員は、総じて安定した成長を続けているとの見方で一致した。NIEs・ASEANについて、委員は、輸出が増加基調にあるもとで、企業・家計のマインドが改善しており、内需は底堅く推移しているとの見方で一致した。資源国経済について、委員は、インフレ率の落ち着きなどを背景に、緩やかに回復しているとの認識を共有した。先行きの新興国経済について、委員は、全体として緩やかな回復を続けるとの認識で一致した。このうち中国経済について、多くの委員は、米国による対中関税率引き上げの影響を相応に受けるものの、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。ある委員は、当局の景気刺激策の効果もあって、最近、固定資産投資が持ち直してきていることは、先行きに対する前向きの動きであると付け加えた。一方で、何人かの委員は、貿易問題の影に隠れてややみえにくくなっているが、最近、輸出入や自動車販売の減少など、中国経済の減速を示唆する指標がみられていることには注意を要すると指摘した。また、一人の委員は、民間企業のデフォルト率が上昇する中、当局が、企業の資金調達難の解消に向けて銀行に貸出増加を要請しているとしたうえで、今後、中国経済の動向を点検していくにあたっては、こうした金融面の動きも注視していく必要があると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しているとの見方で一致した。多くの委員は、7~9月の実質GDPは自然災害の影響を主因に大幅なマイナス成長となったものの、10月以降、輸出や生産は増加に転じたほか、12月短観でも良好な業況感や設備投資の堅調さが確認されており、わが国の景気について、これまでの基調判断に変化はないとの認識を示した。また、多くの委員は、各種指標の動きや企業ヒアリングなどによれば、米中貿易摩擦やグローバルな株価下落の影響は、これまでのところ限定的であるとの見方を示した。ある委員は、内外の需要は十分な水準にあり、これが供給能力の拡充を促すという好循環が持続していると指摘した。

景気の先行きについて、委員は、緩やかな拡大を続けるとの見方で一致した。このうち、国内需要について、委員は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿るとの認識を共有した。ある委員は、自然災害が相次いだ夏場以降、被災地におけるインフラ設備の復旧が進んでいることを考慮すると、今後とも、生産・輸出の落ち込みを挽回する動きが続く可能性が高いと指摘した。もっとも、別の一人の委員は、自然災害からの復旧需要や復旧生産は季節調整の歪みを均した実勢でみて力強いとはいえないほか、中国向けを始め、輸出が全体として弱いことも先行きの懸念材料であると述べた。ある委員は、12月短観における先行きの業況感に表れているとおり、米中貿易摩擦の長期化などを背景に、企業の慎重な見方が増えているため、今後の景気について楽観視することはできないと述べた。こうした議論を経て、多くの委員は、自然災害に伴う振れが一段落し、生産・輸出の基調をハードデータで確認できるまでには暫く時間がかかることから、当面は、ミクロ情報なども活用しながら、先行きの景気動向やリスク要因の点検に努める必要があると指摘した。この間、来年10月に予定されている消費税率引き上げの影響について、ある委員は、政府による各種対策の効果もあって、わが国経済に対するマイナス・インパクトは、2014年の前回に比べて抑制される可能性があると述べた。もっとも、この委員を含む何人かの委員は、税率引き上げの影響は、その時々の消費者マインドや雇用・所得環境などにも左右されるものであることから、引き続き、今後の動向を注意深く点検していくことが重要であると指摘した。

輸出の現状について、委員は、自然災害による一時的な減産や物流被害の影響が剥落し、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、増加基調にあるとの認識を共有した。ある委員は、7~9月の輸出の落ち込みの殆どは、大雨などの影響を受けた西日本地域からの輸出額の減少で説明可能であると指摘した。先行きの輸出について、委員は、海外経済が総じてみれば着実に成長していくことを背景に、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。そのうえで、複数の委員は、輸出は当面、緩やかな伸びを維持する可能性が高いが、中国からの工作機械受注の減少など、一部に海外経済の減速を示唆する動きもあるため、引き続きよくみていくことが重要であると述べた。

公共投資について、委員は、高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しているとの見解で一致した。先行きの公共投資について、委員は、オリンピック関連工事や夏場の自然災害を受けた復旧工事などが下支えとなり、高めの水準を維持するとの認識を共有した。

設備投資について、委員は、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けているとの認識で一致した。何人かの委員は、7~9月のGDPベースの実質設備投資が、自然災害の影響などから8四半期振りの減少となったものの、12月短観における今年度の設備投資計画に目立った修正はみられず、引き続き、企業の投資スタンスはしっかりとしていると指摘した。先行きの設備投資について、委員は、高水準の企業収益や緩和的な金融環境などを背景に、増加を続けていくとの見方で一致した。何人かの委員は、人手不足を背景とする効率化・省力化投資を含め、今後とも多様な投資が期待される一方、米中貿易摩擦の長期化が企業マインドに影響を与える可能性もあると指摘し、来年の3月短観で2019年度の設備投資計画が明らかになるまでの間、企業のミクロ情報の収集・分析が特に重要になると述べた。

雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得もこのところ伸びを高めているとの認識を共有した。多くの委員は、失業率が2%台半ばの低水準で推移する中、有効求人倍率は、バブル期のピークを超えた高い水準を維持するなど、労働市場は引き続きタイトな状況であると指摘した。そのうえで、一人の委員は、人手不足が深刻化している現場部門に比べ、プロセスエンジニアリングが進みにくい間接・事務部門では、なおスラックが残っているともいわれており、労働需給の逼迫度合いは、業種や仕事の内容によって異なり得るとの見解を述べた。

個人消費について、委員は、振れを伴いながらも、緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の増加に加え、既往の株価上昇による資産効果もあって、緩やかな増加傾向を辿るとの見方で一致した。ある委員は、個人消費は緩やかに拡大しているものの、可処分所得の増加に比べて弱めの動きが続いていると指摘し、企業部門で投資や賃上げの動きが出てきた一方、家計部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムが弱いのは課題であると指摘した。そのうえで、この委員は、消費税率引き上げの経済・物価に対する影響を考えるうえで、この点には留意が必要であると述べた。

住宅投資について、委員は、貸家系の新設住宅着工戸数が節税ニーズの需要一巡などから振れを伴いつつ減少傾向にある一方、持家と分譲が足もと増加に転じつつあり、全体として横ばい圏内で推移しているとの認識を共有した。

鉱工業生産について、委員は、内外需要の増加を背景に、増加基調にあるとの認識を共有した。また、先行きについても、委員は、内外需要の増加を反映して、当面は、増加を続けるとの見方で一致した。ある委員は、現在は夏場の落ち込みを挽回する局面にあるが、今後は、落ち込みを回復するだけでなく、過去の増加トレンドに戻っていくかどうかがポイントになるとの認識を示した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、1%程度となっているほか、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比も、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスなどを背景に、0%台半ばのプラスにとどまっているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、最近の基調的な動きを踏まえると、わが国の物価は、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べ、なお弱めの動きを続けているとの認識を共有した。ある委員は、物価が伸び悩んでいる現状について、プラスの需給ギャップが賃金・物価の上昇圧力として働く一方、過去の低成長やデフレに起因する企業の慎重な価格設定スタンスや、最近の生産性向上に伴う物価上昇抑制効果などが複雑に影響しており、単純な需要不足が原因ではないと指摘した。

先行きについて、大方の委員は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見方を共有した。ある委員は、タイトな労働需給が続くもとで、短観の販売価格判断DIが、大企業だけでなく中小企業でもプラスの領域で定着するなど、プラスの需給ギャップが原動力となって物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは作動しているとの認識を示した。別のある委員は、先行き、企業の生産性向上の余地が小さくなってくれば、プラスの需給ギャップに伴う賃金上昇圧力が実際の賃金に反映され、企業の価格設定行動も変化していくとの見方を示した。ある委員は、プラスの需給ギャップを背景に、消費者物価の前年比はプラスで推移しているが、10月以降、原油価格が大幅に下落し、ここ数年の上昇トレンドに変化がみられることは、物価に対する今後の懸念材料であると述べた。一人の委員は、7月の展望レポートにおいて、「物価の上昇を遅らせてきた要因の多くは次第に解消していく」と整理したが、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価が、その後も足踏みしていることなどを踏まえると、そうした要因の解消にはなお一層時間がかかるとみられると述べた。この間、ある委員は、今後、需給ギャップが一本調子で拡大する可能性は低く、原油価格の下落も「物価安定の目標」達成をさらに遅らせるかたちで作用するため、2%に向けて上昇していく姿は展望できないとの見解を示した。

予想物価上昇率について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見方で一致した。ある委員は、実際の物価上昇率が1年以上にわたってプラスを続けていることは、適合的な期待形成プロセスに徐々に好影響を与えていると考えており、予想物価上昇率をさらに高めていくためには、今後とも物価上昇率をプラスの領域で維持することが重要であると指摘した。複数の委員は、最近の原油価格の下落などが、実際の物価を押し下げ、先行き、予想物価上昇率の動きにも影響を及ぼす可能性に留意する必要があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、きわめて緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているほか、大企業、中小企業のいずれからみても、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるとの見方を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。

金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや、値上げに対する家計の慎重な見方が根強い点は注意深く点検していく必要があるが、2%に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。この背景として、大方の委員は、(1)マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えられることを挙げた。

委員は、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決定した7月以降の動きについて、議論を行った。何人かの委員は、7月の決定会合で金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営することを決定した後、長期金利はいったん上昇し、その後、足もとにかけてかなり低下するなど、日々の値動きがある程度増してきていると指摘した。これらの委員は、こうした動きは米国金利の動向などとも整合的であるとしたうえで、7月の決定は、国債市場の機能度の改善を図るという点で、概ね所期の成果を挙げているとの認識を示した。また、ETFの買入れについて、複数の委員は、夏場から年末にかけて、その時々の市場の状況に応じて弾力的な買入れが行われてきたことは、株式市場のリスクプレミアムに適切に働きかけるという本措置の目的に沿ったものであるとの見方を示した。最近の長期金利の低下について、一人の委員は、7月の「枠組み強化」の趣旨を踏まえると、長期金利が一時的にマイナスになることも許容すべきとの認識を示した。そのうえで、この委員は、長期金利は「ゼロ%程度」を中心に概ね対称的に変動するのが自然であり、長期国債保有残高の年間増加額約80兆円の「めど」のもと、柔軟に国債買入れ額を増やす局面もあり得ると述べた。別のある委員は、最近の金利低下は、米中貿易摩擦などを要因とした世界経済の先行きへの不安が引き起こしたものと考えられるため、この状況で金利を元に戻すようなオペレーションを行えば、むしろ金融を現状より引き締めることになってしまうと指摘した。こうした中、一人の委員は、7月の決定について、当初、市場には、長期金利の引き上げやETF買入れの削減を企図しているとの誤った観測も見受けられたが、この間の情報発信やオペレーションにより、そうした見方は徐々に解消され、本来の政策意図に対する理解が深まってきているとの認識を示した。そのうえで、この委員は、今後、再び金利が上昇したり、ETFの買入れ額が減少することもあり得るが、どちらの方向に変動しても、市場はこれを冷静に受けとめるだけの経験を積んできていると述べた。

続いて、委員は、金融政策の基本的な運営スタンスについて議論を行った。大方の委員は、「物価安定の目標」の実現には時間がかかるものの、2%に向けたモメンタムは維持されていることから、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適切であるとの認識を共有した。一人の委員は、「物価安定の目標」の実現に資するため、現在の金融政策の運営方針を継続し、経済の好循環を息長く支えていくべきであると述べた。何人かの委員は、2%の「物価安定の目標」を実現する姿勢を堅持することは、強力な金融緩和を続けるというコミットメントの観点からも重要であるとの認識を示した。また、別のある委員は、不確実性の高い経済・物価動向のもとでは、不均衡を蓄積させずに緩やかな景気拡大を持続させることが重要であり、政策の効果と副作用を慎重に点検しつつ、強力な金融緩和を粘り強く続けることが肝要であると指摘した。この委員は、将来、仮に景気の下振れリスクが顕在化すれば必要に応じて果断に対応する必要があるが、リスクが顕在化していない現時点で、大胆な政策対応を行うと、むしろ不均衡の蓄積に繋がる可能性に留意が必要であると付け加えた。こうした意見に対し、ある委員は、金融緩和の長期化に伴うリスクを考えると、できるだけ早期に物価安定目標を達成するため、現時点で金融緩和を強化することが必要であると指摘した。また、この委員は、財政政策と金融政策の方向感が異なると、デフレからの完全脱却の難度が高まるため、両者の更なる連携が重要であると述べた。

委員は、先行きの金融政策運営上の留意点についても議論を行った。一人の委員は、長期国債買入れにより既に積み上げてきた国債のストックによるタームプレミアムの押し下げ効果の大きさや、国債市場における新発債の残存率の低さを踏まえると、現状の国債買入れオペの運営には相応の見直し余地があると考えられると指摘した。また、この委員は、社債市場における最近の募残の動向などを踏まえると、長めの金利がより高い方が投資家の社債需要が増す可能性があるため、金融政策運営面でも、金利変動幅や金利操作目標年限等を柔軟に検討していくことが、将来の選択肢として考えられると述べた。この間、一人の委員は、国債買入れを長期間にわたって続けていく中にあっては、金融機関の担保繰りに制約が生じ、短期ゾーンのオペへの応札などに影響が出てくることがないかといった点にも、目配りしていく必要があると指摘した。ある委員は、現在の低金利環境が金融機関収益を累積的に下押しすることで、地域金融機関が景気後退時に地域経済を支える一種のバッファーとしての機能が、徐々に低下する可能性には留意が必要と述べた。そのうえで、この委員は、こうした地域の実情にも注意を払いつつ、今後とも、緩和的な金融環境を維持していく必要があると付け加えた。これに関し、ある委員は、「物価安定の目標」の達成前に拙速に金融政策の正常化を図ると、金利上昇に伴う実体経済への悪影響を通じて、金融機関の収益がかえって悪化する可能性があると述べ、金融システムの安定確保は、第一次的にはプルーデンス政策で対処すべきであると指摘した。

このほか、一人の委員は、来年度は、消費税率の引き上げや教育無償化の影響に加え、原油価格の下落や携帯電話料金の引き下げなど、様々な要因によって物価の基調がかなりみえづらくなるとの認識を示した。そのうえで、この委員は、金融政策運営にあたって重視すべきは物価の基調的な動きであり、これらの要因が一時的なショックにとどまる限りにおいては、物価の基調や金融政策運営に対する影響は小さいとの見方を示した。もっとも、この委員を含む何人かの委員は、わが国の場合、いわゆる適合的な期待形成メカニズムが強く働くことから、先行き、一時的な物価の変動が予想物価上昇率の動きに影響を与えることがないかどうか、よく点検していくことが重要であると指摘した。何人かの委員は、こうした点を含め、先行きの物価見通しや対外的なコミュニケーションのあり方については、「展望レポート」を取りまとめる次回決定会合においても、しっかりと議論する必要があると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」

これに対し、ある委員は、長期金利がある程度変動しうるとすることは、政策委員会が決定する金融市場調節方針として曖昧であるため、オペの運営次第では金利が必要以上に上昇し、現在のイールドカーブ・コントロールが想定している効果を阻害するおそれがあるとの意見を述べた。別のある委員は、消費税率引き上げまで1年を切り、内外経済を巡る不確実性が増す中、需給ギャップが一本調子で拡大する可能性が低いことなどを踏まえると、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げ、需給ギャップなどに対する働きかけを強化することが必要であるとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとすること、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、大方の委員は、(1)2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、(2)マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、(3)政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する、(4)今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、政策金利のフォワードガイダンスについて、今後とも、現在のきわめて低い長短金利を維持していくという方針自体は当然のことと考えているが、物価目標との関係がより明確となるガイダンスを導入する方が望ましいと述べた。別の一人の委員は、「物価安定の目標」の早期達成のためには、予想物価上昇率に直接働きかけることが重要であり、そうした観点から、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には、何らかの追加緩和手段を講じるというコミットメントを追加することが必要との意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 平成31年度予算については、「新経済・財政再生計画」を踏まえた歳出改革や、消費税率引き上げによる経済的影響を平準化する「臨時・特別の措置」を講じるとの方針のもと、現在、大詰めの作業を進めている。また、防災・減災、国土強靱化やTPP協定の早期発効といった喫緊の課題に対応するため、平成30年度第二次補正予算を編成しているところである。
  • 平成31年度の税制改正については、日本経済の成長軌道を確かなものとするため、消費税率の引き上げに際しての需要変動の平準化に向けた自動車と住宅に対する税制上の支援策、イノベーションを促進するための研究開発税制の見直し、経済活動の国際化・多様化等を踏まえた国際課税の見直しや納税環境の整備などが、平成31年度税制改正大綱として、与党において取りまとめられた。政府としても、これを踏まえ、法案の準備等に取り組んでいく。
  • 日本銀行には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に沿って、引き続き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、「物価安定の目標」の実現に向けて努力されることを期待する。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 2018年7~9月のGDP2次速報では、実質成長率は前期比-0.6%、年率換算値は-2.5%となった。これは、相次いで発生した自然災害により、一時的に個人消費が押し下げられたことや輸出がマイナスになったことが大きく影響しており、わが国の景気が緩やかに回復しているとの認識に変わりはない。
  • 12月18日に閣議了解した政府経済見通しでは、今年度0.9%程度、来年度1.3%程度の実質成長を見込んでいる。来年度については、10月に消費税率引き上げが予定されている中、「臨時・特別の措置」などの各種政策の効果も相俟って、雇用・所得環境の改善とともに経済の好循環がさらに進展し、内需を中心とした景気回復が見込まれる。
  • 12月7日には「平成31年度予算編成の基本方針」を閣議決定した。本日の経済財政諮問会議では、財政健全化について、「改革工程表2018」をとりまとめる予定であるほか、消費税率引き上げに伴う対応についても茂木大臣より報告する。前回の3%引き上げの経験を活かして、あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、物価安定目標の実現に向けて金融緩和を着実に推進していくことを期待している。

V.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員
反対:
原田委員、片岡委員

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性が強まる中、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、次回金融政策決定会合まで、(1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする、(2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する、との資産買入れ方針とすることを内容とする議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員
反対:
なし

VI.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、原田委員からは、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとの意見が表明された。また、片岡委員からは、(1)消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとの意見、および、(2)2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

議事要旨(2018年10月30、31日開催分)が全員一致で承認され、12月26日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」 本文に戻る

別紙

2018年12月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. (1)ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. (2)CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  2. わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。海外経済は、総じてみれば着実な成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。国内需要の面では、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移している。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、1%程度となっている。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。
  3. 先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。輸出も、海外経済が総じてみれば着実に成長していくことを背景に、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる(注2)
  4. リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられる。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う(注3)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性が強まる中、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、消費者物価の前年比は、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対した。 本文に戻る
  3. (注3)原田委員は、政策金利については、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当であるとして反対した。片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が重要であり、日本銀行としては、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には追加緩和手段を講じるとのコミットメントが必要であるとして反対した。 本文に戻る

  1. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る