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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2021年3月18、19日開催分)

2021年5月6日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2021年4月26、27日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2021年3月18日(14:00~15:46)
3月19日( 9:00~12:32)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 櫻井 眞 (審議委員)
  • 政井貴子 (  審議委員  )
  • 鈴木人司 (  審議委員  )
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 新川 浩嗣 大臣官房総括審議官(18日)
  • 中西 健治 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 田和 宏 内閣府審議官(18日)
  • 赤澤 亮正 内閣府副大臣(19日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 山田泰弘(18日15:17~15:43)
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局政策企画課長 飯島浩太
  • 金融機構局長 正木一博(18日15:17~15:43)
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 川本卓司
  • 国際局長 福本智之
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 企画局審議役 福田英司(19日)
  • 企画局企画調整課長 矢野正康(19日)
  • 企画局企画役 東 将人
  • 企画局企画役 土川 顕
  • 企画局企画役 長江真一郎(19日)

1.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(1月20、21日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援のための措置として、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施した。また、金融市場の安定を維持する観点から、国債買入れやドルオペなどによる、潤沢かつ弾力的な資金供給を行ったほか、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れを行った。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.02~-0.01%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.09~-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

株価(日経平均株価)は、米国における追加経済対策やワクチン接種の進展等を受けたグローバルな景気回復期待の高まり等を背景に、上昇している。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。国債市場の流動性について、2月の「債券市場サーベイ」をみると、11月調査と比べて、市場の機能度判断DI(「高い」-「低い」)は、概ね横ばいとなっている。為替相場をみると、日米欧の金利動向等を映じて、円の対ドル相場は、ドル高方向の動きとなり、円の対ユーロ相場は、ユーロ高方向の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、一部で感染症の再拡大の影響が残るものの、持ち直している。多くの国で、感染症の新規感染者数は、減少に転じた中、米国や一部の新興国では、足もと、公衆衛生上の措置が緩和されたり、人々の移動が幾分活発化したりしている。一方、欧州では、変異株の拡散への警戒感などを背景に、総じて公衆衛生上の措置の緩和には慎重であり、対面型サービス業を中心に、経済活動への強めの下押し圧力が残っている。また、中国でも、昨年末から1月にかけての国内感染発生を受けて春節の移動が制限され、旅行関連などサービス業を下押ししたとみられる。このように、感染症の再拡大による対面型サービス業への影響は、薄れつつも、なお残存している。この間、製造業部門をみると、IT関連の好調持続や、12月に決定された米国の追加経済対策の効果もあって、グローバルに業況感のはっきりとした改善が続いており、生産水準や貿易量は、昨年春頃の感染症拡大前の水準を明確に上回っている。先行きの海外経済については、感染症の影響が次第に薄れていくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、改善していくとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、改善ペースは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、こうした見通しについては、引き続き、かなり不確実性が大きい。特に、感染症の帰趨とその経済への影響、米国等における積極的なマクロ経済政策の経済・物価への影響、これらを受けた国際金融市場の動向などには注意が必要である。

地域別に動きをみると、米国経済は、持ち直している。個人消費は、新規感染者数が減少するもとで、政府による家計所得補填政策の効果等もあって、財消費を中心に持ち直している。住宅投資は、住宅ローン金利が低水準で推移するもとで、はっきりと増加している。企業部門をみると、業況感は改善が続いており、生産も着実に増加している。こうしたもとで、設備投資は、機械投資を中心に持ち直している。

欧州経済は、感染症の再拡大の影響が残るもとで、サービス業を中心に下押しされている。個人消費は、新規感染者数はひと頃に比べれば減少しているものの、総じて厳しめの公衆衛生上の措置が継続されるもとで、ドイツの付加価値税減税の終了もあって、下押しされた状態が続いているとみられる。企業部門をみると、業況感は、サービス業では悪化しているが、製造業では改善が続いており、輸出や生産も持ち直している。こうしたもとで、設備投資は、落ち込んだ状態から持ち直しつつある。

中国経済は、回復を続けている。輸出は、増加している。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、雇用・所得環境の改善などを受けて、増加している。固定資産投資は、内外の需要回復や堅調な企業収益を背景に、幅広い業種で増加を続けている。こうしたもとで、生産も増加を続けている。

中国以外の新興国経済は、持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、内需が落ち込んだ状態が続いている先もみられるが、輸出を中心に持ち直している。インドやブラジル、ロシア経済は、持ち直している。

海外の金融市場をみると、先進国では、米国における追加経済対策やワクチン接種の進展等を受けた景気回復期待の高まり等から、長期金利は大幅に上昇し、株価も上昇している。為替市場では、米国金利の上昇を受けて米ドル高が進み、新興国の通貨は、全般的に下落している。原油価格は、グローバルな景気回復期待や産油国による協調減産の継続などを背景に上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。先行きについては、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、持ち直しを続けるが、当面は、感染症への警戒感が続く中で、対面型サービス消費を中心に、改善ペースは緩やかなものにとどまるとみられる。

輸出や鉱工業生産は、増加を続けている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、ペントアップ需要の一巡と半導体不足の影響などから、足もとでは増勢が一服している。情報関連は、春節の影響による振れはみられるが、スマートフォンやパソコン関連、データセンターや車載向けと幅広い需要が堅調に推移するもとで、はっきりと増加している。資本財は、世界的な機械投資の増加に加え、デジタル関連需要の拡大を受けた半導体製造装置の堅調さにも支えられて、増加している。先行きの輸出や生産は、当面、ペントアップ需要の一巡や半導体不足の影響から自動車関連を中心に増勢が鈍化するものの、世界的な設備投資需要の回復やデジタル関連需要の堅調さに支えられて、増加を続けるとみられる。

企業収益や業況感は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善している。法人企業統計の全産業全規模の経常利益(季節調整値)をみると、10~12月は、2四半期連続の改善となり、感染症拡大前の2019年10~12月をやや上回る水準まで回復している。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。機械投資の一致指標である資本財総供給は、企業収益の改善を背景に、デジタル関連財(パソコンや携帯電話基地局・5G関連等)を中心に持ち直している。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、オリンピック関連の大型案件が一巡するもとで、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設の建設減少の影響も加わり、緩やかな減少傾向が続いている。先行きの設備投資は、当面、対面型サービス業における建設投資の弱さは続くものの、企業収益の改善や緩和的な金融環境に支えられて、次第に増加基調が明確になっていくとみられる。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力の強まりから、足もとでは、持ち直しが一服している。財消費については、自動車販売は、昨年春以降、増加してきたが、足もとでは、半導体不足による供給制約の影響などから増加が一服している。家電販売は、巣ごもり需要の拡大を背景に、緩やかな増加基調を維持している。食料品や日用品などは、感染状況に応じて多少の振れはあるものの、巣ごもり消費の拡大を背景に底堅く推移している。サービス消費は、緊急事態宣言の再発出に伴う外出自粛や、Go Toトラベルの一時停止の影響により、12月から1月にかけて大きめの減少となっている。外食は、12月に感染再拡大に伴う忘年会自粛の動きなどからはっきりと減少したあと、1月も、緊急事態宣言の再発出を受けた営業時間短縮により、昨年6月を下回る水準まで落ち込んでいる。旅行は、国内旅行が、Go Toトラベルの一時停止や緊急事態宣言再発出に伴う外出自粛の動きから減少しており、1月の宿泊者数は、昨年夏頃の水準まで落ち込んでいる。海外旅行は、渡航制限の継続からほぼ皆減の状態が続いている。2月以降の個人消費の動きを、企業からの聞き取り調査や業界統計、人出の動きなどの高頻度データで窺うと、財消費は総じて底堅い動きが続いている可能性が高い一方、対面型サービス消費は、一部で下押し圧力が和らぐ兆しが窺われるものの、総じて落ち込んだ状態が続いた模様である。先行きの個人消費は、緊急事態宣言が首都圏でも解除され、感染症の影響も和らいでいけば、再び持ち直していくとみられる。もっとも、感染症への警戒感が続く間は、対面型サービスを中心に改善ペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。雇用面では、労働力調査の就業者数は、対面型サービス業における非正規雇用者の減少を主因に、前年比-1%程度の減少となっている。一人当たり労働時間は、昨年春頃をボトムに前年比マイナス幅が縮小していたが、足もとでは、緊急事態宣言の再発出の影響から宿泊・飲食を中心にマイナス幅が再び拡大している。労働需給面では、有効求人倍率は、経済活動の持ち直しに伴う求人数の増加を主因に、1倍をやや上回る水準で横ばい圏内の動きとなっている。労働力率は、昨年4~6月に非労働力化した高齢者や女性などが再び労働市場に参入するもとで上昇しており、足もとでは既往ピークであった2019年末頃の水準を回復している。完全失業率は、このところ3%前後で横ばい圏内の動きが続いている。名目賃金は、特別給与(冬季賞与)と所定外給与の減少を主因に、下落している。先行きの雇用者所得は、経済活動の持ち直しや企業業績の改善を受けて、下げ止まりに向かうとみられる。

物価面について、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や既往の原油価格下落の影響などにより、マイナスとなっている。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比も、当面、マイナスで推移するとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。

予想物価上昇率は、弱含んでいる。

資金需要面では、感染症の影響を受けた売上げの減少や予備的な需要などによる資金ニーズは、大企業を中心に一服しているが、引き続き高水準となっている。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、6%程度のプラスとなっている。CP・社債の発行残高の前年比は、高めのプラスで推移しているが、ひと頃に比べて増勢は鈍化している。外部資金の調達環境は、日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、緩和的な状態が維持されている。企業倒産も低水準で推移している。もっとも、企業の資金繰りは、緩やかに改善しているものの、感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景になお厳しさがみられる。

この間、マネタリーベースは、前年比で2割程度のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、9%台半ばの伸びとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融市場について、委員は、2月中旬にかけて、景気回復期待の高まり等を背景に、市場センチメントは改善傾向を辿ってきたが、その後は、米国の長期金利の急上昇などを受け、神経質な動きがみられているとの見方を共有した。ある委員は、米国の長期金利の上昇について、大規模な財政出動やワクチン接種の拡大に伴う経済の持ち直し期待の高まりが背景とみられるとの意見を述べた。複数の委員は、今後、米国の長期金利が過度に上昇する場合には、住宅投資の減少を通じた米国経済の下押しや新興国からの資金流出等が生じるリスクがあり、注意が必要であるとの見方を示した。一人の委員は、米国の長期金利について、わが国と同様に預貸率と貸出利鞘の低下が進んだ米国の銀行による債券需要が旺盛になることで、今後の上昇幅は限定的となる可能性があると指摘した。

海外経済について、委員は、一部で感染症の再拡大の影響が残るものの、持ち直しているとの認識で一致した。何人かの委員は、国・地域によって、感染症やワクチン接種の状況に差異がみられており、持ち直しの動きは不均一であるとの見方を示した。ある委員は、大きく落ち込む業種は、限定的かつ固定的になっていると付け加えた。一人の委員は、世界生産や世界貿易量は、感染症拡大前の水準を上回るほど、改善が進んでいると指摘した。海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が次第に薄れていくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、改善していくとみられるが、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、改善ペースは各国間で不均一なものとなる可能性が高いとの認識を共有した。何人かの委員は、先行き、感染症の帰趨に加えて、米国の積極的なマクロ経済政策が及ぼす影響、米中間の緊張関係などのリスク要因があり、不確実性が高いと指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、持ち直しているとの認識を共有した。何人かの委員は、大規模な財政出動やワクチン接種の拡大などを受けて、持ち直し基調がしっかりしているとの見方を示した。ある委員は、非農業部門雇用者数も、公衆衛生上の措置の緩和に伴う娯楽・宿泊の大幅な増加を背景に、改善ペースを取り戻しているとの意見を述べた。

欧州経済について、委員は、感染症の再拡大の影響が残るもとで、サービス業を中心に下押しされているとの見解を共有した。複数の委員は、ワクチン接種を巡る不確実性が高まっているほか、一部の国では、公衆衛生上の措置が延長・強化されており、感染症の影響の長期化が懸念されるとの見方を示した。

中国経済について、委員は、回復を続けているとの認識で一致した。複数の委員は、感染症を早期に封じ込めたことで、成長経路への復帰が他国対比で大きく先行しているとの意見を述べた。

新興国経済について、委員は、持ち直しているとの見解を共有した。もっとも、ある委員は、感染再拡大の懸念やワクチン接種の遅れなどから、先行きの不透明感は強いと指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているとの認識で一致した。何人かの委員は、昨年後半はプラス成長が続いたが、昨秋以降の感染再拡大を背景とした、対面型サービスにおける下押し圧力を受けて、1~3月はいったんマイナス成長になる可能性が高いとの見方を示した。もっとも、複数の委員は、幅広いセクターで経済活動が抑制された昨年春とは異なり、対面型サービス以外の経済活動は相応に維持されているとの意見を述べた。

景気の先行きについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられるが、感染症への警戒感が続く中で、そのペースは緩やかなものにとどまるとの認識を共有した。委員は、特に、目先は、昨年秋以降の感染症再拡大の影響から、対面型サービス消費における下押し圧力は続くとみられるとの見方で一致した。また、委員は、その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けるとの見解を共有した。ある委員は、感染拡大がある程度収束するまでは、改善が続く製造業と停滞が続く対面型サービス業といった二極化が継続するとみられるとの意見を述べた。

輸出や生産の現状について、委員は、増加を続けているとの認識を共有した。一人の委員は、輸出は、感染症拡大前の時期から低下傾向にあったが、ここへきて局面変化を起こしている可能性があるとの考えを述べた。先行きの輸出・生産について、委員は、当面、ペントアップ需要の一巡や半導体不足の影響から自動車関連を中心に増勢が鈍化するものの、世界的な設備投資需要の回復やデジタル関連需要の堅調さに支えられて、増加を続けるとの見解を共有した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。複数の委員は、感染症の影響を強く受けているセクター以外では、企業の設備投資スタンスが戻りつつあるようにみられるとの見方を示した。別のある委員は、企業収益は全体として改善しており、設備投資の持ち直しテンポは予想以上にしっかりしているとの意見を述べた。先行きの設備投資について、委員は、当面、対面型サービス業における建設投資の弱さは続くものの、企業収益の改善や緩和的な金融環境に支えられて、次第に増加基調が明確になっていくとみられるとの見解を共有した。ある委員は、製造業では、環境問題等への対応を含むポストコロナを見据えた投資の動きも窺われるとの意見を述べた。この間、一人の委員は、足もとの企業収益の改善は、経費削減や政府の各種支援策が寄与しているほか、企業間のばらつきも大きく、改善の持続性については慎重な見極めが必要であると指摘した。

個人消費について、委員は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力の強まりから、足もとでは、持ち直しが一服しているとの認識で一致した。何人かの委員は、感染症の拡大や緊急事態宣言の影響から、対面型サービス関連は厳しい状況が続いているとの見方を示した。もっとも、複数の委員は、個人消費の落ち込みは、昨年の緊急事態宣言発出時と比べて、限定的となっているとの意見を述べた。先行きの個人消費について、委員は、感染症の影響が和らいでいけば、政府による需要刺激策にも支えられて再び持ち直していくとみられるが、感染症への警戒感が続く間は、対面型サービスを中心に改善ペースは緩やかなものにとどまる可能性が高いとの見解を共有した。一人の委員は、当面は、雇用・所得面の弱さが続くことから、対面型サービスを中心として、個人消費には下押し圧力がかかり続けるとの意見を述べた。別のある委員は、一時的に溜め込まれた家計貯蓄が、今後、消費に向かう可能性があると指摘した。

雇用・所得環境について、委員は、感染症の影響から、弱い動きが続いているとの認識で一致した。ある委員は、賃金は弱い動きが続いており、今年の春闘は弱めの動きとなる可能性があるとの意見を述べた。先行きの雇用・所得環境について、委員は、経済活動の持ち直しや企業業績の改善を受けて、雇用者所得は、下げ止まりに向かうとみられるとの見解を共有した。一人の委員は、企業収益は回復しており、ラグを伴って、賃金も改善に向かうとみられると指摘した。ある委員は、感染症への警戒感が残る間は、対面型サービス業では、非正規雇用を中心に調整圧力が続く可能性がある点は慎重にみていく必要があるとの考えを述べた。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、感染症や既往の原油価格下落の影響などにより、マイナスとなっており、予想物価上昇率は弱含んでいるとの認識で一致した。もっとも、何人かの委員は、エネルギー価格などの一時的な要因を除けば、消費者物価の前年比は小幅のプラスを維持しており、経済の落ち込みに比べると底堅いとの見方を示した。複数の委員は、値下げにより需要喚起を図る行動は広範化していないとの意見を述べた。この間、一人の委員は、消費者物価の基調的な動きを示す指標が一段と低下している点には留意が必要であると指摘した。

先行きについて、委員は、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落の影響などを受けて、マイナスで推移するとみられるが、その後は、経済の改善に伴い、物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落などの影響も剥落していくことから、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくとの認識を共有した。ある委員は、需給ギャップのマイナス幅は縮小しており、物価への下押し圧力が一段と強くなっている状況にはないとの意見を述べた。何人かの委員は、携帯電話料金の値下げなどは、特定部門における一時的な価格変動ではあるが、予想物価上昇率に与える影響には注意を要すると指摘した。この間、一人の委員は、需給ギャップがプラスに転じるには相応の時間を要することなどを踏まえると、消費者物価が、近い将来に2%の目標に近づいていく状況を見通すことは難しいとの考えを述べた。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、感染症の帰趨や、その影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きいとの認識で一致した。また、委員は、感染症の影響が収束するまでの間、成長期待が大きく低下せず、金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要であるとの見解を共有した。何人かの委員は、わが国でもワクチン接種が開始されたことは前向きな動きであるが、当面、感染症の動向に注意が必要な状況が続くとの見方を示した。複数の委員は、変異株の感染拡大などを指摘しつつ、感染症の影響については、下振れリスクが大きいとの意見を述べた。一人の委員は、予想物価上昇率は弱含んでいるほか、賃金も上がりにくい状況にあり、わが国ではインフレリスクよりもデフレリスクの方が依然として大きいと指摘した。この間、ある委員は、感染症によって業況の悪化がみられる業種が拡がる兆しはみられておらず、下振れリスクは抑制されていると指摘した。また、この委員は、欧米においてはインフレ率の上昇を警戒する見方があり、わが国においても、アフターコロナの物価動向については、上下両方向のリスクを丁寧に検証する必要があるとの考えを述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態にあるとの認識で一致した。もっとも、委員は、日本銀行・政府の措置や金融機関の積極的な取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的であり、金融環境は全体として緩和した状態になっているとの見解を共有した。ある委員は、失業や企業倒産は、経済の落ち込みと比べて、抑制されているとの意見を述べた。一人の委員は、年度末の企業の資金繰りについては、引き続き丁寧にみていく必要があると指摘した。

3.「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」に関する執行部からの報告および委員会の検討の概要

1.執行部からの報告

まず、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向について、分析を行った。

物価上昇率が高まりにくい状況が続いた要因としては、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが根強いことが確認された。また、弾力的な労働供給や企業の労働生産性向上も、結果として、物価上昇を抑制する方向に働いた。足もとでは、感染症の影響により、物価に下押し圧力が加わっている。

こうしたもとで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は実質金利を低位で推移させ、金融環境を改善させた。その結果、需給ギャップはプラス幅を拡大し、物価上昇率はプラスの状況が定着した。また、労働需給がタイト化したことで、女性や高齢者の労働参加が進み、企業は労働生産性を向上させた。このように、大規模な金融緩和のもとで、良好な経済情勢が続いた。また、その中で、日本経済の中長期的な課題についても、前向きな動きが進んだ。

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の政策効果についての分析からは、この枠組みが、金利低下を通じて、経済・物価の押し上げ効果を発揮していることが確認された。その際、政策効果は、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場などを通じて、波及している。また、金利低下の経済・物価への影響は、短中期ゾーンの効果が相対的に大きい。超長期金利の過度な低下は、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。この間、追加緩和手段としての短期金利引き下げについての市場参加者の認識は、マイナス金利政策導入直後と比べて低下してきている。

国債市場の機能度への影響について、分析の結果、金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに、市場機能にはプラスに作用することが示された。

金融仲介機能への影響については、低金利の長期化に加えて、人口減少などの構造要因から、金融機関の基礎的収益力は低下傾向を続けており、今後も、そうした状況が続くとみられる。金融機関収益の下押し圧力が長期化すると、金融仲介機能が停滞方向に向かうリスクがある一方、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もある。

補完当座預金制度の運営状況について、実際の政策金利残高は完全裁定後の政策金利残高と乖離しており、このところ乖離幅が大きくなっている。こうした事象に対しては、補完当座預金制度上のマクロ加算残高枠の算出方法の一部を見直すことにより、マクロ加算残高枠の未利用分と政策金利残高の一部をそれぞれ圧縮する方向で技術的な調整を図ることが可能である。

ETF等の買入れについては、分析の結果、買入れがリスク・プレミアムを縮小させる効果を持つこと、また、買入れ1単位当たりの効果は、(1)株価水準がトレンド対比低いほど、(2)ボラティリティが高まるほど、(3)買入れ実施直前の株価の下落率が大きいほど、(4)買入れの規模が大きいほど、高まる傾向があることが確認された。一方で、ETF買入れについては留意点も指摘されている。その一つに、日経225およびJPX400に連動するETFは、TOPIXに連動するETFと比べ、買入れにより一部の構成株式の間接保有比率の上昇が進みやすいことがある。

オーバーシュート型コミットメントの有効性について、マクロ経済モデルを用いてシミュレーションを行ったところ、わが国において、「埋め合わせ戦略」、すなわち実績の物価上昇率が目標を下回っている場合には、ある程度の期間の過去の物価上昇率も参照して金融政策運営を行うことが望ましいとの結果となった。

2.委員会の検討

委員は、以上の執行部からの報告を踏まえ、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」に関する検討を行った。

政策効果について、委員は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、想定したメカニズムに沿って効果を発揮しているとの認識で一致した。ある委員は、感染症の収束後も金融緩和を粘り強く続け、プラスの需給ギャップを維持し、賃金上昇を促していくことが重要であるとの意見を述べた。一人の委員は、需給ギャップの押し上げには、金融資本市場を通じた経路が相応に寄与していると指摘した。複数の委員は、現在の金融緩和政策が効果を発揮するもとでも、物価上昇率が高まりにくい状況が続いた主因は、複雑で粘着的な適合的期待形成が強いもとで、デフレの期間中に根付いた物価観の転換に時間がかかることにあるとの見方を示した。このうち一人の委員は、適合的期待形成が強いということは、実際に物価上昇の経験が続けば、人々の物価観がそれに応じて転換しうることを示すものでもあると指摘した。ある委員は、自身の分析結果によると、物価上昇率が1%を上回ってくると、フィリップス曲線の傾きがスティープ化して、需給ギャップに対する感応度が高まることが想定されるとの考えを示した。

国債市場の機能度への影響について、何人かの委員は、イールドカーブ・コントロールの持続的な運営には、市場機能の維持と金利コントロールのバランスが重要であるが、ある程度の範囲内の金利変動は、金融緩和の効果を損なわないことを改めて確認できたとの認識を示した。複数の委員は、2018年7月に長期金利の変動幅の柔軟化を図ったことで、いったんは金利変動幅が拡大し、国債市場の機能度が改善したが、その後、再び変動幅は狭まっているとの意見を述べた。ある委員は、変動幅については、あくまで実体経済の回復を阻害しない範囲内とすることが重要であると指摘した。

金融仲介機能への影響について、何人かの委員は、金融システムへの副作用は時間の経過とともに累積していくため、金融システムの動向をつぶさに評価していく必要があるとの考えを述べた。ある委員は、「物価安定の目標」を早期に達成することが、金融緩和の副作用を抑える最善の処方箋であるとの意見を述べた。この委員は、追加緩和に際して副作用が懸念されるのであれば、その副作用を緩和する措置を予め示すことも考えられると付け加えた。

ETF等の買入れについて、何人かの委員は、分析の結果は、市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的であることを示しているとの見解を述べた。

オーバーシュート型コミットメントについて、何人かの委員は、金融緩和を長い期間にわたって継続することを明確にするうえで、「埋め合わせ戦略」としてのオーバーシュート型コミットメントは非常に重要であるとの見方を示した。このうち一人の委員は、デフレのリスクの方を懸念せざるをえない現状では、出口には容易に向かわないという日本銀行の強いスタンスを示す役割を担っていると付け加えた。この間、ある委員は、「埋め合わせ戦略」を掲げていれば「物価安定の目標」が達成されるわけではないと指摘した。

この他、複数の委員は、グローバル・スタンダードである2%の「物価安定の目標」の必要性やその実現に向けたメカニズム、そのもとでの各種施策の位置づけについて、国民の理解深耕に繋がる情報発信や広報活動が重要であるとの考えを述べた。

4.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上の議論を踏まえて、委員は、政策面での対応について議論した。

基本的な政策の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現のためには、引き続き、経済・物価の押し上げ効果を発揮している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和を継続していくことが適当であるとの認識で一致した。委員は、そのためには、持続的なかたちで、金融緩和を継続していくとともに、経済・物価・金融情勢の変化に対して、躊躇なく、機動的かつ効果的に対応していくことが重要であるとの判断を共有した。一人の委員は、現在の政策の枠組みを一段と安定的に維持できるかたちとしておくことが、将来にわたって金融緩和を約束するうえで重要であるとの意見を述べた。

こうした観点から、より効果的で持続的な金融緩和のための政策対応について、さらに議論を行った。

イールドカーブ・コントロールの運営について、多くの委員は、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うことが可能となる仕組みを設けることが適当であるとの見解を述べた。このうち何人かの委員は、こうした仕組みは、利下げの可能性を限定的にみている市場参加者の認識を改めてもらううえでも有効であるとの見方を示した。具体的な対応として、何人かの委員は、本行が行う資金供給の残高に応じて、短期政策金利に連動したインセンティブを金融機関に付与することが考えられるとの意見を述べた。このうち一人の委員は、資金供給の種類によって、インセンティブに差をつけることも考えられると述べた。ある委員は、インセンティブを金融機関の貸出残高の増加分とリンクさせる仕組みとすれば、緩和の相乗効果が期待できる一方、インセンティブの付与の仕方如何では、市場金利の上昇圧力につながり、緩和効果を削いでしまう可能性もあると指摘した。

また、委員は、執行部から説明のあった補完当座預金制度上のマクロ加算残高の算出方法の見直しを行うことは、マイナス金利政策の円滑な運営に資するとの認識で一致した。

委員は、長期金利の変動幅についても議論を行った。複数の委員は、平素は柔軟なイールドカーブ・コントロールの運営を行うために、長期金利の変動幅を金融市場調節方針と整合的なかたちで明確化することが適当であるとの意見を述べた。そのうえで、これらの委員は、変動幅は「±0.25%程度」といったかたちで、公表文において明示することが考えられると述べた。ある委員は、長期金利の変動幅が「±0.25%程度」動きうるフレキシビリティーは、収益機会が失われていた債券市場参加者が退出することを防ぎ、市場が有する価格安定化機能を維持する観点からも望ましいと指摘した。何人かの委員は、緩和効果を発揮していくためには、長期金利の変動幅の上限については、厳格に対応することが適当であるとの見方を示した。このうち一人の委員は、必要な場合に金利の上昇を強力に画するため、「指値オペ」を強化する工夫ができないかとの意見を述べた。何人かの委員は、変動幅の下限については、金利が一時的に下回るような場合には、そうした動きに厳格には対応する必要はないとの考えを述べた。この間、複数の委員は、超長期金利の過度な低下は、長い目でみて、マインド面などを通じて、経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある点を、改めて示すことが適当であると指摘した。そのうえで、当面のイールドカーブ・コントロールの運営について、委員は、特に、感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先するのが適当であるとの認識で一致した。

ETFおよびJ-REIT買入れについて、大方の委員は、市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的であるという分析の結果を踏まえ、これまで以上にメリハリのある買入れを行うことで、買入れの持続性と機動性を高めることが適当であるとの見解を共有した。一人の委員は、そのような買入れを行うために、ETF等買入れの方針を見直し、年間増加ペースの上限は継続し、そのもとで、必要に応じて、買入れを行うようにすることが考えられるとの意見を述べた。複数の委員は、必要に応じて買入れを行う場合、執行部の裁量が大きくなるため、買入れを行ったときは、直ちに政策委員に報告を行うことが適当であると指摘した。ある委員は、こうしたETF等買入れの見直しは、より効果的に買入れを実行するためのものであり、金融緩和の後退と誤解されないように注意が必要であると指摘した。また、何人かの委員は、ETF買入れについて、一部の銘柄の株式の間接保有比率が偏って高まることを避けるために、買入れ対象を見直し、今後は構成銘柄が最も多いTOPIX連動のみとすることが考えられるとの意見を述べた。

この他、何人かの委員は、金融緩和が長期間続くと見込まれることを踏まえ、金融システムの動向に一層目配りしていく観点から、金融機構局に対して、金融政策決定会合における定期的な報告を求めることが適当であるとの意見を述べた。ある委員は、金融システムの動向への目配りは、金融機関の収益に配慮するためではなく、あくまで効果的な金融緩和を機動的に行うためのものであると指摘した。

こうした委員からの提案を踏まえ、議長は、執行部に対して、政策面での対応案を整理するよう指示した。

執行部は、以下を内容とする政策面での対応案の説明を行った。

  1. (1)イールドカーブ・コントロールの運営
    • 金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、「貸出促進付利制度」を創設する。その概要は次のとおり。
      • 日本銀行が金融機関の貸出を促進する観点から行う各種資金供給について、その残高に応じて一定の金利をインセンティブとして付利し、このインセンティブが、短期政策金利と連動する。
      • 対象となる資金供給の種類によりインセンティブに差を設ける観点から、3つのカテゴリーを設ける。カテゴリーIIの付利金利は短期政策金利の絶対値、カテゴリーIはそれより高い金利、カテゴリーIIIはそれより低い金利とする。
      • 今回、カテゴリーIの適用金利を0.2%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分)、カテゴリーIIの適用金利を0.1%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分以外)、カテゴリーIIIの適用金利をゼロ%、対象を貸出支援基金および被災地オペ、とすることが考えられる。
    • あわせて、実際の政策金利残高と完全裁定後の政策金利残高の乖離を縮小させるため、補完当座預金制度上のマクロ加算残高の算出方法を調整する。
    • 平素は柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅は「±0.25%程度」であることを明確化する。
    • 金利の上限を強力に画すため、一定期間、指値オペを連続して行う「連続指値オペ」を導入する。なお、下限は、一時的に下回るような場合に、厳格には対応しない。
    • 当面、感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先して運営する。
  2. (2)ETFおよびJ-REIT買入れ
    • 感染症の影響への対応の臨時措置として決定した年間増加ペースの上限を継続し、そのもとで、必要に応じて、買入れを行う。買入れを行ったときは、直ちに政策委員に報告を行う。
    • ETFについては、今後TOPIX連動のみを買入れる。設備・人材ETFは、「基準に基づき適格とする指数に連動するよう運用される銘柄」のみ買入れる。
  3. (3)金融機構局からの報告
    • 今後、年4回の展望レポートを決定する金融政策決定会合において、金融機構局から報告を受ける。
  4. (4)CP等、社債等買入れ
    • 買入れ方針簡略化の観点から、「2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う」とする。なお、感染症の影響への対応としての買入れ終了後も、一定の買入れは継続する。

委員は、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくため、執行部が整理したかたちで、政策面での対応を講じることが適当であるとの見解で一致した。複数の委員は、今回の対応は持続性を高めるほか、機動的かつ効果的に対応できるようになる点で、金融緩和の枠組みの強化になるとの考えを示した。これらの委員は、長期金利の変動幅について、今回、「±0.25%程度」と示すのは、あくまで、これまでの「概ね±0.1%の倍程度」というある程度幅を持った概念の明確化であるとの意見を述べた。何人かの委員は、副作用への配慮は、あくまで効果的な金融緩和を機動的に行うためのものであり、副作用対応のみを捉えて、緩和姿勢の後退と誤解されないようにする必要があると指摘した。一人の委員は、今回の政策対応により機動性と持続性の高まった政策枠組みが、今後数年間、金融緩和政策の基本的な指針となることを期待するとの意見を述べた。

さらに、委員は、感染症の影響への政策対応について議論した。委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETFなどの買入れ、の「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しているとの見解で一致した。委員は、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。

この他、委員は、金融政策運営に関する各種の留意点についても意見を述べた。ある委員は、今後も生じうるショックに備える観点から、政府と中央銀行の間や主要中央銀行間で、情報交換や協力を行う体制を堅持するとともに、金融市場や金融システムの安定性確保に十分留意しつつ、必要があれば、迅速かつ効果的な政策対応を行うことが重要であるとの見解を示した。一人の委員は、企業や家計の成長期待、インフレ期待の改善に繋がる企業行動を後押ししていくとともに、それを支える金融機関の取り組みや社債市場の整備といった金融機能の強化を支援すべきであると述べた。また、この委員は、デジタル化に伴う企業行動の変化等により、伝統的な統計では捕捉が難しい領域が拡大しており、こうした変化が金融経済等に及ぼす影響について、分析を深めることが重要であると指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針が適当であるとの見解を示した。

「短期金利:
日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、物価下押し圧力の強まりへの対応と、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、昨年3月以降、日本銀行が新型コロナウイルス感染症の影響への対応として、導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの認識で一致した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、デフレへの後戻りを回避するためにも、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付け、具体的な条件下で行動することが約束されている内容に修正することが適当であるとの意見を述べた。

5.政府からの出席者の発言

以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(11時33分中断、12時5分再開)。

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 点検の結果やそれを踏まえた政策対応について異論はないので、進めて頂きたい。
  • 今後も、日本銀行と政府が一体となって、日本経済、金融市場の安定のために努力してまいりたい。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 10~12月期のGDP2次速報値の実質成長率は、2四半期連続のプラスとなった。依然、経済はコロナ前の水準を下回っているが、日本経済の潜在的な回復力を感じさせる内容と受け止めている。
  • 政府は、3月21日を以って、1都3県を対象とする緊急事態宣言を解除することを決定した。高齢者向けワクチン接種が4月から始まることによる医療への負荷や変異株の動向にも留意しながら、今後とも感染再拡大を抑える対策に万全を期すとともに、経済的に厳しい影響を受ける方々に対して、引き続き重点的・効果的な支援策を実行していく。
  • 今般の点検の結果やこれを踏まえた金融緩和を継続するもとでの政策運営方法の見直しは、金融緩和政策の持続性や機動性を高めるものと期待しており、対外的な説明を丁寧にして頂くことが重要であると考える。
  • 日本銀行には、日本経済を感染症の影響から早期に回復させるべく、引き続き、政府との緊密な連携をお願いするとともに、米国金利上昇による金融資本市場への影響なども注視しながら、適切な金融政策運営を期待する。

6.採決

1.「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」の「基本的見解」の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

2.金融市場調節方針

議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員
反対:
片岡委員

片岡委員は、物価下押し圧力の強まりへの対応と、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

3.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

賛成:
黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員
反対:
なし

4.「貸出促進付利制度基本要領」の制定等

上記の執行部説明を内容とする「『貸出促進付利制度基本要領』の制定等に関する件」が採決に付され、全員一致で決定された。

5.対外公表文(「より効果的で持続的な金融緩和について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、デフレへの後戻りを回避するためにも、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「より効果的で持続的な金融緩和について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2021年1月20、21日開催分)が全員一致で承認され、3月24日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」(本文に戻る)

別紙

2021年3月19日
日本銀行

より効果的で持続的な金融緩和について

1.より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行った(別紙1)。その結果、基本的な政策の考え方としては、2%の「物価安定の目標」を実現するため、持続的な形で、金融緩和を継続していくとともに、経済・物価・金融情勢の変化に対して、躊躇なく、機動的かつ効果的に対応していくことが重要であると判断した。

こうした観点から、以下の対応を行うこととした。

  1. (1)金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、短期政策金利に連動する「貸出促進付利制度」(別紙2)を創設する。
  2. (2)イールドカーブ・コントロールについて、平素は柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅は±0.25%程度であることを明確化する。同時に、必要な場合に強力に金利の上限を画すため、「連続指値オペ制度」を導入する。
  3. (3)ETFおよびJ-REITについて、新型コロナウイルス感染症の影響への対応のための臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う。

2.当面の金融政策運営

経済・物価の現状と見通しは、別紙3のとおりである。これらを踏まえ、日本銀行は、当面の金融政策運営について、以下のとおり決定した。

  1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

短期金利:
日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  1. (2)資産買入れ方針(全員一致)

長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

  1. [1] ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. [2] CP等、社債等については、2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

3.先行きの金融政策運営方針

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員。反対:片岡委員。片岡委員は、物価下押し圧力の強まりへの対応と、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。(本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、デフレへの後戻りを回避するためにも、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。(本文に戻る

(別紙1)

より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検

【基本的見解】

1.点検結果

(1)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向

日本銀行が2016年9月に「総括的検証」を踏まえて導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、次の3点を目的としている。第1に、予想物価上昇率に関する適合的期待形成のメカニズムが強いもとで、2%の「物価安定の目標」の実現のために、需給ギャップがプラスの状況をできるだけ長く続けることである。第2に、金融緩和の長期化が見込まれるもとで、緩和の効果だけでなく副作用にも配慮しながら、適切な水準に金利をコントロールしていく枠組みを導入することである。第3に、オーバーシュート型コミットメントにより、予想物価上昇率に関するフォワード・ルッキングな期待形成を強めていくことである。

「総括的検証」以降も、(1)予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズム、(2)弾力的な労働供給による賃金上昇の抑制、(3)企業の労働生産性向上によるコスト上昇圧力の吸収などから、物価上昇率が高まりにくい状況が続いた。足もとでは、新型コロナウイルス感染症の影響により、物価に下押し圧力が加わっている。こうしたもとで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、実質金利を低位で推移させ、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場を通じて、金融環境を改善させた。その結果、需給ギャップはプラス幅を拡大し、雇用・所得環境が改善するもとで、物価上昇率はプラスの状況が定着した。また、需給ギャップが改善し、労働需給がタイト化したことで、女性や高齢者の労働参加が進み、企業は労働生産性を向上させた。このように、日本銀行の大規模な金融緩和のもとで、良好な経済情勢が続いた。また、その中で、日本経済の中長期的な課題についても、前向きな動きが進んだ。

2%の「物価安定の目標」を実現していくためには、引き続き、経済・物価の押し上げ効果を発揮している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続していくことが適当である。

(2)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の政策効果

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、金利低下を通じて、経済・物価の押し上げ効果を発揮している。その際、(1)政策効果は、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場などを通じて、波及している。(2)金利低下の経済・物価への影響は、短中期ゾーンの効果が相対的に大きい。(3)超長期金利の過度な低下は、将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。

(3)国債市場の機能度や金融仲介機能への影響

イールドカーブ・コントロールは、適切な水準に長短金利をコントロールしていく枠組みである。もっとも、金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに、市場機能にはプラスに作用する。経済・物価情勢等に応じて、ある程度の金利変動を許容し、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取ることが重要である。こうした観点から行った、2018年7月の「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」による、柔軟なイールドカーブ・コントロールの運営は、国債市場の機能度を維持する点で効果があった。

低金利の長期化に加えて、人口減少などの構造要因から、金融機関の基礎的収益力は低下傾向を続けており、今後も、そうした状況が続くとみられる。これまでも「金融システムレポート」を踏まえ「経済・物価情勢の展望」で、より長期的な視点から金融面の不均衡について点検している。すなわち、金融機関収益の下押しが長期化すると、(1)金融仲介機能が停滞方向に向うリスクがある。一方、こうした環境のもとでは、(2)利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もある。

(4)ETFおよびJ-REIT買入れの効果

ETFおよびJ-REIT買入れは、リスク・プレミアムに働きかけることを通じて、市場の不安定な動きを抑制している。さらに、買入れの効果は、金融市場の不安定性が強まるほど、また、買入れの規模が大きいほど、高まる傾向がある。すなわち、市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的である。

(5)オーバーシュート型コミットメント

わが国においては、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが強いため、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、需給ギャップの改善を通じて、物価を押し上げていく必要がある。それと同時に、フォワード・ルッキングな期待形成も重要であり、これを強めていくため、2016年9月にオーバーシュート型コミットメントを採用した。これは、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するものである。消費者物価上昇率の「見通し」ではなく、「実績値」に基づいて金融緩和の継続を約束する非常に強力なコミットメントにより、2%の「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高めることを狙っている。今回、このコミットメントが実践している「埋め合わせ戦略」について、経済モデルを用いて点検を行った。その結果、この戦略をとることは、金融政策運営として適切であることが改めて確認された。引き続き、オーバーシュート型コミットメントを継続していく。

2.政策面での対応

(1)イールドカーブ・コントロールの運営

[1] 貸出促進付利制度の創設

機動的かつ効果的な追加緩和の手段として、長短金利の引き下げは重要な選択肢である。その際には、金融仲介機能への影響に配慮しつつ行うことが適当である。こうした観点から、金利引き下げ時の金融機関収益へ及ぼす影響を、当該金融機関の貸出の状況に応じて一定程度和らげる仕組みを導入する。すなわち、日本銀行が金融機関の貸出を促進する観点から行っている各種資金供給について、その残高に応じて一定の金利をインセンティブとして付与する制度(貸出促進付利制度)を創設し、このインセンティブが、短期政策金利と連動するようにする(前掲別紙2)。

対象となる資金供給とインセンティブの組み合わせについては、3つのカテゴリーを設ける。今回、(1)カテゴリーIの適用金利を0.2%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分)、(2)カテゴリーIIの適用金利を0.1%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分以外)、(3)カテゴリーIIIの適用金利をゼロ、対象を貸出支援基金および被災地オペ、とする。各カテゴリーの付利水準および対象となる資金供給は、今後の状況に応じて、必要があれば、決定会合で変更する。

また、この制度は、長短金利の引き下げという追加緩和手段の実効性を高めることに資するものである。市場参加者の間では、追加緩和手段として長短金利の引き下げを意識しない理由に、金融仲介機能への影響を挙げる向きが多いが、本制度により、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、より機動的に長短金利の引き下げを行うことが可能となる。

あわせて、マイナス金利政策導入以降の金融機関の日銀当座預金の変動を踏まえ、実際の政策金利残高と完全裁定後の政策金利残高の乖離を縮小させるため、補完当座預金制度におけるマクロ加算残高の算出方法を調整する。

[2] 長期金利の変動幅についての明確化

2018年7月に「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を行った際、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取る観点から、長期金利(10年物国債金利)の変動幅については、「それまでの概ね±0.1%の幅から、上下にその倍程度変動しうる」こととした。その後、変動幅が結果的に狭くなることがあったことも踏まえ、長期金利の変動幅について明確化することとし、上下に±0.25%程度とする。なお、特に下限については、日々の動きの中で金利が一時的に下回るような場合に、そうした動きに厳格には対応しない。

[3] 連続指値オペ制度の導入

金利の大幅な上昇を抑制する方法としては、特定の年限の国債を固定金利で無制限に買い入れる指値オペがある。これをさらに強化するために、一定期間、指値オペを連続して行う「連続指値オペ制度」を新たに導入する。

[4] 当面のイールドカーブ・コントロールの運営

長期金利については、±0.25%程度で変動することを想定している。また、超長期金利については、過度な低下は、長い目でみて、経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。もっとも、特に、新型コロナウイルス感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先して、イールドカーブ・コントロールの運営を行っていく。

(2)資産買入れ等

[1] ETFおよびJ-REITの買入れ

ETFおよびJ-REITの買入れについては、感染症の影響への対応のための臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う。買入れを行ったときは、直ちに政策委員に報告する。

また、ETF買入れについては、今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみを買入れることとする1

[2] CP等、社債等の買入れ

CP等、社債等の買入れについては、2021年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこととする。なお、感染症の影響への対応としてのCP等、社債等の買入れを終了した後も、一定のCP等、社債等の買入れは継続する。

[3] 金融政策決定会合における金融機構局からの報告

今後、「経済・物価情勢の展望」を決定する金融政策決定会合(年4回)において、金融システムの動向について、金融機構局から報告を受けることとする。

以上


  1. 1設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象とするETFについては、「日本銀行が定める基準に基づき適格とする指数に連動するよう運用される銘柄」についてのみ、買入れを継続する。(本文に戻る

(別紙2)

貸出促進付利制度の概要

1.趣旨

日本銀行が金融機関の貸出を促進する観点から行っている各種資金供給について、その残高に応じて一定の金利をインセンティブとして付利し、このインセンティブが、短期政策金利と連動するようにする制度。これにより、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、より機動的に長短金利の引き下げを行うことが可能となる。

2.対象となる資金供給とインセンティブ

対象となる資金供給とインセンティブの組み合わせについては、次のとおり3つのカテゴリーを設ける。その際、カテゴリーIIの付利金利は短期政策金利の絶対値、カテゴリーIはそれより高い金利、カテゴリーIIIはそれより低い金利とする。

<今回の決定内容>
  付利金利(インセンティブ) 対象となる資金供給
カテゴリーI 0.2% コロナオペ(プロパー分)
カテゴリーII 0.1% コロナオペ(プロパー分以外)
カテゴリーIII ゼロ% 貸出支援基金・被災地オペ
  • (注)このほか、すべてのカテゴリーの資金供給について、残高増加額の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算する。
(参考:短期政策金利をマイナス0.2%とした場合【仮設例】)
  付利金利(インセンティブ) 対象となる資金供給
カテゴリーI 0.2%より高い金利 制度の趣旨に沿って決定
カテゴリーII 0.2%
カテゴリーIII 0.2%より低い金利

以上


(別紙3)

経済・物価の現状と見通し

  1. わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。海外経済は、一部で感染症の再拡大の影響が残るものの、持ち直している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は増加を続けている。また、企業収益や業況感は全体として改善している。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力の強まりから、足もとでは、持ち直しが一服している。住宅投資は緩やかに減少している。公共投資は緩やかな増加を続けている。わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や既往の原油価格下落の影響などにより、マイナスとなっている。予想物価上昇率は、弱含んでいる。
  2. 先行きのわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の回復や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられる。もっとも、感染症への警戒感が続くなかで、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。特に、目先は、昨年秋以降の感染症再拡大の影響から、対面型サービス消費における下押し圧力は続くとみられる。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けると予想される。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落の影響などを受けて、マイナスで推移するとみられる。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
  3. リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて不確実性が大きい。さらに、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要である。

以上