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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2021年7月15、16日開催分)

2021年9月28日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2021年9月21、22日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1. 開催日時:
2021年7月15日(14:00から15:58)
 
7月16日(9:00から11:49)
2. 場所:
日本銀行本店
3. 出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4. 政府からの出席者:
  • 財務省   小野平八郎 大臣官房総括審議官(15日)
  • 中西 健治 財務副大臣(16日)
  • 内閣府   田和 宏  内閣府審議官(15日)
  • 赤澤 亮正 内閣府副大臣(16日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 山田泰弘
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局審議役 福田英司(16日10:13から11:49)
  • 企画局政策企画課長 飯島浩太
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 川本卓司
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 企画局企画調整課長 中嶋基晴(16日10:13から11:49)
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 安藤雅俊
  • 企画局企画役 門川洋一

1. 金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1. 最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(6月17、18日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2. 金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.05から-0.03%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.09から-0.07%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

株価(TOPIX)は、米国株がIT関連銘柄を中心に上昇する中にあっても、ワクチンの普及度合いに関する米欧との格差や東京都での緊急事態宣言の再発出が意識され、振れを伴いつつ、概ね横ばい圏内の動きとなっている。長期金利は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場ともに、概ね横ばいとなっている。

3. 海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。グローバルにみた企業の業況感は改善しており、貿易量も、はっきりとした増加を続けている。先進国では、ワクチン接種の進捗や経済対策の効果を背景に、公衆衛生上の措置も段階的に解除されるもとで、景気の改善基調が強まっている。一方、新興国では、感染症の再拡大による下押しの影響がASEANの一部を中心に続いている。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、回復ペースは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、感染症の帰趨や、それが世界経済に与える影響について、引き続き不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、経済活動再開の進展と既往の追加経済対策の効果が相まって、回復している。個人消費は、これまで抑制されてきたサービス消費も含め、増勢を強めている。住宅投資は、一部に資材不足等の影響がみられるものの、増加基調にある。企業部門をみると、業況感のはっきりとした改善が続いており、生産も増加を続けている。こうしたもとで、設備投資は、機械投資を中心に増加している。

欧州経済は、公衆衛生上の措置の緩和が進むもとで、下押しされた状態から持ち直している。個人消費は、サービス消費も含め、持ち直している。企業部門をみると、業況感は、サービス業を中心に改善しており、輸出や生産も持ち直し基調を辿っている。こうしたもとで、設備投資は持ち直している。

中国経済は、回復を続けている。輸出は、増加している。個人消費は、一部で感染症の影響が残るものの、雇用・所得環境の改善などを受けて、増加している。固定資産投資は、内外の需要回復や堅調な企業収益を背景に、幅広い業種で増加を続けている。こうしたもとで、生産も増加を続けている。

中国以外の新興国経済は、一部の国・地域では感染症の再拡大に伴い内需が下押しされているが、全体としては持ち直しの動きを維持している。NIEs経済は、一部に感染拡大の影響もみられるものの、輸出が増加するもとで、回復基調が続いている。ASEAN経済は、輸出は増加を続けているものの、一部の国では感染再拡大等を受けて内需への下押し圧力が強まっており、持ち直しのペースが鈍化している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、FRBによる早期の資産買入れ縮小や利上げへの警戒感が和らぎ、低下した。株価は、米国では長期金利の低下を受けて、IT関連銘柄を中心に上昇したほか、欧州でも既往ピークの水準付近で推移した。為替市場では、新興国通貨は、6月FOMC後の米ドル高を受けて下落したが、その後は、米ドル高の一服に伴い、概ね横ばいで推移した。原油価格は、米国の原油在庫減少等を受けて、上昇した。

4. 国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。先行きについては、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくと予想される。ただし、当面の経済活動の水準は、感染症への警戒感が続くもとで、対面型サービス部門を中心に、感染症拡大前に比べて低めで推移するとみられる。

輸出や鉱工業生産は、海外経済の回復を背景に、着実な増加を続けている。鉱工業生産を業種別にみると、輸送機械は、年明け以降、半導体不足の影響などから減速し、足もとでは大きめの減少となっている。はん用・生産用・業務用機械は、内外の設備投資需要の回復を背景に、半導体製造装置や建設機械等を中心に、しっかりとした増加を続けている。電子部品・デバイスは、データセンター向けやスマートフォン・パソコン関連、車載向けの需要の堅調さを受けて、幅広い品目ではっきりとした増加が続いている。先行きの輸出や鉱工業生産は、輸送機械における半導体不足の影響が緩和に向かうことに加え、デジタル関連需要の堅調さや世界的な設備投資需要の回復などを背景に、着実な増加を続けるとみられる。

企業収益や業況感は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善している。6月短観の業況判断DI(全産業全規模)をみると、昨年6月をボトムに、4四半期連続で改善している。業種別にみると、製造業は、半導体不足の影響から自動車が悪化したものの、世界的なデジタル関連需要の堅調な拡大や内外の設備投資の持ち直しなどを背景に、幅広い業種ではっきりとした改善が続いている。非製造業は、感染症や公衆衛生上の措置の影響から宿泊・飲食サービスの停滞が続いたものの、物品賃貸や卸売、運輸・郵便、対個人サービスなどでは、経済活動の持ち直しやそれに伴う物流の増加などを受けて改善している。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。機械投資の一致指標である資本財総供給は、企業収益の改善に支えられて、パソコンや基地局・5G関連などのデジタル関連財や建設機械等を中心に、しっかりとした増加が続いている。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設の建設減少の影響などから緩やかな減少傾向を続けてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。先行きの設備投資は、企業収益の改善に加え、緩和的な金融環境にも支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。機械投資の先行指標である機械受注は、振れを均してみれば、製造業を中心に持ち直している。建設投資の先行指標である建築着工の工事費予定額は、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設の減少は続いているものの、Eコマースの拡大を背景とした物流施設等の増加に加え、都市再開発案件の進捗や医療・福祉施設の建設需要にも支えられて、全体では持ち直している。6月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2020年度は前年比マイナス8.1%と10年振りの減少で着地したが、2021年度は同+9.4%と大幅な増加が計画されている。

個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が強く、足踏み状態となっている。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4から5月の1から3月対比は、感染再拡大やそれに伴う公衆衛生上の措置の影響から、マイナスとなっている。耐久財消費は、半導体不足に伴う供給制約による自動車販売の減少などが下押しとなり、足もとでは増勢が鈍化している。非耐久財消費は、食料品や日用品などは巣ごもり需要の拡大に支えられて底堅く推移しているものの、衣料品等の需要減退を主因に減少している。サービス消費は、3月にはいったん持ち直しに向かったが、4から5月は感染再拡大の影響などから再び減少している。足もとにかけての個人消費の動きを、企業からの聞き取り調査や人出の動きなどの高頻度データで窺うと、6月下旬以降は、ワクチン接種の進捗もあってサービス消費の一部には持ち直しの兆しもみられるが、公衆衛生上の措置が続くもとで、全体としては低水準にとどまっている模様である。外食は、酒類の提供が部分的な緩和にとどまり、時短営業要請も続くもとで、客足の回復は鈍い状態が続いている。国内旅行は、ワクチンの接種が進んでいる高齢者も含めて、消費者が遠距離移動に依然慎重であることから、全体として低水準が続いている模様である。足もとの東京都等における緊急事態宣言は、引き続き7から8月にかけて、対面型サービス消費の強い下押し要因として作用するとみられる。先行きの個人消費は、公衆衛生上の措置が継続する間は対面型サービスを中心に低めの水準で足踏みした状態が続くが、その後はワクチン接種の進捗などから感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、ペントアップ需要もあって、再び持ち直していくとみられる。

雇用・所得環境をみると、感染症の影響から、弱い動きが続いている。雇用面では、労働力調査の就業者数をみると、経済活動全体の持ち直し傾向を反映して下げ止まっているが、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。一方、正規雇用は、昨年4月以降の同一労働同一賃金が下支えとなるもとで、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に緩やかな増加を続けている。名目賃金は、前年の落ち込みの反動に加え、人手不足感の強い一部業種における所定内給与の上昇の影響もあって、前年比プラスとなっている。先行きの雇用者所得は、経済活動の持ち直しや企業業績の改善を受けて、持ち直していくとみられる。

物価面について、商品市況は、海外経済の回復とそれに伴う資源需要の拡大に加え、一部にみられる供給制約の影響もあって、このところ上昇傾向が明確となっている。こうしたもとで、6月短観の仕入価格判断DIは、販売価格判断DIよりも大きく上昇しており、企業の交易条件は悪化しているとみられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格は上昇しており、足もとでは0%程度となっている。この間、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、0%程度で推移すると予想される。その後は、携帯電話通信料の引き下げの影響を受けつつも、景気の回復やエネルギー価格の上昇などを背景に、上昇率を高めていくとみられる。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、感染症の影響を受けた予備的な需要などによる資金ニーズは全体として高水準となっているが、大企業を中心に手許資金を返済する動きもみられている。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、高めの伸びとなった前年との比較でみて、伸び率が縮小し、それぞれ0%台後半、7%台前半となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。一方、企業の資金繰りは、一頃より改善しているものの、感染症の影響を受けた売上げ減少などを背景になお厳しさがみられる。

この間、マネタリーベースの前年比は、2割程度のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、6%程度のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、国内貸出残高の増加に伴う資金利益の増加などを背景に、堅調に推移している。2020年度の信用コストは、前年に比べて大幅に増加したが、政府・金融機関が企業等への資金繰り支援を積極的に行うもとで、感染症の影響を踏まえて修正した年度計画の範囲内にとどまった。そうしたもとで、大手行の自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。地域銀行と信用金庫の収益も、感染症関連融資の残高増加に支えられ、底堅く推移している。2020年度の信用コストは、年度末にかけて予防的な引当が進められたこともあり、修正年度計画を上回った。地域銀行と信用金庫の自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の5指標について、トレンドから上方に乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症の影響による企業等の運転資金需要の高まりに金融機関が応えた結果として生じているものであり、金融活動の過熱感を表すものではないと考えられる。今後、企業収益の回復とともに債務返済が進み、金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、注視する必要がある。

2. 金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1. 経済情勢

国際金融市場について、委員は、米国の物価動向やFRBの金融政策運営を巡る思惑などから神経質な動きとなる場面もみられたものの、ワクチン接種の進展に伴う世界経済の回復期待から、市場センチメントは総じて良好な状態を維持しているとの認識で一致した。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの見方で一致した。そのうえで、海外経済を巡る留意点として、何人かの委員は、ワクチン接種の進捗状況の違いを反映した回復ペースの不均一性や、新型コロナウイルスの変異株による感染再拡大を挙げた。このうちの複数の委員は、国・地域ごとの経済・物価動向のばらつきを反映して、各国における政策の方向性の違いも鮮明になりつつあると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、歴史的な高水準となっている景況感を裏付けるかたちで、ハードデータでも労働市場を含め米国経済の順調な回復が確認できるとの見方を示した。別の一人の委員は、米国経済が回復する中でも長期金利が殆ど上昇していないのは、FRBによるコミュニケーションの奏功だけでなく、労働市場等に残る需給の緩みが影響しているのではないかと指摘した。米国の物価動向について、何人かの委員は、最近の消費者物価の上昇は、経済活動の急速な再開に伴う供給面のボトルネックの影響が大きく、一過性のものである可能性が高いとの認識を示した。このうちの一人の委員は、足もとの高めの物価上昇率は、需要が急増した一部の財・サービスの価格上昇に牽引されており、先行き、供給面のキャッチアップが進めば、物価上昇は落ち着いていくとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、下押しされた状態から持ち直しているとの見方を共有した。何人かの委員は、米国ほど回復に勢いはないものの、ワクチン接種の加速に伴って公衆衛生上の措置が緩和される中で、個人消費の持ち直しが鮮明になっているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、ユーロ圏においても、米国のように消費者物価が顕著に上昇する可能性が意識され始めていると指摘した。

中国経済について、委員は、回復を続けているとの認識で一致した。一人の委員は、内外需要はともに着実な増加を続けていると述べた。他方、ある委員は、企業収益が足踏み状態にあると述べた。中国以外の新興国経済について、委員は、一部の国・地域では感染症の再拡大に伴い内需が下押しされているが、全体としては持ち直しの動きを維持しているとの認識を共有した。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているとの見方で一致した。複数の委員は、対面型サービス業は引き続き強い下押し圧力に直面している一方、製造業やその他非製造業の活動水準は着実な回復を続けており、経済の二極化が進行しているとの見解を示した。

輸出や生産について、委員は、着実な増加を続けているとの認識で一致した。ある委員は、自動車を中心に半導体不足の影響もみられているが、海外経済の回復が一段と明確になるもとで、世界的なデジタル関連需要の拡大や設備投資需要の回復を背景に、輸出や生産はしっかりとした増加を続けていると述べた。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、7月の支店長会議においても、デジタル化や研究開発、気候変動対応などの関連投資が伸びているとの報告が聞かれており、外需の増加を起点とする企業収益から設備投資への前向きの循環は途切れていないと述べた。

個人消費について、委員は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が強く、足踏み状態となっているとの見方で一致した。一人の委員は、ワクチン接種が進捗しているものの、高齢者の消費が増えている兆候は、これまでのところみられていないと述べた。こうした点を踏まえ、この委員は、外出・移動等の自粛要請が続いている中では、ワクチン接種が進んでも直ぐには経済活動の拡大につながらない可能性があると指摘した。

雇用・所得環境に関し、委員は、感染症の影響から、弱い動きが続いているとの認識で一致した。そのうえで、ある委員は、6月短観などをみると、製造業を中心に人手不足感が幾分強まっているのは前向きな動きであると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格は上昇しており、足もとでは0%程度となっているとの見方で一致した。一人の委員は、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げなどの一時的な影響を除けば上昇傾向にあると述べた。別の一人の委員は、企業が値下げにより需要喚起を図る動きは引き続き広範化していないとの見方を示した。複数の委員は、原材料価格の上昇を受けて国内企業物価ははっきりと上昇しているが、その消費者物価への波及は、現時点では限定的なものにとどまっていると指摘した。予想物価上昇率について、委員は、横ばい圏内で推移しているとの見方を共有した。一人の委員は、資源価格の上昇や先行きの景気回復期待を背景に、予想物価上昇率の上昇を示す指標が増え始めていると述べた。この点に関し、別の一人の委員も、短観の販売価格判断において、「上昇」と回答する企業の割合が高まっている点を指摘した。一方、ある委員は、国際商品市況が上昇する中でも予想物価上昇率に大きな変化はなく、「物価安定の目標」の達成には依然として不十分であると述べた。

2. 経済・物価情勢の展望

2021年7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、このところ感染が再拡大し、東京都で緊急事態宣言が再発出されているが、今回の見通しにおいても、感染症の影響は、ワクチンの普及などにより先行き徐々に和らぎ、見通し期間の中盤に概ね収束するとの想定は維持できるとの認識を共有した。そうした前提のもとで、委員は、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、感染症拡大前に比べて低めで推移するものの、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとの基本的な見方で一致した。更に、その後の見通しについて、委員は、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済は更に成長を続けるとの認識を共有した。ある委員は、ワクチン接種が進捗して国内の感染症が収束していけば、これまでの財政支援策と強制的な支出削減によって積み上げられた民間貯蓄が取り崩され、消費に向かうため、潜在成長率を上回る成長が期待できると述べた。一人の委員は、短期的には、東京都での緊急事態宣言の再発出により個人消費の下押し圧力が強まるとしつつも、やや長い目でみれば、緩和的な金融環境に支えられて設備投資の増加が見込まれることもあり、景気の回復基調は強まっていくことが期待できると述べた。一方、複数の委員は、足もとの感染再拡大の影響により、わが国経済の本格的な回復時期は、前回展望レポート時点よりも幾分後ずれするとの見方を示した。

海外経済の先行きについて、委員は、ワクチン接種の進捗により感染症の影響が和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、成長を続けるとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員は、こうした見通しを巡っては、様々なリスク要因があり、不確実性が高いとの見方を示した。具体的なリスク要因として、委員は、変異株を含む感染症の動向やワクチンの普及ペースとその効果、各国のマクロ経済政策の影響、米中間の緊張といった地政学的リスクなどを指摘した。一人の委員は、中国において預金準備率が引き下げられた点に着目し、中国経済が先行き減速するリスクも念頭に置くべきであると述べた。別の一人の委員は、米国の長期金利の上昇が加速した場合、新興国から資本が流出するリスクを警戒する必要があると述べた。

わが国の輸出について、委員は、財輸出は、世界的なデジタル関連需要の拡大や設備投資の回復に支えられて、しっかりとした増加を続けるとの見方で一致した。一方、サービス輸出であるインバウンド消費については、入国・渡航制限が続く間は、落ち込んだ状態が続くものの、その後は、回復していくとの見方を共有した。

設備投資について、委員は、対面型サービス部門の建設投資の弱さは当面続くものの、企業収益の改善や緩和的な金融環境、政府の経済対策にも支えられて、機械投資やデジタル関連投資を中心に、増加傾向が明確になっていくとの認識で一致した。複数の委員は、短観における本年度の設備投資計画について、昨年度の大幅減の反動もあるとはいえ、しっかりとした増加が見込まれている点は前向きな動きであると述べた。

個人消費について、委員は、当面、対面型サービスを中心に低めの水準で推移するものの、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、政府の経済対策などにも支えられて、再び持ち直していくとの見方で一致した。更に、委員は、その後、感染症の影響が収束していけば、雇用者所得の改善にも支えられて、対面型サービスを含め、個人消費の増加基調が明確になっていくとの見方を共有した。ある委員は、ワクチン接種の加速などにより公衆衛生上の措置が緩和されれば、これまでの長期にわたる自粛の反動もあって、個人消費がいったん大きく増加する可能性は相応にあると述べた。別の一人の委員は、積み上がった現預金の取り崩しによるサービスのペントアップ需要の顕在化は、経済を押し上げると期待されるが、緊急事態宣言が夏季休暇期間に及ぶかたちで発出されたことに伴い、需要が顕在化するタイミングは後ずれする可能性が高まったと述べた。

雇用・所得環境について、委員は、内外需要の回復にラグを伴って持ち直しに転じ、緩やかに増加していくとの見方を共有した。一人の委員は、家計が保有金融資産のうち現預金の一部を株式や投資信託に振り向けていけば、配当収入などを通じて海外経済の成長を取り込むことで可処分所得の増加も期待できると述べた。

こうした議論を経て、委員は、成長率の見通しは、前回と比べると、感染症の影響から2021年度は幾分下振れているが、2022年度は幾分上振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、目先、0%程度で推移するとの見方で一致した。また、消費者物価の基調について、委員は、携帯電話通信料の引き下げやエネルギー価格の上昇といった一時的な要因を除いたベースの前年比は、小幅のプラスで底堅く推移するとの認識でも一致した。そうした見通しの背景について、委員は、感染症のもとでの需要の弱さが影響するものの、需要減少の一因が感染症への警戒感であることや、感染対策に伴うコスト増などから、企業が値下げにより需要喚起を図る行動は、今後も広範化しないとの見方を共有した。物価見通しを巡る留意点として、複数の委員は、今回の見通しには織り込んでいないが、消費者物価指数の2020年基準への切り替えにより、前年比上昇率が下方改定される可能性を指摘した。

その後の物価の展望について、委員は、経済の改善が続くもとで、当面のエネルギー価格上昇の影響に加えて、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落などもあって、消費者物価の前年比は、徐々に上昇率を高めていくとの見方で一致した。中長期的な予想物価上昇率について、委員は、現在横ばい圏内で推移しているが、感染症の影響が収束に向かい、企業の価格設定スタンスが徐々に積極化していくもとで、再び高まっていくとの見方を共有した。一人の委員は、ワクチン接種が進展して、ペントアップ需要が顕在化する局面では、消費者物価が大きめに伸びを高める可能性があるが、わが国では、長期にわたるデフレの経験により、適合的期待形成のメカニズムを通じた物価の下押し圧力が根強いことから、こうした動きは一時的なものにとどまるのではないかと述べた。別の一人の委員は、長期にわたるデフレの経験に加えて、感染症等による企業や家計の不安心理の高まりが、インフレ予想への下押しを通じて、物価の上昇ペースを抑制する可能性があると述べた。

こうした議論を経て、委員は、物価の見通しは、前回と比べると、エネルギー価格の上振れなどから2021年度が上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、見通しの背景となる金融環境についても議論を行った。委員は、先行き、日本銀行による強力な金融緩和の継続や政府の措置、民間金融機関の取り組みから、緩和的な金融環境が維持され、金融面から実体経済への下押し圧力が強まることは回避されるとの認識を共有した。一人の委員は、最近の劣後債やエクイティファイナンスなどの資金調達動向をみると、企業の財務戦略の重点が一頃の流動性確保から資本充実へとシフトしており、現在の緩和的な金融環境を長期的に維持することにより、こうした企業金融面の前向きな動きをサポートできると述べた。別の一人の委員は、輸出企業の価格設定行動の変化や現地生産の拡大など、外国為替市場を取り巻く近年の環境変化が、金利低下の波及経路にどのような影響を及ぼすか注視する必要があると述べた。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、議論を行った。

まず、経済のリスク要因について、委員は、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響に関する不確実性が大きいとの見方で一致した。具体的に、委員は、変異株を含む感染症の拡大によってわが国経済への下押し圧力が強まるリスクがある一方で、ワクチンの普及が加速し、サービス消費のペントアップ需要が早めに顕在化することなどにより、経済活動が想定以上に活発化する可能性もあるとの見方を共有した。前者のリスクに関して、一人の委員は、変異株の感染力は高いため、ワクチン接種が相応のペースで進捗しても感染拡大の波が生じ、経済が下振れる可能性があると指摘した。別の一人の委員は、感染症の影響が長期化する中、Eコマースの拡大といった個人の消費行動の構造的な変化や、既存事業の規模縮小等による供給制約には注意が必要であるとの見方を示した。別のある委員は、感染症の影響の長期化に伴い、事業継続意欲を喪失した事業者の倒産や休廃業等が増加し、それが雇用環境の悪化に波及するリスクには注意が必要であると述べた。

また、委員は、企業や家計の中長期的な成長期待についても大きな不確実性があるとの見方で一致した。一人の委員は、企業の予想物価上昇率の高まりに伴い実質金利が低下するもとで、デジタル化や気候変動リスクへの対応といった構造的な投資押し上げ要因もあるため、企業の成長期待が上振れし、前向きな資本ストックの積み増し局面に移行する可能性もあるとの見方を示した。一方、ある委員は、本年度の設備投資計画の強さには、昨年度に実行できなかった案件の先送りが大きく影響していると述べたうえで、感染症下での政策支援が長期化し、企業債務も増加する中で、企業の成長投資や構造改革が先送りされるリスクが高まっていることを指摘した。別のある委員は、将来の成長期待を映す株価について、わが国が欧米対比弱めに推移していることは気掛かりであると述べた。この間、一人の委員は、将来、感染症対応の経済対策の財源確保に向けた動きが、企業や家計の成長期待等を通じて経済活動に影響する可能性があり、財政健全化を巡る今後の議論を注視していく必要があるとの考えを示した。

また、委員は、金融システムの動向とリスクについても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見方で一致した。また、委員は、そうしたもとで、感染症の影響が収束するまでの間、金融仲介機能が円滑に発揮されると考えているが、その点には大きな不確実性があるとの見方を共有した。複数の委員は、感染症の影響が続く中で、企業等の債務は経済活動との対比で大きめに拡大しているが、これは、金融機関が資金需要の高まりに応えた結果であり、金融活動の過熱感を表すものではないとの見方を示した。ある委員は、感染症の影響により預金が貸出を上回るペースで増加し、預貸率が一段と低下しているため、金融機関の収益構造は更に厳しいものとなっていると述べた。そのうえで、委員は、より長めの視点から、金融機関収益の下押しが長期化した場合のリスクとして、金融仲介活動が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動の過熱化などにより金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面があるとの認識を共有した。委員は、現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、これらのリスクは大きくないが、先行きの動向を注視していく必要があるとの見方を共有した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの見方で一致した。そのうえで、委員は、物価固有のリスク要因についても、議論を行った。委員は、感染症の影響が収束していくもとで、企業の価格設定行動が徐々に積極化していくとの見通しを巡っては、不確実性があるとの見方で一致した。この点に関し、一人の委員は、わが国の予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムの強さを踏まえる必要があると述べた。こうした価格設定行動を巡る不確実性に加えて、委員は、今後の為替相場、国際商品市況、輸入物価の動向およびその国内価格への影響も、物価の上振れ・下振れ双方につながるリスク要因であり、コスト上昇の価格転嫁の状況を含め、注視する必要があるとの見解を共有した。最近の国際商品市況の上昇について、一人の委員は、グローバルな需要の増加が主因であり、わが国経済全体としてみればプラス面が大きいが、交易条件悪化の影響は業種や企業規模によって大きく異なる点には注意が必要であると述べた。

こうした議論を経て、委員は、リスクバランスについて、経済の見通しは、感染症の影響を中心に、当面は下振れリスクの方が大きいが、見通し期間の中盤以降は概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。また、物価の見通しについては、下振れリスクの方が大きいとの見方で一致した。

3. 気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給手段に関する執行部説明

6月17日、18日の金融政策決定会合で導入を決定した、金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給手段について、検討のポイントを報告する。

対象先とする金融機関については、本制度の利用にかかる規律付けを行う観点から、共通担保オペ(全店貸付)の対象先のうち、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている先で、希望する先とすることが適当と考えられる。

バックファイナンスの対象となる投融資については、対象金融機関が上記取り組みの一環として実施するわが国の気候変動対応に資する投融資とすることが考えられる。気候変動対応はグローバルな課題であるが、各国がそれぞれカーボンニュートラル達成に向けて取り組みを進める中で、日本の中央銀行として、わが国の気候変動対応に資する取り組みを後押しする制度設計を行うことが適当と考えられる。気候変動対応に資する投融資の類型としては、(1)グリーンローン/ボンド、(2)サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)、(3)トランジション・ファイナンスにかかる投融資が考えられる。

貸付条件については、資金供給の方式は共通担保を担保とする円貨の貸付とすることが適当と考えられる。貸付利率はゼロ%とし、補完当座預金制度においてはマクロ加算残高への「2倍加算」を適用し、貸出促進付利制度においてはカテゴリーIII(付利金利ゼロ%)の対象とすることが適当と考えられる。貸付期間は原則1年とし、制度の実施期限までの間、対象投融資の残高の範囲内で、回数に制限を設けず、借り換えを可能とすることが適当と考えられる。これにより、金融機関は、実質的に、長期にわたるバックファイナンスを受けることが可能となる。

開始時期および実施期限については、年内を目途に開始したうえで、気候変動対応には息の長い取り組みが求められることを踏まえ、原則として、金融調節上の支障がない限り、2030年度まで実施することが適当と考えられる。

以上を踏まえ、新たな資金供給手段にかかる骨子素案の案を取りまとめた。今後、骨子素案に基づいて金融機関との意見交換や実務面での検討を更に進めたうえで、基本要領の案を金融政策決定会合で諮ることとしたい。

4. 金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識と気候変動対応を支援するための資金供給に関する執行部説明を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の金融政策の基本的な運営スタンスについて、委員は、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。一人の委員は、対面型サービス部門を中心に厳しい資金繰りが続いていることなどを踏まえると、現在の金融緩和措置を変更する情勢にはないと述べた。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。

更に、委員は、金融政策運営に関連する各種の留意点についても意見を述べた。一人の委員は、資源価格の上昇で生鮮食品を除く消費者物価の前年比も上昇するとみられるが、オーバーシュート型コミットメントを採用しているもと、2%の「物価安定の目標」の安定的な達成にはまだ距離があるため、時期尚早に金融引き締めを行わないことが重要であり、こうした金融政策スタンスについて丁寧な情報発信を行う必要があると述べた。また、ある委員は、デフレマインドが根強いわが国において、政府と連携しつつ、粘り強く金融緩和を継続することで、2%の「物価安定の目標」を目指していくことが重要であると述べた。この間、別のある委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と物価目標達成を早期に実現する必要があるとの見解を示した。

委員は、「気候変動対応を支援するための資金供給の骨子素案」についても議論を行った。対象先とする金融機関について、委員は、具体的な投融資の判断を金融機関に委ねつつ、本制度の利用にかかる規律付けを行う観点から、共通担保オペ(全店貸付)の対象先のうち、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている先で、希望する先とすることが適当であるとの見方で一致した。一人の委員は、わが国では間接金融が大きな役割を担うとしたうえで、中央銀行が直接介入して気候変動対応を進めていくと、金融システムに様々な歪みが生じる可能性があるが、今回の仕組みは、金融機関が自らの判断で行う気候変動対応投融資を支援するかたちとしており、そうした影響を回避できるのではないかと述べた。別の一人の委員は、金融機関自身の判断が緩に流れると、本制度への信認を落としかねないため、一定の開示を求めることで規律を働かせる仕組みとすることは重要であると述べた。開示について、この委員を含む複数の委員は、政策の説明責任等の観点から、事前の開示とともに、利用状況を含めた事後開示についても検討すべきであるとの見解を示した。バックファイナンスの対象となる投融資について、委員は、対象金融機関がわが国の気候変動対応に資するための取り組みの一環として実施する投融資とすることが適当であるとの認識で一致した。ある委員は、気候変動問題はグローバルな課題ではあるが、各国の対応状況等を踏まえると、わが国の気候変動対応に資する取り組みを後押しすることが適当であると述べた。何人かの委員は、移行リスクがわが国経済に及ぼす影響の大きさ等に鑑みると、トランジション・ファイナンスは対象とすべきであるとの見解を示した。別のある委員は、気候変動を巡る外部環境が流動的なもと、中央銀行の責務との関係に十分に留意しつつ、対象範囲を慎重に選ぶことが重要であると述べた。貸付条件について、委員は、資金供給の方式は共通担保を担保とする円貨の貸付とし、貸付利率はゼロ%とすること、補完当座預金制度におけるマクロ加算残高への「2倍加算」を適用するとともに、貸出促進付利制度においてカテゴリーIII(付利金利ゼロ%)の対象とすることが適当であるとの認識で一致した。また、委員は、貸付期間は原則1年とし、制度の実施期限までの間、対象投融資の残高の範囲内で、回数に制限を設けず、借り換えを可能とすることが適当であるとの認識を共有した。一人の委員は、わが国の気候変動対応に資する投融資は円建てが中心と考えられること等を踏まえ、今回の資金供給を円建てとすることは適当であると述べた。また、この委員は、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペについては、企業等の資金繰りを早急に支援するため、貸出促進付利制度上、プラスの付利金利を適用し、強いインセンティブを与えているが、今回の資金供給は、息の長い取り組みであるため、同制度上の付利金利をゼロ%とすることは適当であると述べた。開始時期および実施期限について、委員は、年内を目途に開始したうえで、原則として2030年度まで実施することが適当であるとの認識を共有した。

以上の議論を経て、委員は、執行部から報告のあった骨子素案の内容は適当であるとの認識を共有した。一人の委員は、市場中立性への配慮と政策の柔軟性を併せ持つ今回の仕組みは適切であると述べた。別の一人の委員は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するというわが国中央銀行としての使命と、ミクロの資源配分には極力関与しないという中央銀行としての立場の両方を考慮した内容となっており、全体として適切であると述べた。

このほか、委員は、気候変動対応関連で今後留意すべき事項についても議論した。一人の委員は、気候変動問題に対する日本銀行の立場や取り組み方針を分かりやすく説明し、内外の市場関係者はもとより、広く国民に正しく理解してもらうことがきわめて重要であると述べた。何人かの委員は、気候変動問題が経済・物価に与える影響について、予断を持たず、調査・研究を深めていくことが重要であるとの考えを強調した。このうちの一人の委員は、政策効果を検証していくことが望ましいと述べた。もう一人の委員は、今回の取り組みを契機に、気候変動問題が持つマクロ経済的な含意に関する研究が各界で深められ、その研究成果を日本銀行においても活用できる可能性があると述べた。また、ある委員は、気候変動対応に向けた経済・社会の変革には巨額の投資が持続的に行われるエコシステムの構築が重要であり、税制や市場インフラ整備などの情勢変化を適切に把握しつつ、情報発信などを通じて変革に貢献すべきであると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

  • 「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
     長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の
     買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、昨年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

5. 政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 先般のG20では、気候変動問題も議論され、国際協調の動きが進んでいる。気候変動対応に関する新たな資金供給制度も、この動きに沿ったものと考える。
  • 令和4年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針は、7月7日に閣議了解された。グリーンを含め新たな成長の原動力となる分野に予算を重点化していく。歳出改革努力を継続しつつ、経済再生と財政健全化を進めていく。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、感染症への対応をはじめ、必要な措置を適切に講じることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 7月6日に公表した内閣府年央試算では、実質GDPは本年中にコロナ前の水準へ回復し、来年度には過去最高になると見込んでいる。
  • 今回の感染症の脅威は、病床の逼迫につながっていることにある。先行き、感染拡大の波は、ワクチン接種が進捗しても何度も到来する可能性はあるが、ワクチンが広く行き渡り、病床の逼迫が起きない状態にすることが重要であり、その後は、経済を最大限に回していくことを基本に考えている。
  • 引き続きワクチン接種の迅速な実行とともに、「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)」を踏まえ、民需主導の力強い成長の実現、賃上げできる環境の整備に努めていく。
  • 気候変動対応を支援するための資金供給は、グリーン社会の実現に向けた政府の取り組みに呼応した時宜を得たものである。政府としては、今後も予備費や前年度からの繰り越し予算を臨機応変に活用し、持続的な経済成長に向けて、躊躇なく機動的なマクロ経済政策運営を行っていく。日本銀行には、引き続き政府との緊密な連携をお願いする。

6. 採決

1. 金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2. 資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3. 気候変動対応を支援するための資金供給の骨子素案

議長から、「気候変動対応を支援するための資金供給の骨子素案」を別紙(別紙)のとおりとする旨の議案が提出され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定された。

4. 対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、「気候変動対応を支援するための資金供給の骨子素案」を含めた対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7. 「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、7月19日に公表することとされた。

8. 議事要旨の承認

議事要旨(2021年6月17、18日開催分)が全員一致で承認され、7月21日に公表することとされた。

9. 金融政策決定会合の開催予定日の承認

2022年の金融政策決定会合の開催予定日が全員一致で承認され、会合終了後、公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2021年7月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      • 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

  2. また、前回の金融政策決定会合において導入することとした、気候変動関連分野での民間金融機関の多様な取り組みを支援するための新たな資金供給の仕組みについて、制度の骨子素案を別紙のとおり決定した(全員一致)。
  3. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る

(別紙)

気候変動対応を支援するための資金供給の骨子素案

  1. 対象先
    • 共通担保オペ(全店貸付)の対象先のうち、気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている先で、希望する先とする。
  2. バックファイナンスの対象となる投融資
    • 対象金融機関が上記取り組みの一環として実施するわが国の気候変動対応に資する投融資とする。

      (1)グリーンローン/ボンド、(2)サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)、(3)トランジション・ファイナンスにかかる投融資が考えられる。

  3. 資金供給の方式
    • 共通担保を担保とする円貨の貸付とする。
  4. 貸付利率、貸出促進付利制度における取り扱い等
    • 貸付利率はゼロ%とする。
    • マクロ加算残高への「2倍加算」を適用する。
    • 貸出促進付利制度においてはカテゴリーIII(付利金利ゼロ%)の対象とする。
  5. 貸付期間
    • 原則1年とする。
    • 制度の実施期限までの間、対象投融資の残高の範囲内で、回数に制限を設けず、借り換えを可能とする。

      実質的に、長期にわたるバックファイナンスを受けることが可能。

  6. 開始時期、実施期限
    • 年内を目途に開始する。
    • 原則として(金融調節上の支障がない限り)2030年度まで実施する。

以上