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第1章 決済の目的1.決済とはどういうことか

まず取引がある

私たちは毎日いろいろな取引をしています。「取引」というと何か自分と無関係なことのような感じがしますが、そうではありません。商店で「(おかねを払いますから)これを下さい」と注文するのも取引です。タクシーに乗って「(おかねを払いますから)市役所までお願いします」と頼んだり、アルバイトの募集に応じて「(おかねをくれるなら)3ヶ月働きます」と言うのも取引です。取引とは「ほかの人と同じ価値のものを交換する約束」であると考えればよいでしょう。

2人の人間が同じ価値のモノとお金を交換する約束をするイメージ図。

私たちが交換ということをしながら生活しているのは、生きていくため、あるいは経済的により満足度の高い生活をしたいからでしょう。食料とか衣類など、欲しいものを全て自分の力だけで手に入れることは容易でありません。また、欲しいものを全部自分で採集したり製作したりするには時間もかかります。自分が欲しいものを他人が持っているなら、自分の手元に余っているものと「取りかえっこ」をして簡単に手に入れたい、と考えるのは自然です。カードやシールを集めて遊ぶ子どもたちは、何も教わることなく「取りかえっこ」のメリットに気づいて交換を始めます。

私たちが交換しながら暮らしているということには、もうひとつ大切な意味合いがあるように思います。それは、私たちが欲しいものを手に入れるにあたり、それを持っている人から「ただ」ではもらえない、ということです。言い換えると、一般的に私たちは、自分の財産を他人に「ただ」であげようとしないのです。その理由についてアダム・スミスという18世紀の経済学者は、「生命の保存と種の繁栄」という、自然が与えた目的の達成に必要だからだ、というふうに説明しました。そして、人々が財産を「取りかえっこ」することについては「人間はいつも他人の助けを必要としているが、常に他人が思いやりの気持ちから助けてくれるとは期待できない。そこで、他人が自らを大切にする気持ちに働きかけて『私の欲しいものをくれれば、あなたの欲しいものをあげます』と申し出るのだ。」と言っています。

決済とは何をすることか

さて、「取引」は交換する約束ですから、何か取引を行うとその約束を果たすことが必要になります。約束どおりおかねを払ったり、品物を渡したり、働いたりせねばなりません。このように、取引の結果発生した義務のことを「債務」と呼びます。反対に、債務を負った人の相手方には「債権」――おかねや品物などを受け取る権利――が発生しています。品物を売買する取引を例にとりますと、売り手には「品物を渡す債務」と「おかねを受け取る債権」が発生しますし、買い手には「品物を受け取る債権」と「おかねを支払う債務」が発生するのです。

取引によって発生したこのような債権・債務を、実際におかねや品物をやりとりするなどして解消することを「決済」と呼びます。取引が債権・債務を発生させ、決済が債権・債務を解消させるのです。

2人の人間がお金や品物をやりとりして債権・債務を解消するイメージ図。

いま、「おかねや品物を」やりとりするなどして、と言いましたが、例えばレストランで注文した料理が運ばれてきたときに、「料理が決済された」とは言わないでしょう。「決済」という言葉は、一般に、おかねに関する債権・債務の解消について用いられているのです。ここでも、「決済」をそういう意味に使おうと思います。ただ、金融関係の仕事をしている人たちの間では、国債とか株式などの証券を相手方に渡す約束を果たすことも「決済」と呼ぶことが多く、おかねに関する債権・債務を解消することを「資金決済」、証券に関する債権・債務を解消することを「証券決済」と言うことが多いようです。ここでも必要に応じてそういう言葉を使うことにします。

「決済」という言葉を辞書で引きますと、「支払を済ませて決まりをつける」というような説明が書かれています。決済が終わっていないとき、債権者としては「○月○日になったら取り立てねば」とか「相手は払ってくれるのだろうか」、また債務者としても「○月○日には忘れず支払わねば」とか「それまでにおかねを用意できるだろうか」などと、それぞれに不安であり、言わば宙ぶらりんな状態に置かれています。おかねを払うことで、こういうザワザワした気持ちから解放されて「決まり」がつく、ということなのでしょう。「決済」に対応する英語はセトルメント(settlement)ですが、これも「気持ちの落ち着く所に収まること」という、似たような意味の言葉です。