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第3章 決済の方法5.それ以外のネッティング

ペイメント・ネッティング

ところで、オブリゲーション・ネッティングと対をなす手法に「ペイメント・ネッティング」というものがあります。ペイメント・ネッティングにおいては、オブリゲーション・ネッティングと同様に、決済日を同じくする債権・債務の差し引き計算を行うのですが、大もとの債権・債務はそのまま残しておきます。そして、「差し引き額を決済できたら、大もとの債権・債務が全て決済できたことにしよう」と決めておくのです。この場合、大もとの債権・債務は変わらないけれども、決済の場面で支払う(=ペイメント)金額が差し引きされているので、「ペイメント・ネッティング」と呼ばれるのです。

ペイメント・ネッティングは、決済の金額を節約できますが、債権・債務を減らせるわけではありませんから、決済の方法と位置づけることはできません。また、「決済の金額を節約できる」と言っても、万一(そのネッティングに加わっているメンバーの倒産などで)決済が予定どおり行われなくなると、大もとの債権・債務を決済せねばならなくなります。これは、ペイメント・ネッティングの結果、差し引きで支払を求められた人々の全員が全額を支払えない限り、差し引き受取の人々の中におかねをもらえない人々が生じてしまうからです。一人でも差し引き支払額を支払えない場合、そのネッティングは取り止めとなり、大もとの債権・債務をそのまま決済せざるを得なくなるわけです。この場合、人々はペイメント・ネッティングの結果を決済すればよい、と思っていますから、突然大もとの債権・債務に戻って大きな金額を決済せよと言われても円滑に決済することができないかもしれません。

このように、ペイメント・ネッティングは一見便利でありますが、ネッティング参加者が決済不能に陥ると混乱が大きいため、あとでお話しするように、十分な安全策を組合わせないと安心して利用することができないのです。この点、オブリゲーション・ネッティングにおいても、ネッティングの結果が決済されないと混乱が生じるわけで、確実に決済を行うための安全策は必要です。ただ、オブリゲーション・ネッティングは、ネッティングを実行した段階で大もとの債権・債務が解消しており、ネッティング結果が決済できなくても、大もとの債権・債務にまでさかのぼっていくことにはならないのです。

クローズアウト・ネッティング

さて、オブリゲーション・ネッティング(=ノベーション・ネッティング)やペイメント・ネッティングとは別に、「クローズアウト(close-out、取引関係の清算)・ネッティング」というものがあります。これは、予め両者間で結んでおいた契約に基づいて、一方が倒産したような場合に両者間に残った債権・債務を打ち消して、1つの債権・債務に整理する作業を言います(このようにクローズアウト・ネッティングは大もとの債権・債務を打ち消すことから、オブリゲーション・ネッティングの一種と位置づけることも可能ですが、ここではオブリゲーション・ネッティングにクローズアウト・ネッティングを含めないように定義しておきます)。

オブリゲーション・ネッティングやペイメント・ネッティングが「決済日が同じで、通貨も同じ(例えば、円建て)である、同じ種類の取引(例えば、おかねの取引)」について行われるのに対し、クローズアウト・ネッティングの対象となる取引は、決済日がいつであっても構いません(遠い決済日のものほど多めに割り引いて、今日時点での決済額を決めていきます)。円建て、ドル建てなど、様々な通貨の取引が混じっていても、円なら円に換算してネッティングすることができます。また、おかねと証券など異なる種類の取引であっても、例えばおかねに直してネッティングすることが可能です。

オブリゲーション・ネッティングやペイメント・ネッティングが言わば日々の作業として行われるのに対し、クローズアウト・ネッティングは、「倒産」という特別な事柄が起こったときに、両者の取引関係を全て終了・清算させてしまうために、1度だけ行われる作業です。そこでの問題のひとつは、一方の当事者がある状態に陥ったときに、その状態が「倒産(=その人との取引の継続が不可能な状態)」と判定できるかどうかについて、当事者間で合意できないおそれがあることです。クローズアウト・ネッティングを実行する「合図」となる事柄が何であるか、当事者間で明確に決めておくことが必要です。

オブリゲーション・ネッティング、クローズアウト・ネッティング、相殺、ペイメント・ネッティングの分類図。詳細は本文のとおり。