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第6章 決済の準備4.安全なクリアリングの条件

安全なクリアリングの大切さ

このようにクリアリング・ハウスは、大量の少額取引を効率的に決済するための準備に利用されますが、クリアリング・ハウスがネッティングを行っている場合、仮に銀行が1行でも負け額の決済に失敗するとクリアリング・ハウスに持ち込まれていた全ての取引の決済が出来なくなってしまいますから、危険な仕組みでもあるのです。

もちろん、クリアリング・ハウスを、ネッティング後の決済額が如何なる場合にも決済可能であるように設計しておけば安全な決済は可能なはずです。例えば、「負け額を決済できない銀行が現れても必ず別の銀行が立替払いする」という仕組みにすることが考えられるわけです。しかし、この例の場合、そうした立替払いが如何なる金額でも実行されるようにしておくためには――巨額の担保を用意しておくとか、立替払いを求められうる銀行が常に巨額の流動性を用意しておくなど――相当のコストが伴うでしょう。そうなりますと、決済を効率的にするためのクリアリングのコストが増大し、コストの面で効率が悪くなってしまいますから、クリアリング・ハウスを設ける意味が薄れてしまいます。

そこで、クリアリング・ハウスが行うネッティングについては、その危険性を小さくするよう、一定の条件を満たした上で行うことが必要です。そのような条件はいくつかありますが、ここでは最も基本的なものを見ておくことにします。

大きな金額の取引はネッティングしない

まず第1に、「金額の大きい取引をネッティングしないこと」が重要です。多数の小額な取引(大量の「ピンポン玉」に喩えることにします――銀行に持ち込まれるリテール決済は通常これにあたります)と少数の巨額な取引(数個の「ボーリング玉」に喩えることにします――リテール決済と関係のない、銀行間のおかねの貸し借りがその例です)を混ぜてネッティングしたとします。

多数の少額な取引と少額の巨額な取引を混ぜたネッティングを示すイメージ図。少額取引を示す多数のピンポン玉の中に、巨額取引を示す3個のボーリング玉が混在している姿をイラスト提示したもの。

さて、このうちの「ピンポン玉」を数件だけ決済する銀行があって、この銀行が今日は負け銀行であったとしましょう。いま、この銀行が何らかの理由で負け額を支払えなくなったとします。決済の事前準備としてネッティングが行われた場合、全ての負け銀行が負け額を支払えない限り決済は行われません。ですから、この場合、決済出来なくなった銀行が扱っていた「ピンポン玉」のみならず、その煽りを受けて、この銀行が関係していない「ボーリング玉」の決済も出来なくなる恐れがあります。「ボーリング玉」つまり巨額の決済が出来なくなると、これを受け取れなくなった銀行には巨額の損失が発生するおそれがあります。大きな金額の取引は、他の取引と混ぜ合わせるネッティングの危険を避けて、独立して決済すべきなのです。

1つの取引を2度以上ネッティングしない

第2に、「ネッティングした結果を他の取引と混ぜて再びネッティングしないこと」が大切です。いま、ある国にA・Bという2つのクリアリング・ハウスがあるとします。ここで、クリアリング・ハウスAが算出した各銀行の勝ち額・負け額を直ちに中央銀行で決済せず、これら勝ち額・負け額をクリアリング・ハウスBに持ち込んで、Bが扱う他の取引とともに改めてネッティングし、その結果を中央銀行で決済することにします。

「ネッティングした結果を他の取引と混ぜて再びネッティングする」例を示すイメージ図。証券売買代金について、クリアリング・ハウスAが算出したネッティング結果が、クリアリング・ハウスBにおいて、他の取引と共に改めてネッティングされるイメージを示している。

こういうことをしますと、例えば、ある銀行がクリアリング・ハウスBのネッティング結果を決済出来なくなると、これは直ちにクリアリング・ハウスAのネッティング結果も予定どおりには決済できなくしてしまいます。仮に、クリアリング・ハウスA・Bがそれぞれのネッティング結果を別々に決済していれば、Bを利用しているある銀行が決済に失敗しても、Aの方は予定どおり決済を終えられたかもしれないわけです。

異質の取引をネッティングしない

第3に、いまの点と関係するのですが、「異なる種類の取引を同じ1つの仕組みでネッティングしない」ことが必要です。例えば、公共料金の振込を扱うような銀行間ネッティングの仕組みと株式の売買代金を扱うような銀行間ネッティングの仕組みを統合して、これらをマゼコゼにしてネッティングしたとします。このとき、「公共料金には関係しているが株式代金には関係していない銀行」があって、この銀行が負け額の決済に失敗したとします。

公共料金の支払いと株式代金の支払いとがネッティングされているため、この失敗は全ての公共料金のみならず、直ちに全ての株式代金の決済も滞らせてしまうことになります。要は、ネッティングを広範に行えば行うほど、決済できない銀行が現れた場合の混乱も広範化するということであり、株式代金にとっての公共料金のように、関係のない取引の決済が混乱した際に、その影響をなるべく受けないようにするには、対象範囲を絞ったネッティングを行う必要がある、ということなのです。

ネッティングと決済を小分けして行う

第4に、当日決済すべき多数の取引を「1回にまとめてネッティングしないこと」が重要です。もちろん、ネッティングの効率という点だけから見れば、全ての取引をまとめて1回だけネッティングした方が決済の件数や金額を小さくできて望ましいわけです。しかし、全ての取引を1回にまとめてネッティングすると、その決済に失敗する銀行が1つでもあった場合に、それら全ての取引の決済が滞ってしまいます。

このため、ネッティングを行う場合には、出来る限り何回かに分けて行うことで、片づけることができる決済を日中の早い段階から次々と片づけておくことが必要となります。そうすれば、日中のある時点である銀行が決済不能になったとしても、それまでに多少あるいは相当の決済は終えられていますから、決済不能の影響は小さく抑えることができるわけです。

1日に1回だけ(17時)ネット決済する場合と複数回(毎正時)にネット決済する場合を比較する計表。ある銀行が12時に倒産すると、前者では決済額全体が混乱に巻き込まれるが、後者では、混乱に巻き込まれるのは、12時以降の決済分に限られる。