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第7章 決済の実行3.理想と現実とのあいだ

さて、安全な決済のための3項目はあくまでも理想を示したものにすぎません。実際には、例えば、効率性を高める見地から「安全性の観点から見て理想的な決済方法」を採用しないなど、いろいろの事情からそのような決済方法が実現していない場合があるのです。ここでは、3項目と実際の決済との関係について少しだけ触れておくことにします。

コルレス・バンク

まず「提供者が倒産しない支払手段を利用する」という項目です。銀行間決済においては、多くの場合、銀行が中央銀行に置く当座預金が利用されています。中央銀行当座預金は言わばおさつを銀行が利用しやすいように変形したものであり、安全確実な決済手段ですから、この項目は満たされています。もっとも、銀行同士の決済が一般の銀行預金を用いて行われることもあります。とくに、「日本のA銀行(米国中央銀行に口座なし)が米国のY銀行(米国中央銀行に口座あり)にドルの決済を行う」というような外貨資金の決済においては、A銀行は米国のX銀行(米国中央銀行に口座あり)に決済の代行を依頼することが少なくありません(このように、別の銀行のために決済を代行する銀行のことをコルレス・バンク<correspondent bank>と呼んでいます)。

「コルレス・バンク」の仕組みを示したイメージ図。日本のA銀行(米国中央銀行に口座無し)が、米国のY銀行(口座有り)にドルの決済を行う場合に、米国のX銀行(コルレス・バンク)に振替えの指示(決済の代行)を依頼する図式を示したもの。

この場合A銀行はX銀行にドル預金を置き、これを決済手段にしているわけですが、X銀行は一般の銀行ですから、当然倒産の危険性があります。銀行が「一般の銀行に預金を置いてコルレス・バンクとして利用していたところ、このコルレス・バンクが破綻してしまった」ということになりますと、A銀行にも大きな損失が発生するおそれがあります。そこでA銀行においては、自分が利用しているコルレス・バンクの経営状況について日々厳格なモニターを行い、倒産などの危険が生じていると判断された場合にはコルレス・バンクを別の銀行に変更するなどの行動が不可欠となってきます。

特別な法律

次に、「実行後は取り消さないというルールで決済する」という項目についてはどうでしょうか。これは一見、預金を振替えて銀行間決済を行う際、「いったん預金を振替えたら絶対に戻さない」というルールで行うだけのことのように思えます。確かにそうなのですが、話はもう少し面倒です。例えば、ヨーロッパの一部の国には「午前0時ルール(zero-hour rule)」という法律を持つ国が最近まで少なくありませんでした。これは、「ある銀行が当日いろいろと決済を行ったあと倒産した際に、当日のスタート(午前0時)にさかのぼって、この銀行が行った全ての決済を取り消す」という法律です。

このような法律がありますと、当然のことながら、銀行間の預金の振替について「実行後は取り消さない」というルールを設けることができません。日中に相手から確実におかねを受け取っていても、相手が倒産してしまうとおかねを返させられるので、そこで新たな決済不能や損失が発生する恐れがあります。いずれにしても、これでは安定した決済は行えませんから、法律を改めるなどして、こういう制約を取り除くことが必要となるのです。

決済までに間があくケース

「取引のつど1件1件直ちに決済する」という項目については、「取引のつど直ちに決済する」という部分と、「1件1件直ちに決済する」という部分に分けてお話しします。まず、「取引のつど直ちに決済する」という点ですが、取引してから決済までに間があると、その間に相手先が決済不能になってしまう危険が発生しますから、この間隔はゼロとするのが望ましいことは明らかです。もっとも、銀行間ではこれが必ずしも出来ているとは言えません。

第1に、銀行間で行われる資金決済のうち、外貨(米国ドルなど)売買の代金決済や、証券売買の代金決済については、取引してから時日を要するのが普通です。これは主として、外貨や証券の取引内容の確認といった決済前の処理に時間がかかるためですが、この点については、情報技術の発達で決済前の処理を高速で行うことが出来るようになってきたことから、期間の短縮が進みつつあります。それでも、取引が行われるとその直後に決済も終了するという、おさつで品物を買うような即時性はまだ実現していません。こうした即時性の実現は銀行間決済の分野における今後の重要課題ですが、技術革新によっていずれは達成されることになるでしょう。

第2に、顧客の指示に基づく銀行間の資金決済についても、「銀行間に債権・債務が発生してから決済が行われるまで」の間に一定の時間差が残っています。これは、こうしたリテール決済の件数が多い一方で金額がさほど大きくないことから、銀行間決済に先立って各銀行の決済額のネッティングが行われていることが主な原因となっています。もちろん、「決済件数が多く、1件ずつ決済するのは大変なので予め計算整理する」というのは、情報技術が未発達な世界の話であることは間違いありません。おそらく将来は、ある人が銀行をまたがる振替を依頼すると、支払人の口座引落し・受取人の口座入金、および銀行間の振替が直ちに完了して、時間差の――したがって決済リスクの――小さい決済が実現することでしょう。

決済を1件ずつ片づける道

次に「1件1件直ちに決済する」――ほかの決済と合算したりネッティングしたりせずに決済する――という点です。「取引のつど直ちに決済する」という理想は、まだ完全に実現していませんが、「1件1件直ちに決済する」という理想の方も未だ実現途上です。もっとも、近年こちらについては各国で重要な進展が見られています。それは、銀行が中央銀行当座預金の振替で決済を行う方法について、「即時グロス決済」――英語ではReal Time Gross Settlement、頭文字をとってRTGS――が採用されてきたことです。

これは、中央銀行に当座預金をもつ銀行が中央銀行に振替を指示したとき、「中央銀行が振替の指示を受け取り次第直ちに(=即時)、他の振替とネッティングせずに(=グロス)その振替を実行する(=決済)」という決済方式です。つまりRTGSは、取引のあと直ちに決済するという方式ではなく、単に「指示の受付」と「指示の実行」との時間差をなくして、振替を1件1件処理するということに過ぎません。銀行が「別の銀行と取引を行うこと」と、その取引の決済のために「中央銀行に振替の指示を行うこと」との間には――何時間あるいは何日という――時間差がまだ残っているのです。それでは、なぜこの程度のことが「重要な進展」なのでしょうか。以下ではその点についてお話ししておくことにします。

即時グロス決済(RTGS)の仕組みを示したイメージ図。A銀行が、中央銀行に対して「当行の預金をC銀行に直ちに振替える」旨の指図を発出。中央銀行は、振替指図を受取り次第、直ちに(=即時)、他の振替とネッティングせずに(=グロス)、その振替を実行する(=決済)。