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第7章 決済の実行5.RTGSとその特徴

RTGSの仕組み

このように「時点ネット決済」には、(1)銀行が1行でも決済不能に陥ると全ての銀行の決済が止まってしまう、(2)決済不能の銀行に中央銀行がおかねを貸せばおさつを発行するうえで欠かせない財務の健全性が損なわれかねない、(3)しかも銀行にモラル・ハザードが発生しやすい決済手法である、という難点があります。このため、世の中における金融取引が増大し、行われる決済の金額――したがって決済リスクの額――が増大する中にあっては、中央銀行において銀行間の「時点ネット決済」を続けることは決済の安定を損なうものである、という考え方が世界各国で共有されるに至ったのです。「時点ネット決済」に代わって採用された手法が、先ほどお話ししたRTGS――即時グロス決済――です。

即時グロス決済(RTGS)の仕組みを示したイメージ図。(1)支払う銀行(A)が中央銀行に対して「振替の指示」を発出すると、(2)中央銀行は、Aの口座からB(受取る銀行)の口座に直ちに振替えを行い、(3)Bに対して「振替の連絡」を実施する姿を示している。

RTGSというのは、「銀行から振替の指示を受けた中央銀行が、指示を受け次第、直ちにその振替を実行する」という極めて単純な決済手法です(このため、銀行が発信する振替の指示には、「相手先」と「金額」だけが記されており、振替の「時点」の指定はおこなわれません)。RTGSの場合、日中に次々とファイナリティーのある決済が行われますし、1件の銀行間決済が他の銀行間決済とネッティングされることもありません。このため、夕方にまとめて決済する方式に比べて、取引から決済までの時間差を――ゼロには出来ないにしても――小さくすることが可能ですし、また、たくさんの決済をマゼコゼにしないことから、システミック・リスクを相当に抑制することが可能となるのです。

RTGSの弱点

このようにRTGSは、個別銀行が倒産したりして決済不能に陥っても、世の中の決済全体に混乱が広がらないようにする、安全な決済手法です。もっとも、このように決済全体の安全性を大きく向上させるRTGSですが、弱点もあります。それは、個別銀行が決済のために用意せねばならないおかね(流動性)の額が時点ネット決済の場合に比べ一般に大きくなってしまうことです。「時点ネット決済」のように「支払うべき金額」を「受け取るべき金額」で打ち消せないわけですから、決済に必要なおかねが増えてしまうのは当然でしょう。では、当然だということで放っておくと、どういうことになるでしょうか。

今日たくさんの支払とたくさんの受取を予定している銀行は、「まず、受け取るべきおかねを受け取ってしまおう、そうすれば手元におかねが積み上がるから、それからゆっくり支払を行おう」と考えるのではないでしょうか。それでは仮に、全ての銀行が「まず受け取ろう、それから支払おう」と考えたとしますと、何が起こるか。全ての銀行が「まず受け取ろう」とする結果、「どの銀行も支払わない、したがってどの銀行も受取れない」ということが起こってしまう。これでは、結局1日の終わりまで1件も決済が行われませんから、RTGSを導入して「日中ファイナリティー」のある決済を可能にした意味がなくなってしまいます。

弱点の克服

RTGSを導入して「決済全体の安全性向上」という本来の目的を達成するためには、銀行が「よその銀行からの受取を待つ」という行動をとらないようにする必要があります。そのためには、各銀行が中央銀行に対し、朝からどんどんと振替の指示を発信できる環境を用意せねばなりません。具体的には銀行が、中央銀行から日中に随時、迅速におかね(流動性)を調達して、これを支払に充てられるようにする必要があるのです。

RTGSの弱点とその克服を示した概念図。X銀行とY銀行が相互に100億円を受取るケースにおいては、「互いに受取を待ち合うので、決済が行われない」(弱点)が、中央銀行が、X銀行に貸出を行うことで、X銀行からY銀行への振替えが実行される(弱点の克服)ことを示している。

もちろん、銀行が中央銀行からおかねを借りる必要が生じるのは、銀行間決済において受取を待たずに支払を先行させるからです(実際、時点決済のもとでは、銀行はこのようにおかねを調達することなく決済を終えていたわけです)。言い換えれば、その銀行が1日の支払と受取を全て終えた段階では、日中に中央銀行から調達したおかねは不要になっているはずなのです。このため、RTGSを円滑に行うために中央銀行から日中に調達したおかね(流動性)は、翌日まで待たず、その日の終わりには中央銀行に返済できることになります。こういうおかね――当日の日中にだけ使えるおかね――のことを難しい言い方で「日中流動性」と呼びますが、RTGSをきちんと機能させるためには、中央銀行による「日中流動性」の供給が必要となるわけです。

ある銀行の当座預金の動き(仮説例)
振替の指示が行われた時刻 指示の内容 RTGSで決済が行われる場合 時点ネット決済(17時)の場合
指示を実行したあとの当座預金の残高 中央銀行が供給した日中流動性の残高 指示を実行したあとの当座預金の残高 中央銀行が供給した日中流動性の残高
始業時   10 0 10 0
9:10 B銀行へ 200 -190 190 日中には決済が行われないので、日中の預金残高は変わらない 日中には決済が行われないので、日中流動性は不要
10:20 C銀行へ 50 -240 240
11:10 B銀行から 100 -140 140
13:30 D銀行から 200 60 0 指示の合計額は
受取=360
支払=350
14:20 E銀行へ 100 -40 40
16:20 C銀行から 60 20 0
終業時   20 0 20 0

なお、RTGSのための日中流動性は、多くの場合、中央銀行が銀行に当座貸越を行うかたちで供給されます。その際、銀行は中央銀行に担保を差し入れておき、差し入れた担保の範囲内で当座貸越を受けるというやり方が一般的です。