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第9章 決済の安定1.決済の安全と効率

銀行に限らず、個人や企業も決済を効率的に行いたいと考えています。ここで「効率的」というのは、決済の費用が安いことや、決済に手間ひまがかからないことを指しています。実際、人間がおかねというものを使い始めたのも、物々交換の非効率を克服するためであったのでしょう。

決済システム改善に向けた2つの目標

一方、同時に、人々は決済を安全・安定的に行いたいと考えています。これまで見てきたように決済には、おかねが紙くずになって損をしてしまうとか、取引相手が約束どおりに支払ってくれないため自分の支払もできなくなったり損をしてしまう、などのリスクが潜んでいます。決済を行う際に人々は、なるべくこうしたリスクの小さいやり方で、損をしないように行いたいと考えるはずです。おさつを中央銀行に発行させるようにしたこと、クリアリング・システムやセトルメント・システムにいろいろな安全策を導入したこと、などはどれも決済の安全性を高め、安定的に決済が行えるようにすることを狙ったものであったと思われます。いずれにしても、決済の改善あるいは決済システムの改善というとき、そこには安全性と効率性という2つの目標が存在するのです。

決済システムの改善に向けた2つの目標が、「決済の安全性」と「決済の効率性」であることを板書風に示した図。

安全性と効率性という2つの目標は、しばしば「あちらが高まれば、こちらが低まる」という関係――「トレード・オフ(trade-off)」の関係――にあると言われます。確かに、例えば、相手銀行の決済不能により損失を被るのを避けるため、多くの銀行の信用度を日々綿密に把握しようとすれば、当然そのための費用がかかります――言い換えれば、銀行にとっての決済の効率は低下するかもしれません。また、ある銀行が決済の効率を高めるために、よその銀行と行った取引を数日に1度まとめて行うことにすれば、取引相手の銀行がその間に破綻した場合に損をする額は大きくなります――つまり、銀行にとって決済の安全性は低下してしまいます。このように安全性向上にはコストがかかりますし、効率性向上にはリスクが伴うのです。

社会全体という観点から

決済の安全と効率については、個別の銀行にとっての安全性・効率性と、社会全体にとっての安全性・効率性とを、区別して考えることが大切です。

このうち、安全性について社会全体の観点からポイントとなるのは、ある銀行が決済で損をするかどうかではなくて、銀行の決済不能が連鎖的に発生して世の中の決済を混乱させる可能性――システミック・リスク――を十分に抑制できているかどうか、という点です。その際、過度に安全な仕組みを作ったために使い勝手が悪かったり、利用者にとってのコストが高すぎたりして、その仕組みが全く使われないということでは意味がありませんから、当然、効率性にも注意が払われるのです。これに対して、個別の銀行が関心をもつ安全性は「よその銀行が決済不能となって自分が損をする可能性が小さいこと」であって、「自分の決済不能が他の多くの銀行に波及する可能性を小さくすること」は大きな問題とは認識されないのが普通です。