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第9章 決済の安定4.決済システムの構成要素とリスク対策

まず、決済システム――セトルメント・システムとクリアリング・システム――の構成要素を眺めて、それぞれに関してどのようなシステミック・リスク削減策が必要かを考えてみましょう。決済システムには、そのシステムについて様々な決め事を行い、日々システムを運行する「運営者」がいます。運営者はふつう、コンピューターや電線などの「設備」を使ってサービスを提供しています。このシステムを利用して銀行間決済を行っているのが「参加者」です。運営者と参加者は共通の「ルール・ブック」を持っており、システムの提供・利用に関する決まりごとは全てここに書かれています。これら――「運営者」、「設備」、「参加者」、「ルール・ブック」――が決済システムの構成要素であると考えられます。

決済システムの「運営者」と「設備」、設備の先にいる「参加者」および「ルール・ブック」の存在を示すイメージ図。

運営者

まず「運営者」ですが、システムの安全性・効率性を決めているのは、最終的にはこの運営者です。ですから、「運営者の意思決定がどういう考えに基づいて行われ、どういう結論になっているのか」という点は、参加者など外部の関係者たちにハッキリと見えていて、不適当な判断が行われてシステムの安全性が脅かされていないことを確認できることが必要です。その上で関係者は、必要により意見を表明したり、場合によってはそのシステムへの参加を取り止めるといった行動をとることになるのです。

設備

次に、決済システムが用いるコンピューターと、そこから参加者に向かって伸びている電線などの「設備」です。コンピューターや電線の設計が頼りなくて、そこを動き回る情報がよその者に消されてしまうとか、書き換えられてしまうというようなことでは、安心してこのシステムを使えません。また、これらの設備が万一故障したり破壊されたりしますと、そこを通じる決済が止まって混乱を生じてしまいます。そこで決済システムには、そういう場合に使う予備の設備が用意されていて、必要により直ちにそちらに切替えてシステムを動かし続ける能力が求められるのです。

参加者

さて、電線の先にはシステムの「参加者」がいます。決済が混乱に陥る原因は決済システムのコンピューター故障だけではありません。参加者である銀行が決済不能に陥ることも、決済システムの運行を混乱させる大きな原因になります。決済不能となる理由は、その銀行の信用度が低下しておかねを借りられなくなったとか、資金繰りの失敗で決済のためのおかねが不足したとか、いろいろ考えられますが、いずれにせよ参加者の質が十分に高ければ起こりにくい事態です。ですから、システムを利用する参加者については、不適切な銀行が入ってこないように、明瞭な参加基準が用意されていることが求められます。また、参加基準は公表されていて、「こういう基準を満たす銀行だけが利用しているなら、混乱に巻き込まれる心配が小さいので自分も参加できる」という具合に、よその銀行が参加するかどうかの判断材料として使える必要があるのです。

ルール・ブック

運営者と参加者は共通の「ルール・ブック」を持っています。決済システムの業務はこのルール・ブックに従って行われるわけですが、当然のことながら、そこに書かれたルールはその国の法律に照らして有効であることが求められます。例えばその決済システムが、ある方法で参加者の取引をネッティングしているとします。ところが、その方法によるネッティングが、その国の法律上有効でない場合には、この決済システムを通じた決済を巡って何か問題が起こったときにネッティングが無効とされて、多数の参加者に損失を生じさせるといった混乱が生じかねません。法律上有効でないルールをいくら上手に作っても意味がないのです。このことは逆に、関係者が必要と考える適切な決済方法があるのに、その法的有効性が確保されていない、というような場合には、法律を作る人々に働きかけて必要な法律を手当てすべきだ、ということを意味しています。それでは、ルール・ブックの具体的な中身については、どのような注意が必要なのか。つぎにその点を見てみましょう。