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地域経済報告 —さくらレポート— (2010年10月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2010年10月15日
日本銀行

目次

  • <参考1>地域別金融経済概況
  • <参考2>地域別主要指標

I. 地域からみた景気情勢

最近の景気情勢については、全地域が基調として「緩やかに回復」または「持ち直し」と判断しているが、3地域(関東甲信越、東海、中国)が政策効果の弱まりと海外経済の減速を主因に、このところ回復ないし持ち直しのペースが鈍化していると報告した。この間、先行きの不透明感の強まりに言及する地域もみられた。

また、引き続き、多くの地域が水準の厳しさ(北海道、北陸、近畿、四国、九州・沖縄)ないし地域や業種間のばらつきの存在(関東甲信越)に言及している。

表 地域からみた景気情勢
  10/7月判断 前回との比較 10/10月判断
北海道 厳しさを残しつつも、着実に持ち直している 不変 厳しさを残しつつも、持ち直しを続けている
東北 持ち直しの動きが広がっている 不変 持ち直している
北陸 依然として厳しい面もみられるが、着実に持ち直している 不変 依然として厳しい面もみられるが、全体として持ち直しを続けている
関東甲信越 地理的および業種間のばらつきを残しつつも、緩やかに回復している 右下がり 緩やかに回復しつつあるものの、改善の動きが弱まっている。また、地理的および業種間のばらつきも残存している
東海 生産の増勢が一時的に鈍化したが、その後は再び増勢が戻りつつあり、全体として持ち直しを続けている 右下がり 持ち直しを続けてきたが、ここにきて急速に減速しているようにうかがわれる
近畿 雇用面などに厳しさを残しつつも、緩やかに回復している 不変 雇用面などに厳しさを残しつつも、緩やかに回復している
中国 緩やかに回復している 右下がり 緩やかに回復しているものの、回復のペースは鈍化している
四国 厳しさが残るものの、緩やかに持ち直している 不変 厳しさが残るものの、緩やかに持ち直している
九州・沖縄 地域間のばらつきを残しつつも、緩やかに回復している 不変 雇用・所得面に厳しさを残しつつも、緩やかに回復している
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、全地域が「減少に転じつつある」または「減少している」と判断した。

設備投資は、6地域(北海道、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)が「持ち直し」または「持ち直しつつある」、「低水準ながら増加」と判断したほか、他の2地域(北陸、関東甲信越)も「下げ止まっている」と判断した。この間、東北は「減少」と判断した。

内訳をみると、製造業では、維持・更新投資や能力増強投資を計画しているほか、新商品・研究開発投資や合理化投資を拡充する動きがみられていると報告された。また、非製造業では、引き続きインフラ関連産業の大型投資がみられるほか、一部の地域が小売業における新規出店の動きを報告した。

個人消費は、雇用・所得環境の厳しさが緩和しているもとで、6地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、近畿、九州・沖縄)が、「持ち直し」または「下げ止まりつつある」等と判断した。もっとも、ほとんどの地域が、乗用車販売における駆け込み需要の反動を指摘しており、こうした中で、東海は「弱含んでいるとみられる」、中国は「持ち直しの動きに一服感がみられる」、四国は「全体としては弱めの動き」と判断した。

品目別の動きをみると、家電販売で猛暑やエコポイント制度の効果がみられているほか、多くの地域が、大型小売店売上高における前年比減少幅の縮小等を報告した。このほか、7地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)が、旅行関連需要の増加ないし下げ止まりの動きを報告した。一方、乗用車販売は、エコカー補助終了に伴う駆け込み需要の反動がみられていると報告された。

住宅投資は、引き続き水準の低さに言及する地域がみられるものの、5地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、四国)が「持ち直している」または「一部に持ち直しの動きがみられる」と報告したほか、他の地域(北陸、近畿、中国、九州・沖縄)でも「下げ止まり」がはっきりしてきた。

種類別の動きをみると、多くの地域が、「持家が前年水準を上回っている」と報告したほか、大都市圏を含む一部の地域(関東甲信越、東海、近畿)は、マンションを中心とする分譲について、「持ち直しつつある」等と報告した。

生産については、引き続き4地域(東北、北陸、四国、九州・沖縄)が、「増加」等の判断を維持しているが、東海は「減少に転じているとみられる」と報告したほか、4地域(北海道、関東甲信越、近畿、中国)が増勢鈍化を報告した。

業種別の主な動きをみると、自動車・同部品では、エコカー補助終了や米国向け輸出の減少から、多くの地域が「減少」または「増勢鈍化」と報告した。また、鉄鋼、化学でも「増勢鈍化」の動きが複数の地域から報告された。一方、一般機械などでは、多くの地域が「増加」等と報告した。この間、紙・パルプについては、一部地域で低操業が続いていると報告した。

雇用・所得環境については、引き続き厳しい状況にあるが、全地域が、その厳しさの度合いが緩和していると報告した。

雇用情勢については、ほとんどの地域が労働需給の改善傾向を報告した。また、雇用者所得についても、全地域が下げ止まりに向けた動きを報告した。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 大幅に減少している 低水準ながらも増加している 政策効果などによる振れはあるものの、持ち直しの動きが続いている 着実に持ち直している 持ち直しの動きが鈍化している 雇用情勢は、緩やかに持ち直している。雇用者所得は、企業の人件費抑制スタンスが根強く、厳しい状況が続いているものの、一人当たり名目賃金がわずかながら前年比プラスに転じるなど、改善の動きがみられる
東北 前年を下回った 減少している 政策効果に加え、猛暑効果などもあって、持ち直しの動きがみられ始めている 引き続き低調に推移しているものの、持家を中心に持ち直しの動きがみられている 緩やかに回復している 雇用情勢をみると、改善に向けた動きがみられている。雇用者所得は、前年を上回って推移している
北陸 北陸新幹線関連の大口工事の発注が一巡したこと等から、全体では減少している 製造業を中心に下げ止まっている 一部政策効果の減少がみられるものの、全体としては下げ止まりつつある 持家を中心に下げ止まっている 中国等アジア向けを中心に輸出の増加が続いていることなどから、増加している 雇用情勢をみると、依然として厳しい状況にあるが、労働需給は緩やかに持ち直す動きが続いている。雇用者所得は、所定内給与は前年並みにとどまっているが、製造業を中心に所定外給与の増加が続いているほか、特別給与も月の振れを伴いつつも幾分持ち直している
関東甲信越 国や市区町村を中心に減少している 下げ止まっている 雇用・所得環境の厳しさが幾分緩和する中、持ち直し基調が続いている 首都圏の分譲を中心に持ち直しつつある 増勢が鈍化している 雇用情勢は、引き続き厳しい状況にあるが、労働需給は緩やかな改善傾向にある。雇用者所得は、特別給与の増加等から、下げ止まりつつある
東海 減少している 低水準ながら持ち直しつつある 乗用車販売台数がエコカー補助金の終了により大幅に減少していることから、全体としても弱含んでいるとみられる 引き続き低水準ながら、一部に持ち直しの動きがみられる 増加を続けてきたが、ここにきてエコカー補助金の終了に伴う自動車生産の落ち込みを主因に、減少に転じているとみられる 雇用・所得環境は、引き続き厳しい状況にあるが、その程度は幾分和らいでいる
近畿 減少に転じつつある 持ち直しつつある 緩やかに持ち直しつつあり、今夏には猛暑効果やエコカー補助金終了に伴う駆け込みの動きもみられた 下げ止まっている 輸出の増加や省エネ家電への政策支援を背景に増加しているが、そのテンポは鈍化している。この間、在庫は低水準で推移している 雇用情勢をみると、雇用面では失業率が高止まるなど厳しさを残しつつも、賃金の低下には歯止めがかかってきている。雇用者所得は、前年比マイナス幅が縮小してきている
中国 減少している 製造業を中心に持ち直している 持ち直しの動きに一服感がみられる 下げ止まっている 増加ペースに鈍化傾向がみられる 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、製造業を中心に新規求人の動きがみられており、幾分改善してきている。雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているものの、所定外給与については、生産の持ち直しに伴い増加している
四国 減少している 持ち直しつつある 各種対策の効果から耐久消費財の販売が高水準で推移したものの、足もとでは一部政策終了の影響がみられるなど、全体としては弱めの動きが続いている 低水準ながら、一部に持ち直しの動きがみられる 全体として緩やかに持ち直している 雇用情勢は、引き続き厳しい状況にあるものの、その程度は幾分和らいでいる。雇用者所得は、概ね下げ止まっている
九州・沖縄 減少している 持ち直している 全体として横ばい圏内の動きとなっているものの、足もとエコカー補助金終了に伴う反動減の影響が強まっている 低水準で横ばいとなっている 振れを伴いつつ緩やかな増加基調にある 雇用・所得情勢は、全体としてはなお厳しい状態にあるが、幾分改善の動きがみられている

II.地域の視点

最近の雇用・所得動向

各地域の雇用・所得動向は、企業が慎重な雇用・賃金スタンスを崩していないことから厳しい状況が続いているものの、これまでの製造業での輸出・生産の増加などから厳しさが緩和している。すなわち、製造業では、需要急減時に雇用維持が優先された正規社員について、これまで輸出・生産が増加する中、(1)雇用調整助成金の利用取り止めや利用を縮小する動き、(2)時間外給与を増やす動きに加えて、(3)収益改善に伴いこれまでカットされていた賞与を復元する動きがみられている。一方、需要急減時に大規模に削減された非正規社員については、増員の動きもみられているものの、企業は先行きの受注動向や制度変更の動きなどに対する不安を抱いており、一部には受注動向次第で柔軟な雇用調整を実施したいという考えから契約期間を短期化する動きもみられるなど、慎重な採用スタンスを続けている。なお、エコカー補助の終了等に伴う一時的な生産等の弱めの動きが雇用面に及ぼす影響については、企業からは今のところ大きな雇用調整の動きは回避されるとの声が多く聞かれている。

この間、非製造業では、運輸など一部の業種で製造業からの受注増などから雇用・所得動向にも改善の動きがみられる。一方、建設や消費関連業種(小売業や飲食業など)、サービス業では、公共工事の減少や低価格競争の継続、家計の慎重な支出スタンスなどを背景に引き続き厳しい収益環境を余儀なくされており、雇用・賃金面での慎重なスタンスを崩していない。このように非製造業の雇用・所得動向は、業種によってばらつきがみられている。

企業の雇用・賃金調整の動きは、これまでの製造業での輸出・生産の増加などによる業況回復から全体では落ち着いた状態が続いている。ただし、(1)直面する需要減や収益低迷を受けて雇用・賃金調整を継続的に実施している先に加えて、(2)先行きの需要動向次第ではさらなる雇用・賃金調整を示唆する先もみられるなど、今後も雇用・賃金に対する調整圧力が残存するとみられる。

この間、恒常的な人員・人材不足の状態にあり雇用の受け皿として期待されている介護サービスや農漁業関連企業では、介護サービスを中心に雇用者数の増加がみられているものの、求職者のニーズとのミスマッチなどから人材確保が容易でない状況が続いている。ただし、ごく一部にはこの機を捉えて人材確保にさらに注力したことや地公体などの就労支援強化の動きもあって、一定の成果を挙げている先もみられている。また、多くの企業が慎重な雇用スタンスを崩していない状況下でも、中小企業の中には、こうした厳しい雇用環境を逆手にとって、「不況の時期こそ優秀な人材を獲得するチャンス」として積極的な採用を行う先や、今後の需要獲得や業容拡大を目的に人材確保を進める先が少なくない。

なお、今後の新卒採用スタンスについては、上記のように一部の企業で積極的な動きがみられるが、大方の先では慎重な採用スタンスを続けている。この背景は、企業が引き続き正規社員の増加に慎重なことに加えて、(1)即戦力志向の強まり、(2)高度な人材ニーズの高まり、(3)雇用面での柔軟性確保、などが挙げられる。

こうした中、地公体による企業誘致が地域の雇用を下支えしているほか、雇用対策に伴う雇用創出事業が雇用面でプラスになっているとの声も聞かれる。ただし、雇用対策による雇用創出については短期的な就業支援策に過ぎないことから、安定雇用への効果は限定的とする見方も少なくない。

先行きの雇用・所得動向は、エコカー補助の終了など政策効果の減衰に伴う生産の弱まりや最近の為替円高などに伴う不透明感の台頭を背景に、「企業は当面、慎重な雇用・賃金スタンスを続けていく」との見方が多い。また、中・長期的な企業の経営戦略が雇用面に与える影響では、(1)潜在的に需要拡大が見込める海外での生産強化を図り、国内の新規雇用をさらに抑制するとか、(2)国内需要の減少に伴う国内販売体制の見直しから雇用調整圧力が強まる可能性、(3)技術革新の流れに乗り遅れた企業での雇用調整、を懸念する声が聞かれている。

日本銀行から

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照会先

調査統計局経済調査課地域経済グループ

Tel : 03-3277-2649