このページの本文へ移動

地域経済報告 —さくらレポート— (2012年1月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2012年1月16日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(11年10月)と比較すると、7地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、海外経済減速の影響などを背景に、このところ「持ち直しのテンポが緩やかになっている」、あるいは「持ち直しの動きに一服感がみられる」、「足踏み状態にある」など、持ち直しの動きが一服しているとの報告があった。

一方、四国からは、「生産面で弱い動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある」と、前回から大きな変化はないとの報告があった。

また、東北からも、「震災関連特需による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している」と、前回までの動きが現在も継続しているとの報告があった。

  11/10月判断 前回との比較 12/1月判断
北海道 一部に厳しさがみられるものの、全体としては持ち直してきている 右下がり 持ち直しの動きが一服し、横ばい圏内で推移している
東北 震災関連特需による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している 不変 震災関連特需による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している
北陸 一部に厳しさもみられるが、全体としては持ち直しの動きが続いている 右下がり 全体としては持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースが緩やかになっている
関東甲信越 地域間、業種間のばらつきを伴いつつも、着実に持ち直してきている 右下がり 海外経済の減速や円高の影響等から、持ち直しの動きに一服感がみられている
東海 持ち直している 右下がり 持ち直しの動きを続けているが、そのテンポは緩やかになっている
近畿 緩やかな回復基調にあるが、海外経済減速などの影響が一部にみられ始めている 右下がり 足踏み状態となっている
中国 震災による供給面の制約が解消する中で、持ち直している 右下がり 持ち直しの動きが一服している
四国 一部に弱めの動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある 不変 生産面で弱い動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある
九州・沖縄 個人消費や生産の一部で弱めの動きがみられるものの、全体としては、持ち直しの動きを続けている 右下がり 海外経済の減速等の影響が生産面で広がってきており、持ち直しの動きが鈍化している
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、関東甲信越から、「増加に転じている」との報告があった一方、他の7地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)からは、「減少している」等との報告があった。

設備投資は、震災後の復旧関連投資の増加や、新製品対応投資、新規出店にかかる投資増などを背景に、7地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、中国、四国)から、「持ち直し」や「増加している」との報告があった。一方、近畿からは、「企業収益が頭打ちとなる中、やや弱めの動きがみられる」との報告があった。また、九州・沖縄からは、「弱めの動きとなっている」との報告があった。この間、複数の地域から企業の業況感について、海外経済の減速や為替円高などを背景に、慎重化しているとの報告があった。

個人消費は、一部耐久消費財で駆け込み需要の反動減がみられているものの、消費マインドの改善や被災地での復旧関連需要などを背景に、6地域(東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国)から、「持ち直し」や「増加を続けている」、九州・沖縄から、「底堅い動きとなっている」との報告があった。また、北陸からは、「下げ止まっている」との報告があった。一方、北海道からは、「持ち直しの動きが鈍化している」との報告があった。

品目別の動きをみると、大型小売店販売額では、消費マインドが改善していることなどを背景に、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直し」や「下げ止まり」の動きがみられているとの報告があったが、北海道からは、「先行き不透明感から、日常的な支出に対する抑制傾向がうかがわれる」との報告があった。乗用車販売については、供給制約の解消に加えて低燃費車の投入効果などを背景に、全地域から、「持ち直している」や「増加している」等との報告があった。一方、家電販売は、アナログ放送終了前の薄型テレビなどへの駆け込み需要の反動などにより、全地域から、「減少」方向の報告があった。こうした中、旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直し」や「減少幅縮小」等といった報告があったが、北海道からは、「持ち直しの動きが鈍化している」との報告があった。

住宅投資は、7地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等との報告があったほか、近畿からは、「下げ止まりの動きがみられている」との報告があった。一方、北陸からは、「弱い動きとなっている」との報告があった。

生産については、海外経済の減速に伴う輸出の弱まりなどを背景に、ほとんどの地域から、「増加ペースは緩やかになっている」や「このところ弱含んでいる」、「横ばい圏内の動きとなっている」との報告があった。こうした中、北陸からは、「全体としては生産水準が回復している」といった報告があった。

業種別の主な動きをみると、輸送機械は4地域(東北、関東甲信越、東海、九州・沖縄)から、「増加している」や「生産水準を引き上げている」との報告があった一方、中国からは、「操業度を幾分引き下げている」との報告があった。一般機械は、多くの地域から、「高水準の生産を続けている」等の報告があった。この間、鉄鋼は東海から、「増加基調」との報告があった一方、北海道から、「増勢が鈍化している」、北陸や中国から、「操業度を引き下げている」との報告があった。なお、電子部品・デバイスと化学については、多くの地域から、「弱めの動きとなっている」等の報告があった。

雇用・所得動向については、多くの地域から、「引き続き厳しい状況にあるが、改善の動きがみられる」との報告があった。

雇用情勢については、ほとんどの地域から、「改善傾向」との報告があった。また、雇用者所得についても、多くの地域から、「下げ止まっている」等との報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 減少傾向にある 全体として持ち直している 一部を除いて持ち直しの動きが鈍化している 持ち直している 横ばい圏内の動きとなっている 雇用情勢は、厳しい状況にある中で、緩やかに持ち直している。雇用者所得は、一人当たり名目賃金の減少を主因に前年を下回っている
東北 震災復旧関連工事の発注を中心に、大幅に増加している 増加している 震災関連特需もあって増加を続けている 持家を中心に持ち直しの動きが続いている 震災後の減産分を取り戻す動きや被災企業の復旧等から増加を続けているものの、海外経済の減速等から、増加ペースは緩やかになっている 雇用情勢をみると、改善している
北陸 北陸新幹線関連の大口工事の発注が一巡したことから、減少傾向にある 総じてみれば製造業を中心に緩やかに持ち直しているが、足もとの投資マインドは幾分慎重化している 消費マインドが改善するもとで、総じてみれば下げ止まっている 弱い動きとなっている 海外経済減速による影響が一部にみられるものの、全体としては生産水準が回復している 雇用情勢をみると、緩やかに持ち直している。雇用者所得も、前年を上回って推移している
関東甲信越 茨城県において被災した社会資本の復旧需要がみられていることなどから、増加に転じている 震災で被害を受けた地域を中心に毀損設備を復旧させる動きが引き続きみられていることなどから、増加している 一部に弱さが残っているものの、全体としては持ち直しの動きが続いている 震災の影響に伴う供給制約の解消などから、持ち直している 概ね横ばい圏内の動きとなっている 雇用・所得情勢は、厳しい状況が続いている
東海 減少基調にある 製造業を中心に持ち直している 一部に弱い動きがみられるが、総じてみれば持ち直している 底堅く推移している 増加基調にあるが、そのテンポは緩やかになっている 雇用・所得情勢は、生産の増加を受けて、改善の動きがみられる
近畿 減少している 企業収益が頭打ちとなる中、やや弱めの動きがみられる 全体として緩やかに持ち直している 全体として下げ止まりの動きがみられている 海外経済減速などの影響から、このところ弱含んでおり、在庫も高めの水準が続いている 雇用情勢はなお厳しさを残しながらも徐々に改善しつつあり、賃金も下げ止まってきている。こうしたもとで、雇用者所得は、前年比マイナス幅が縮小してきている
中国 基調としては減少している 製造業を中心に持ち直している 全体としては持ち直している 各種住宅取得促進策の終了による振れを伴いつつも、持ち直している 海外経済の減速や円高の影響などから、操業度を引き下げる動きがみられている 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、有効求人倍率が幾分改善している。雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているが、幾分改善傾向にある
四国 減少基調にある 増加している 乗用車販売を中心に持ち直しの動きがみられる 足もとでは幾分弱めの動きがみられるものの、持ち直しの動きが続いている 全体としては持ち直し基調にあるものの、足もとでは弱含んでいる 雇用情勢は、改善基調にある。雇用者所得は、概ね下げ止まっている
九州・沖縄 減少している 弱めの動きとなっている 一部に弱めの動きがみられるが、全体としては底堅い動きとなっている 緩やかに持ち直している 海外経済の減速や為替円高に加え、タイ洪水の影響もあり、弱含む業種が増加している 雇用・所得情勢は、全体としてはなお厳しい状態にあるが、労働需給は幾分改善している

II. 地域の視点

各地域における最近の雇用情勢について

各地域における雇用情勢は、東日本大震災(以下、「震災」)後に総じて厳しい状況となったものの、その後は生産水準の回復や国内需要の持ち直しなどを背景に、改善傾向をたどっている。地域別にみると、産業構造や復旧・復興需要がもたらす効果の違いなどを反映して、改善の動きにはばらつきがみられている。

こうした改善の動きは、製造業・非製造業とも非正規社員が中心であり、正規社員については慎重な雇用スタンスを崩していない。すなわち、製造業では、先行きの不透明感が強いことなどを理由に多くの先が国内での正規社員の増員には慎重なスタンスを維持している。非製造業では介護関連などで正規社員を増員する動きがみられているものの、収益低迷や人口減少に伴う先行きの内需低迷予想などを背景に、正規社員の増員には総じて慎重なスタンスにある。

業種別の動きをやや詳しくみると、製造業では、輸送用機械が震災以降のサプライチェーンの障害の解消に伴う生産水準の引き上げなどから、非正規社員を中心に増員する動きがみられている。このため、輸送用機械が集積する一部の地域では人手が確保しにくいといった声も聞かれている。また、一般機械や化学(医薬品)でも内外需要の増加などから生産水準が高まっており、非正規社員を中心に増員に動く先がみられている。ただし、最近になって海外経済の減速や円高などから生産が横ばい圏内となってきていることを反映して、輸出関連企業を中心に非正規社員を削減する動きもみられ始めている。
非製造業では、小売が新規出店、飲食・宿泊も新規出店や震災後の観光客の持ち直しなどを背景に非正規社員を増員しているほか、各地で誘致に成功したコールセンターやデータセンターからの求人増の動きもみられている。また、介護や育児では正規・非正規社員とも人員不足が続いており、多くの地域の企業が積極的な雇用スタンスにある。さらに、高齢者向けサービスを手掛ける企業においても、需要拡大に伴う雇用増の動きが限定的ながらもみられている。

こうした中、正規社員では、「海外需要の取り込み強化という経営戦略を実現するための人材」や、「介護産業に従事する人材」について、求人を積極化する動きがみられている。すなわち、製造業・非製造業において、今後の成長持続のために新興国を中心とした海外需要の取り込みを経営戦略の一つに据えている先では、中小企業も含めて語学力に優れた人材や外国人留学生の採用などに注力する動きがみられている。また、製造業では国内生産拠点について、高付加価値品の開発・生産拠点としての機能を高めるべく、高いスキルを持った技術者や開発者などの採用意欲も高まっている。
介護産業は、少子高齢化が進む中で今後の雇用吸収力の高い産業として多くの地域で期待されている。しかしながら、現状、介護産業では企業・求職者間でのミスマッチを背景に、人員不足が続いている。このため、行政・民間ともこうしたミスマッチの緩和に向けた取り組みに注力し、一部ではその効果もみられている。

この間、被災地では被災企業の事業再開や復旧・復興需要を背景に、建設業やその関連業種の労働需給がかなり逼迫している。また、個人消費関連業種でも震災関連特需もあって人手不足を指摘する声が強まっている。こうした状況を緩和するため、被災地以外の地域において被災地向けの求人を行う動きがみられているが、今のところ、被災地の人手不足を充足するには至っていない。また、型枠工やとび職などの専門工事業者は、そもそも長引く建設需要の低迷に伴い担い手が減少してきた中で、被災地に人員がシフトしていることもあって、被災地だけでなく被災地以外の地域でも人員不足を訴える声が聞かれている。被災地では、このような人手不足が続いた場合には、今後の円滑な復旧・復興に制約が生じることを懸念する声が高まっており、この対策の一つとして、被災者の就職支援などを求める声が聞かれている。

今後、わが国の生産年齢人口はさらなる高齢化の進展によって、減少ペースが加速していく可能性が高い。こうした中で、経済成長を実現していくためには、雇用面で生じているミスマッチなどを緩和していくとともに、高齢者等の労働市場への参加を促すことが重要である。また、グローバル需要を積極的に取り込むとともに、国内で今後の需要拡大が期待される産業の育成や市場の開拓を進めていく必要がある。こうしたわが国経済が抱える課題について、例えば介護関連などの産業育成や雇用吸収など、克服に向けた動きが徐々にみられ始めている。今後、そうした動きが本格化するよう、企業には強いフロンティア精神が、そして求職者には企業とのミスマッチを縮小させるための取り組みが望まれるとともに、それを後押しする規制緩和や就業サポートなどの行政の取り組みが期待される。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局経済調査課地域経済グループ

Tel : 03-3277-1357