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地域経済報告 —さくらレポート— (2014年7月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2014年7月7日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(14年4月)と比較すると、全地域が、景気の改善度合いに関する基調的な判断に変化はないとしている。

各地域からは、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているものの、基調的には、「回復を続けている」、「緩やかに回復している」等の報告があった。この背景としては、国内需要が堅調に推移し、生産が緩やかな増加基調を続ける中で、雇用・所得環境も改善していることが挙げられている。

表 地域からみた景気情勢
  14/4月判断 前回との比較 14/7月判断
北海道 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が一部にみられているが、基調的には緩やかに回復している
東北 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には回復を続けている 不変 消費税率引き上げの影響による反動がみられるものの、基調的には回復を続けている
北陸 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している
関東甲信越 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている
東海 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては回復を続けている 不変 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては回復を続けている
近畿 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している
中国 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調としては緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているものの、基調としては緩やかに回復している
四国 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている
九州・沖縄 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減がみられているものの、基調的には緩やかに回復している
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、3地域(北海道、東海、中国)から、「増加している」等の報告があった。また、5地域(北陸、関東甲信越、近畿、四国、九州・沖縄)からは、「高水準で推移している」との報告があった。

設備投資は、北海道、東海から、「一段と増加している」、4地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿)から、「増加している」等、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「非製造業を中心に悪化した」、「底堅く推移している」等の報告があった。

個人消費は、雇用・所得環境が改善していること等を背景に、北海道から、「緩やかに回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」等の報告があった。この間、多くの地域から、耐久消費財(乗用車、家電等)や一部の高額品を中心に、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられている」等の報告があったほか、「反動減が縮小してきている」等の報告もあった。

大型小売店販売額をみると、百貨店、スーパーとも、多くの地域から、「駆け込み需要の反動がみられている」、「持ち直している」、「底堅く推移している」等の報告があった。

乗用車販売は、「駆け込み需要の反動がみられている」、「底堅く推移している」等の報告があった。

家電販売は、「駆け込み需要の反動がみられている」、「持ち直している」等の報告があった。

旅行関連需要は、多くの地域から、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、北海道、九州・沖縄から、外国人観光客が増加しているとの報告があった。

住宅投資は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動がみられているものの、3地域(東北、四国、九州・沖縄)から、「高水準で推移している」等の報告があった。また、4地域(関東甲信越、東海、近畿、中国)からは、「基調的には底堅く推移している」等の報告があったほか、北陸からは「下げ止まりつつある」との報告があった。一方、北海道からは、「減少しつつある」との報告があった。

生産(鉱工業生産)は、消費税率引き上げの反動の影響を受けつつも、4地域(北海道、東北、関東甲信越、中国)から、「緩やかな増加基調にある」等の報告があったほか、3地域(北陸、東海、近畿)からは、「高水準で推移している」、「堅調に推移しているとみられる」等の報告があった。また、四国から、「緩やかに持ち直している」との報告があったほか、九州・沖縄からは、「全体としては横ばい圏内で推移している。この間、一部では増加に向けた動きもみられている」との報告があった。

主な業種別の基調的な動きをみると、輸送機械電気機械は、「高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があったほか、化学も、「高めの水準を維持している」等の報告があった。はん用・生産用・業務用機械については、「増加している」、「持ち直している」等の報告があったほか、電子部品・デバイスも、「持ち直している」等の報告があった。鉄鋼金属製品窯業・土石は、「高操業を続けている」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。

雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。

雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「持ち直している」、「改善の動きが明確化してきている」等の報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 増加している 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している 雇用・所得環境等の改善を背景に、緩やかに回復している 減少しつつある 国内外の堅調な需要を背景に、増加している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している
東北 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している 増加している 消費税率引き上げ後の反動がみられているものの、底堅く推移している 消費税率引き上げの影響による反動を伴いつつも、災害公営住宅の建設等から、高水準で推移している 消費税率引き上げの影響による反動を受けつつも、基調としては緩やかに増加している 雇用・所得環境は、改善している
北陸 高水準で推移している 製造業を中心に増加している 基調として緩やかに持ち直している 駆け込み需要の反動がみられるものの、下げ止まりつつある 高水準で推移している 雇用・所得環境は、改善している
関東甲信越 高水準で推移している 増加基調にある 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には底堅く推移している 消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には底堅く推移している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな増加を続けている 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も改善している
東海 増加している 一段と増加している 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては、雇用・所得環境が改善する中で、持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているものの、基調としては底堅く推移している 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動に対応した減産の動きもみられているが、基調としては高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている 雇用・所得情勢は、改善している
近畿 高水準で推移している 増加している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、雇用・所得環境などが改善するもとで、基調としては堅調に推移しているとみられる 基調としては堅調に推移しているとみられる。もっとも、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が引き続きみられている 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動から減産の動きもみられるが、基調としては堅調に推移しているとみられる 雇用情勢をみると、労働需給は改善の動きが強まっている。こうしたもとで、雇用者所得も改善の動きが明確化してきている
中国 増加傾向にある 持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているものの、底堅く推移している 横ばい圏内で推移している 緩やかな増加基調にある 雇用情勢は、着実に改善している。雇用者所得は、持ち直している
四国 高水準で推移している 持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかに持ち直している 高水準で推移している 緩やかに持ち直している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している
九州・沖縄 高水準で推移している 着実に持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減がみられているものの、消費者マインドに加えて雇用・所得環境の改善もあって、持ち直しつつある 増勢が一服している 全体としては横ばい圏内で推移している。この間、一部では増加に向けた動きもみられている 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得にも持ち直しの動きがみられている

II.地域の視点

各地域における消費税率引き上げ後の家計の支出動向と企業の対応

消費税率引き上げ後の家計の支出動向をみると、一部に実質所得の低下に伴う節約の動きがみられるものの、雇用・所得環境の改善や企業の販売施策の奏功等を背景に、全体としては底堅く推移している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響は、次第に和らいできているとの声が多くの地域から聞かれている。

各地域の消費関連企業の多くは、消費税率引き上げ後も基調的な消費の地合いは堅調とみている。この点、趣味・嗜好性の強い商品・サービス(選択的支出)に加え、日常的な支出項目(基礎的支出)についても、安さより品質・付加価値、利便性等を重視する支出行動が広がっており、客単価が上昇傾向にあるとの指摘が多く聞かれている。この背景として、わが国の景気が緩やかな回復を続けているもとで、幅広い地域・属性で雇用・所得環境が改善し、先行きの所得改善期待も高まっていることが挙げられている。やや子細にみると、労働需給がタイト化するもとで、主婦層、若年層等の雇用機会が増加し、時間外給与の増加、賞与増額、ベア、時給上昇等を通じて正社員・非正規社員の賃金が上昇傾向にあること等を受けて、消費税率引き上げ後も、幅広い属性で消費者の前向きな支出行動がみられている。緩和的な金融環境が続いていることも、こうした動きを後押ししているとの指摘が聞かれる。このほか、アクティブシニア層や外国人観光客の需要が引き続き好調で、反動減の抑制や消費下支えに寄与しているとの声も多く聞かれている。
一方で、消費税や光熱費等の家計負担の増加を受けて、品質・機能面で差がない食料品や日用品等については、より低価格なディスカウントストアやドラッグストア等での購入にシフトする動きや、不要不急の支出を抑制する動きが一部にみられるなど、以前にも増して消費にメリハリを効かせているとの指摘が聞かれている。また、実質所得が低下した消費者のマインド悪化を懸念する声や、実質所得低下の影響がラグを伴って顕在化する可能性を指摘する声も聞かれている。
この間、家計の住宅に対する支出スタンスは、雇用・所得環境の改善に加え、政府の住宅取得支援策や緩和的な金融環境に支えられ、消費税率引き上げ後も底堅さを維持しているとの声が大勢を占めている。もっとも、低価格の注文住宅では需要の先食いによる反動減の長期化懸念、都市部の分譲住宅では価格上昇や好立地物件の供給減少等を背景とした慎重化の動きも指摘されている。

こうした中、消費税率引き上げ前後の企業の販売施策をみると、セールや催事の強化・開催時期見直し等の短期的な反動減対策に加え、消費の底堅さや消費者ニーズの変化を踏まえた中長期的な視点での需要喚起策や戦略が目立っている。具体的には、(1)価格よりも品質や機能等を重視した新商品の積極投入や商品ラインナップの拡充(高品質・高価格帯の品揃え充実)、(2)新たな付加価値を加えた店舗リニューアル、(3)オムニチャネル(ネットと実店舗販売等の融合)への取り組み、(4)人件費引き上げ等を伴う接客・サービス品質向上など、商品・サービスの内容や販売チャネルに付加価値やコストを加えることで消費者を惹き付け、需要を引き出すための取り組みが進展している。

企業の価格設定スタンスをみると、消費の底堅さを踏まえて、採算改善を意識した価格改定に踏み切る動きが広がっており、販売価格を改定した企業の多くでは、その後の売上が減速していないことから、新たな価格体系が消費者に受け入れられていると評価している。まず、消費税率引き上げ分については、その必要性に対する消費者の理解進展や消費税転嫁対策特別措置法で「消費税還元セール」の禁止や外税表示の容認等がなされたこともあって、大半の先が販売価格に転嫁している。加えて、既往のコスト(原材料費、人件費、光熱費等)増加分についても、業績好調な小売や飲食・宿泊サービスを中心に、商品・サービス内容の見直し等を伴いながら販売価格に転嫁する動きがみられている。
今後、他社の動向を様子見していた企業や既往のコスト増加分を十分に価格転嫁しきれていない企業を中心に、段階的な値上げや高価格帯の商品・サービスメニュー拡充等を推進していくとの声が相応に聞かれており、当面、価格引き上げの動きは続いていくものとみられる。
一方、競合の激しい小売(スーパー、ドラッグストア、ディスカウントストア等)では、PB商品や集客力のある売れ筋商品に限定して、価格を据え置く(または値下げする)動きもみられる。生活必需品を中心にコスト増加分の価格転嫁が遅れているとか、値上げは困難との声も聞かれており、消費の地合いが弱含む場合には、これらの動きが広がる可能性もある。

先行きの個人消費については、雇用・所得環境の改善が続くもとで、夏場にかけて駆け込み需要の反動の影響が減衰し、基調的には底堅く推移するものとみられる。こうした中、先行きの景気や所得の回復期待もあって、メリハリを伴いつつも家計の支出スタンスが前向きになり、品質や付加価値に対するニーズが一段と強まっているとの声が聞かれる。これに対し消費関連企業では、今回の消費税率引き上げもひとつの契機となって、全体としてみれば、コスト削減による低価格路線から、高付加価値化・高単価路線に転換し、コストと付加価値に見合った販売価格を設定する動きが広がりつつある。経済・物価の好循環を進展させていくうえで、今後も企業努力による商品力やサービスレベルの向上等を通じて、新たな需要を喚起していくことが期待される。

日本銀行から

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照会先

調査統計局地域経済調査課

Tel : 03-3277-1357