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金融機関のリスク情報に関するディスクロージャーについて

1996年11月29日
日本銀行信用機構局

ご利用上の注意

本稿は、日本銀行月報11月号掲載文の転載であり、本文中の「図表」は省略しています。図表を含む全文は、こちらから入手できます(ron9611a.lzh 62KB[MS-Word])。

はじめに

 金融機関のディスクロージャーは、従来から財務諸表等の公表により経営状況を開示する仕組みとして機能してきたが、近年では、財務諸表に限定することなく広く経営方針を含めて自主的に情報を開示し、いわば情報発信機能としての側面を重視する動きが拡大してきている。このひとつの背景として、デリバティブ(金融派生商品)取引の拡大等に伴い、金融機関にとってリスク管理能力の向上が経営上一段と重要な意味を持つようになっている点を指摘できる。そうした中で、個々の金融機関では自ら抱えているリスクの大きさやリスク管理の手法自体に関する情報を自主的に開示し、市場参加者の積極的な評価を受けようとのインセンティブが働くようになっている。ディスクロージャーの持つこうした側面は、市場による金融機関経営に対する「チェック・メカニズム」とも呼び得るものであり、市場の効率性・透明性向上、ひいては金融システムの安定化にも寄与すると考えられる。そこで、本稿では、金融機関のリスク情報に関するディスクロージャーに焦点を当て、その現状、および今後の方向性を整理し、ディスクロージャー情報の受け手を含む市場参加者の参考に供することとしたい。

1.ディスクロージャーの果たす機能

 ディスクロージャーは、法律の規定に基づき、投資のリスク・リターンに関しての判断材料を開示する制度として発展してきたが、そうした側面にとどまらず、経営方針やリスク関連情報を関係者に提供することを通じて、経営戦略上も有効な役割を果たし得るものである。ディスクロージャーが有するこうした機能は、金融システム全体にとっても大きな意義を有するものと考えることができる。

 金融機関経営および金融システムとの関わりという観点から、ディスクロージャーの果たす機能について整理すると以下の3点に集約できよう。

  1. (1) 取引相手選定のための情報提供
    金融機関の取引相手に対し、当該金融機関が負っているリスク量ばかりでなく、どの程度巧みにリスクを管理しているか(リスク管理能力のパフォーマンス)についての評価が可能な情報も提供されれば、市場参加者は自己の判断・責任で取引相手を選定することが、より容易となる。
  2. (2) 市場の価格形成機能の向上
    取引相手選定のための情報は、デリバティブ取引を含めた各種金融商品の適切な価格形成(プライシング)を促進し、これを通じて市場の機能向上に寄与する。
  3. (3) 経営の規律の向上
    ディスクロージャーを行う金融機関の経営陣は、自らのディスクロージャーに対して市場参加者から好意的な反応を得るべく、経営方針の見直しやリスク管理技術の向上、あるいはリスク管理方針自体の厳格化等を行うことが予想される。こうした経営規律の向上は、市場の健全性を維持することにも役立つと思われる。

 以上の(1)〜(3)の機能は、「市場によるチェック・メカニズム」にほかならない。すなわち、リスク量およびリスク管理能力に関する情報は、個々の金融機関の経営状況に関する重要な部分であり、当該金融機関の株価や資金調達コストに反映されると考えられる。市場が、ある金融機関について高いリスク管理能力を備え、経営状況も優れていると判断すれば、例えば当該金融機関の株価は相対的に高くなり、低コストでの資金調達も可能となるはずである。反対に体力を上回るリスクを取り、かつリスク管理が不十分であると見られれば、株価の下落や調達コストの上昇等を余儀なくされるという仕組みが働くことになる。従って、金融機関としては、市場から好意的な評価を受けるため、ディスクロージャーを積極的に利用しようとするインセンティブが働くものと考えられる。当然、市場からの評価を受けられなかった先は、市場の評価が相対的に劣っている部分を改善するか、あるいは市場から撤退するかとの判断を迫られる可能性もある。このようなメカニズムを通じて市場参加者の市場への参入・退出が促され、参加者のレベルが全体として向上し、結果として金融システムの安定にも寄与することになる訳である。

2.リスク情報に関するディスクロージャー拡充の背景

 近年の国際金融市場におけるデリバティブ取引の急激な拡大は、新しい金融業務の創造、金融技術革新の進展、金融市場の効率化という望ましい効果をもたらしたが、一方で、システミック・リスクを増加させる可能性があることが指摘されるようになった。こうした中でシステミック・リスクを回避・抑制し、金融システムの安定性を確保するための方法として、ディスクロージャーが有効な手段になり得ることが市場関係者や金融当局者の間で強く認識されるようになった。

(1)デリバティブ取引拡大への対応

(1)取引規模

 為替や金利等に関するデリバティブ取引は、1980年代後半から急速に拡大をみている。国際決済銀行(BIS)と世界26か国・地域の中央銀行による、デリバティブ市場の取引高および残高に関する調査(「派生商品サーベイ」)によれば、全世界の1995年3月末現在の店頭取引の想定元本は47.5兆ドルに上っている(図表1)。デリバティブ取引は必ずしも元本の移動を伴わないことなどから、同取引のリスクの程度は想定元本により表し得る訳ではないが、ひとつの目安としてみれば、この金額は1995年の米国名目GDPの7倍弱に相当するものである(なお、同調査で同時に公表された市場価値ベースの残高1 は2.2兆ドルと、想定元本の20分の1にも満たない)。

 また、個々の金融機関についても、国際的取引を活発に行っている先では、デリバティブ取引の想定元本が貸出や有価証券等のオンバランス資産残高を上回っている。とくに、大手米銀ではデリバティブ取引の想定元本がオンバランス資産残高の20倍弱にも達する(図表2)など、銀行業務全体の中でも主要な地位を占めるようになっている。邦銀についても、大手行ではこの比率が2〜5倍に達している模様である。

  1.  1  取引相手が現時点で倒産等により取引を履行できなくなった場合に、同一の取引を市場において再構築した場合に要するコスト(再構築コスト)。ここでは、ネッティング契約等を考慮していないグロス・ベースの残高。

(2)デリバティブ取引の意義とリスク

 デリバティブ取引は、業務上発生する種々のリスクを、分解や再編成を通じてそれを負担する意思と能力のある者に移転するリスク配分機能を有している点で、市場参加者にとっては極めて効率的なリスク・コントロール手段となり得る。その意味で、デリバティブ取引は全体として金融機関や金融市場の効率化、金融機関の技術革新に大きく寄与し得るものと言えよう。

 しかしながら、一方で、デリバティブ取引に関する研究が進むにつれ、主要国中央銀行の間ではデリバティブ取引の拡大によりシステミック・リスク 2 が増加する可能性があると認識されようになった3。その要因としては、デリバティブ取引は(1)ヘッジや裁定取引に活発に利用されているため、市場間の結びつきを通じてショックが伝播しやすくなっていると考えられること、(2)取引が一部大手の金融機関等に集中する傾向があり、万一こうした先がリスク管理に失敗した場合のショックは極めて大きくなる可能性があること、(3)市場環境によっては、金融資産価格の変動を一時的に増幅させる取引(例えばオプション取引等)があること、等の点が指摘されている。しかしながら、これらはあくまでシステミック・リスクを増加させる「可能性」を示すものであり、「デリバティブ取引は必ずリスクを増加させる」ということではない。

  1.  2  システミック・リスクについては画一的な定義がある訳ではないが、最も典型的には、「ひとつの金融機関で生じた支払不能が、個々の金融機関相互の与信・受信の連鎖を通じ、他の金融機関の破綻にまで及び経済全体の安定が損なわれる」リスクとされている。また、より広義には「何らかのショックに起因する、金融資産価格の大幅な変動による市場機能のマヒ」(例えば、1987年のブラック・マンデー)も含めた概念としても捉えられている。ここで市場機能のマヒとは、取引活動が全く行われない状況を指し、こうした状態が放置され深刻化すると、支払不能に陥る金融機関も発生し得る。
  2.  3  例えば、BISのユーロカレンシー・スタンディング委員会(以下BISユーロ委員会)が 1992年11月に公表した「国際インターバンク取引の最近の動向」(プロミセル・レポート)では、デリバティブ等オフバランス取引の拡大に伴う最近の市場における変化が金融システムに及ぼす影響について分析するとともに、こうした影響の下でシステミック・リスクが顕現化することを防ぐために、市場のインフラ整備へ向けて連携・協調を進めることの必要性を強調している。

(2)システミック・リスク抑制のための手段

 主要国中央銀行では、デリバティブ市場の拡大が金融政策や金融システムに与える影響について、継続的に検討を行ってきている 4。また同時に、いかにしてこうしたリスクの増加を回避していくかということについても検討を重ねてきた。これまでの検討結果を踏まえると、システミック・リスクの顕現化を防ぐための手段は次のように整理されると考えられるが、こうした中でディスクロージャーはそのひとつの有力な手段として位置付けられる。

  1.  4  「プロミセル・レポート」における研究を受け継ぐ形で、主要国の中央銀行はBISユーロ委員会においてデリバティブ取引の実態、および同取引の拡大がもたらす影響について検討を重ね、1994年12月に「金融派生商品市場の拡大に伴うマクロ経済と金融政策上の論点に関する報告書(アヌーン・レポート)」を、1995年2月には「金融派生商品市場の実態およびマクロプルーデンス面に与える影響の把握方法に関する報告書(ブロックマイヤー・レポート)」を公表した(日本銀行月報1995年3月号を参照)。これら報告書は、デリバティブ取引が金融資産の価格変動の攪乱要因となりうる一方、同取引がリスクを分配し、金融市場の安定性を向上させる側面を持つことを指摘している。

(1)金融機関のリスク管理強化

 まず第1に基本となるべきは、個々の金融機関がそれぞれリスク管理を強化することである。リスク管理技術は、金融機関によるALM運営の高度化等を目指す動きが拡がる5中で日進月歩を遂げている分野であるが、高度な金融サービスの供与はリスク管理が伴って初めて可能となるのであり、金融サービスにおける競争はすなわちリスク管理の競争ともいえる。

 リスク管理には、リスクの定量的測定といった面のほか、組織構成のあり方も含まれる。このうち、リスク測定技術の面についてみると、わが国では最近、マーケット・リスクについてはバリュー・アット・リスク(VaR)方式6が大手行を中心に導入されつつある。また、信用リスクの測定手法については、デリバティブ取引におけるカレント・エクスポージャー方式 7の導入等が進んでいる。リスク管理の組織体制の面では、全行的なリスクの計測・モニターを一元的に統括する専門部署を設置する等、体制の整備を図る動きもみられる。

  1.  5  金融機関のALM運営の高度化に向けた動きについては、『日本銀行月報』1995年9月号「金融機関ALMの現状と課題」を参照。
  2.  6  市場の不利な動きに対して、一定期間・一定確率の下で保有ポートフォリオが被り得る最大損失可能額。VaR算出の考え方については、『日本銀行月報』1995年4月号「バリュー・アット・リスク(Value at Risk)の算出とリスク/リターン・シミュレーション」を参照。
  3.  7  取引の相手方が倒産等により取引を履行できなくなった場合に、同一の取引を市場において再構築した場合にかかるコスト(再構築コスト)であり、当該取引の時価に相当する。

(2)金融インフラの整備

 金融市場がその機能を発揮する観点からは、決済システムや会計制度等、金融のインフラストラクチャーを整備することが必要である。わが国では、会計制度については、今般「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」により、1997年度以降、大蔵大臣の認可を受けて「特定取引勘定」(トレーディング勘定)を設けた銀行等は、同勘定につき時価法による会計処理を行うこととなっている。

(3)ディスクロージャーの拡充

 わが国では、全国銀行協会連合会が、1995年度のディスクロージャー制度における統一開示基準に、デリバティブ(オフバランス)取引情報を開示項目として追加した。デリバティブ取引の想定元本額・契約金額や信用リスク相当額(カレント・エクスポージャー)等の定量的情報およびこれらに関する補足説明、実際に取り扱っている商品の説明、取組姿勢等の定性的情報を任意開示項目として新規に追加している。また、1996年7月には、一般事業法人を含む企業のデリバティブ取引等に係るディスクロージャーの充実を図ることを目的に、ディスクロージャーの対象となるデリバティブ取引の拡大や同取引の定量的情報開示の充実、定性的情報開示の導入等を内容とする、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」等の改正省令の公布、および通達の改正が行われた。

 全国銀行協会連合会の統一開示基準等は、最低限満たされるものとして重要であるが、「市場によるチェック・メカニズム」を促進する観点からは、後述するように、そうした基準を超え自主的に行われるディスクロージャーが大きな意味を持つ。

(4)金融当局の役割

 金融機関によるリスク管理の強化や金融インフラの整備が進み、これに伴いディスクロージャーが積極的に行われるようになると、「市場のチェック・メカニズム」が発揮され、金融システムの安定にも寄与することになると考えられる。そうした状況の下では金融当局も、これを活用していくことが可能になる。中央銀行としても、金融機関が本来的に有するリスク管理能力向上へのインセンティブ、換言すれば市場に内在するリスク管理機能を活用する方向で、金融システム安定のための手法を検討していくことが求められよう。

3.現状のディスクロージャー発展段階と邦銀の動向

(1)ディスクロージャーを巡る内外の議論

 ディスクロージャーの役割に対する認識は内外で高まっている。例えば、投資家に対する企業情報の正確な開示という観点からすでにディスクロージャーの拡充が進んでいる米国では、1994年以降、財務会計基準審議会(FASB)や証券取引委員会(SEC)によりデリバティブ取引等に係るマーケット・リスクの定量的情報の開示基準が示されている8

 国際的な共同作業としては、BISユーロ委員会が、1994年9月に金融機関のディスクロージャーに関するレポート(「金融仲介機関によるマーケット・リスクおよび信用リスクのパブリック・ディスクロージャーに関する討議用ペーパー」)9を公表している(図表3)。本レポートの大きな特徴点は、金融機関がリスク量の測定に用いている内部リスク管理システムから得られる情報をディスクロージャーにも利用し、単にリスク量等の指標だけではなく、リスク管理のパフォーマンスに関する定量的、定性的情報も開示することを提案していることである。その狙いは、基本的には「市場のチェック・メカニズム」の強化であるが、同時に、こうしたディスクロージャー自体に「優れたリスク管理システムを有する先が自らのシステムを用いた情報を、必要かつ効果的な形で一旦開示し始めると、他者も追随する」という「ダイナミックな競争プロセス」を起動する力があり、その結果ディスクロージャーが市場全体として拡充され、市場の透明性が増す効果も指摘されている。

 また、バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)は1995年11月、共同でディスクロージャーに関するレポート(「銀行および証券会社によるトレーディングおよび派生商品取引のパブリック・ディスクロージャー」)を公表した。同レポートは、前記BISユーロ委員会のレポートの問題提起を踏まえ、実際に金融機関のディスクロージャーの内容を調査した上で、ディスクロージャーの更なる拡充を促すために有益と考えられる提言を行っている。その後、同報告書の趣旨を踏まえ、各国金融機関のディスクロージャーの実態に関する調査が行われている。

 一方、わが国においても、1995年5月、金融制度調査会・金融機関のディスクロージャーに関する作業部会がその報告書(「金融機関のデリバティブ取引の情報開示について」)において、デリバティブ取引のディスクロージャーの拡充を提言した。この趣旨を踏まえ、前述のように、全国銀行協会連合会の統一開示基準等の拡充が行われた。

  1.  8  財務会計基準審議会(FASB)は基準書119号(1994年10月公表)で、トレーディング目的のデリバティブ取引について公正価値の期中平均や期末値の開示を義務づけたほか、デリバティブ以外の取引についても、公正価値の期中平均等の開示を奨励した。また、デリバティブ取引のマーケット・リスクに関する定量的情報の開示を奨励した。さらに、証券取引委員会(SEC)は1995年12月、株式公開会社のディスクロージャーに関する規制の改正案を公表した。この改正案では、マーケット・リスクに関するディスクロージャーについて、対象範囲をデリバティブ取引のほか、オンバランスの金融取引まで含む「market risk sensitive instruments」にまで拡大。また、SEC規制の改正案では、FASB基準書119号では奨励に止まっていたマーケット・リスクの定量的情報について、金利等が一定幅(例えば0.1%)変化した場合の損益変動を求めるセンシティビティ分析や、VaRの方法により測定されたリスク量の開示が義務づけられることとなっている。
  2.  9  BISユーロ委員会の下に設置された、ディスクロージャーのあり方に関する作業部会が作成。同作業部会の議長(ニューヨーク連邦準備銀行フィッシャーEVP<Executive Vice President>)の名をとって、「フィッシャー・レポート」と呼ばれている。同レポートについては、『日本銀行月報』1994年11月号を参照。

(2)金融機関の動向

 この間、金融機関による、リスク情報に関する実際のディスクロージャー拡充に向けた動きをみると、先進的な米銀では、国内におけるディスクロージャー基準の如何に拘わらず、ディスクロージャーの持つメリットを認識し、それぞれが独創的な方法で様々なディスクロージャーを行っている。邦銀でも、一部の先が内外での開示基準の発表や提言等を受け、1994年度のディスクロージャー誌でデリバティブ取引やリスク管理についての開示を実施した。さらに 1995年度のディスクロージャー誌では、大手行でこれらの情報についてのディスクロージャーを行う先が増えている。

 以下では、デリバティブ取引やリスク管理といった分野における具体的なディスクロージャーの状況を、1994・1995年度のディスクロージャー誌等で実際に内外の金融機関が用いた方法を参照しつつ整理・分析を試みる。整理を行う上で、ディスクロージャーの対象となる取引についてはこれを「トレーディング取引」と「バンキング取引」に区分した。またリスク量の推計・管理パフォーマンスの評価を行うリスクの対象としては「マーケット・リスク(市場リスク)」と「信用リスク」を採り上げた10。なお、これらの図表で採り上げているディスクロージャーの事例は、実際に金融機関が用いたものをベースに、概念を理解しやすくするためのイメージ図に改めて書替えたものである。

  1. 10 マーケット・リスク:保有するポートフォリオの価値が、金融商品の価格(金利、為替相場等)の変動により増減するリスク。信用リスク:取引相手の信用状況の変化や債務不履行等により、本来得られるはずの取引による経済効果が減少もしくは失われるリスク。

イ.マーケット・リスクのディスクロージャー

ディスクロージャー手法の整理

 まず、邦銀・欧米金融機関の多くが、様々な方式で情報の提供を行っているマーケット・リスクのディスクロージャーについて整理する。ここでは、便宜のため、開示する内容を4つの段階((1)時価評価損益の開示、(2)リスクの予測値<VaR等>の開示、(3)リスク管理パフォーマンスの開示、(4)その他のリスク管理手法の情報開示)に区分することとする。

(1)時価評価損益の開示例

 この手法は、ある金融機関が日々の市場取引において特定の期間(例えば当該年度中)におけるポートフォリオの価値を日々時価評価し、その増減すなわち損益を開示したものであり、取引におけるリスクの実現値とみなすことが可能である。表示の方法としては、日々の損益を時系列グラフ化したり、これをヒストグラム化するものがある(図表4)。こうした開示例は欧米の金融機関にとどまっており、邦銀にはまだ事例が見当たらない。

(2)リスクの予測値の開示例

 個々の金融機関がどの程度のリスクを想定して取引を行っているかについての情報を提供するために、リスクの予測値を開示する手法である。リスクの予測値としてはVaRの利用が広範化しており、その開示はすでに先進的な米銀では定着している一方、邦銀でも1995年度のディスクロージャー誌において開示する先が増えている。具体的には、VaRの日次変化をグラフ化する(図表5)ほか、期中の平均値・最大値・最小値をそれぞれ算出して表示するといった形での開示が行われている11。さらに、拠点別や通貨別、リスク・ファクター別等のVaRの期中(四半期平均等)や期末時点での内訳を開示する方法も一部の邦銀で採り上げられた。

  1. 11 VaRは、保有期間や信頼区間、データの観測期間等の前提により推計結果は異なるため、開示に当たってはこれらの前提条件を併せて提供することが必要である。
(3)リスク管理パフォーマンスの開示例

 (1)、(2)の手法ではリスク量やその実現値そのものの開示に止まり、リスク管理のパフォーマンスに関する情報は提供されない。本手法は予測されるリスクと実現した損益を比較することにより、リスク測定モデルの妥当性を通じてその金融機関のリスク管理パフォーマンスを開示するものである。

 具体的には、(1)と(2)を組み合わせる形で、日々のVaR(予測値)と損益の実績値を比較・チェック(これを「バック・テスティング」という<Box1参照>)し、実績値