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euro導入に対する実務面での対応について

欧州資本市場を中心に

1998年 5月29日
日本銀行国際局
国際調査課※1

日本銀行から

 以下には、全文の冒頭部分(はじめに)および要旨を掲載しています。全文は、こちらから入手できます (ron9805c.lzh 50KB[MS-Word])。

  • ※1E-mail:masashi.nakajima@boj.or.jp

はじめに

  •  欧州通貨統合(EMU)1については、1999年1月1日から参加11カ国でのスタートが確実となっており、単一通貨euroの導入に向けて金融政策の枠組みやEU域内の決済システムの運営等多方面での準備作業が着々と進展している。一方で、債券・株式のeuro建てへの転換や、euro建て金利指標の創設、金融取引に関する市場慣行(金利の計算方法等)の統一等市場取引に係る実務面での対応についても、各国政府や市場参加者が準備作業を進めている。
  1. 欧州通貨統合の概要については、「欧州経済通貨統合(EMU)を巡る最近の動きについて」(『日本銀行月報』97年3月号)を参照のこと。
  •  これらの問題に対する具体的な取組みとしては、欧州委員会(European Commission)や各国中央銀行のイニシアティヴの下、各種業界団体を中心とした準備作業が進められてきた。各検討グループでは、それぞれの作業結果を踏まえた提案を行っており、その主なものに、(1)欧州委員会公表のレポート“The impact of the euro on the capital market”(97年7月、所謂Giovanniniレポート)2および、(2)BOE(イングランド銀行)公表のレポート“Practical Issues Arising from the Introduction of the Euro”(97年4月、以下BOEレポート)3、(3)市場慣行についての主要業界団体の共同声明(97年5月)、等が挙げられる4。これらの提案を受入れるか否かは、最終的にはEU各国の当局や市場関係者が決めることとなるが、Giovanniniレポートは欧州委員会がイニシアティヴをとってまとめたものであり、また、euro導入後に一元的な金融政策を実施するECB(欧州中央銀行、European Central Bank)の前身であるEMI(欧州通貨機構、European Monetary Institute)も議論に参加するなど、公的な性格の強い報告となっている(BOEレポートも、BOEが中心となっている点で同様)。また、Giovanniniレポートでの提案内容は、BOEレポートや主要業界団体の共同声明における提案内容とも整合的なものとなっており、今後は、これらの提案に基づいたかたちで準備が進められていくものとみられる。
  1.   2  Alberto Giovannini(the Long-Term Capital Management Group<UK>)を中心とした市場参加者から構成されるグループ(Giovanniniグループ)の検討結果に基づくレポート。
  2.   3  ロンドン所在の金融市場関係団体の代表者からなるグループ(ロンドン市場慣行グループ)の検討結果に基づくレポート。検討グループへの主な参加団体は、BBA(British Bankers' Association:英国銀行協会)、ISDA(International Swaps and Derivatives Association:国際スワップ派生商品協会)、バークレイズ、ドレスナー・クラインオートベンソン、 J.P.モルガン、モルガン・スタンレー、LIFFE(London International Financial Futures Exchange:ロンドン国際金融先物オプション取引所)、LSE(London Stock Exchange:ロンドン証券取引所)等。
  3.   4  このほか、 euro導入に対する実務面での準備レポートとしては、フランス中銀公表のレポート"Changeover to the euro"(97年2月)、ドイツ政府(大蔵省等)作成のレポート「公的部門と法制面におけるeuro導入について」(98年3月)等がある。
  •  本稿では、各種レポートの中から、Giovanniniレポートを主なベースとし、BOEレポート等も参考にしながら、EMUに向けた欧州資本市場の実務面での対応の方向について紹介することとする。

1.要旨

euro導入に伴うEMUの資本市場に関する実務面の対応につき整理すると以下の通り。

債券市場

<債券のeuro建てへの転換(redenomination)>

 euro導入に伴い、EMU参加国の新発国債が全てeuro建てによる発行となるほか、既発国債についてもeuro建てへの転換が行われる予定。転換方法としてGiovanniniレポートでは、投資家保有分単位または個別の銘柄単位でコンバージョン・レートを適用し、euro建てへの転換を行う「ボトム・アップ方式」の採用を提言している。

<債券市場慣行の統一>

 Giovanniniレポートでは、(1)金利計算上の日数のカウント方法については、actualactualベースを採用すること(現行は30/360ベースが主流)、(2)euro建て債券市場の営業日はTARGET5の稼働日(TARGETの休業日は、土日以外では年2日)と一致させること、(3)利払頻度については、年2回が望ましいが、年1回(EUでの主流)も可とすること、(4)債券決済期間については、短縮化が望ましいが、当面は現在の慣行である取引の3営業日後決済(T+3)を維持すること、(5)価格表示については、小数表示とすること(英・米では分数表示)等を提言している。

  1.   5  EU域内におけるeuroのクロスボーダー決済を行うための決済システム。Trans-European Automated Realtime Gross settlement Express Transfer system

<国債の発行手続>

 EMU第3段階においても、各国が各々のニーズや発行環境に合わせて国債の発行を行う。このため、Giovanniniレポートでは、EMU全体での債券の需給を調節するための対策が必要であり、発行体間での非公式な協調や債券発行のタイムテーブル(発行カレンダー)の事前公表等が望ましいものとされている。

<euro建てソブリン債の格付け>

 euroの導入に伴うeuro建てソブリン債の格付けへの影響については、(1)財政政策の規律・信頼性向上といったプラス要因を重視する見方と、(2)財政政策ルールの有効性が不透明であるといったマイナス要因を重視する見方で分かれており、(3)各国中銀からECBへの金融政策に関する権限の移譲が、如何なる影響を及ぼすかについても見解の相違が存在している。このため、格付け機関間で、格付けの予測にはバラツキがみられている。

<ベンチマーク債について>

 euro導入後は、EMU参加国の国債が全てeuro建てとなるため、EMU参加国全体の中から、市場によって指標銘柄となるベンチマーク債の選別が行われることとなる。ベンチマーク債は、他の債券に比べて流動性、コスト等の面での優位性があるため、ベンチマーク債発行体の地位獲得を巡って、各国間における市場整備や規制緩和等の競争が活発化している。

株式市場

euro建て取引の導入>

 欧州の主要な取引所では、euro導入以降、証券取引所における全ての価格表示および取引をeuro建てで行う予定である(ビッグバン・アプローチ)。

<株式のeuro建てへの転換(redenomination)>

 株式は、額面価値と取引価格が切り離されているため、額面をeuro建てに転換することが株式の経済的価値や投資家の売買に与える影響は殆どないとみられている。このため、額面のeuro建てへの転換は、必ずしもeuro導入時に行う必要はなく、各企業が個々に決定すべき問題であると位置付けられている。また、株式の物理的な交換を回避する観点から、「無額面株式」への移行が提言されている。

デリバティブ市場

 デリバティブ市場におけるeuro建てへの転換等の技術的な問題は、同市場に特有のものではなく、個々のデリバティブ契約のベースとなる市場(デリバティブ契約に関連する債券市場、株式市場等)の問題解決方法が同時にデリバティブ市場にも適用されることが望ましいものとされている。

金利指標

 euro導入により、EMU参加国通貨建ての金利指標(マルクLIBOR、マルクFIBOR等)は、euro建ての金利指標に代替される可能性が高い。その場合の新たな金利指標として、(1)EBF(European Banking Federation)がEMU域内銀行を対象に算出するEURIBORと、(2)BBA(British Bankers' Association)がロンドン市場で算出するeuro LIBORの2つが検討されており、ベンチマーク指標としての地位を巡る競争が注目される。