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東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第4回共催コンファレンス

:「日本の物価変動とその背景:1990年代以降の経験を中心に」の模様

:「日本の物価変動とその背景:1990年代以降の経験を中心に」の模様

2012年3月8日
日本銀行調査統計局

要約

東京大学金融教育研究センターと日本銀行調査統計局は、2011年11月24日、日本銀行本店にて、「日本の物価変動とその背景:1990年代以降の経験を中心に」と題するコンファレンスを共同開催した。本稿はその模様を取りまとめたものである(プログラム参照)。

2005年に開催した第1回の「1990年代以降の経済変動」と2007年に開催した第2回の「90年代の長期低迷は我々に何をもたらしたか」では、資産バブル崩壊後におけるわが国経済の長期低迷に焦点を当て、それぞれその背景と帰結について議論した。そして、2009年に開催した第3回の「2000年代のわが国生産性動向−計測・背景・含意−」では、2000年代入り後の生産性の動向を題材に、わが国が第1回や第2回の共催コンファレンスで取り上げた長期低迷から抜け出したかどうかという点や、中長期的にマクロ生産性を引き上げるための課題は何かという点を中心に議論した。第4回である今回は、物価面に焦点を当て、「日本の物価変動とその背景:1990年代以降の経験を中心に」と題して、1990年代以降における物価の弱さの背景について、多面的に議論を行った。

コンファレンスでは計5本の論文が報告され、それぞれ活発な議論や質疑応答が行われたほか、全体の総括討議も行われた。以下はその要旨である。

  1. (1)1990年代以降における物価の弱さの背景を議論する際には、次の3つの論点が重要であるとの認識を共有した。すなわち、第一には、予想インフレ率は低下したのか、低下したとすればどの程度かという点である。これには、予想インフレ率の動きの背景は何かという点も付随する。第二には、何故、需給ギャップが長期間に亘ってマイナスの領域にあったのかという点である。第三には、その他の要因として、例えば、為替動向やグローバル化の進展、規制緩和の影響などをどのように考えるかという点である。
  2. (2)第一の論点である予想インフレ率の動向に関しては、どの程度まで低下したのかについては依拠する指標などにより評価が分かれたが、資産バブル期と比べると低下しているという点については認識が一致した。この背景としては、1990年代の資産バブル崩壊から金融危機が深刻化していく過程において、家計や企業が、経済・物価の低迷が長期化することを認識するようになったことを挙げる声が多かった。また、1990年代当時は、わが国と主要先進国の間で大幅な内外価格差が存在したことを背景に、「わが国の消費者物価はもっと低下すべき」との物価観が官民ともに支配的であったとの指摘も聞かれた。これらに加え、1990年代当時の日本銀行による望ましい物価上昇率に関する情報発信が、必ずしも強力なものではなかったとの見方も示された。もっとも、2000年頃からは、日本銀行による望ましい物価上昇率に関する情報発信面での工夫を含む、様々な経済政策が奏功して、概ね安定的に推移してきたとの評価も聞かれた。
  3. (3)第二の論点である需給ギャップの弱さの背景に関しては、1990年代初頭の資産バブル崩壊から、近年のリーマンショックや東日本大震災に至るまで、わが国経済が、断続的に大きな負の需要ショックに見舞われてきたことを挙げる声が多かった。また、こうした声のほとんどが、負の需要ショックが持続的に経済を下押しするメカニズムが存在したことを指摘した。とくに、資産バブル崩壊に伴い発生したバランスシート調整が、経済・物価の重石となったことを強調する見方が多かった。また、近年は人口動態の変化が、家計や企業の成長期待を委縮させているとの声も聞かれた。これらに加え、名目金利がゼロ金利制約に直面していたことが需給ギャップを下押しした点を指摘する声が多かったが、こうした制約の深刻さについては評価が分かれた。
  4. (4)第三の論点であるその他の要因に関しては、新興国の成長がわが国企業の競争状況に影響を与え、無視しえない物価下落圧力をもたらしてきたことを指摘する声がとくに多かった。為替相場の影響については、名目為替のトレンド的な増価が物価下落圧力をもたらしたことを指摘する声が聞かれた。また、規制緩和などに伴い、内外価格差が縮小したことを指摘する声も聞かれた。

2001年に「物価に関する研究会」を日本銀行が開催して以来、多くの学術的発展がみられた。今コンファレンスでは、こうした学術的発展を踏まえ、新たな知見を得ることができたが、なお解明すべき点は多い。今後、さらに一層の研究が進むことが望まれる。

  • 本稿で示されたコンファレンス内での報告・発言内容は発言者個人に属しており、必ずしも日本銀行、あるいは調査統計局の見解を示すものではない。

日本銀行から

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