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Financial Market and Macroeconomic Volatility
- Relationships and Some Puzzles -

(Executive Summary)

2000年 5月
中川忍
大沢直人

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(日本語要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp00e09.pdf 132KB) から入手できます(英語のみ)。

1.はじめに

 本稿は、金融資産価格やマクロ経済指標の変動(volatility)に着目し、これらを主要国別、年代別に比較・分析することによって、各種volatilityの大きさや相互関係を検証したものである。

 -- 金融資産価格は、株価、債券価格(残存7〜10年物)、為替レート(名目実効為替レート)の3つを、マクロ経済指標は、月次データが利用可能なマネー関連、消費者・生産者物価、鉱工業生産等を用い、各々の変化率(日次、月次)からvolatilityを計算した。

 経済政策の観点からすれば、例えば、金融資産価格のvolatilityがマクロ経済のvolatilityに先行するという傾向が確認される場合、金融資産価格の変動はマクロ経済の変動を捉える「情報変数」として有用である。また、仮に両者に因果関係が検証される場合、金融資産価格の変動を極力小さくするような政策運営(smoothing operation)が、経済厚生上望ましいということになる。一方、逆の関係が得られた場合、金融資産価格の変動をコントロールする政策の重要性は、それほど大きくないと言える。

 本稿の分析から得られた結論は、概ね次の3点に集約できる。

【結論】
  • 金融資産価格間のvolatilityについてみると、各国とも、どちらかと言えば、株価や債券価格といった国内金融資産価格のvolatilityが、為替レートのvolatilityに先行する傾向がみられる。
  • 金融資産価格とマクロ経済指標のvolatilityには、総じて明確な関係が窺われない。ただし、国別にみると、日本:株価→鉱工業生産、米国:債券価格<=>消費者物価・鉱工業生産、英国:債券価格→消費者物価、債券価格<=>生産者物価、といった先行関係が検証される(→:一方向、<=>:両方向)。
  • 日本については、(1)債券価格のvolatilityが国際的に小さく、しかも他の金融資産価格やマクロ経済指標のvolatilityとの関係がみられない、(2)為替レートのvolatilityが国際的にみて際立って大きく、90年代入り後、この傾向がさらに強まっている、といった特徴がある。

2.各種volatilityの特徴

 まず、金融資産価格のvolatilityをみると(Chart 1)、

  • 株価 ・・・ 全期間では各国とも大差ないが、90年代入り後についてみると、日本のvolatilityが急速に高まっている。
  • 債券価格 ・・・ 全期間を通じて、日本とドイツのvolatilityが相対的に小さい。
  • 為替レート ・・・ 日本のvolatilityが際立って大きい。90年代入り後、この傾向がさらに強まっている。

といった特徴がある。

 次に、マクロ経済指標のvolatilityを概観すると(Chart 2)、

  • 殆どの指標において、米国のvolatilityが相対的に小さい。
  • 鉱工業生産のvolatilityは、米国を除き、各国間で大差はないが、日本に関しては、唯一、90年代入り後にそのvolatilityが高まっている。
  • 日本の場合、ベース・マネーのvolatilityがM2+CDのそれを極端に上回っている。

といった特徴がある。

 このうち、日本の株価や鉱工業生産等のvolatilityが、とくに90年代入り後に高まっているのは、日本が厳しい景気後退期を経験したことと関係があると推察される。

3.各種volatility間の関係の統計的検証−VARモデル−

 多変量自己回帰(VAR)モデルを用いて、金融資産価格やマクロ経済指標のvolatility間の先行関係を検証した(詳細な体系は、本文4pを参照)。

(1)金融資産価格

日本の推定結果をみると(Table 2-1、Table 3-1)、株価が為替レートのvolatilityに有意に先行している。実際、両者の推移をみると(Chart 3-1)、とくに93年以降において、株価が為替レートのvolatilityに先行して動いていることが確認できる。同様に、他国についてみても(Table 4〜9)、総じて株価や債券価格が為替レートのvolatilityに有意に先行するという結果が得られた。

-- なお、米国の株価が他国の株価に影響するという「直観的議論」を踏まえ、米国の株価のvolatility変数をVAR体系に加えて推定したが、有意な結果は得られなかった(結果は省略)。

(2)金融資産価格とマクロ経済指標の関係

金融資産価格とマクロ経済指標のvolatilityには、総じて明確な関係が窺われなかったが、個別にみると、以下のような関係がみられた。

(金融資産価格→マクロ経済指標)− 一方向で有意であったもの −

  • 株価→鉱工業生産(日本)・・・ Table 2-6、Table 3-3
      -- ただし、両者の推移をみると(Chart 3-2)、株価が鉱工業生産に先行している時期もあるが、株価が常に先行しているという訳ではない。
  • 債券価格→CPI(英国)・・・ Table 6-5、Table 7-3
  • 為替レート→M4(英国)・・・ Table 6-3、Table 7-2

(金融資産価格<=>マクロ経済指標)− 両方向とも有意であったもの −

  • 債券価格<=>CPI(米国)・・・ Table 4-5、Table 5-3
  • 債券価格<=>鉱工業生産(米国)・・・ Table 4-6、Table 5-4
  • 債券価格<=>PPI(英国)・・・ Table 6-4、Table 7-5
      -- 図表を用いてこれらの推移をみても(Chart 4-3〜4-4、Chart 5-3)、必ずしも明確な先行関係は窺われない。

(マクロ経済指標→金融資産価格)− 一方向で有意であったもの −

  • 鉱工業生産→債券価格(英国)・・・ Table 6-6、Table 7-6
  • M3→株価(ドイツ)・・・ Table 8-3、Table 9-2

 また、金融資産価格やマクロ経済指標のvolatilityと景気局面との関係をみると(Chart 7、8)、日本では、株価などのvolatilityが景気後退期に高くなる傾向がある。この点、それらのvolatilityが高まった90年代は、厳しい景気後退期であった事実と整合的である(Chart 1)。一方、米国については、Schwert(1989)の結果と同様に、景気後退期において、全ての金融資産価格のvolatilityが高くなっている。

 -- なお、金融資産価格やマクロ経済指標のvolatilityによって景気転換点を予測できるかをみるために、景気後退・回復期入り前後6か月にこれらのvolatilityが高まったかどうかを検証したが、必ずしも明確な関係は窺われなかった。

4.パズルと一応の解釈

 以上、変動(volatility)という観点からみた場合、日本については、債券市場と為替市場の特異性(パズル)が発見された。すなわち、国際的にみると、日本の債券価格のvolatilityは極端に小さく、米国や英国とは異なり、債券価格のvolatilityと他の金融資産価格やマクロ経済指標のvolatilityとの関係が統計的に検証できない。また、日本の為替レートのvolatilityは、債券価格とは対照的に極端に高い。こうした日本の債券市場や為替市場の特異性については、今後、さらに詳しい分析が望まれる。

 -- Inoue(1999)では、主要先進国の債券市場の比較・検討を行い、日本の債券市場が流動性に乏しい(=「厚み」のない市場である)点を指摘している。また、流動性が乏しい市場にあって、日本では債券の買い手と売り手が大方決まっているという点も指摘されており、こうした点が、日本の債券価格のvolatilityの固有性を、ある程度説明できるのかもしれない。

 -- 為替レート→株価ではなく、株価→為替レートというvolatility間の先行関係が確認されたことから、日本の為替レートのvolatilityが高い理由のひとつとして、株価の変動の影響を受けているという点も指摘できよう。ただし、日本の為替レートの変動は、国際的にみて極めて高いため、株価の変動だけで説明されるわけではない。

以上