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インフレ期待の変化とインフレの慣性

2000年 7月
粕谷宗久
大島一朗

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(概要)を掲載しています。

概要

 ひとたび、インフレに勢いがつくと、インフレを収束させることが困難になるという経験則は古くから知られている。これは、何らかのショックが加わって、インフレ率が一旦上昇すると、人々が今後もインフレが続くと予想して、(インフレ期待の高まり)高目の賃金を要求したりする結果、さらに将来のインフレ率が高まるという悪循環が起こることを意味しており、「インフレの慣性」と呼ばれる事象である。本稿では、こうしたインフレの慣性が実際に存在するかどうかを互いに特徴の異なる3つの理論モデルを用いて検証した。

  • (i)  円滑遷移モデル−当期のインフレ率と直前の一定期間のインフレ率との相関からインフレの慣性を把握
  • (ii) マルコフ・スイッチング・モデル−当期のインフレ率を最も良く予測するためには、どの程度のインフレ慣性があると考えればよいかという観点からインフレ慣性を把握
  • (iii) 部分和分モデル−当期のインフレ率とそれ以前の全てのインフレ率の相関からインフレ慣性を把握

分析の結果得られた主な結論は次の通り。

  1. (1)一度インフレが生じると、インフレをもたらした元々のショック(石油価格の高騰等)が消えた後も、インフレが持続する現象が認められた。
  2. (2)インフレ率が高まるほど、インフレの慣性がより強く働くことが統計的に認められた。
  3. (3)インフレ率が高まると、インフレのバラツキ(分散)が増大することが、統計的に認められた。
  4. (4)インフレ率が低下するときは、インフレ率のバラツキ(分散)は増大しないことが統計的に認められた。

JEL classification: E31; E37; E52