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Statistical Forecasting Methodを用いたインフレ率予測

2002年 7月
古賀麻衣子
藤原一平

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp02j05.pdf 198KB) から入手できます。

要旨

1. 目的

 インフレ率等の経済変数の予測を行う場合には、経済理論などに基づき何らかの経済変数間の関係(経済構造)を前提とした上で、予測を行う場合が多い。しかし、こうした手法では、予測結果が予測者の主観的なモデル設定に左右される可能性がある。このため、特定の前提に依存したモデルとは別に、できる限り客観的な予測手法も用意しておくことが望ましい。この観点からは、経済変数間の統計的関係を重視した時系列モデル、代表的にはVAR(多変量自己回帰)を用いることが多いが、逆にこれらのモデルには、変数の選択などによって結果が大きく変ってしまうといった問題が指摘されている。

 そこで本稿では、(a)変数選択の恣意性を排するために多数のマクロ変数を取り込んだ上で、(b)非常に多くのVARモデルを推計し、かつ(c)そのモデルのパフォーマンスに応じて予測を行うという、客観性の高いアプローチを採った。この際、インフレ率予測を、予測値、およびモデル選択に関する不確実性をも考慮に入れた予測分布(ファン・チャート)により示すことを試みる。

2. 分析方法

 代表的なマクロ経済変数16系列の組み合わせから、計2,500個のVARモデルを構築し、過去2年間の予測パフォーマンスに従い、これらを序列付けする。こうした序列をもとに、予測分布、およびこれを時系列としてつなぎあわせたファン・チャートを作成する(別添図表A)。

 作成方法として、以下の3つを試みる。

(1)「1位モデル分布」

 まず、予測パフォーマンス第1位モデルからの予測値とその分散をもとに、各予測期(1期先、2期先、3期先、4期先)毎の予測分布を作成する(別添図表B-1)。

 2000年、2001年について、こうして作成された予測分布を時系列としてつなぎあわせたものが、「1位モデル分布にもとづくファン・チャート」となる(別添図表B-2)。

 これをみると、一つのモデルに依存した結果として、ファン・チャートは振れの大きい形状となっている。このため、以下では、2,500個すべてのモデルからの情報を活かした予測分布、およびファン・チャートの構築を試みる。

(2)「ノン・パラメトリック分布」

 次に、2,500個すべての予測値にもとづく度数分布から確率分布を導出するようなイメージで予測分布を作成する(別添図表C-1)。

 こうして作成された予測分布を、2000年、2001年について、時系列としてつなぎあわせた「ノンパラメトリック分布にもとづくファン・チャート」をみると(別添図表C-2)、2,500モデルからの予測値を参照しているため、1つのモデルに含まれる説明変数の動きのみに左右されにくいファン・チャートとなっている。

(3)「混合分布」

 「ノンパラメトリック分布」では、予測値のばらつきから予測分布が作成されるが、「1位モデル分布」で考慮されていた予測パフォーマンスの情報が活かされていない。ここでは、予測値のばらつきと予測パフォーマンスの両方の情報を活かした予測分布を作成する。

 まず、各予測モデルから得られた予測値とその分散をもとに、2,500個の正規分布を作成する。次に、これを過去2年間の予測パフォーマンスに応じたウェイト(合計は1に制約され、予測パフォーマンスの高いほど、ウェイトが大きい)を用いて合成することにより予測分布を作成する(別添図表D-1)。

 こうして作成された予測分布を時系列としてつなぎあわせた「混合分布にもとづくファン・チャート」(別添図表D-2)は、あくまで、2000年、2001年のパフォーマンスに鑑みただけであるが、どの水準程度に予測値が収まるかを判断する際に、有益な情報になりうるように思われる。

3. 結果

 こうした手法は、予測値と実現値との比較を積み重ねながら、その実務的有用性を今後チェックしていくこととなるが、例えば、フィリップス・カーブといった単独の構造型予測モデルだけでは抽出することのできない有用な予測情報を提供し、構造型モデルからの予測値をクロス・チェックするといった役割を果たす可能性を持っていると考えられる。

以上


(別添図表A)

ファン・チャートの作成方法

  • t=0、t=1、t=2へと経過するごとにファンチャートが広がるイメージ図。予測分布の平均を示す線上のt=1時点とt=2時点には、次第に幅を広げるベル型の予測分布を描く。各予測分布の両側には任意の棄却域が設定してあり、ファンチャートはそれら棄却点を繋いで作成されることを示している。詳細は本文の通り。

(別添図表B)

1位モデル分布にもとづくファン・チャート

  • (1) 1位モデルによる予測分布の作成
    1位モデルによる予測分布の作成を、正規分布とその平均位置、平均からシグマの距離で示したイメージ図。詳細は本文の通り。
  • (2) ファン・チャート
    1997年から2001年間までの実際のファンチャート。推計期間を1983年1Qから1999年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、推計期間を1983年1Qから2000年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、それぞれ示している。ファンチャートは、予測分布の平均を示す折れ線と、上下10%、20%、30%、40%水準を示す領域(色の濃さで表現)で構成。詳細は本文の通り。

(別添図表C)

ノンパラメトリック分布にもとづくファン・チャート

  • (1) ノンパラメトリック分布による予測分布の作成
    ノンパラメトリック分布による予測分布の作成を、全2,500モデルの予測値を象徴する棒グラフ(中心が高く、両側に行くに従って低くなる)と、各棒グラフの頂点を繋いだベル型の分布で示したイメージ図。詳細は本文の通り。
  • (2) ファン・チャート
    1997年から2001年間までの実際のファンチャート。推計期間を1983年1Qから1999年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、推計期間を1983年1Qから2000年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、それぞれ示している。ファンチャートは、予測分布の平均を示す折れ線と、上下10%、20%、30%、40%水準を示す領域(色の濃さで表現)で構成。詳細は本文の通り。

(別添図表D)

混合分布にもとづくファン・チャート

  • (1) 混合分布による予測分布の作成
    混合分布による予測分布の作成を、全2,500モデルによる予測結果を象徴するいくつかの小さな正規分布と、その一つについての平均位置と平均からシグマの距離、そしてこれらの分布を加重線形結合した大きなベル型の分布で示したイメージ図。詳細は本文の通り。
  • (2) ファン・チャート
    1997年から2001年間までの実際のファンチャート。推計期間を1983年1Qから1999年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、推計期間を1983年1Qから2000年4Qまでとして作成したものをその後4Q分、それぞれ示している。ファンチャートは、予測分布の平均を示す折れ線と、上下10%、20%、30%、40%水準を示す領域(色の濃さで表現)で構成。詳細は本文の通り。