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近年におけるフランスの公的金融機関の民営化について

2002年 9月27日
大山陽久
成毛建介

日本銀行から

海外事務所ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行海外事務所スタッフ等によるリサーチ活動の成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、研究者等、有識者の方から幅広くコメントを頂戴する事を企図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは各海外事務所の公式見解を示すものではありません。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (owp02j02.pdf 381KB) から入手できます。

要旨

  •  フランスにおいて公的金融が金融全体に占める割合は、かつては他の主要国に比べかなり高めの水準にあったが、80年代以降大きく低下し、今日では10%強とかなり低い水準となっている。
  •  こうした公的金融の比率低下を時期別に分けてみると、80年代と90年代とで背景が異なる。80年代後半の民営化は、主に、一般商業銀行業務を営んでいながら国有化されていた金融機関について、その資本構成を民間出資に戻すものであった。これに対し、90年代の民営化は、政府の援助・優遇措置等による金融の競争環境の阻害を回避する観点から、民間金融機関と競争関係にある分野の業務を順次民営化したことによるものである。

 この結果、現在、フランスにおいて、所謂公的金融機関と分類されている貸出機関は、(1)預金供託公庫(低家賃公共住宅・インフラ整備向け中心)、(2)中小企業開発銀行(中小企業向け保証・融資)、(3)仏開発庁(海外経済援助)の3機関のみとなっている。

 例えば、地方自治体向け公的金融を行っていた仏地方設備公庫や、輸出金融を行っていた仏貿易銀行は、業務の収益性が比較的高く、民間金融機関として十分存続可能と判断されたことから全面民営化された。

 一方、預金供託公庫については、従来は、低家賃公共住宅建設向け融資のほか、保険業務や投資銀行業務に至るまで、かなり幅広い業務を行っていた。しかしながら、これらのうち保険・投資銀行業務等については、民間金融と競争関係にあり民業を圧迫しかねないと判断され、段階的に別会社に分離して民営化された。この結果、現在では、公的関与が不可欠と判断された一部限定分野への貸出業務(非課税貯蓄預金の運用業務)、公証人顧客口座の管理運用業務、退職者年金基金の資産管理運用業務といった分野のみが、公的金融業務として存続している。

 中小企業開発銀行については、中小企業向け公的金融機関として存続している。もっとも、その業務内容は、部分保証や民間との協調融資等に限定されており、同行が単独で与信を行うことはない仕組みとなっている。

 海外経済援助業務は、以前は複数の政府機関において別々に行われていた。しかしながら、同業務は、98年に仏開発庁に一元化され、現在では同庁グループが仏海外援助の唯一の執行機関となっている。

  •  フランスにおいて、90年代になって急速に公的金融機関の民営化が進展した最大の背景としては、欧州統合の進展に伴って、加盟国政府による特定企業向け公的補助が厳格に制限されるようになったという、欧州レベルにおける規制強化要因が挙げられる。

 具体的には、汎欧州レベルの競争法(欧州共同体設立条約、欧州連合<EU>規則、欧州委員会指令等)により、市場経済を歪め、競争環境を阻害し民業を圧迫する可能性のある国有企業に対する公的補助が原則禁止された。このため、フランスでも、こうした公的金融機関について、完全民営化ないし民間と競争関係にある業務部門の部分民営化等を通じて、政府による補助金や税制上の優遇措置の対象から外すことを余儀なくされるに至った。

 このほか、80年代半ば以降順次実施された金融自由化に伴い、(1)公的金融機関が地方を中心として有していた強固な支店網が民間金融機関にとっての事実上の参入障壁となっているとして、強い批判に晒されるようになったこと、(2)公的金融機関の硬直的・固定的な資本構造(出資分の譲渡に対する制限等)のために金融機関同士の合併・買収が困難であり、公的金融機関の存在が金融の再編・合理化を阻害しているとの批判が強まった等の事情も民営化の背景として指摘されている。

  •  また、90年代におけるフランスの公的金融機関の民営化の具体的な進め方・手順には、以下のような特徴がみられる。すなわち、まず公的金融業務として維持すべき機能とそうでないものとに峻別し、前者については公的金融機関として存続させることとした。一方、公的関与が必ずしも不可欠ではないと判断された業務については、民営化後も公的援助なしにきちんと収益が確保できるかどうかという判断基準により、廃止か存続(民営化)かを決定した。そのうえで、後者については必要に応じて別会社化したうえで、これに企業価値を認めた他の民間金融機関に同業務を買収させるという方法で行われた点が特徴的である。

 このように、民営化対象となった公的金融機関については、他の民間金融機関と統合させて両者のノウハウを生かしつつ相乗効果を指向する格好で民営化が行われた。このため、民営化される公的金融機関の経営陣・従業員のモラルはむしろ高まり、これが民営化が円滑に行われた一つの要因となっている。