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資金配分の効率性と政府による信用保証の有効性:

日本の中小企業データに基づく検証

2008年2月
植杉威一郎*

要約

 本論文では、日本の中小企業における資金配分が効率的に行われているかを検証する。まず、「業績の悪い企業が残る一方で、良い企業が市場から退出を迫られているのではないか」という命題を検討し、中小企業向け貸付市場が非効率か否かを明らかにする。次に、政府による貸付市場への介入の代表例である信用保証制度を取り上げ、「制度を導入しても、モラルハザードの存在により期待された効果が発揮されていないのではないか」という命題を、1990年代後半に導入された特別信用保証制度に即して検討する。

 CRDや中小企業庁による企業レベルの個票データを用いた分析の結果、以下の結論を得た。(1)日本の貸付市場では、淘汰のメカニズムは正常に機能している。すなわち、質の低い企業は、質の高い企業に比して高い金利を支払い、最終的には退出を余儀なくされている。(2)1990年代後半に導入された大規模な特別信用保証制度は、貸し渋りに直面していた中小企業の資金繰りを改善し、信用リスクの低い企業の利益率を高めている。一方で、政府が保証制度により信用リスクを負担しているにもかかわらず、制度の利用企業では借入金利は低下していない。これは、政府による所得移転効果が、借り手中小企業に十分に行き渡っていないことを示唆している。

  • 一橋大学 E-mail: iuesugi@ier.hit-u.ac.jp

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