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グローバル化、企業分布、労働分配率

Firm Heterogeneityを通じた企業間資源再配分メカニズム

2008年7月
篠崎公昭*

要旨

 わが国の企業に関するマイクロデータをみると、個々の企業の労働生産性には無視し難いほどの格差があり、高生産性企業ほど輸出比率や賃金が高く、労働分配率は低い。本稿では、Melitz(2003)を嚆矢とする「企業間生産性格差を組み込んだ独占的競争貿易モデル」(firm-hetrogeneous trade theory)をベースに、これらのファクトと整合的となるよう、賃金決定メカニズムとしてAkerlof-Yellen型効率賃金仮説を取り込んでモデルを拡張した。この理論モデルからは、グローバル化が、労働生産性対比で割高な賃金を支払っていた企業の淘汰を促し、収穫逓増な生産関数の下、経済全体の労働生産性の上昇と同時に労働分配率の低下を引き起こすとの結果が得られた。さらに、当該理論モデルの定量的な妥当性を評価すべく、パラメータを特定してシミュレーションを行ったところ、貿易相手国数の増大(新興国の急成長)に示されるグローバル化の進展によって、昨今の労働分配率の低下を相当程度説明することができた。

キーワード:
産業内貿易、資源再配分、企業の異質性、効率賃金仮説

JEL Classification
F12、F16、J31

本稿の作成過程においては、石川城太氏(一橋大学)、古沢泰治氏(同)、Udo Kreickemeier氏(University of Nottingham)、一橋大学国際貿易・投資ワークショップ(COE-RESセミナー共催)の参加者のほか、一上響氏、榎本英高氏、大谷聡氏、北村冨行氏、塩谷匡介氏、肥後雅博氏、前田栄治氏、門間一夫氏をはじめとする日本銀行スタッフから有益な示唆を得た。記して感謝する。もっとも、本稿の有り得べき誤りは全て筆者に帰する。また本稿で示された見解は筆者個人のものであり、日本銀行および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  • 日本銀行調査統計局経済分析担当
    E-mail:kimiaki.shinozaki@boj.or.jp

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