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新興国米ドル建て社債発行スプレッドの分解と解釈

2016年7月15日
大山慎介*1
高梨敦士*2
長牛亮*3
東尾直人*4
平川貴大*5

要旨

本稿では、新興国企業が1990年代半ば以降に起債した米ドル建て社債の発行スプレッド(発行利回り―同年限の米国債利回り)の変動を分析し、新興国企業の社債発行環境を評価した。その結果、新興国社債の発行スプレッドは、Merton(1974)に代表される構造型モデルで捉えているように、発行体固有のリスクを反映しているが、起債時点における銘柄横断的な発行環境に規定される部分(以下、時点効果)も相応に大きいことが分かった。時点効果は、2004~2008年と2010~2015年という2つの時期において2008年の金融危機前の長期平均と比べて発行スプレッドを縮小する方向で強く作用しており、当時、新興国の米ドル建て社債の発行環境が良好であったことを示している。また、時点効果は米国FRBの金融緩和度合いが強いほど、米国の金融市場が安定するほど、発行スプレッドを縮小させる方向に作用する。この点は、2010年以降、米国の緩和的で安定的な金融環境が、新興国企業の米ドル建て資金の調達環境の改善につながったとの指摘と整合的である。

本稿の作成に当たり、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは筆者ら個人に属する。本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行国際局 E-mail:shinsuke.ooyama@boj.or.jp
  2. *2日本銀行国際局 E-mail:atsushi.takanashi@boj.or.jp
  3. *3日本銀行国際局 E-mail:ryou.nagaushi@boj.or.jp
  4. *4日本銀行国際局(現・金融機構局) E-mail:naoto.higashio@boj.or.jp
  5. *5日本銀行国際局 E-mail:takahiro.hirakawa@boj.or.jp

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