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賃金版フィリップス曲線のフラット化と名目賃金の下方硬直性:2010年代の経験

2020年7月20日
平田渉*1
丸山聡崇*2
嶺山友秀*3

要旨

本稿では、長期雇用という慣行を有する日本の正社員を念頭に置き、名目賃金の下方硬直性が上方硬直性を生み出し、賃金版フィリップス曲線のフラット化をもたらした可能性について理論・実証両面から検討した。長期雇用を前提とした理論モデルによれば、名目賃金の下方硬直性は、次の二つのメカニズムを通じて上方硬直性を生む。第一に、企業は、景気後退局面において賃金を十分に下げられなかったため、その後の景気回復局面で賃金引き上げに消極的になる。第二に、企業は、景気拡大局面であっても将来の賃金引き下げリスクを回避しようとする結果、賃金引き上げを抑制する。この後者のメカニズムの強さは、期待成長率や成長の不確実性などに大きく依存する。これらの結果、賃金版フィリップス曲線は、下方硬直性が無かりし場合と比べてフラット化する。実際、日本の正社員について、パネルデータを用いた実証分析を行ったところ、下方硬直性の度合いが強い労働者の緩慢な月給(賞与を除き残業代等を含む)の動きが、2010年から2017年にかけての労働需給改善局面におけるマクロでみた正社員の月給上昇率を、年平均でみて0.4%ポイント程度(下方硬直性の識別に関する不確実性を考慮すると、0.2~0.6%ポイント程度)押し下げていたことが判明した。とくに労働需給の引き締まりが顕著になった2010年代後半においては、企業による将来の賃金引き下げリスクを回避しようとする動きの影響が、相対的に強まっていた可能性が示唆された。

JEL 分類番号
E24、E31、J30

キーワード
賃金版フィリップス曲線、名目賃金の下方硬直性、長期雇用

本稿の分析に際しては、慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターによる「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」の個票データの提供を受けた。また、本稿の作成に当たり、北村冨行氏、田中雅樹氏、西崎健司氏、平木一浩氏、武藤一郎氏をはじめとする日本銀行スタッフから有益なコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。もちろん、本稿のあり得べき誤りは、全て筆者たち個人に属する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : wataru.hirata@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : toshitaka.maruyama@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局 E-mail : tomohide.mineyama@boj.or.jp

日本銀行から

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