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水害が企業財務に与える影響に関する定量分析

2021年3月30日
山本弘樹*1
仲智美*2

要旨

本稿では、水害が多いというわが国の自然災害面のリスク特性を踏まえつつ、気候関連金融リスクの基礎研究の蓄積に貢献する観点から、水害が企業財務に与える影響を定量的に分析する。水害は局地的なイベントであることから、被災企業が財務面でどのような影響を受けたかを的確に分析するには高い精度と細かい粒度のデータが必要であり、先行研究に対しては、データの精度と粒度に課題があるとの指摘がある。本稿では、その課題を踏まえて、わが国のほぼ全ての水害に関して、被災した面積や建物の棟数などの被害状況を市区町村ごとに記録した「水害統計」と、個別企業レベルの財務データを組み合わせることで、先行研究よりも細かい空間スケールから、より高い精度で、水害が企業財務に与える影響を分析した。

分析の結果、水害が企業財務に与える影響について、以下の3点が明らかになった。第一に水害は製造業や中小企業を中心に利益率に負の影響を与える。第二に水害の利益率への影響は短期に収束する。そして、第三に企業利益への負の影響は、水害経験頻度が低い市区町村に所在する企業ほど大きい傾向がみられる。金融機関は、水害による企業財務の悪化が、これまで以上に生じ得る可能性に十分に注意しつつ、そのリスク特性を考える際、貸出先企業の属性が影響することを念頭に、リスク管理の枠組みを整備し、実践していくことが有益である。

JEL分類番号
C21, D22, Q54, R10

キーワード
気候変動、自然災害、企業財務、物理的リスク、金融システム

本稿の分析に際しては、国土交通省水管理・国土保全局河川計画課から水害統計の提供を受けた。また、本稿の作成に当たり、加藤直也氏、小林俊氏、須藤直氏、鈴木公一郎氏、竹内貴紀氏、玉生揚一郎氏、中島上智氏、中山興氏、平木一浩氏、三尾仁志氏、宮川大介氏(一橋大学)、経済産業研究所企業金融・企業行動ダイナミクス研究会の出席者、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行および金融機構局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行金融機構局 E-mail : hiroki.yamamoto@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融機構局 E-mail : tomomi.naka@boj.or.jp

日本銀行から

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